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第6章
第61話
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「師匠!おはようございます!」
「おはよう。サイード君。今日も熱心にポンチョを操作してるね。」
「はい!師匠から頂いたポンチョに恥じぬように訓練します!…それと師匠、僕のことはサイードとお呼び下さい!」
「う、ううん…しかし…君はサイード家の長男な訳だし…次期分家当主だろう?呼び捨てにするのは…ちょっと…ううん…。」
「いえ次期分家当主とかは良いんです。師匠は僕の師匠なんですから…。それにそれを言うなら次期総本家宗主代理の夫である師匠はやはり僕を呼び捨てにしないといけません。」
「あ、そっか…。い、いやそうなのか?でもやっぱり今は違うわけだし…。」
「なら僕も次期分家当主じゃありません。呼び捨てにして下さい。」
「まぁまぁ。呼び捨てにしてやれよ、先生。」
「まぁ…そういうことなら…。」
「はい!ありがとうございます!」
「…うむ!ならばいっそうガーク会派として励みなさい!ヴァルレンシア薬学長への感謝も忘れずにな!」
「はい!」
「まだ言ってんのかよそれ…。ていうかガーク会派って続いてんだな。」
「続いてるよ。っていうか増やしてるしね俺は。ガークを頭にしてるからな?」
「えぇ…あんな冗談みたいな会派が増えてってるってのが怖いんだけど。」
「まぁここに来るまではヴァルくらいしか増やせなかったけど、今は着々と増えてるな。」
「ええと…サイード坊にシャモーニ様、ミキ嬢に…。」
「翔!いいな!これ!このポンチョ!いかす!便利だし!魔力操作が難しいが…。」
「だろ?かっこいいよな?魔力操作は慣れてくれとしか言えないが…。でもかっこいいよな?なんでモニはいらないんだろう…?」
「欲しがったのが俺とサイードだけなんだよなぁ、なんでだ?」
「…まぁナガルス族はあまり体を覆うような服装は好まないんだ。ほら、背中に羽があるだろ?飛ぶ時にどうしても気になるんだろうな。邪魔になる訳でも無いはずなんだがな。」
「邪魔にならないのか?じゃあ欲しがっても良いじゃないか。戦力的には絶対お得だぞ?」
「…まぁシャモーニ様が言ってたのは…可愛くないと言っていたな。」
「…別にいいじゃん…確かに可愛くは無いけどさぁ…。」
「あ~確かになぁ。美紀さんもなんとか可愛くしようと色々装飾品をつけてるよな。俺はかっこいいと思うが…確かに可愛くは無いかもな。」
「…あんな事しなくてもさぁ、この少しボロボロの感じがかっこいいんじゃないか。」
「まぁ分かる。けどこのセンスは俺たちの世界ならではだと思うわ。ユーズドって奴だろ?」
「そうだよ!ユーズド!中古っぽいというか古めかしいって言うかさ!それが良いんじゃん!」
「こっちに来て気付いたけど、そりゃ、俺達の世界みたいに綺麗で新品の物が溢れてるから出てきたデザインなんじゃねぇの?ここは基本古めかしいっていうか…ボロボロのものばっかりだろ?服なんか基本中古だ。そんな中こんなボロボロっぽい見かけのものを着てもまぁ、本当にボロボロなんだなとしか思われないっていうかね。」
「…ったく…侘び寂びってもんが分かってねぇよ…センスないんじゃないのぉ、あの人ら…。」
「…それ聞かれんじゃねぇぞ。最近美紀さんとシャモーニ様がすげぇ仲良くなってんだ。世話人も巻き込んでよ。」
「わ、わかってるよ…ちょっとしたジョーク、ジョークだって。」
「本当かぁ?お前短気な所あるしなぁ?」
「だ、大丈夫だって…。俺も流石に成長したよ。前みたいなヘマはしないって…?」
「…。」
「…。」
「…あー、その世話人の話なんだがな?先生が開いてるヴァルレンシア薬学講義があるだろ?それを受けたいって世話人とかが結構いるっていう相談なんだが。」
「ん…あぁ、そうなの?…なるほど。良いぞ。別に。…条件は、機会があれば色々な人にも教えてあげてほしいってことと、ヴァルレンシア・ヴォーズスがガーク派閥薬学会派の頭だってことな。」
「…前半は構わないが…、後半のそれは…つまりどうすれば良いんだ?」
「彼女を傷つけないこと、彼女の友達になること、彼女を助けることだ。これはもう絶対だからな。破ったら俺とガークが粛清に行く。ついでに佑樹も連れてく。」
「…まぁ良いけどよ。」
「…俺もかよ…本当に短気が治ってんのかぁ…?」
「それなら何時でも大丈夫だ。いや~、またガーク会派のナイフを作らなければ。どんどん増えるぞぉ。グフフ。」
「…しかし本当に良いのかよ、先生?この技術は結構貴重じゃないか。それをポンポンと教えちまってさ?」
「ああ…それは問題ない。ヴァルと俺の師匠からの遺言でな。この技術を広めてほしいって頼まれたんだ。ポンチョも…多分広めてほしいんだと思う。」
「俺も頑張ってみたんだけどなぁ。ちょっと魔力操作がシビア過ぎてな。こりゃ作れねぇわ。材料も貴重だったし…。」
「はぁ…流石先生だな。あそこまでの魔力操作にどうやってなったんだよ…。奴隷の時と比べても格段に成長してるじゃないか。」
「そうか?でもヴァルは俺よりももっと精度良く操作できる。俺の十倍か…下手したら百倍か…。」
「うぇぇ…翔の魔力操作でも十分気持ち悪いってのに…その百倍って…。そもそも必要なのか?魔力操作にそんな精度が。」
「必要だよ。特に薬の調合にはな。精度がそのまま品質に繋がるんだとさ。俺の遅効性傷薬よりも格段に品質が良いからな。値段も倍以上違ったよ。」
「へぇ~。で、講義は何人くらい増えるんだ?俺も教えてもらってるからそんなに増えない方が良いなぁ…。」
「そんなに多くない。大体50人位だな。」
「ん?」
「ん?」
「大体50人だ。この屋敷に集まるから。何時頃始められるか後で教えてくれ。よろしく。じゃ、俺はここで。さらば。」
「おい!お…。」
「ご、五十人て…、ヤバイっすね先生。じゃ、俺もここで…。」
「おい、佑樹君。君も手伝って…。」
「お~い!サイードぉ!俺と一緒にポンチョの訓練しようぜぇ!」
あ…。
い、行きやがった。
マジかよ。50人って。どうすんだよ、もう授業じゃん。
身内数人に教えてるぐらいだったからなんとかなったのに、50人って…ど、どうしよう。
やばいぃ…。
糞…。なんだよ訓練って…。
ポンチョでキャッチボールやってるだけじゃねぇか。
いやいやそんな事どうでもいい。
どうするか…。
…モニに相談してみるか…。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「はぁ?!50人?!え…?そんなの大丈夫なの?」
「…大丈夫じゃない…。ガークに嵌められたんだ…。どうしよう…。」
「う~ん…断っても良いけど…ショーはこの技術を広めたいんでしょ?そういう意味じゃチャンスよね?」
「そうなんだよな~~。どうするか…。」
「TAを使ってみたらどう?」
「ティー…エーですか?美紀さん…。」
「そう。ティーチング・アシスタント。大学に行ってる時はそういう制度があったから。学年が上の生徒に先生の補助をして貰えばいいんじゃない?」
「へぇ…。…いやでも学年が上の生徒なんていないし…。」
