53 / 74
53
しおりを挟む
「…いやに馬鹿正直な理由だな。」
ファム公爵から漏れ出た感想は、呆れているような、脱力しているような。
「女性は長く働けないと知ってはいましたから、学院に払った学費を短期間で取り戻せる職種は他にありませんから」
マリアははっきりと言い切る。これがマリアだ。目上の人だからと言って意見をごまかすようなことをしない態度は、アリーナも一目置いている。
「…そうか。…金庫番の鏡みたいな理由だな。」
マリアらしい理由だとアリーナは思いながら、向かいに座るファム公爵を見る。
向かいに座るファム公爵の意図は、いまだにわからないままだ。
「私にはね、女性が働きたいという気持ちはさっぱりわからないんだよ」
ファム公爵はため息を細くついた。
「それは、どういう意味でしょうか。」
ガイナー室長が、緊張した面持ちで、ファム公爵に先を促す。
ガイナー室長も何の話なのか知らないらしい。
「女性は働くべきではないと、今でも私は思っているってことだよ」
ファム公爵の言葉に、ドクリ、とアリーナの心臓が嫌な音を立てた。
アリーナが恐れいた瞬間を目の当たりにしなければならないのかもしれない。
だが、先ほどすぐ辞めないといけないという話はファム公爵本人から否定されたはずだった。
ならば、この言葉の意味は何だろう、とアリーナは考える。
「いいかい、君たちは女性だ。ここで働くこと以外にもやることはあるんじゃないかね」
念押しするようなファム公爵の言葉に、押し込めた反骨心がうごめく。
先ほどから、何度も女性は働くべきではないと言っているファム公爵だが、アリーナはその矛盾にものすごく腹が立っていた。
「お言葉ですがファム公爵、先ほどから女性は働くべきではないと何度もおっしゃっていますが、ファム公爵のお屋敷では料理番も女中もいらっしゃらないと考えてよろしいんでしょうか。」
「…それとこれとは別問題だ。」
出た、別問題。こういう議論になると、必ず男性が出す言葉だとアリーナは苦々しく思う。
「どちらも職業婦人であることは変わりませんし、どちらがどうとか差別されることでもないと思いますが。」
「今はそんな議論はしていない。黙り給え。」
ファム公爵にギロッと睨まれて、アリーナは口をつぐんだ。この時ばかりは、ライの脳みそを借りたいと切に願った。この男尊女卑の権化とも言えるファム公爵をぎゃふんと言わせてやりたい、と言うのがアリーナの今の希望だ。ここまでくると、結構後先考えず発言してしまった自覚はある。
「君たち二人は、結婚してからもここで働きたいと思うのか?」
でも、アリーナの予想に反してファム公爵の口から出てきた言葉に、アリーナは少し希望を見出した。
もしかしたら、あの話が内内にファム公爵のところに伝わって、気持ちを変えようと思ってくれているのかもしれないと。
だが、それならば、アリーナの無礼な発言の数々は、反省の余地があるかもしれない。
「「勿論です」」
アリーナとマリアの声が揃う。
だが、ファム公爵は信じられないとでも言いたげに、首を横に振った。
「ファム公爵、なぜ、そんなことを?」
ガイナーも、ファム公爵の意図がさっぱりわからないらしい。
勿論、アリーナにもわからない。
「…国の決まりが変わるんだよ。女性の働く権利を不当に扱わないようにね」
え。
声を漏らしたのは、アリーナだけではない。ガイナーも、マリアも驚きで目を見開いている。
「本当ですか」
最初に声を挙げたのは、アリーナだ。
アリーナはまさか昨日話した内容が既に議会に上っているなど思ってもみなかった。
ガイナーも同様だろう。マリアはあの話は知らないため、純粋に驚いているだけだ。
「じゃあ、マリアは仕事は辞めなくていいってことですか」
ガイナーの言葉に、ファム公爵がゆっくりと頷く。その表情は、まだ納得はできていないことが分かる。
「本当?!」
ファム公爵とは対照的にマリアが嬉しそうに声を挙げる。
「だが、無能だと思ったら、普通に解雇はさせてもらうぞ。」
今の今まで、アリーナが知り得る限りで無能と言う理由で金庫番を辞めさせられた人間などいない。それこそ男女差別の気持ちが残っていると、アリーナはムッとする。
「ファム公爵、この二人はとても優秀です。無能だと思うようなことはないと思います」
ガイナーの言葉に、アリーナはささくれ立っていた気持ちを少し落ち着けた。
「どこが、優秀なんだね」
具体的に説明できるならしてみろと言わんばかりのファム公爵の言葉に、アリーナは再度イラっとする。
「最近で言えば、ショパー侯爵領の河川工事のチェックをしたのは、アリーナです」
それまで馬鹿にしたような視線でアリーナたちを見ていたファム公爵が、おや、と言いたげに視線の感じを変える。
「アリーナ嬢、一人でか?」
「ええ。そうですよ」
「そうか。」
ファム公爵の視線が、それまでの様子と打って変わったことに、アリーナも戸惑う。今までの女性だからという下に見るような雰囲気が、消えた。
