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第6章
第62話
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「上手く行きましたね、師匠…。グシシ…。」
「ああサイード、良くやったぞ…あれでヴァルの友達も増える…グフフ…。」
「…ギュシシ…。」
「…でもナイフと薬だけで十分だったのでは…?」
「…いやいや…それじゃただの打算だろ…?サイードが釣ってくれたお蔭で、この件に関してだけは正義心で動いてくれる…と思う。打算とかそういうのは敏感に感じる子だからな。」
「…ギュワシシ…。」
「…なるほどさすが師匠です…。」
「…いやいや魔法でこっそり生徒の話を聞きながら話す内容を決めればいいなんて…サイード、君の意見があったればこそよ…。俺に聞かれてるとも知らず…ッグッフッフ…。」
「…いえいえ…スレイマン家に伝わる聴衆扇動術ですから…。グッシッシ…。」
「…良し、褒美にこいつをやろう…。男用の免許皆伝ナイフはもう持ってるから…、さっきの女用のだ…。」
「!!…いいんですかぁ…!?貰っちゃいますよ…?!自慢しちゃいますよ…?!」
「…おうおうしてしまえしてしまえ。二つ持ってるのはサイードだけだぞ…、正当な駄賃だ…。」
「…おぉ…初めて労働をしました…。その対価がこのナイフ…!」
「…高すぎだろ…、っていうかなんでお前ら二人共小声何だよ…。」
「…そりゃ悪巧みは小声でするもんだろ…?」
「…当たり前じゃないですか…知らなかったんですかユーキ…はぁ…。」
「…ギュハァ…ップ。」
「…おいコラ団子コラ。最後笑ってはいなかっただろうが。…糞ッ…触れねぇ…。」
「…それよりどうしたんだユーキ…。」
「…ああ俺はこれから城下町に出てくる。2,3日はぶらついて来るからな。お前らも来るか?暇だろ?」
「…暇だが。次の授業始まるまではだが…。」
「…城下町は行った事が無かったんですが…良いんですかね…?」
「…良いに決まってんだろぉ…?サイードお前幾つだっけ…?」
「…?今年で13になりましたが…?」
「…良し、なら大丈夫だな。へへ…俺がお前ら二人をいいところに連れてってやろうと思ってな…?」
「…良いところですか…?」
「…何でそんな所知ってんだ?」
「…俺はわりかし早く体は良くなってたしな。ガークの世話人に街を案内してもらってたりしたんだ。…まぁ今から行く所はガークに直接教えて貰ったんだが…。」
「…ふぅ~ん…まぁ良いよ。確かに暇だしな…。」
「何故かわからんが街が凄い賑わってるし。行くだけでも楽しいとは思う。」
「城下町なんだしそりゃ賑わってるんじゃないか?」
「いやいや師匠。それは多分祭りが近づいてるんですよ。」
「祭り?」
「ああ~、なんかそんなのがあるって話も聞いたことがあるな。」
「このナガルス族が生まれた日を記念しての祭りだと言われてます。2000年以上も続いてる歴史ある祭りなんですよ。…望郷祭と呼ばれています。…ちなみに今回は僕が、祭りの主役なんですよ。…ま、それが嫌で逃げ出したんですけど…。」
「なんで望郷祭?独立記念日とかそういうのじゃないんだ?…嫌なら断れば良いじゃないか…?」
「…昔からそう言われてることなので。…それに僕が逃げたら別の子がやらなきゃいけませんからね。誰かがやらなきゃいけないんです…。」
「ま、伝統なんて意味わからんのもあるからな。日本でも珍宝祭りなんてあるしな。ブフッ。」
「あ~…なんか聞いたことある。佑樹そんなのよく覚えてるな。グクッ」
「一度聞いたら忘れんだろ、こんなの。ブハッ」
「チンポウ…なんですか?それ?」
「ああ、それはな…、チン…ってのは…俺らの…で…確か…だったと…。ップーックックッ」
「な、なんていう祭りですか…。し、師匠の国は…変態の国ですか…。ッフヒッ…。」
「…否定は出来ない…。ブヒュッ。」
「ッグフックック…。まぁいいや。とっとと行こうぜ。ほら、こっそり行くぞ、こっそり。身をかがめて行けよ…。」