「いないなら作れば良いじゃない。」
「!!そうか…。モニと美紀さんとガークと佑樹はもう少しで十分習得可能だ。ならそのまま先生になってもらえば良いのか…。」
「そうそう。最初は端溜君が全体に講義して、実習の段階になったらTAの私達が細々と補助をすればいいのよ。」
「なるほど!ありがとうございます!美紀さん!」
「いえいえ~。しかしTAかぁ。懐かしいなぁ…。」
「ミキは大学に行っていたのね…。すごく頭いいんだ…。」
「?悪くは無いと思うけど、別にすごく頭が良いわけでもないよ?」
「ええ?!だって大学でしょ?凄いじゃない!学士ってことでしょ?」
「が、くし…?まぁ…大学の学部を卒業してる訳だし…学士…かな?」
「凄い!学士って!!魔術師の憧れじゃない!」
「そうなの?学士ってそんなに凄いの?俺会ったこと無いけど。」
「そりゃそうよ!そこら辺にゴロゴロいるもんじゃないから!確か…学士になるためには自らの研究についてオールドタウンの学士長達の過半数の合格を取らなきゃいけないはずだけど…、もし学士になれれば様々な権力者達から賓客として招かれるわ。是非自領で働いてほしいってね。身分に関係なく成り上がれる数少ない手段よ。あとディック爺は学士だから。」
「ああ、そうだったのか。確かにディック爺は凄いなぁ…。」
「う~ん…。でも日本には大学が沢山あるからね。確か…半分くらいの子供は大学に行くから。大体半分は学士ってことになるかな。」
「半分!?半分も学士なの?!凄いわねぇ~…。」
「多分シャモーニ様が考えてる学士と日本の学士には大分差があると思いますよ。科学レベル…では確かに日本のほうが上かも知れませんが…、探究心と言うか学問に対する姿勢みたいなものはこちらの学士のほうが断然上だと思います。」
「う~ん…確かにそんな感じっすよね。ディック爺程熱心な学士が日本に沢山いるかって言ったら…。う~ん…。…そう言えば美紀さんは大学を卒業してたんですか?社会人?だったんですか?」
「ああ。私とマサは修士学生だったの。いわゆる院生ってやつ?」
「へぇ…イン…生ですか?なんですか?それ。」
「そうか、端溜君は確か高校生に成り立てだったっけ?それだったら知らないか…。大学っていうのは学部の4年間を修了した後、修士として2年間、博士として3年間大学に残れるの。研究者を志す人なら、博士課程…最低でも修士課程を修了しなければならないね。で、この修士、博士のときは大学院生って言ったりするのよ。」
「へぇ~…。仲立さんが東大生だってのは知ってたけど、修士?っていうのだとは知りませんでした。…え?じゃあ美紀さんも東大生ですか?」
「うん…、ちょうど就活も始まってたし、面接を受けたところが偶々その日東京でね…。じゃあ帰りにデートしようって言ったらこんな所にきちゃってね…。」
「…。」
「…あの、ガークが言うには、仲立さんは無事だそうです…。あなたが生死不明であることが有利に働いていると…。ガーク達はきっと仲立さんを救って…。」
「…うん。ありがとう。あなたとガークさんの事は信頼してる。マサに散々話しを聞かされたから。随分楽しそうだったよ。」
「…最後、仲立さんは俺に逃げろって言ってくれて…。結局、逃げてしまったんです…。どうしても…怖くなってしまって…。…今は後悔してます…。」
「マサは後悔してなかったよ。むしろずっと礼を言ってた。あのまま奴隷をやってたらきっと死んでたってね。魔法も言葉も教えてくれて…すごく感謝してた。」
「そう…ですか。…俺もガークも仲立さんの為なら何でもしますから。佑樹も俺の頼みだったら聞いてくれるはずです。絶対になんとかしてみます。」
「…そうね…。ガーク派閥参謀だもんね。順調に派閥のメンバーも増えるみたいだし。」
「そうですよ!今度来る50人だってそのままガーク派閥に入ってもらいますよ!薬の製法も広がるし、ポンチョだって広まるかも知れない…!」
「…まぁ…ポンチョは…。」
「…なんでポンチョの話になると尻込みするのさ、モニは。」
「いや、何ていうか…その、ボロボロで…可愛くないし…、ボロボロだし…。」
「い、いやだってこれ凄い便利なんだよ?攻撃にも防御にも使えるし軽いし…。」
「そうよねぇ~…巨人にもなれるし、大体なんでも出来るしねぇ。結構良いものだと思うんだけど…。製法はこの前初めて端溜君に教わったけど、結構貴重な情報だと思うし…。」
「…別に巨人になりたくないし、私…。」
「いやいやそれだけじゃないし。巨人にもなれるけど上手く使えば早く走れたり、空を飛んだり出来るんだよ!アイデア一つで色々出来るんだって!」
「…へぇ。空を飛べるの?凄いじゃない。私は巨人になって早く走る位が精一杯なんだよね。」
「ええ。風魔法で高くまで飛び上がって、ポンチョを飛行機の形にするんですよ。んで後は少しの風魔法を使えばかなり長い距離を飛べます。…まぁ、それなりの風魔法の威力が必要ですし、俺独自の魔法で前には進んでますけど…。」
「…そうかぁ~…。私は風魔法がそんなに得意じゃないから難しいかな。」
「私は既に空飛べるし…、必要ないし…。」
「…まぁ、そんなにポンポン作れるものでもないし…。まぁ…ポンチョのことは別に…しょうがないか…。」
「そうよ。レイスの衣って結構な貴重品よ。中々手に入らないし…。成績優秀者が希望した場合のみ…とかにすれば?ぶっちゃけレイスの衣って…あと4枚くらいしかないし。新しく手に入れるとしたらレイスの狩りから始めなきゃよ?」
「う~ん、それもそうか…そういうことにしようかな…。」
「せっかくだから修了証みたいな物も用意したら?免許皆伝です。みたいな。大学で言うところの学位記みたいな。卒業証書みたいなさ。」
「なるほど…。確かに…賞状みたいなのが良いっすかね?」
「う~ん…。…そうね…、じゃあマサとかが持ってた様なナイフはどう?ガーク派閥の印が入ったさ。端溜君の銘も入ってたっけ?」
「あぁあれですか…。それでも良いですけど、そんなんで良いんですかね。」
「全然良いと思うわ。言っておくけどショー。あのナイフはかなりの名品よ。あとあなたの土魔法で貴重な金属で作ったりなんかしたら…、彼らは一生の宝物にすると思うわ。…その分、派閥への帰属意識も高くなるだろうし…、ルールも守るようになるでしょうね。」
「なるほど…なるほど…!それは良い。うんそうしよう。取り敢えず今教えてる人達に全部の薬を作れるようになってもらって…、その後50人を受け入れよう。うん。その間に俺はナイフを50本程作って…、そうだ、何か貴重な金属の欠片でも手に入らないかな?モニ。元となる物があればそれを真似する事は出来るんだ。」
「わかった。幾つか用意しておくわ。…それと今教えてる私達にも1期生ってことで作ってよ。私達も講義修了者ってことなんでしょ?」
「そうか、そうだな。確かにその通りだ。作るか…。」
「じゃあ~デザインを決めましょ!いい感じのにしましょう!」
「ねぇミキが言ってた奴にしましょう…、ピンク?って色がすごく良いと思う…。」
「う~ん…ピンクを再現できるかな…、そもそもナイフが無骨っていうか…。」
「じゃあ、前ショーがくれた髪切りナイフみたいな…。」
「髪切り…何それ…、あぁ…。」
えぇ…。
お、俺がデザイン決められるんじゃないの…?
っていうか凄い無茶なことばっかり言ってる気がするんだけど…大丈夫か?
…取り敢えず佑樹とサイード君に希望を聞いてくるか。
…ここにはいないほうが良い気がする。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「諸君、よく集まってくれた。ガーク会派殲滅隊隊長として嬉しく思う。」
「翔…いつもの薬の授業…の割には随分ものものしいんだが。そこに剣持ってる人が立ってんだけど。」
「つい先日!我が薬学講義、いやガーク会派に入会したいという希望者が現れた!その数50人だ!!」
「ィンダ!!」
「あ、普通に無視するのね。」
「ユーキ。実は俺も何も聞いてねんだ。」
「ガークも?でも美紀さんとシャモーニ様は訳知り顔だなぁ…。嫌な予感しない?」
「…するな。」
「我が会派は来るもの拒まず!去る者追わずだ!彼らを受け入れることにした!我が会派も続々と増えていくだろう!」
「ギョウ!!」
「流石師匠です!」
「うむ!」
「ギュシ!」
「最近さぁ、サイード君の目がさぁ、なんていうかさぁ。」
「わかるぞ。ユーキ。リヴェータ教の奴らの目に似てる。」
「いやそれって結構引く…。」
「しかし!しかぁしだ!今君達が不安に思ってる事は分かる!後に来た者達に抜かされたらどうしよう!そう思ってるんだな!?」
「ギャナ!?」
「…はい!師匠!不安で…不安でたまりません!!」
「…君達とか言いつつ明らかに俺ら二人を見てるよな。っていうかサイード君なんとかしたほうが良いんじゃないか。」
「なに、サイード坊は分かってて楽しんでるだけさ。」
「…宗教家と同じ目をしてるのに…?」
「…しかしメリィはムカつくなー…。」
「…。」
「…。」
「だが!安心してくれ給え!今日!ここから!君達が全て薬学を学び終えるまで!私はつきっきりで君達に教え続けよう!」
「そんな…師匠…それでは、師匠のお体が…!」
「…サイード…いいんだ。ヴァルレンシア薬学を広めることは我が師匠の遺言…!その願い叶うなら我が体など…。…。」
「師匠!なんと…ご立派な…。流石師匠です…!…。」
「ギュワ~~~……。」
「さっきからわざとらしくチラチラこっち見てるのがムカつく。」
「っつーかメリィなんざずっとこっち見てんじゃんねぇか。」
「…。サイード…!分かってくれるか…。…。」
「…。師匠…。師匠が行くなら何処へだって…。…。」
「…いーよいーよ。どーせ逃がすつもりも無いんだろ。まだ習ってないのなんてあと少しだし、一日か二日頑張ればいけんだろ。なぁ?」
「はぁ…。まぁ、分かったよ。言い出したのは俺だしな。いっちょやらせて貰いますよ。」
「うむ!助かる!…じゃあ皆さんそんな感じなんで、ありがとうございました。」
「ん?」
「じゃあ、私とミキは免許皆伝用ナイフの材料探しに市場行ってくるから。地下に行くから少し遅くなるわ。」
「うん。帰ってくる頃には終わってると思う。」
「んん?」
「じゃあ俺らはポンチョで訓練でもするか、サイード君。」
「んん?!おい、ちょっと待てよユーキ。お前も受けるって…。」
「ん?俺は受けるなんて言ってねぇよ?習ってないのは後少しだって言っただけだ。」
「だ、だからそれはお前も同じだろ?俺と一緒に受けるんじゃ…。」
「いや翔がガークから話を受けた直後から毎日教えて貰ってたんだ。だから俺達は皆もう終わってんだ。」
「な…!じゃ、じゃあ俺も呼んでくれたら…。」
「いやガークは忙しいからって翔がなぁ…。じゃあな!頑張れよ!おーい!サイードぉ!今度はジャグリング教えてやるよぉ!」
「っぐ…。ユーキ、お前もか…。」
「ふふ…。すまねぇなぁガーク。忙しそうだったからなぁ。でも大丈夫。俺がきっちり最後まで出来るようにしてやるさぁ。」
「…だが結局先生も付きっきりなわけだろ?先生もきつくねぇかい?いや俺は先生を心配してな?つまりよ、俺達はもっと楽できる事を知るべ…。」
「なぁに。安心してくれ。既にガークは薬の作り方は知ってるだろ?後は魔力の操作、バランスを体感するだけだ。…そのためには何回も何回も…何回も何回も練習して気付くしか無いんだけどな。」
「いやだから結局先生がつきっきり…。」
「ちなみに彼らはモニの部下だ。快く監視に協力してくれるそうだ。…俺は向こうで休んでるけどね。」
「そ、そういうことかよ…。い、いや、そう言えばサイード坊は?」
「はぁ?お前子供に無理矢理やらせようっての?引くわー。」
「ッグゥ…。わ、わかった、やるよ…。」
「うむ。頑張ってくれ給え。もちろん、50人が入ってきたら教えるほう手伝ってもらうからな。俺は免許皆伝用のナイフ作んなきゃいけないし…。」
「わかったよ。…50人引き込んだのは元はと言えば俺だしな。」
まぁ、実際ガークが忙しいのはマジだしな。
でも言い出しっぺだ。これくらいいだろ?
…俺の仕事だってけっこう大変なんだぞ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「さて、皆さん。はじめまして。シャモーニの夫となった翔と言います。今日から皆さんにヴァルレンシア薬学をお教えしていきます。」
「ウワ~…!夫だって!はっきり言っちゃうんだ…!」
「ねぇ~…?ナガルス様ですら明言はされてなかったのにね…!」
「ねぇねぇ…!見てよ、シャモーニ様の顔…!」
「なぁに…うわ~…!澄ました顔して真っ赤じゃない…!愛おしい…!」
「分かるわぁ…!あれじゃない?あれが最近流行りの、カ・ワ・イ・イって奴…?」
「カワイイ…!確かにこの感じ、カワイイかも知れない。伝え聞いてた感じと似てる…!」
「そう?…私は抱きしめたくなる感じって聞いてたけど…?」
「…抱きしめたいでしょうがぁ…!あんた子宮にイチモツ生えてんじゃないの?」
「…なんちゅう言いぐさよ。はぁ…祭りも近いのに変なのが流行ってんのよねぇ…。」
おお…結構ざわざわしてるな…。
どのタイミングで話して良いのか…、意外とむずいな。
…学校の先生ってけっこう大変だったんだな…。偶にうるさくしててすいません。でも騒いでたのは俺じゃなくて別のリア充だったんで。具体的に言うと佑樹のグループだったんで俺のせいじゃ無いっす。
まぁ無駄に考えてもしょうがないか。とっとと進めよう。
「さて。皆さん。聞いているかと思いますが、もう一度お伝えします。皆さんが学ぶのはヴァルレンシア薬学です。学ぶにあたって皆さんに守って貰いたい事が3つあります。それはこのヴァルレンシア薬学の薬学長であるヴァルレンシア・ヴォーズスに会っても、傷つけないこと、友だちになること、この二つを守らせた上でヴァルレンシア薬学を広めること。」
「あ、あの!」
「はい、どうぞ。」
「え、えーとですね、そのヴァルレンシア…さん?を傷つけないっていうのは分かるんですが…、具体的に友達になるっていうのはどういう…?」
「友達とは友達です。仲良くお喋りしたり、お茶に誘ったり、遊んだり、お風呂一緒に入ったりです。」
「お、お風呂?え、えと、つまりそのヴァルレンシアさんに会ってもお金を払ったりだとかそういう事はしなくても…。」
「はぁ?!何を言ってるんですかぁ?!」
「ヒッ…す、すいません…。」
「まぁまぁ落ち着いてよショー。普通はこんなすごい技術タダで教えるなんて無いのよ。対価があって当たり前なの。だから皆不安なのよ。」
「…なるほど…。…その…実はそのヴァルレンシアっていうのは巨人族の末裔なんです…。…彼女はハルダニヤ国で昔差別を受けていて…。…今は穏やかに暮らしていますが、その内こちらに来てもらおうと思ってるんです。その時、彼女にはまた寂しい思いをさせたくなくて…。」
「おお…。」
「巨人族の…?」
「ハルダニヤ国に生き残りがいたのか…?」
「南部大陸には一族が小さな国を作っておったが…。」
「…それ以外では迫害の対象だろうなぁ。普通は…。」
やっぱり…。こちらでも巨人族は迫害の対象なのか。
モニに聞いてた感じだとそうでも無かったんだが…。
「…巨人族が迫害の対象だとは知っています。…ですが、彼女はとても善良で…私の命を救ってくれました。…ですがどうしても無理だという方は、帰っていただいても…。」
「師匠!」
「ん?サイード…どうした?」
「大丈夫です!そのヴァルレンシアさんとは僕が友達になります!師匠に命を助けていただいた恩は必ず返します!師匠を助けたということは僕も助けられたということですから!それにスレイマン家は巨人族を恐れる臆病者などおりません!」
「…そうか…サイード、ありがとう…。」
「む…。」
「まぁあの子にそう言われてはな…。」
「元々我らは巨人族など恐れておらんしな…。」
「うむ。ねちっこい人族らしい考え方だ…。」
「あ、あの!」
「ん?質問ですか?どうぞ?」
「巨人族かどうかはどうでも良いんですが…、あの…この講義では媚薬の作り方を教えてくださるって聞いたんですが…。」
「ふむ…。なるほど…。もちろんです。この講義を受ければ作れるようになりますよ!」
「本当ですか!だったら受けます!絶対受けます!」
「え、あぁ、そうですか…、他に帰る方は…いらっしゃらないようですね…。…なるほど…。ちなみにですね、ヴァルレンシアは私の姉弟子で…、私の十倍、いや百倍の薬調技術があります。つまり簡単に考えれば私や…我々が作る薬の百倍の性能を持った薬を彼女は作れる、ということですね。」
「…つ、つまり、媚薬も…。」
「おおっと!喋りすぎてしまいました!この話はここまでで良いでしょう。ヴァルレンシアの友達になれば彼女の作った薬も手に入りやすいなぁ…なんて話は皆さんには失礼ですからね。」
「そ、そうですよね、はしたない。ホホ…。」
「全く…そういう品性が疑われる様な行動は慎んでくれませんこと…?」
「本当ですわ…。ヴァルレンシア様の友人の資格なしと判断されたらどう責任を取ってくださいますの…?」
「あ、あんた達…。…お昼ご飯で手を打つんじゃ無かった…!」
「他にも増毛薬や精力薬や若化薬、増毛薬や髪染め薬などもお教えしますよ。ヴァルレンシア薬学は生活に基づいた学問ですからね。」
「ほ…おぉ…。ふぅ~ん…。」
「い、いやいや、せっかくシャモーニ様の婿殿が教えてくださるのだし…。」
「う、むうむ。全力で学ばねば失礼というもの…。」
「それと…、全ての薬を作れるようになり、教える事が可能となった方には免許皆伝として…こちらのナイフを進呈します。我らがガーク会派の派閥印が入ったナイフですね、ちょっとごついですがこれは男性用。刀身は黒いですがそこに銀色の模様が渦巻くように打たれています。ミスリルとアダマントを真似た金属を混ぜて作ったからですね。まぁ特に何の性能もありません。実際自分で作ったけど何の金属か分かりません。まぁとんでもなく硬いですからそれなりに使いようはあると思いますけどね、ハッハッ。」
「…は?」
「…ミ、ミス、ミスリルと言ったか…?」
「…ア、アダマントと言ったのでは…?」
「…りょ、両方言っていましたよ…混ぜたって…。いやでも真似ただけか…?」
「…私にはアレが本物に見えるんだが…違うよな…?」
「…さぁ…ただ婿殿はとんでもない土魔法の使い手だと聞いています…。」
「…あ…!」
「…なんだ、どうした…早く言え…。」
「…婿殿は確か…ドワーフ族の紋章を持っていると聞いたことがあります…。」
「…はぁ…?嘘だろ…?それは…いくら何でも…あれは確かドワーフがドワーフより上だと認めた鍛冶師にしか進呈されんものだぞ…。」
「…だが俺の妹がシャモーニ様の世話人で…見せながら話してたことがあるって…。」
「…。」
「…。」
「こちらは女性用のナイフ…小刀といった感じでしょうか。身だしなみを整えるナイフ、ですかね。僕の故郷に昔あったものです。…妻と友人の強い要望で、この様な色合いになりました。薄紅色…というのか…僕らの世界では桃色とかピンクとか言ったりするんですがね。ミスリルとヒヒイロカネを真似て作った金属を細く薄く織り重ねて作りました。魔力伝導がすごく良いみたいで…、属性魔力を流すとその属性が少し外に漏れ出ます。多少属性の効果はありますかね。ただその時に光るので、どんな時も消えない携帯型のランプとしても使えるんですねこれが。」
「うわ~…きれ~い…。」
「あ、金色に光った…、土の属性魔力だとああなるんだ…、綺麗…。」
「魔力を流さなくても綺麗だよ…、薄い赤みたいな…すごい綺麗…。」
「…。」
「…今ヒヒイロカネと言ったか?」
「…言ったな…ミスリルとも…。いやでも真似ただけ…」
「…もう婿殿の話をそのまま信じるな…、しかし流石に本物を作ったわけでは無かろう…。」
「…というかあれは半ば魔剣ではないか…?効果は薄いが…。」
「…魔剣って…確かアダウロラ会派本部所属の者しか使えないという…。」
「…うん?アダウロラ会派のグウェンツダルクらでは無かったか…?」
「…そうだったか…いやしかし…。」
「…どっちでもいいわ…!問題はその魔剣の操り方作り方は極秘とされとるんだ…!」
「…婿殿はアダウロラ会派か…?」
「…そうではないらしい。少なくとも教えを受けたことはないと…ポンチョを持っているのだが…。」
「…じゃあ自分で編み出したとでも言うのか…。」
「…あれを見て綺麗の感想しかないのか、女共は…。」
「…むしろ肝が太いと言えよう…、女でも気付いてる奴は顔を青くしておるぞ…。」
「…まぁこちらも我々しか気付いてないしな…それもしょうがないか…。」
「…後で鍛冶屋に目利きをさせよう。もし本物だったら…。」
「…決して売り飛ばさぬように言い聞かせねばな…、誰が売ったかなどすぐ分かる…。」
「…いやそれよりも売り飛ばした濡れ衣が我々に万が一でも掛かるのを防がねば…。」
「…こんな武器を作れる男だからな…。」
「…うむ、敵にはしたくない…。」
「…というか勇者殿より婿殿の方がすごくないか…?」
「…ううむ…あのナイフ一つで城が建つからな…もたらす富を考えれば…。」
「…あの男が敵にまわったら…。」
「…考えたくない…、シャモーニ様に感謝だな…。」
「…うむ…、…とにかく必死でこの講義を受けよう…。」
「…ああ、異論なしだ…。」
「ああ~…、まぁそう言うことで講義を始めます。」
「「「「「はい!!」」」」」
「うお!?」
「おはよう。サイード君。今日も熱心にポンチョを操作してるね。」
「はい!師匠から頂いたポンチョに恥じぬように訓練します!…それと師匠、僕のことはサイードとお呼び下さい!」
「う、ううん…しかし…君はサイード家の長男な訳だし…次期分家当主だろう?呼び捨てにするのは…ちょっと…ううん…。」
「いえ次期分家当主とかは良いんです。師匠は僕の師匠なんですから…。それにそれを言うなら次期総本家宗主代理の夫である師匠はやはり僕を呼び捨てにしないといけません。」
「あ、そっか…。い、いやそうなのか?でもやっぱり今は違うわけだし…。」
「なら僕も次期分家当主じゃありません。呼び捨てにして下さい。」
「まぁまぁ。呼び捨てにしてやれよ、先生。」
「まぁ…そういうことなら…。」
「はい!ありがとうございます!」
「…うむ!ならばいっそうガーク会派として励みなさい!ヴァルレンシア薬学長への感謝も忘れずにな!」
「はい!」
「まだ言ってんのかよそれ…。ていうかガーク会派って続いてんだな。」
「続いてるよ。っていうか増やしてるしね俺は。ガークを頭にしてるからな?」
「えぇ…あんな冗談みたいな会派が増えてってるってのが怖いんだけど。」
「まぁここに来るまではヴァルくらいしか増やせなかったけど、今は着々と増えてるな。」
「ええと…サイード坊にシャモーニ様、ミキ嬢に…。」
「翔!いいな!これ!このポンチョ!いかす!便利だし!魔力操作が難しいが…。」
「だろ?かっこいいよな?魔力操作は慣れてくれとしか言えないが…。でもかっこいいよな?なんでモニはいらないんだろう…?」
「欲しがったのが俺とサイードだけなんだよなぁ、なんでだ?」
「…まぁナガルス族はあまり体を覆うような服装は好まないんだ。ほら、背中に羽があるだろ?飛ぶ時にどうしても気になるんだろうな。邪魔になる訳でも無いはずなんだがな。」
「邪魔にならないのか?じゃあ欲しがっても良いじゃないか。戦力的には絶対お得だぞ?」
「…まぁシャモーニ様が言ってたのは…可愛くないと言っていたな。」
「…別にいいじゃん…確かに可愛くは無いけどさぁ…。」
「あ~確かになぁ。美紀さんもなんとか可愛くしようと色々装飾品をつけてるよな。俺はかっこいいと思うが…確かに可愛くは無いかもな。」
「…あんな事しなくてもさぁ、この少しボロボロの感じがかっこいいんじゃないか。」
「まぁ分かる。けどこのセンスは俺たちの世界ならではだと思うわ。ユーズドって奴だろ?」
「そうだよ!ユーズド!中古っぽいというか古めかしいって言うかさ!それが良いんじゃん!」
「こっちに来て気付いたけど、そりゃ、俺達の世界みたいに綺麗で新品の物が溢れてるから出てきたデザインなんじゃねぇの?ここは基本古めかしいっていうか…ボロボロのものばっかりだろ?服なんか基本中古だ。そんな中こんなボロボロっぽい見かけのものを着てもまぁ、本当にボロボロなんだなとしか思われないっていうかね。」
「…ったく…侘び寂びってもんが分かってねぇよ…センスないんじゃないのぉ、あの人ら…。」
「…それ聞かれんじゃねぇぞ。最近美紀さんとシャモーニ様がすげぇ仲良くなってんだ。世話人も巻き込んでよ。」
「わ、わかってるよ…ちょっとしたジョーク、ジョークだって。」
「本当かぁ?お前短気な所あるしなぁ?」
「だ、大丈夫だって…。俺も流石に成長したよ。前みたいなヘマはしないって…?」
「…。」
「…。」
「…あー、その世話人の話なんだがな?先生が開いてるヴァルレンシア薬学講義があるだろ?それを受けたいって世話人とかが結構いるっていう相談なんだが。」
「ん…あぁ、そうなの?…なるほど。良いぞ。別に。…条件は、機会があれば色々な人にも教えてあげてほしいってことと、ヴァルレンシア・ヴォーズスがガーク派閥薬学会派の頭だってことな。」
「…前半は構わないが…、後半のそれは…つまりどうすれば良いんだ?」
「彼女を傷つけないこと、彼女の友達になること、彼女を助けることだ。これはもう絶対だからな。破ったら俺とガークが粛清に行く。ついでに佑樹も連れてく。」
「…まぁ良いけどよ。」
「…俺もかよ…本当に短気が治ってんのかぁ…?」
「それなら何時でも大丈夫だ。いや~、またガーク会派のナイフを作らなければ。どんどん増えるぞぉ。グフフ。」
「…しかし本当に良いのかよ、先生?この技術は結構貴重じゃないか。それをポンポンと教えちまってさ?」
「ああ…それは問題ない。ヴァルと俺の師匠からの遺言でな。この技術を広めてほしいって頼まれたんだ。ポンチョも…多分広めてほしいんだと思う。」
「俺も頑張ってみたんだけどなぁ。ちょっと魔力操作がシビア過ぎてな。こりゃ作れねぇわ。材料も貴重だったし…。」
「はぁ…流石先生だな。あそこまでの魔力操作にどうやってなったんだよ…。奴隷の時と比べても格段に成長してるじゃないか。」
「そうか?でもヴァルは俺よりももっと精度良く操作できる。俺の十倍か…下手したら百倍か…。」
「うぇぇ…翔の魔力操作でも十分気持ち悪いってのに…その百倍って…。そもそも必要なのか?魔力操作にそんな精度が。」
「必要だよ。特に薬の調合にはな。精度がそのまま品質に繋がるんだとさ。俺の遅効性傷薬よりも格段に品質が良いからな。値段も倍以上違ったよ。」
「へぇ~。で、講義は何人くらい増えるんだ?俺も教えてもらってるからそんなに増えない方が良いなぁ…。」
「そんなに多くない。大体50人位だな。」
「ん?」
「ん?」
「大体50人だ。この屋敷に集まるから。何時頃始められるか後で教えてくれ。よろしく。じゃ、俺はここで。さらば。」
「おい!お…。」
「ご、五十人て…、ヤバイっすね先生。じゃ、俺もここで…。」
「おい、佑樹君。君も手伝って…。」
「お~い!サイードぉ!俺と一緒にポンチョの訓練しようぜぇ!」
あ…。
い、行きやがった。
マジかよ。50人って。どうすんだよ、もう授業じゃん。
身内数人に教えてるぐらいだったからなんとかなったのに、50人って…ど、どうしよう。
やばいぃ…。
糞…。なんだよ訓練って…。
ポンチョでキャッチボールやってるだけじゃねぇか。
いやいやそんな事どうでもいい。
どうするか…。
…モニに相談してみるか…。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「はぁ?!50人?!え…?そんなの大丈夫なの?」
「…大丈夫じゃない…。ガークに嵌められたんだ…。どうしよう…。」
「う~ん…断っても良いけど…ショーはこの技術を広めたいんでしょ?そういう意味じゃチャンスよね?」
「そうなんだよな~~。どうするか…。」
「TAを使ってみたらどう?」
「ティー…エーですか?美紀さん…。」
「そう。ティーチング・アシスタント。大学に行ってる時はそういう制度があったから。学年が上の生徒に先生の補助をして貰えばいいんじゃない?」
「へぇ…。…いやでも学年が上の生徒なんていないし…。」
「いないなら作れば良いじゃない。」
「!!そうか…。モニと美紀さんとガークと佑樹はもう少しで十分習得可能だ。ならそのまま先生になってもらえば良いのか…。」
「そうそう。最初は端溜君が全体に講義して、実習の段階になったらTAの私達が細々と補助をすればいいのよ。」
「なるほど!ありがとうございます!美紀さん!」
「いえいえ~。しかしTAかぁ。懐かしいなぁ…。」
「ミキは大学に行っていたのね…。すごく頭いいんだ…。」
「?悪くは無いと思うけど、別にすごく頭が良いわけでもないよ?」
「ええ?!だって大学でしょ?凄いじゃない!学士ってことでしょ?」
「が、くし…?まぁ…大学の学部を卒業してる訳だし…学士…かな?」
「凄い!学士って!!魔術師の憧れじゃない!」
「そうなの?学士ってそんなに凄いの?俺会ったこと無いけど。」
「そりゃそうよ!そこら辺にゴロゴロいるもんじゃないから!確か…学士になるためには自らの研究についてオールドタウンの学士長達の過半数の合格を取らなきゃいけないはずだけど…、もし学士になれれば様々な権力者達から賓客として招かれるわ。是非自領で働いてほしいってね。身分に関係なく成り上がれる数少ない手段よ。あとディック爺は学士だから。」
「ああ、そうだったのか。確かにディック爺は凄いなぁ…。」
「う~ん…。でも日本には大学が沢山あるからね。確か…半分くらいの子供は大学に行くから。大体半分は学士ってことになるかな。」
「半分!?半分も学士なの?!凄いわねぇ~…。」
「多分シャモーニ様が考えてる学士と日本の学士には大分差があると思いますよ。科学レベル…では確かに日本のほうが上かも知れませんが…、探究心と言うか学問に対する姿勢みたいなものはこちらの学士のほうが断然上だと思います。」
「う~ん…確かにそんな感じっすよね。ディック爺程熱心な学士が日本に沢山いるかって言ったら…。う~ん…。…そう言えば美紀さんは大学を卒業してたんですか?社会人?だったんですか?」
「ああ。私とマサは修士学生だったの。いわゆる院生ってやつ?」
「へぇ…イン…生ですか?なんですか?それ。」
「そうか、端溜君は確か高校生に成り立てだったっけ?それだったら知らないか…。大学っていうのは学部の4年間を修了した後、修士として2年間、博士として3年間大学に残れるの。研究者を志す人なら、博士課程…最低でも修士課程を修了しなければならないね。で、この修士、博士のときは大学院生って言ったりするのよ。」
「へぇ~…。仲立さんが東大生だってのは知ってたけど、修士?っていうのだとは知りませんでした。…え?じゃあ美紀さんも東大生ですか?」
「うん…、ちょうど就活も始まってたし、面接を受けたところが偶々その日東京でね…。じゃあ帰りにデートしようって言ったらこんな所にきちゃってね…。」
「…。」
「…あの、ガークが言うには、仲立さんは無事だそうです…。あなたが生死不明であることが有利に働いていると…。ガーク達はきっと仲立さんを救って…。」
「…うん。ありがとう。あなたとガークさんの事は信頼してる。マサに散々話しを聞かされたから。随分楽しそうだったよ。」
「…最後、仲立さんは俺に逃げろって言ってくれて…。結局、逃げてしまったんです…。どうしても…怖くなってしまって…。…今は後悔してます…。」
「マサは後悔してなかったよ。むしろずっと礼を言ってた。あのまま奴隷をやってたらきっと死んでたってね。魔法も言葉も教えてくれて…すごく感謝してた。」
「そう…ですか。…俺もガークも仲立さんの為なら何でもしますから。佑樹も俺の頼みだったら聞いてくれるはずです。絶対になんとかしてみます。」
「…そうね…。ガーク派閥参謀だもんね。順調に派閥のメンバーも増えるみたいだし。」
「そうですよ!今度来る50人だってそのままガーク派閥に入ってもらいますよ!薬の製法も広がるし、ポンチョだって広まるかも知れない…!」
「…まぁ…ポンチョは…。」
「…なんでポンチョの話になると尻込みするのさ、モニは。」
「いや、何ていうか…その、ボロボロで…可愛くないし…、ボロボロだし…。」
「い、いやだってこれ凄い便利なんだよ?攻撃にも防御にも使えるし軽いし…。」
「そうよねぇ~…巨人にもなれるし、大体なんでも出来るしねぇ。結構良いものだと思うんだけど…。製法はこの前初めて端溜君に教わったけど、結構貴重な情報だと思うし…。」
「…別に巨人になりたくないし、私…。」
「いやいやそれだけじゃないし。巨人にもなれるけど上手く使えば早く走れたり、空を飛んだり出来るんだよ!アイデア一つで色々出来るんだって!」
「…へぇ。空を飛べるの?凄いじゃない。私は巨人になって早く走る位が精一杯なんだよね。」
「ええ。風魔法で高くまで飛び上がって、ポンチョを飛行機の形にするんですよ。んで後は少しの風魔法を使えばかなり長い距離を飛べます。…まぁ、それなりの風魔法の威力が必要ですし、俺独自の魔法で前には進んでますけど…。」
「…そうかぁ~…。私は風魔法がそんなに得意じゃないから難しいかな。」
「私は既に空飛べるし…、必要ないし…。」
「…まぁ、そんなにポンポン作れるものでもないし…。まぁ…ポンチョのことは別に…しょうがないか…。」
「そうよ。レイスの衣って結構な貴重品よ。中々手に入らないし…。成績優秀者が希望した場合のみ…とかにすれば?ぶっちゃけレイスの衣って…あと4枚くらいしかないし。新しく手に入れるとしたらレイスの狩りから始めなきゃよ?」
「う~ん、それもそうか…そういうことにしようかな…。」
「せっかくだから修了証みたいな物も用意したら?免許皆伝です。みたいな。大学で言うところの学位記みたいな。卒業証書みたいなさ。」
「なるほど…。確かに…賞状みたいなのが良いっすかね?」
「う~ん…。…そうね…、じゃあマサとかが持ってた様なナイフはどう?ガーク派閥の印が入ったさ。端溜君の銘も入ってたっけ?」
「あぁあれですか…。それでも良いですけど、そんなんで良いんですかね。」
「全然良いと思うわ。言っておくけどショー。あのナイフはかなりの名品よ。あとあなたの土魔法で貴重な金属で作ったりなんかしたら…、彼らは一生の宝物にすると思うわ。…その分、派閥への帰属意識も高くなるだろうし…、ルールも守るようになるでしょうね。」
「なるほど…なるほど…!それは良い。うんそうしよう。取り敢えず今教えてる人達に全部の薬を作れるようになってもらって…、その後50人を受け入れよう。うん。その間に俺はナイフを50本程作って…、そうだ、何か貴重な金属の欠片でも手に入らないかな?モニ。元となる物があればそれを真似する事は出来るんだ。」
「わかった。幾つか用意しておくわ。…それと今教えてる私達にも1期生ってことで作ってよ。私達も講義修了者ってことなんでしょ?」
「そうか、そうだな。確かにその通りだ。作るか…。」
「じゃあ~デザインを決めましょ!いい感じのにしましょう!」
「ねぇミキが言ってた奴にしましょう…、ピンク?って色がすごく良いと思う…。」
「う~ん…ピンクを再現できるかな…、そもそもナイフが無骨っていうか…。」
「じゃあ、前ショーがくれた髪切りナイフみたいな…。」
「髪切り…何それ…、あぁ…。」
えぇ…。
お、俺がデザイン決められるんじゃないの…?
っていうか凄い無茶なことばっかり言ってる気がするんだけど…大丈夫か?
…取り敢えず佑樹とサイード君に希望を聞いてくるか。
…ここにはいないほうが良い気がする。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「諸君、よく集まってくれた。ガーク会派殲滅隊隊長として嬉しく思う。」
「翔…いつもの薬の授業…の割には随分ものものしいんだが。そこに剣持ってる人が立ってんだけど。」
「つい先日!我が薬学講義、いやガーク会派に入会したいという希望者が現れた!その数50人だ!!」
「ィンダ!!」
「あ、普通に無視するのね。」
「ユーキ。実は俺も何も聞いてねんだ。」
「ガークも?でも美紀さんとシャモーニ様は訳知り顔だなぁ…。嫌な予感しない?」
「…するな。」
「我が会派は来るもの拒まず!去る者追わずだ!彼らを受け入れることにした!我が会派も続々と増えていくだろう!」
「ギョウ!!」
「流石師匠です!」
「うむ!」
「ギュシ!」
「最近さぁ、サイード君の目がさぁ、なんていうかさぁ。」
「わかるぞ。ユーキ。リヴェータ教の奴らの目に似てる。」
「いやそれって結構引く…。」
「しかし!しかぁしだ!今君達が不安に思ってる事は分かる!後に来た者達に抜かされたらどうしよう!そう思ってるんだな!?」
「ギャナ!?」
「…はい!師匠!不安で…不安でたまりません!!」
「…君達とか言いつつ明らかに俺ら二人を見てるよな。っていうかサイード君なんとかしたほうが良いんじゃないか。」
「なに、サイード坊は分かってて楽しんでるだけさ。」
「…宗教家と同じ目をしてるのに…?」
「…しかしメリィはムカつくなー…。」
「…。」
「…。」
「だが!安心してくれ給え!今日!ここから!君達が全て薬学を学び終えるまで!私はつきっきりで君達に教え続けよう!」
「そんな…師匠…それでは、師匠のお体が…!」
「…サイード…いいんだ。ヴァルレンシア薬学を広めることは我が師匠の遺言…!その願い叶うなら我が体など…。…。」
「師匠!なんと…ご立派な…。流石師匠です…!…。」
「ギュワ~~~……。」
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「っつーかメリィなんざずっとこっち見てんじゃんねぇか。」
「…。サイード…!分かってくれるか…。…。」
「…。師匠…。師匠が行くなら何処へだって…。…。」
「…いーよいーよ。どーせ逃がすつもりも無いんだろ。まだ習ってないのなんてあと少しだし、一日か二日頑張ればいけんだろ。なぁ?」
「はぁ…。まぁ、分かったよ。言い出したのは俺だしな。いっちょやらせて貰いますよ。」
「うむ!助かる!…じゃあ皆さんそんな感じなんで、ありがとうございました。」
「ん?」
「じゃあ、私とミキは免許皆伝用ナイフの材料探しに市場行ってくるから。地下に行くから少し遅くなるわ。」
「うん。帰ってくる頃には終わってると思う。」
「んん?」
「じゃあ俺らはポンチョで訓練でもするか、サイード君。」
「んん?!おい、ちょっと待てよユーキ。お前も受けるって…。」
「ん?俺は受けるなんて言ってねぇよ?習ってないのは後少しだって言っただけだ。」
「だ、だからそれはお前も同じだろ?俺と一緒に受けるんじゃ…。」
「いや翔がガークから話を受けた直後から毎日教えて貰ってたんだ。だから俺達は皆もう終わってんだ。」
「な…!じゃ、じゃあ俺も呼んでくれたら…。」
「いやガークは忙しいからって翔がなぁ…。じゃあな!頑張れよ!おーい!サイードぉ!今度はジャグリング教えてやるよぉ!」
「っぐ…。ユーキ、お前もか…。」
「ふふ…。すまねぇなぁガーク。忙しそうだったからなぁ。でも大丈夫。俺がきっちり最後まで出来るようにしてやるさぁ。」
「…だが結局先生も付きっきりなわけだろ?先生もきつくねぇかい?いや俺は先生を心配してな?つまりよ、俺達はもっと楽できる事を知るべ…。」
「なぁに。安心してくれ。既にガークは薬の作り方は知ってるだろ?後は魔力の操作、バランスを体感するだけだ。…そのためには何回も何回も…何回も何回も練習して気付くしか無いんだけどな。」
「いやだから結局先生がつきっきり…。」
「ちなみに彼らはモニの部下だ。快く監視に協力してくれるそうだ。…俺は向こうで休んでるけどね。」
「そ、そういうことかよ…。い、いや、そう言えばサイード坊は?」
「はぁ?お前子供に無理矢理やらせようっての?引くわー。」
「ッグゥ…。わ、わかった、やるよ…。」
「うむ。頑張ってくれ給え。もちろん、50人が入ってきたら教えるほう手伝ってもらうからな。俺は免許皆伝用のナイフ作んなきゃいけないし…。」
「わかったよ。…50人引き込んだのは元はと言えば俺だしな。」
まぁ、実際ガークが忙しいのはマジだしな。
でも言い出しっぺだ。これくらいいだろ?