ファム公爵から漏れ出た感想は、呆れているような、脱力しているような。
「女性は長く働けないと知ってはいましたから、学院に払った学費を短期間で取り戻せる職種は他にありませんから」
マリアははっきりと言い切る。これがマリアだ。目上の人だからと言って意見をごまかすようなことをしない態度は、アリーナも一目置いている。
「…そうか。…金庫番の鏡みたいな理由だな。」
マリアらしい理由だとアリーナは思いながら、向かいに座るファム公爵を見る。
向かいに座るファム公爵の意図は、いまだにわからないままだ。
「私にはね、女性が働きたいという気持ちはさっぱりわからないんだよ」
ファム公爵はため息を細くついた。
「それは、どういう意味でしょうか。」
ガイナー室長が、緊張した面持ちで、ファム公爵に先を促す。
ガイナー室長も何の話なのか知らないらしい。
「女性は働くべきではないと、今でも私は思っているってことだよ」
ファム公爵の言葉に、ドクリ、とアリーナの心臓が嫌な音を立てた。
アリーナが恐れいた瞬間を目の当たりにしなければならないのかもしれない。
だが、先ほどすぐ辞めないといけないという話はファム公爵本人から否定されたはずだった。
ならば、この言葉の意味は何だろう、とアリーナは考える。
「いいかい、君たちは女性だ。ここで働くこと以外にもやることはあるんじゃないかね」
念押しするようなファム公爵の言葉に、押し込めた反骨心がうごめく。
先ほどから、何度も女性は働くべきではないと言っているファム公爵だが、アリーナはその矛盾にものすごく腹が立っていた。
「お言葉ですがファム公爵、先ほどから女性は働くべきではないと何度もおっしゃっていますが、ファム公爵のお屋敷では料理番も女中もいらっしゃらないと考えてよろしいんでしょうか。」
「…それとこれとは別問題だ。」
出た、別問題。こういう議論になると、必ず男性が出す言葉だとアリーナは苦々しく思う。
「どちらも職業婦人であることは変わりませんし、どちらがどうとか差別されることでもないと思いますが。」
「今はそんな議論はしていない。黙り給え。」
ファム公爵にギロッと睨まれて、アリーナは口をつぐんだ。この時ばかりは、ライの脳みそを借りたいと切に願った。この男尊女卑の権化とも言えるファム公爵をぎゃふんと言わせてやりたい、と言うのがアリーナの今の希望だ。ここまでくると、結構後先考えず発言してしまった自覚はある。
「君たち二人は、結婚してからもここで働きたいと思うのか?」
でも、アリーナの予想に反してファム公爵の口から出てきた言葉に、アリーナは少し希望を見出した。
もしかしたら、あの話が内内にファム公爵のところに伝わって、気持ちを変えようと思ってくれているのかもしれないと。
だが、それならば、アリーナの無礼な発言の数々は、反省の余地があるかもしれない。
「「勿論です」」
アリーナとマリアの声が揃う。
だが、ファム公爵は信じられないとでも言いたげに、首を横に振った。
「ファム公爵、なぜ、そんなことを?」
ガイナーも、ファム公爵の意図がさっぱりわからないらしい。
勿論、アリーナにもわからない。
「…国の決まりが変わるんだよ。女性の働く権利を不当に扱わないようにね」
え。
声を漏らしたのは、アリーナだけではない。ガイナーも、マリアも驚きで目を見開いている。
「本当ですか」
最初に声を挙げたのは、アリーナだ。
アリーナはまさか昨日話した内容が既に議会に上っているなど思ってもみなかった。
ガイナーも同様だろう。マリアはあの話は知らないため、純粋に驚いているだけだ。
「じゃあ、マリアは仕事は辞めなくていいってことですか」
ガイナーの言葉に、ファム公爵がゆっくりと頷く。その表情は、まだ納得はできていないことが分かる。
「本当?!」
ファム公爵とは対照的にマリアが嬉しそうに声を挙げる。
「だが、無能だと思ったら、普通に解雇はさせてもらうぞ。」
今の今まで、アリーナが知り得る限りで無能と言う理由で金庫番を辞めさせられた人間などいない。それこそ男女差別の気持ちが残っていると、アリーナはムッとする。
「ファム公爵、この二人はとても優秀です。無能だと思うようなことはないと思います」
ガイナーの言葉に、アリーナはささくれ立っていた気持ちを少し落ち着けた。
「どこが、優秀なんだね」
具体的に説明できるならしてみろと言わんばかりのファム公爵の言葉に、アリーナは再度イラっとする。
「最近で言えば、ショパー侯爵領の河川工事のチェックをしたのは、アリーナです」
それまで馬鹿にしたような視線でアリーナたちを見ていたファム公爵が、おや、と言いたげに視線の感じを変える。
「アリーナ嬢、一人でか?」
「ええ。そうですよ」
「そうか。」
ファム公爵の視線が、それまでの様子と打って変わったことに、アリーナも戸惑う。今までの女性だからという下に見るような雰囲気が、消えた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる