宇宙との交信

三谷朱花

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宇宙との交信12

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 私は宇宙人と交信している。
 その宇宙人は単なる地球人であり、単なる宇宙バカだ。そのせいで彼女に振られるくらい宇宙バカだと私は思っていたくらい宇宙バカだ。事実は違っていたけど。そんな宇宙人との元々間違いメールから始まったその交信は、本当にたまにある繋がりだった。
 私が進学した大学に実はその宇宙人がいて、そのメールだけの繋がりは続いたまま、私は宇宙人と知り合いになった。宇宙人は今も、そのメールの相手が私だとは知らないままだ。

 だけど私は、それでいいと思っている。このメールだけのやり取りの関係が居心地がいいと思っているからだ。ところが、宇宙人の方は、あんな下らないとも言えるメールのやり取りだけで、なぜか恋心を発露させてしまったらしい。意味が分からん。
 宇宙人がその恋心を自覚するその場面に立ち会ってしまったのは、本当に偶然の出来事で、宇宙人自身も驚いていたようだが、私だって驚いた。衝撃しかない。だって、私は宇宙人とはこのままの立ち位置の関係がいいと思っているからだ。

 だけど、その出来事の後、宇宙人からはメールは来ない。そのことにひどく安心しつつ、一体宇宙人が何を考えているのかが分からなくて、不気味でもあった。
 ……流石宇宙人。とうとう私に不気味さまで感じさせるようになったのか。メールが届くとびくりとするようになってしまった。もうすぐ三月で春が近づいてきているというのに、不穏な空気が春らしさを押しのけているような気すらする。

 さっき届いたメールが宇宙人からではなかったことに安心しつつ私は画面に視線を落とす。愛犬家からだった。春休みの予定を聞かれて、数日は帰るつもりだとメールに送る。
 私がLINEを開いても既読スルーしかしないのを知っている愛犬家たちは、返事が欲しい案件をメールで送ってくる。正解だ。

「久しぶり」

 声を掛けられて顔を上げれば、一瞬誰だか思い出せなくて、そうしてそれが落研に入りびたり授業に出てこなくなった友達だったと思い出す。四月以降会ってないから、ほぼ一年ぶりと言っていいだろう。

「久しぶり。テスト受けに来たの?」

 私の問いかけに、友達が苦笑する。今は後期のテスト期間だ。

「授業受けてないのに、テストだけ受けてもダメでしょ」

 まあそうか。私も肩をすくめて同意する。

「何してるの?」

 友達が不思議そうな顔で私を見る。この時間は昼食には遅すぎるし、夕食には早すぎる時間だ。

「人待ち、って言うか、勉強会?」

 私たちは相変わらず食堂で勉強会を開いている。私の親切心が発揮されていることに自分でも驚いているが、宇宙人の友達が卒論発表にかかりきりで頼りにできないと男の娘に泣きつかれ、渋々開いている会だ。
 私もいつの間にかお人好しになったのかもしれない。

「みゃー?」

 ここに座っていいのか、と男の娘が私に声を掛けてくる。これまでの付き合いから、皆まで言われなくても、言いたいことを何となく分かるくらいにはなった。

「みゃー?」

 友達が不思議そうに首をかしげる。逆にそれだけの反応に私は友達に感心すらしていた。男の娘を目の前にして特にぎょっともしないのは、落研で友達が得た何かのスキルなのかもしれない。

「そう呼ばれてるの。三人だけだけどね」

 もう二人は宇宙人の友達と偽勇者のことだ。宇宙人からは未だに固有名詞を呼ばれたことはない……と思ったけど、よくよく考えてみれば、いつの間にか普通に呼ばれていたような気がする。

「何でみゃー?」

 友達の不思議そうな顔に、そりゃそうだ、と思う。

「さあ?」

 私は首を振る。説明する意味を感じないから。

「え、だって“みあけ”でしょ? だから、みゃー」

 男の娘の言い分に、友達がパチパチと瞬きを繰り返した後、ああ、と声をあげる。

「確か“みあけ”って書いて“みはる”って読むんだったね。そっち使ったのか」
「え? ……みはる?」

 男の娘が私の顔を凝視する。私は、そうだよ、の意味で頷いて見せる。
 私の名前はみはるだ。“実明”と書いて“みはる”と読む。学科の自己紹介のときには苗字しか名乗らなかったし、仲良くなった二人にしか正しい呼び方は教えていなかった。だから、男の娘はずっと私が“みあけ”だと勘違いしていた。でも、宇宙人の前で“みはる”と名乗りたくはなくて、男の娘の勘違いをそのままにしていた。