…俺の仕事だってけっこう大変なんだぞ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「さて、皆さん。はじめまして。シャモーニの夫となった翔と言います。今日から皆さんにヴァルレンシア薬学をお教えしていきます。」
「ウワ~…!夫だって!はっきり言っちゃうんだ…!」
「ねぇ~…?ナガルス様ですら明言はされてなかったのにね…!」
「ねぇねぇ…!見てよ、シャモーニ様の顔…!」
「なぁに…うわ~…!澄ました顔して真っ赤じゃない…!愛おしい…!」
「分かるわぁ…!あれじゃない?あれが最近流行りの、カ・ワ・イ・イって奴…?」
「カワイイ…!確かにこの感じ、カワイイかも知れない。伝え聞いてた感じと似てる…!」
「そう?…私は抱きしめたくなる感じって聞いてたけど…?」
「…抱きしめたいでしょうがぁ…!あんた子宮にイチモツ生えてんじゃないの?」
「…なんちゅう言いぐさよ。はぁ…祭りも近いのに変なのが流行ってんのよねぇ…。」
おお…結構ざわざわしてるな…。
どのタイミングで話して良いのか…、意外とむずいな。
…学校の先生ってけっこう大変だったんだな…。偶にうるさくしててすいません。でも騒いでたのは俺じゃなくて別のリア充だったんで。具体的に言うと佑樹のグループだったんで俺のせいじゃ無いっす。
まぁ無駄に考えてもしょうがないか。とっとと進めよう。
「さて。皆さん。聞いているかと思いますが、もう一度お伝えします。皆さんが学ぶのはヴァルレンシア薬学です。学ぶにあたって皆さんに守って貰いたい事が3つあります。それはこのヴァルレンシア薬学の薬学長であるヴァルレンシア・ヴォーズスに会っても、傷つけないこと、友だちになること、この二つを守らせた上でヴァルレンシア薬学を広めること。」
「あ、あの!」
「はい、どうぞ。」
「え、えーとですね、そのヴァルレンシア…さん?を傷つけないっていうのは分かるんですが…、具体的に友達になるっていうのはどういう…?」
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「はぁ?!何を言ってるんですかぁ?!」
「ヒッ…す、すいません…。」
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「…なるほど…。…その…実はそのヴァルレンシアっていうのは巨人族の末裔なんです…。…彼女はハルダニヤ国で昔差別を受けていて…。…今は穏やかに暮らしていますが、その内こちらに来てもらおうと思ってるんです。その時、彼女にはまた寂しい思いをさせたくなくて…。」
「おお…。」
「巨人族の…?」
「ハルダニヤ国に生き残りがいたのか…?」
「南部大陸には一族が小さな国を作っておったが…。」
「…それ以外では迫害の対象だろうなぁ。普通は…。」
やっぱり…。こちらでも巨人族は迫害の対象なのか。
モニに聞いてた感じだとそうでも無かったんだが…。
「…巨人族が迫害の対象だとは知っています。…ですが、彼女はとても善良で…私の命を救ってくれました。…ですがどうしても無理だという方は、帰っていただいても…。」
「師匠!」
「ん?サイード…どうした?」
「大丈夫です!そのヴァルレンシアさんとは僕が友達になります!師匠に命を助けていただいた恩は必ず返します!師匠を助けたということは僕も助けられたということですから!それにスレイマン家は巨人族を恐れる臆病者などおりません!」
「…そうか…サイード、ありがとう…。」
「む…。」
「まぁあの子にそう言われてはな…。」
「元々我らは巨人族など恐れておらんしな…。」
「うむ。ねちっこい人族らしい考え方だ…。」
「あ、あの!」
「ん?質問ですか?どうぞ?」
「巨人族かどうかはどうでも良いんですが…、あの…この講義では媚薬の作り方を教えてくださるって聞いたんですが…。」
「ふむ…。なるほど…。もちろんです。この講義を受ければ作れるようになりますよ!」
「本当ですか!だったら受けます!絶対受けます!」
「え、あぁ、そうですか…、他に帰る方は…いらっしゃらないようですね…。…なるほど…。ちなみにですね、ヴァルレンシアは私の姉弟子で…、私の十倍、いや百倍の薬調技術があります。つまり簡単に考えれば私や…我々が作る薬の百倍の性能を持った薬を彼女は作れる、ということですね。」
「…つ、つまり、媚薬も…。」
「おおっと!喋りすぎてしまいました!この話はここまでで良いでしょう。ヴァルレンシアの友達になれば彼女の作った薬も手に入りやすいなぁ…なんて話は皆さんには失礼ですからね。」
「そ、そうですよね、はしたない。ホホ…。」
「全く…そういう品性が疑われる様な行動は慎んでくれませんこと…?」
「本当ですわ…。ヴァルレンシア様の友人の資格なしと判断されたらどう責任を取ってくださいますの…?」
「あ、あんた達…。…お昼ご飯で手を打つんじゃ無かった…!」
「他にも増毛薬や精力薬や若化薬、増毛薬や髪染め薬などもお教えしますよ。ヴァルレンシア薬学は生活に基づいた学問ですからね。」
「ほ…おぉ…。ふぅ~ん…。」
「い、いやいや、せっかくシャモーニ様の婿殿が教えてくださるのだし…。」
「う、むうむ。全力で学ばねば失礼というもの…。」
「それと…、全ての薬を作れるようになり、教える事が可能となった方には免許皆伝として…こちらのナイフを進呈します。我らがガーク会派の派閥印が入ったナイフですね、ちょっとごついですがこれは男性用。刀身は黒いですがそこに銀色の模様が渦巻くように打たれています。ミスリルとアダマントを真似た金属を混ぜて作ったからですね。まぁ特に何の性能もありません。実際自分で作ったけど何の金属か分かりません。まぁとんでもなく硬いですからそれなりに使いようはあると思いますけどね、ハッハッ。」
「…は?」
「…ミ、ミス、ミスリルと言ったか…?」
「…ア、アダマントと言ったのでは…?」
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「…ううむ…あのナイフ一つで城が建つからな…もたらす富を考えれば…。」
「…あの男が敵にまわったら…。」
「…考えたくない…、シャモーニ様に感謝だな…。」
「…うむ…、…とにかく必死でこの講義を受けよう…。」
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
30年待たされた異世界転移
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気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
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