「なんでこっそり行く必要があるんだよ…。」
「バカ、こういうのはこっそり行くから楽しいんだろうが…。」
「師匠。僕もそう思います。こっそり行くのが楽しい…。」
「えぇ…。…いや、こっそり浮島を抜け出したサイードならそうだよな。…ポンチョを上手く使うんだ良いな…?」
「ノリノリじゃねぇか…。」
「楽しんだもん勝ちでしょ…。でも少し暗いな…。」
「…師匠そんな時こそこのナイフで…。」
「…おおっ。そうだそうだ。明かり代わりになるんだった。任せたサイード…。」
「…任せて下さい…フンッ…。…おお…青い…。」
「…こりゃ水属性か…?」
「…スレイマン家は水と風属性が得意なんです…。僕は水属性が一番得意ですね…。」
「…青い炎みたいだな…。自分で作っといてなんだけど、結構綺麗だな…。」
「…めちゃくちゃ綺麗ですよ。これを貰えると思った人達の目の変わりっぷりと来たら…。」
「…正直引いたよな…。やっぱこれってかなり貴重なんじゃないのか?そこら辺シャモーニ様はなんて言ってたんだ…。」
「…う~ん…特に…。貴重な金属を真似て作ったんだけど、よく考えたら金属の目利きは私出来ないって…。」
「…まぁ、そんなもんか。…俺もそれほしいな~…。」
「…お前はもう持ってるだろ、男用のやつ。結構これ作るの大変なんだぞ…。」
「…わかったわかった。俺もタダで貰おうとは思ってないって。なんか良い物が入ったらそれと交換な。」
「…まぁ、時間があったら作るよ。」
「…ユーキも師匠の為になることをしなきゃいけませんよ。労働の対価です…。」
「…嬉しそうだな、おい…。…さ、行くぞ…。」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「そこの人ら!寄ってきな!!良いもん揃えてるよ!」
「兄ちゃんら!こっちで飯はどうだい?!珍しい地上の特産品が入ったんだよ!」
「いいもん腰に指してるじゃないか!こっちの武器も見てきなよ!珍品、名品、ガラクタ!よりどりみどりだよ!」
「お?武器があんの?」
「辞めとけって翔。どうせろくなもんじゃ無いって。」
「おうおう、言ってくれるねぇ。確かにろくなもんじゃない物もある!だが良いもんもあるよ!そこで騙くらかすなんてこたぁしないさ。ナガルス様のお膝元でよぉ!」
「…それは信じて良いと思いますよ。他の国ではどうか知りませんが、少なくともこの城下町ではそういった詐欺の類は無いはずです。ナガルス様はそういった事を厳しく取り締まりますからね。」
「その通り!商売に関しては厳しいお方さ!おりゃ地上でも商売したことあるがな、あっちは騙されたほうが悪いって意識が強ぇが、ここは騙した方が悪いのさ。ナガルス様はケイザ…とか何とか言ってたな!難しいことは判らねぇが!」
「確かに…。ハルダニヤ国王都でも普通に騙そうとしてくるからな。」
「そうなのか?俺は王都では…。…騙されて奴隷にされたんだった…。」
「…まぁ、そういう事が普通にあるからな。治安が良いとは言えないな。日本と比べればだが。他の領と比べれば王都の治安は基本的に良いんだが…。」
「…ここでは奴隷制度が無いからな。誘拐されたり、叩き売られるって事は少なくともないな。」
「はぁ~~!よくそれで無事だったね。…ん?奴隷だった?で、人間…だよな?…。…あんたシャモーニ様の旦那様の…?」
「ん?あぁ…ショーだ。モニの夫だ。」
夫って言っちゃった。
おお…なんというかものすごい達成感が…。
「本当かよ!いや、凄いじゃないか!次期本家当主の旦那様かい!?じゃあ、そっちのあんたは…氷晶の勇者…?」
「あ~…そうだ。…?氷晶?なんだそれ?」
「氷魔法を操る勇者様だって…。操る氷は宝石みたいに綺麗で、鋭いって聞いたぜ?」
「…まぁ氷魔法は操るけどよ…。」
「かっこいいっすね。氷晶の勇者様。ップグッ。」
「さすがユーキは違いますね。…あ、いや氷晶の勇者様でした。ウフッ」
「てめこのやろ。サイード!おいコラ!こっち来い!怒んないからこっち来なさい!」
「ひえっ…。勇者様が僕を…。」
「棒読みじゃねぇかオイ。こっち来い。頭グリグリするだけだから。」
