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「…それって、別に副団長じゃなくてもいくらでもいるわよね? まあ、接触に嫌悪感を抱かないってところはポイントなのかもしれないけど。嫌悪感抱く相手となんて結婚なんて考えられないでしょう? …まあ、完全な政略結婚の形なら仕方がないのかもしれないけど」
ファリスと第2王子は、公爵家の娘であったファリスと王家の政略結婚だと思っている人間もいるようだが、間違いなく恋愛結婚だ。だから、ファリスは相手に嫌悪感云々など感じたことはないのだろう。
だが、アリーナは婚約予定者だった相手にどちらかと言えば嫌悪感を抱いていた。それを放置したのが間違いだったのだと、今ならわかるわけであるが。
アリーナはファリスを見る。昼休みは有限だし、ファリスに時間を取ってもらうこともそうそうできるわけではないだろう。折角ファリスに協力を仰げるチャンスを得たのだから言おう、と覚悟を決める。
「このお弁当、ライ様が作ったの。私は家事がほとんどできないけど、ライ様は家事ができる。それに、家事ができない私でもいいってライ様は言ってて。それが、私がライ様を結婚相手としていいかと思った一番の理由、かな。」
「…え?」
ファリスが呆然としている表情は、アリーナでもそうそう見たことはない。アリーナが学院を代わると言った時ですら、冷静に話を聞いていたファリスだ。そのファリスが、言われたことが理解できない様子で瞬きを繰り返す。
「私ね、料理も掃除も洗濯も、人並み以下のことしかできないの。料理なんて本当に壊滅的で。今朝は焼くだけって話だったのに、フレンチトースト黒焦げにしちゃったりして。本当に全然女子力がないの。…だから、私は結婚しないって決めて、ずっと働こうと思ったの。…ごめんね。私が学院を代わろうとした本当の理由は、それなの。だって、女子力が低いのに結婚してくれる相手がいるわけないでしょ」
アリーナの話を最後まで聞いていたファリスの瞬きが止まる。
「…それが、私たちが10年前喧嘩した原因?」
「そうなるかな。」
「…そんなこと…いや、アリーナにとっては重大なことなのよね。でも身分のある相手のところに嫁げば別に問題はなかったんじゃないの? 家に雇えばいいだけの話だし。アリーナの家だって料理番とか女中とかいるんでしょ」
やはりそう反論されるよね、とアリーナは思う。あの時でももしかしたらこの話だけだったらファリスにできたのかもしれない。でも、それだけじゃなかったからファリスに話すことができなかった。
今もあまり口にしたいとは思わない。だけど、あれから10年経った。それに、アリーナはそのことが真実ではないと何となく理解できている。だから、もう口にしてしまうことにした。
「不感症だって、言われたの」
女子力の中には、そう言うことも含む人間もいる。アリーナの婚約予定者だった人間は、まさにそのタイプだった。
「はあ?! 何なのあの男! 16の女の子捕まえてそんなこと言ったの」
ファリスは大声を出すわけではないものの、眉間にしわが寄り、目が座っている。さきほどアリーナに対して怒っていた以上に怒っている。
「だから、私は女性として不良品なんですって」
「何ですって!? …もう! アリーナの馬鹿!」
怒っていたはずのファリスは、顔を覆うと肩を震わせ始めた。
さっきまで怒っていたはずなのに急に泣き出したファリスに、アリーナは慌てる。
「ファリス、泣かないで。」
「…その時に言ってくれれば、地の果てに追いやってあげたのに。」
「その必要はなかったと思うわよ。仕官してから辺境に行ったはず。ダニエル兄様がそんなこと言ってた」
仕官先は基本的には城ではあるが、辺境に飛ばされることがある。多分あの婚約予定者はたまたまそれに選ばれたんだろうが、アリーナは城で会うことがないとわかって本当にほっとした。
「…そう。それならいいわ。辺境から二度と帰ってこれないようにしとくわ」
「第二王子妃の圧力があったら、二度と辺境から出れそうにないわね」
「…そもそも、不感症って…自分が感じさせるテクニックも何もないからそうなっただけでしょ! 人に責任押し付けるんじゃないわよ」
ファリスからこんな言葉が飛び出すと思っていなかったアリーナは、うろたえる。
「…ファリス、会わない間に変わったわね? …10年前、こんなに怒ったりしてなかったわよね」
アリーナが知っているファリスは、もっと穏やかだった。怒ることはもちろんあったが、こんな風に怒ることなど見たことはなかった。
「…精神的に不安定なのよ」
「ごめんなさい。そんな時に“助けて”とか変な手紙出したりして。大丈夫、なの」
「いいの。今だけのことだってことだから。でも、アリーナももっと普通にご機嫌伺い出しなさいよ。そしたら普通に会ったのに。」
「…うん。ごめんなさい。でも、今だけってどうして」
「子供ができたの」
ファリスの思いがけない告白にアリーナはハッとする。
「おめでとう! …それ、今私が知っても大丈夫な話?」
妊娠初期はデリケートなんだという話を聞いたことがあって、アリーナは聞いてよかった話なのか戸惑う。しかも王家のことだ。
