その糸はとても細くて

穂村藤花

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 せい君と一緒に住みたいと私が言った。せい君が良いと言ってくれたので私は自分のアパートを解約した。さらに二ヶ月後、私達はアパートを引っ越すことにした。
 二人で選んだのは1LDKのアパートだ。新し目で、ベランダがない代わりにサンルームがあって、寝室には大きなクローゼットがあって、前の部屋より少しだけ家賃は上がった。
 大きな家具家電だけ業者に頼んで、細々したものは自分達で運んだ。ベッドだけは新品を買った。キングサイズの大きなベッドだ。
 最後の三往復目、荷物を軽自動車に積みアパート二階の部屋に運び終えた。
「冷蔵庫も買えば良かった」
 せい君が言った。部屋にあるのはいかにも一人暮らし用の小さな冷蔵庫だった。
「ぜんぜん、平気」
 すぐ近くにスーパーマーケットもコンビニもある。必要なものはその都度買いに行けばいい。
「どうせ俺は料理しないしな」
「うん。私がするよ」
 実際は、せい君がお米を研いだり、味噌汁を作ったりしてくれる。せい君は手料理至上主義みたいなのは無くて、凝った料理は作らない。冷凍やインスタント食品も食べたりする。
 せい君は私の兄だ。私が小学校の低学年だった頃、全寮制の学校に進学した。それからせい君とは全然別の生活になった。
 時々しか顔を合わせない歳の離れた兄がなんとなく苦手だった。せい君は地元に就職したけど、当時私と両親が住んでいた家には帰らずアパートを借りて一人暮らしを始めた。せい君も、年頃の妹を扱いかねていたのかもしれない。
「夕飯どうしよう」
 二人で時計を見る。午後五時三八分。冷蔵庫にはコンビニでお昼にお弁当と一緒に買った烏龍茶しか入っていない。
「今から買い物に行くのも面倒」
「そうだね」
 せい君が立ち上がった。
「非常食がある」
 せい君はコンテナボックスを開けはじめた。引っ越しとは関係なく、以前から収納として使っていたプラスチックの箱だ。積み上げたコンテナを下して蓋を開ける。四箱目に開けたのが目的の箱だった。
「これこれ」
 一見レトルト食品のように見えるパッケージが二つ入っていた。手に持ってみると軽い。
「わかめご飯?」
 私はパッケージを読み上げた。
「アルファ米って言って、お湯か水で戻すご飯」
「ふーん。へぇ。こっちは五目ご飯だ」
「ピラフとかドライカレーもあった。どこかの山で食べた」
 同じ箱に地図とか頭に付けるLEDライトも入っていた。どうやら登山用品の箱だったらしい。
 お湯を沸かすことにした。備え付きのガスコンロがあって、すでに都市ガスも開通している。
 私が薬缶の準備をしている間にせい君は冷蔵庫から烏龍茶を出してグラスをダイニングテーブルに並べていた。せい君の向かい側の椅子に座る。せい君はパッケージの封を開けて中に入っていたスプーンと乾燥剤を出した。
「どっちがいい?」
「どっちでもいいよね」
「そうだな。半分ずつ食べるか」
 お湯が沸いた。私は立ち上がり薬缶のお湯をごはんのパッケージに注いだ。
 待つこと一〇分。わかめご飯はほどよい塩気でおいしかった。

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