「何やってんですかい、あんたら…。ま、有名人二人に詐欺を働く度胸はねぇすよ。少し見ていきますかい?」
「ああ…だが手持ちはあまりねぇぞ?」
「良いんですよ。シャモーニ様の婿殿と勇者殿が来店したってだけで箔がつく。そうだ。店に来てくだせぇよ。こんな露店じゃあ、高いもんは殆ど置いてねぇすから。…後で二人が来てくれた記念なんか貰えたら嬉しいですがね。」
「記念って…何だよ…。」
「何でも良いんでさぁ、何でも。ほらこっちですぜ。」
「はいよ。お~い!二人共行こうぜ!」
「はい!」
「ああ…!…糞ッ、すばしっこいな…。」
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「さて…勇者殿は長剣…で、婿殿は…?」
「俺も一応長剣かな。あと小手が隠し武器。ただ主力の武器はこのポンチョになると思う。後は基本魔法で遠距離って戦法かな。長剣と小手はあくまでいざって時だ。」
「俺は長剣一本だな。魔法があくまで控えって感じだ。…そういやサイードの武器はどうなるんだ?」
「う~ん…あまり意識したことは無いですけど…。そうですね。このナイフ二つを僕の武器にしようかな。…使うかどうか分かりませんが。」
「…ふん…超接近戦と接近、中距離遠距離ってとこですかい。う~ん…あんたら程になるんだったらそこらの武器を勧める訳にはいかねぇですからね。ドワーフ製のを紹介していきやしょう。」
「ドワーフ製の物なんて手に入るんだな。浮島ってもっと地上と係わりが無いと思ってたよ。」
「婿殿。そいつぁ勘違いってもんですぜ。関わりがないのはハルダニヤの野郎共だけでさぁ。他の大陸や種族とは結構取引してるんですぜ。意外に俺達の物も人気なんです。…ま、一部のハルダニヤの領主は俺達とこっそり交易してたりするらしいですがね。」
「へぇ~…。ドワーフ製って何が凄いんだ?この小手も確かドワーフ製だけどやっぱ凄いの?」
「ん?それは何処で買った物ですかい?カザド神国ですかい?南部大陸の?」
「ん?いや、ザリー公爵領だ。そこに店を構えていたドワーフが作ったと言っていた。」
「なるほど。じゃあ、修行で出稼ぎに来てる奴ですね…どれ見せてくだせぇ。ふむ…。…良いものであることは間違いありませんが…魔力が籠もってる訳じゃないですね。普通のすごくいい武器って所ですかね。ですが大事に使えば一生使える物でもあります。世代を超える程じゃありませんが。」
「そっか…。結構良いやつなんだな。…そのカザド神国ってのは…?」
「確か…ドワーフの国って聞いた気がする。南部大陸の北に位置する。エルフともハルダニヤ国とも貿易してると聞いた。…それで合ってる?」
「ホホウ。さすが勇者殿ですな。基本的な地政学は修めていらっしゃる。まぁ、ドワーフってのは鍛冶が得意な奴が多いわけですが、まず本格的な修業に入る前に色々な所に旅をしなきゃならないんですわ。鍛冶修行って訳です。そして修行を終えたら自国に帰ってドワーフ流の鍛冶を仕込まれる。そいつが終わって晴れて一人前になります。この武器はドワーフ本流の仕込みじゃねぇ訳ですわ。」
「聞いたことがあります。本物のドワーフ製品は魔力が宿ってこそだと。」
「その通り。ドワーフが凄いのは鉄を知ってることじゃない。鉄と魔力についてとんでもない知識と洞察があるって事でさぁ。本物の武器には魔力が備わっており、須らく特殊な能力を備えています。火を出したり水を出したり…物によっちゃあ身体の一部を代替する様な武器もあるらしいですぜ。手足の代わりみたいなもんですね。回復魔法の代わりみたいなもんですわ。まぁ本来ならドワーフ製の武器ってのは、とんでもねぇ価格になりますが…。…坊っちゃん、そのナイフを譲ってくれるって言うなら、ここにある武器なんでも持っていっていいですぜ。誓って騙すような事はしやせん。」
「…はぁ?」
「い、いやいや、わかりました。あんたらに全員にそれぞれ合う武器を持っていっていい。それでどうだ?これ以上は無理ですぜ?」
「…いえ、これは師匠に貰った物ですから売る気はありません。免許皆伝の証ですから。」
「わ、わかった。それほどの武器だからな。それもそうだろう。うん。価値を知っていたらとてもとても…。…なぁ、せめてその師匠って人を教えくれやせんか?作った人は分かりますかい?」
「…?師匠は師匠ですよ。ショー様のことです。」
「…は?…ショー様ってつまり、婿…ど…あんた…?」
「え、ああ、そうだけど…これっていいもんなの?嬉しいなぁ。」
「…。」
「ほら、一応全部に俺の銘を打ってあるんだ。いや~、これって価値があるの?結構嬉しいんだけど。ほら、これなんて織り重ねるのにスゲェ苦労してさ。モニと美紀さんがピンク色を出せってうるさくてうるさくて…。結構鑑賞にも耐えると思わない?」
「…。」
「ただ俺としての好みはこの男用のナイフなんだよね。でかくて無骨だけどさ、そこがいいっていうか…。もちろんデザイン性もこだわったんだよ。この黒地に渦巻く銀の模様がいいだろ?故郷の武器にこんな模様の金属があって…。」
「…。」
「ダマスカス鋼だろ?初めて見たとき一発でわかったよ。翔も好きだよな。…まぁぶっちゃけ俺もかなり好きだよ、うん。日本でこんなん腰に下げてたらただのヤバイ奴だからな。家に飾るのとはまた違う満足感っていうの?」
「…。」
「わかる?やっぱ持ち歩くってのがいいっていうか、見てもらうのを想定してかっこいいのにしたんだけどさ。結構綺麗だと思うんだよね。モニもこのデザインは褒めてくれた。」
「…。」
「僕もこの模様好きですよ!魔力を流しても特殊効果はないって言ってましたけど、そんなの必要ないですよ!すごく硬い!ってだけでかっこいいですから!」
「…。」
「わかる!絶対に壊れない!ってだけでロマンなんだよ!」
「…。」
「そうでしょ!これがかっこいいんですよ!…まぁこのピンク?のナイフもかっこいいんですが。」
「!!…。」
「いいなぁ~、それ。魔力流したときの光がやっぱり綺麗だしなぁ…。」
「ちょ、ちょっと、ちょっとまって、待ってくれ!…婿殿が作ったっていうのか…?ちょ、ちょっと見せてくれ」
「まぁ…いいですけど。…丁寧に扱ってくださいよ?」
「ああ、わかってるわかってる。…わかってる…これは…ミスリルなのは間違いないよな…。え…?いや…でも…。…アダマンタイト…?いやでもこんなに大量に…。ミスリルだけでも元は取れるか…いや売らないのか…。この赤いのなんだ…?」
「…結構専門家でもわからないもんなんだな。どうなんだ?翔。」
「…とは言ってもなぁ。俺も自分で作った金属がどういうものか全く分からんから。一応参考にした金属はあるし、それを真似したんだけど、じゃあ全く同じものが出来ましたか?って言われると自信がないと言うか。」
「まぁ俺達ゃ専門家じゃ無いしこの世界に詳しいわけでも無いしな。分からねえぇよなぁ。」
「…参考にした金属ってのは…?」
「ミスリルとアダマンタイト、ヒヒイロカネって呼ばれてるやつ。ミスリルとアダマンタイトはなんとか市場で手に入ったけど、ヒヒイロカネは難しかったな。持ってる分家があってなんとか貸してもらったんだよ。もう返したけど。」
「…それを真似てあんたが作った…と?」
「まぁそういうこと。」
「…ミスリルとアダマンタイトは何とか…扱ったことがある。…そもそもこの3つの金属はとんでもなく貴重だからそもそも扱える機会が少ない。…目利きもその分出来る奴が限られてくるんだよ。ミスリルは割りかし多く出回ってるからそうでもないが…。」
「確かにヒヒイロカネは初めて見ましたね。そんなに武器に扱う金属じゃないんですかね?」
「いやドワーフ製の武器には結構使われてたりするらしい。外に出回るもんじゃねぇが。…少なくともミスリルとアダマンタイトについては…本物だと思う。…本物と同じ色合い、魔力反応だと思う。性能も…多分…。」
「凄いじゃないですか!師匠!本物と同じ性能だったらもうそりゃ本物ですよ!…これはとんでもなく高価なんじゃないですか…?」
「そうだろうよ。っつーかマジかよ…。婿殿が作ったって…マジかよ…。」
「へぇ~じゃあ俺達結構お金持ちじゃない?」