「……それ、言ってよ」

 自分がずっと勘違いしていたという事実が急に恥ずかしくなったんだろう。男の娘が片手で顔を覆った。顔も赤いが耳も赤い。

「ま、今更だし。みゃーでいいよ。もう慣れた」

 これが大学四年間だけの呼び名だとすれば、まあいいかと思えるぐらいに抵抗はなくなった。院生になってからとか社会人になってからは勘弁願いたい。

「あれ、え? みはるって?」

 男の娘が混乱した表情を見せる。我々の中の“みはる”という名前は、ある意味特別な意味を持つからだ。

「単なる同じ名前なだけだから。聞かれてもないのに名乗る必要もないと思ってたし、先輩の元カノの話が出てきて、ますます面倒だから言いたくなくなった」
「……そっか」

 案外あっさりと私の言い訳に納得した男の娘にとてもホッとしたけど、ホッとした顔は見せずに、何てことないことを告白したフリをした。だって宇宙人にばれたら困るから。

 *

「あ」

 宇宙人の呟きに、私も「あ」だよ、と思う。
 さっきまで、春めいて来たなと穏やかだった心が、不穏にざわめく。宇宙人が顔を赤くして学食を去って以来、私は宇宙人に遭遇していなかった。大学は春休みに突入し、そもそも宇宙人と会うようなこともない。“みはる”宛のメールも全く来ていなくて、宇宙人との交信も途絶えていたし、私は勿論メールを送らなかった。

「珍しいところで会うな。でもありうる話だな」

 私に近寄ってきた宇宙人は、とてもニュートラルだ。当然だ。宇宙人は私が“みはる”だとは知らないからだ。

「まあ、先輩もあるでしょうね」

 我々が遭遇したのは、プラネタリウムだった。いつぞや宇宙人の友達に無料チケットを押し付けられ男の娘と行ったあのプラネタリウムだ。男の娘とプラネタリウムという組み合わせは奇異だが、宇宙人とプラネタリウムという組み合わせはひどくしっくりと来る。

「春休みなのに、一人か?」

 ニヤリと笑って放つその一言に、ああ宇宙人だな、と思う。そう、宇宙人はこれでなくちゃ。

「それ、そっくりそのまま返しますよ」
「相変わらずだな」

 呆れた顔の宇宙人に、私も呆れた顔をして見せた。

「かわいい後輩に失礼な一言を放つ先輩にそんなこと言われたくないですよ」
「自分をかわいい後輩だと勘違いしてる後輩に優しくする義理もないがな」
「先輩、後輩はおしなべてかわいいものです。将来的にはゼミの後輩ですよ」
「もっと素直な後輩をかわいいって言うんだよ。ゼミ云々は関係ないし」

 宇宙人は大げさにため息をついて見せた。

「先輩、私は素直に生きてますよ」
「どこが」
「自分に正直に生きてます。これを素直って言わずして何と言うんですか」
「自分に正直と素直は違うだろ。ほれ見ろ、自分の基準がおかしいからタケノシンの基準もずれたんだろ」

 ああ、いつぞやそんな会話を……と思い出したのと同時に、その時の会話の顛末を思い出したらしい宇宙人がとても気まずそうな表情になった。

「先輩も素直に後輩を可愛がればいいのに」

 大げさにため息をついて見せて、あの話題をスルーしてみたら、宇宙人は明らかにホッとした顔をした。きっと私ならいじるだろうと思っていたんだろう。他のことだったら少々いじったかもしれないが、宇宙人の恋愛事情には興味も乏しいし、私とて墓穴を掘りたくはないしで、スルーするに限る。

「可愛がってほしければその口の悪さをどうにかするんだな」

 いつも通りの宇宙人の返しに、ほっとする。

「先輩も私の攻撃を受けたくなければ、その口を閉じるといいんですよ」
「……全然可愛くねぇ」
「おほめにいただきありがとうございます! じゃ、私、席を確保したいんで先に行きます」