「いいの。アリーナは私の大事な友達なんだから」
ファリスからの言葉に、アリーナはじんわりと嬉しくなる。
「ファリス、本当に今までごめんなさい」
素直にその言葉がこぼれてくる。
ファリスと第2王子は、公爵家の娘であったファリスと王家の政略結婚だと思っている人間もいるようだが、間違いなく恋愛結婚だ。だから、ファリスは相手に嫌悪感云々など感じたことはないのだろう。
だが、アリーナは婚約予定者だった相手にどちらかと言えば嫌悪感を抱いていた。それを放置したのが間違いだったのだと、今ならわかるわけであるが。
アリーナはファリスを見る。昼休みは有限だし、ファリスに時間を取ってもらうこともそうそうできるわけではないだろう。折角ファリスに協力を仰げるチャンスを得たのだから言おう、と覚悟を決める。
「このお弁当、ライ様が作ったの。私は家事がほとんどできないけど、ライ様は家事ができる。それに、家事ができない私でもいいってライ様は言ってて。それが、私がライ様を結婚相手としていいかと思った一番の理由、かな。」
「…え?」
ファリスが呆然としている表情は、アリーナでもそうそう見たことはない。アリーナが学院を代わると言った時ですら、冷静に話を聞いていたファリスだ。そのファリスが、言われたことが理解できない様子で瞬きを繰り返す。
「私ね、料理も掃除も洗濯も、人並み以下のことしかできないの。料理なんて本当に壊滅的で。今朝は焼くだけって話だったのに、フレンチトースト黒焦げにしちゃったりして。本当に全然女子力がないの。…だから、私は結婚しないって決めて、ずっと働こうと思ったの。…ごめんね。私が学院を代わろうとした本当の理由は、それなの。だって、女子力が低いのに結婚してくれる相手がいるわけないでしょ」
アリーナの話を最後まで聞いていたファリスの瞬きが止まる。
「…それが、私たちが10年前喧嘩した原因?」
「そうなるかな。」
「…そんなこと…いや、アリーナにとっては重大なことなのよね。でも身分のある相手のところに嫁げば別に問題はなかったんじゃないの? 家に雇えばいいだけの話だし。アリーナの家だって料理番とか女中とかいるんでしょ」
やはりそう反論されるよね、とアリーナは思う。あの時でももしかしたらこの話だけだったらファリスにできたのかもしれない。でも、それだけじゃなかったからファリスに話すことができなかった。
今もあまり口にしたいとは思わない。だけど、あれから10年経った。それに、アリーナはそのことが真実ではないと何となく理解できている。だから、もう口にしてしまうことにした。
「不感症だって、言われたの」
女子力の中には、そう言うことも含む人間もいる。アリーナの婚約予定者だった人間は、まさにそのタイプだった。
「はあ?! 何なのあの男! 16の女の子捕まえてそんなこと言ったの」
ファリスは大声を出すわけではないものの、眉間にしわが寄り、目が座っている。さきほどアリーナに対して怒っていた以上に怒っている。
「だから、私は女性として不良品なんですって」
「何ですって!? …もう! アリーナの馬鹿!」
怒っていたはずのファリスは、顔を覆うと肩を震わせ始めた。
さっきまで怒っていたはずなのに急に泣き出したファリスに、アリーナは慌てる。
「ファリス、泣かないで。」
「…その時に言ってくれれば、地の果てに追いやってあげたのに。」
「その必要はなかったと思うわよ。仕官してから辺境に行ったはず。ダニエル兄様がそんなこと言ってた」
仕官先は基本的には城ではあるが、辺境に飛ばされることがある。多分あの婚約予定者はたまたまそれに選ばれたんだろうが、アリーナは城で会うことがないとわかって本当にほっとした。
「…そう。それならいいわ。辺境から二度と帰ってこれないようにしとくわ」
「第二王子妃の圧力があったら、二度と辺境から出れそうにないわね」
「…そもそも、不感症って…自分が感じさせるテクニックも何もないからそうなっただけでしょ! 人に責任押し付けるんじゃないわよ」
ファリスからこんな言葉が飛び出すと思っていなかったアリーナは、うろたえる。
「…ファリス、会わない間に変わったわね? …10年前、こんなに怒ったりしてなかったわよね」
アリーナが知っているファリスは、もっと穏やかだった。怒ることはもちろんあったが、こんな風に怒ることなど見たことはなかった。
「…精神的に不安定なのよ」
「ごめんなさい。そんな時に“助けて”とか変な手紙出したりして。大丈夫、なの」
「いいの。今だけのことだってことだから。でも、アリーナももっと普通にご機嫌伺い出しなさいよ。そしたら普通に会ったのに。」
「…うん。ごめんなさい。でも、今だけってどうして」
「子供ができたの」
ファリスの思いがけない告白にアリーナはハッとする。
「おめでとう! …それ、今私が知っても大丈夫な話?」
妊娠初期はデリケートなんだという話を聞いたことがあって、アリーナは聞いてよかった話なのか戸惑う。しかも王家のことだ。
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