「まさか俺が作ったもんがそんなに高価だとは…。これはいざという時生徒たちの生活費になるな。うん。」
「生活費どころか城が買えますぜ…。」
「売る人は流石にいないと思いますよ…。」
「…確か結構婿殿のところには生徒がいるんでしたか?頼むからこんなのが市場に出回って欲しくねぇもんですわ。商売上がったりでさぁ。相場も変わっちまう。まぁ武器としての性能が凄い訳じゃないから欲しがる奴も少ない…いや材料自体が貴重ですか…。…アダマンタイトとヒヒイロカネの相場が変わるってとんでもねぇが、ねぇですが…。」
「まぁそう言うことで…武器を紹介してくれよ。あんたの店の。」
「…このナイフを前にしてか…?…いやまぁ実践的な武器が欲しいと解釈しますぜ。…はぁなんか馬鹿みたいだこれ。いや馬鹿みたいですわ。」
「そう言わないでくれよ店主。ナガルス族の扱う武器には俺も興味がある。王都とは違うのか?あと無理に言葉使いを丁寧にしないでくれよ。恥ずかしくなっちまう。」
「そうかい?ならお言葉に甘えるよ。…そうだな、王都の物と大きく違うってこたぁねぇと思うが…やはり軽くて扱い易い物が多いかな、俺の店にあるのは。例えば…、引っ掛けの長剣、戻りの鏃と矢筒、爆突の槍、湯烟纏いの長剣、も一つ長剣で三つ子の一番星、…あと変わり種では眩ましの友情ナイフとかかな。ここらがドワーフ本流仕込みの武器だ。」
「面白そうなのばかりじゃん。俺の長剣も大分経ってるからな。これを機会に買い換えるか。」
「そうだな。俺もいいのがあれば買いたいな。ニギとの戦いでもう結構キテるしな。それぞれの効果を教えてくれよ。」
「そうだな…。まず、この引っ掛けの長剣。こいつは正当な剣士ってよりも奇抜な動きをするような奴に合ってる。まぁ、ナガルス族は飛びながら戦うわけだから奇抜の範疇だよなってことで仕入れたのさ。こいつは魔力を流すと空に剣を引っ掛ける事が出来る。剣が空中で固定されちまうのさ。その剣を支点にして体を移動させたり攻撃したりって事が出来る。上手く使いこなせば初見で動きを見破られることは無いんじゃねぇか?まぁ、俺達ナガルスは空を飛ぶからちょいと空で休憩するのにも使えるんじゃねぇかとも思った。」
「へぇ…。」
「次は戻りの鏃と矢筒か。こいつは簡単だな。矢が射ったそばから矢筒に戻ってくる。本体は鏃の部分だからそれ以外は自前で用意するしか無いな。鏃は3つしか無い。だが、3つあれば間断なく射続ける事ができる。矢筒に矢柄ごと戻ってくる。しかし戻ってくる所を見ることは出来ない。矢筒には蓋がついてるが蓋を閉じた状態じゃないと中に戻ってこないからだ。開いてる時は何も無いが、閉じるとすぐに矢筒に入ってる。ま、仕組みは良く分からんが戻ってくるってことだな。」
「凄いな…。弓を扱う奴らだったらめちゃくちゃ欲しいんじゃないか?」
「う~ん…俺もそう思ったんだがな。確かに消耗品代が浮くのは有り難いが、所詮は消耗品だ。安く手に入るし、ちゃんと考えて使えば矢が無くなって困るという事も早々ない。たかだか消耗品に高い金出すやつはいなかったってことだ。これは俺が弓を扱って戦ったことがないから失敗しちまった仕入れだ。武器屋にも得手不得手があるからなぁ。手痛い経験だよ。」
「確かに言われてみれそういうもんか。凄い気もしたんだがな。」
「凄いは凄いさ。2,3世代使えば元は取れるってところかね。え~と、何処まで話したか…、あぁ、これか。爆突の槍。この類の武器は実は結構ある。これは柄の端の部分が爆発する。その爆発の勢いをそのまま刺突の勢いに変える。ただただ威力を高めるためだけの物だ。ここには無いが他にも爆撃の斧とか竜巻のハルバードとか、まぁ所謂大物の魔獣用の武器だな。こいつは威力が高いだけでなく、空中で推進力を得たり、方向を変えたり出来ると思って仕入れたんだ。」
「いいな…でも槍か。俺達一人も槍を使わないよな。」
「持ち運びがな…。今から武器を変えるのも中々…。」