 ニヤリと笑って手を振れば、宇宙人は肩をすくめて見送ってくれ……はしなかった。

「何でついてくるんですか」
「いや、どんな席を選ぶのか興味がある」
「変な興味を持たないでください。普通の席ですって」
「いや、だって、なんかひねくれた席に座りそうじゃね?」
「完全に言いがかりですよ。私だって普通の感覚は持ってますって」

 宇宙人の言いがかりにムッとしながら、プラネタリウムの部屋に入ると私は一番後ろの席に向かう。

「なるほど、そっちね」

 分かったわ、と言いたげに手を上げた宇宙人はまた部屋から出ていった。何がなるほどだ。
 プラネタリウムが上を見上げる性質上、人が行き交うのは目に入りやすい。場所によっては入場禁止にしてくれるプラネタリウムもあるけど、ここは違うから。だから、私は極力人が行き交わない一番後ろの席を選ぶ。だから早めに会場に入るのだ。
 多分真ん中辺りの席の方が星は綺麗に見えるのかもしれないけど、煩わしさを嫌っていつも後ろだ。
 男の娘にはブーブー言われたのを思い出した。私の趣味を他人に言われてどうこうするつもりもないし。ほら、自分の感情に素直だからね。



「まさかの隣」

 どさ、と隣の席に座った相手に、迷惑視線を向けたら、宇宙人がニヤリと笑っていた。…先にその席が取られてたから私は隣にしたんですけど。

「……まさかの隣。なるほどって何ですか」

 さっきのは、ああそっち選ぶのね、って意味だったんじゃないんかい!

「いや、流石宇宙バカ、考えることは一緒か、と思って」

 なるほど。

「お褒めいただき光栄でーす」
「何で宇宙バカになったわけ?」

 あんたのせいだよ宇宙人! ……なんて口が裂けても言えないが。

「何となく興味があって天文部に足を踏み入れたのが運のツキ、ってとこですかね」

 きっかけは宇宙人だけど、私の宇宙に対する知識を深めたのは、間違いなく天文部での活動の賜物だ。

「天文部あったんだ。部員足りてたのか?」
「まあ、色々ありましたけど何とかギリギリ」

 そう言えば、そのゴタゴタの鬱憤を八つ当たりで散らすために宇宙人にメールしたなと思い出す。イケメンに群がる女子に迷惑した思い出だ。イケメン効果は凄くて、部員数は史上最高になったらしいが、やる気のない部員がわんさかいても意味はないどころかものすごく迷惑なだけだ。夏休み明けにイケメンに彼女ができたら途端に人数が減った。天文部らしくギリギリの部員数だったが、ほっとしたのを思い出す。

「どこも同じか」
「どこも同じでしょうね」
「でも少人数でワイワイやるのも楽しかったな」
「そう、ですね」

 元部長との苦い思い出がなければ、楽しかった思い出だけだったのかもしれないと思うと、非情に残念な気持ちになる。ほら、好きなことと恋愛感情が絡み合うと、楽しかった思い出も純粋に思い出せなくなる。
だから、恋愛感情は面倒だし余計だ。それは宇宙人に関しても。

「合宿とかやったのか?」

 宇宙人の言葉に思考に沈んでいた意識が戻る。

「何ですかその面白ワード。文化部に合宿って許されたんですか?」

 私の辞書にはなかったワードなんですけど!

「普通に許されただろ。天文部なんて夜しか本格的な活動もできやしないんだから、星見ます、で普通に通るだろ」
「そんなこと全然思いつきもしませんでしたよ」
「その天文部、一体何やってたの?」

 呆れた顔の宇宙人に私はエッヘンと胸を張る。

「宇宙について調べて調べて調べまくってました!」
「何やってるんだよ。星見てなんぼだろ」
「でも楽しかったですよ。ものすごく勉強にもなりましたし。おかげでここにいるようなものです」

 元部長との出来事はとても苦い思い出だけど、天文部に入ることがなければここにいなかったと思えば、あのことも受けないといけなかった痛みなのかもしれない……なんて思うわけないけど。あれは単なる苦い思い出でしかない。

「合宿か。いいな、またあんなのやりたいよな」

 宇宙人は懐かしそうに楽しそうに言葉をこぼす。本当に楽しかったんだろうということがよく分かる。合宿ってどこでやるつもりなんだろうな、と思ったら、どうでもいいことを思いだした。

「自分の部屋で一人合宿できるじゃないですか」
「は?」

 意味が分からん、という顔で私を見ないで欲しいんだけど。

「あの部屋、滅茶苦茶星見えるじゃないですか。他のところで見る必要があるんですか?」

 クリスマスの夜、宇宙人の家のベランダから眺めた星空は見事だった。目の前に墓地と切り立った山が迫っているおかげで、余計な光がほとんどないからだ。

「……あの外の景色見た上で羨ましそうに言うやつ、他にいたことないな」
「え? 先輩はそのつもりであの部屋借りたわけじゃないんですか?」
「……いや、そのつもりだけどさ。合宿ってみんなでワイワイするから楽しいんだろ。一人合宿って意味ないだろ」

 なるほど、一人じゃ合宿と認められないらしい。暗くなり始めた部屋に、そろそろ上映が始まることを理解して私は宇宙人に肩をすくめて返事にすると、体を椅子に預けた。

 

「合宿、するか?」

 プラネタリウムが終わって、すっかり宇宙人の存在を忘れて出て行こうとしていたら、後ろからかけられた声に、宇宙人の存在を思い出した。

「へ? 合宿ですか?」
「ああ。俺たちと、タケノシンと志朗で四人になるかな」
「タケノシンは宇宙に興味ないですよ。物理学科に進んどいて」
「だからだろ。タケノシンに興味を持たせるいい機会だ」

 なるほど、と思ったところで、ふと男の娘がそのメンバーに混じるとまずいことがあったのを思い出した。
 そうだ、この間私の名前は男の娘にばれたんだった。一応口留めみたいにしてみたけど、男の娘は何を言い出すか分からない怖さがあるし、私だって星空に興奮したらついぽろっと事実を口にしてしまうリスクがある。
 いや、そのメンバーで合宿とか無理だわ。

「遠慮します」

 男の娘と宇宙人の組み合わせだけでもリスクはあるけど、名前がばれるくらいでリスクはないだろう。言い訳はこの間男の娘にした言い訳で充分通じるだろう。

「ああ、他に女子がいないからか。……タケノシンの元カノでいいんじゃね?」

 宇宙人は勝手に女子が私だけだからだと勘違いしてくれたらしい。まあ、それはそれでいいか。

「……完全に数合わせみたいなもんでしょ。興味ない人間を巻き込むのはちょっと」
「そうか。楽しそうだけどな」

 そう言って宇宙人は合宿案を諦めたらしい。私たちはプラネタリウムの建物の前であっさりと別れた。
 ……うん、とりあえず宇宙人の恋心がどうなったかは分からないけど、本当の“みはる”だとばれないように気をつけよう。

 *

「ね、みゃーは“みはる”って名前なのね?」

 暖かなひだまりを味わいながらのんびりと学食に一人でいたら、唐突に偽勇者に突撃された。春休みも会ってないし、二年になってから会うのは初めてだというのに、久しぶりの一言もない唐突さだ。突撃がきっと偽勇者の得意な攻撃なんだろうと理解はしているので、驚きもないが。

「まあ。そうだけど。八代に聞いたの?」

 その名前を知ってるのは、今は男の娘だけのはずだ。

「そうなの。みゃーって変な名前だとずっと思ってたけど、八代が間違ってただけだったのね」
「まあ、“みゃー”が本名なら変な名前だろうね」

 口止めしたつもりではいたけど、どうやら男の娘は私の名前の正しい読み方の伝道師になってしまったらしい。これは早々に宇宙人か宇宙人の友達に突っ込まれそうな気がするな、と思いつつ、まあ言い訳は男の娘にした言い訳で充分だろう。

「みはるって呼んだ方がいい?」

 偽勇者の提案に、私は首を横に振る。

「みゃーのままでいい」

 宇宙人の前で、その名前を連呼しないでいただきたい。

「そう。……そう言えば、私みゃーにメール送ったんだけど、読んだ?」

 メール? そう思ってスマホを取り出せば、確かにメールが届いていた。偽勇者との連絡は大体はLINEなんだけど。基本、未読スルーしたのを電話か直接怒られるんだけど。

「えーっと、何の話? 今読んだ方がいい?」

 私が尋ねると、偽勇者が頷いたので、私はメールをタップする。だけど、そのメールの差出人は偽勇者じゃなくて、宇宙人だった。

「M1の会合行くか?」

 なんかデジャヴ。そう言えば、宇宙人との交信の始まりは、このメールだった。
 今ならば、このM1がどういう意味なのかよく分かる。宇宙人の言っているM1はメシエ1のかに座星雲のこと……ではない。修士一年ってことだと思う。だからきっと四年前、宇宙人は院生の誰かからきっと会合という名の飲み会に誘われたんだろうと思う。それをきっと友達の誰かに尋ねたのだ。
 なぜそれを私が思いついたかって、私もまた同じように宇宙人とその友達から男の娘伝手にその会合に召集をかけられたからだ。……会合という名の飲み会に。まだ未成年なんだけど、と断ったはずなんだけど。

 ……あ、違った。これは間違いメールであって、宇宙人の知っている“後輩の私”に向けたメールじゃなかったんだった。危うく素で「断りましたよね?」って送るところだった。危ない危ない。

「ね、会田の送ったメールは届いてないみたいなんだけど」

 スマホから顔を上げると、偽勇者が首を傾げた。

「おかしいわね。送ったんだけど? 履歴にない?」

 私は受け取ったメールの一覧を出してみる。隣から偽勇者が覗き込んで来る。

「ないけど?」
「ないわね。……ねぇ、そう言えば、ケイスケ先輩って宇宙人のふりして“みはる”さんとメールしてるんですってね」

 偽勇者の言葉にギクリとする。私は不自然にならないようにスマホをテーブルに下ろすと、何も知らない顔をして、偽勇者を見た。

「へぇ」

 だけど、偽勇者の目がきらりと光る。

「みゃーの一番上のメール、“宇宙人”だったわね?」
「そうだね。面白い偶然もあるね」
「一体、この世の中に“宇宙人”と“みはる”って組み合わせがどれくらいあるのかしらね?」

 ニコリと笑う偽勇者が何を言いたいのか分かりたくもない。

「さあ、少なくともケイスケ先輩のところと私のところで二組はいるんだろうね」

 気付かれているような気がとってもするけど、私はシラを切りとおすことにした。

「さっきね、ケイスケ先輩、“みはる”さんにメールを送ってたのよ」
「……へぇ」

 どうしてなぜなぜ宇宙人の送ったメールのをことを偽勇者が知ってるんだ!

「そしたら、そのメルアドが、私が知ってるメルアドと一緒だったの」

 ああ、詰んだ。

「M1の会合、来るよな?」

 いやなぜそっちから攻撃に来た。ここのところ宇宙人からメールが来てなかったから完全に油断してた。見上げると、宇宙人がニヤリと笑っていた。
 ……それは、恋心がある相手に見せる笑顔じゃないと思うんだよ。

「俺もみゃーちゃんから話を聞きたい!」

 どうして宇宙人の友達まで悪ノリするんだ。

「みゃー、自分の気持ちに正直になりなよ。見つけて欲しいなんてロマンチストなんだから」

 ……男の娘よ、なぜ私が宇宙人が好きみたいな話になってるんだ。

「みゃー、私はケイスケ先輩に恩を売って、シロー先輩ともっと仲良くなることにしたの」

 てへぺろするな偽勇者め、本当に偽勇者だな!

「えーっと……私のこと興味なかったですよね?」

 私は宇宙人に確認する。春休みに会った時にも、そんな破片はこれっぽっちもなかったはずだけど?

「とりあえず、合宿しような」

 なぜ否定をしていただけないのでしょうか。

「あ、私はあの部屋で合宿なんて嫌だから、行かないから」

 偽勇者の言葉に、うんうん、と宇宙人の友達が頷く。

「あの部屋から星を見上げたいなんて、みゃーちゃんと圭介くらいだよ。だから二人で合宿しなよ」

 ……それって、合宿って言わないと思うよ。

「そうだよ。二人仲良く合宿がいいよね」

 念押しするな男の娘。余計なお世話だ。ニコリと笑う宇宙人は、本気か本気なのか。まさかの宇宙人を捕獲ではなく、宇宙人に捕獲される?
 絶対逃げ切ってやる!
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