「そりゃそうだろ。使いやすい武器が一番だ。という事で残り2つは長剣だ。湯烟纏いの長剣と三つ子の一番星か。湯烟纏いの長剣はそのまんまだ。剣から湯気が出て相手と自分を隠す。ただこいつのいい所はこの剣からでた湯気ってのには、簡単な探査魔法が備わってる。つまり自分だけが相手を知ることが出来る。ま、相手が探査魔法を持ってりゃ無駄だが、かなり使い勝手のいい武器だ。単純に探査用の魔道具としても使えるしな。おすすめだ。」
「う~ん…湯気ねぇ。俺は探査魔法があるしそんなに欲しいもんでもないかな。」
「…俺は…探査魔法が苦手だからな。結構あると有り難いかもな。それに湯気って所が良い。氷魔法を上手く使えば色々便利になりそうな気もする。」
「購入する気になってくれてるのは有り難ぇな。さて、これが最後の…三つ子の一番星か。これはかなり魔力操作が難しいと聞く。少なくとも俺は扱えなかった。ただ、使いこなせれば、雷、風、炎の効果を剣に纏わせることが出来る。操作に熟練すればその纏わせ方も操れるそうだ。これはある冒険者が昔使っていたもので…成り上がって貴族になって、没落して金に困って売ったそうだ。ま、売るまでに数世代は掛かってるからな。その冒険者も本当に居たかどうかすら分からん。」
「上級者向けですね…。」
「う~ん…、俺にはちょっと厳しそうだな。翔ならいけるんじゃないか?」
「いや…、俺って結構魔法を並行して使ってんだよね。だからこれ以上魔力の扱いが複雑になるとな…。」
砂塵・土蜘蛛はかなり便利だけどかなり気ぃ使うんだよなぁ…。
最近は慣れてきたとは言えこれ以上複雑なのはな…。ポンチョだって操らなきゃいけんし…。
っていうかポンチョ使うと探査が疎かになったりするしな…すでに扱いきれてないのにこれ以上複雑な魔力操作はもう勘弁してほしいな…。
「じゃあこいつは辞めたほうがいいかもな。使いこなせたら強い。それ間違いないぜ。ま、どんな武器だって真に使いこなせれば強いんだろうがな。」
「身も蓋も無いこと言うなよ。あれ?後一つ無かったっけ?」
「ああこれか…。これはな…。結構前に流行ってナガルス族でも持ってるやつがそこそこいるんだ。もちろん安いもんじゃねぇねぇから誰でもってわけじゃねぇんだがな?簡単に言えば二人一組で使って姿を消す魔法だ。ただナイフとして使うよりも本当に姿を消すためだけに使うからな…、なんというか武器として扱って良いのかって気がしてな。」
「いや…武器云々は別としても…姿を消せるなんて凄いじゃんか!これはめちゃくちゃ便利なんじゃないか?」
「まぁまぁ婿殿。そんなとんでもねぇ武器って訳でもねぇんだよ。これはなぁ、使えば二人共姿が消えるが、消えてる間は片方が全く動けなくなっちまうんだ。当然姿を消して動きたい時は片方が片方を運ぶ必要がある。だから眩ましの友情ナイフって事かな。これはS級の冒険者、武器商人ゴムリが考え出したものでな、彼が製法を広げたんだ。だからこれはドワーフじゃなくても作れる魔法製の武器って事になるかな。作り手は限られるとは言えそこそこ数はあるが…厳密にはドワーフ製って訳じゃないのかな。」
「なるほどねぇ。何でもかんでもうまくいくわけじゃ無いのかね。」
「…俺はこの湯烟纏いの長剣が欲しい。氷魔法と上手く行きそうな気がする。」
「…俺はこの引掛けの長剣かな。ポンチョと合わせたら大分効果がありそう。ただ問題は…。」
「値段って事だろ?お二方。それならいい考えがある。…普通にお金を貰うことも考えたが…今をときめく婿殿と勇者殿。この二人がこの店に来て物を買っていったという記念が欲しい。」
「記念…?サインとか?」
「サイン…名前をどっかに書けとかか?しかしそりゃいくら何でも…。」
「名前を書くのはちょっと近いかもな。さっき見せてくれたナイフがあったろう?あれと同じ素材で…そうだな…看板を作ってくれ。ほら、剣の印がある看板があるだろ?それと似たような奴をナイフと同じ材料で。」
「ちょっと待ってください。それはいくら何でも釣り合ってないでしょう。看板ほどの量のミスリル、アダマン、ヒヒイロを手に入れれば、商人なんて馬鹿らしくなるほどの金が手に入ります。」
「その通りだ。だからこの看板は絶対に売らない。もしどうしても必要なら、他人には必ず譲ることでしか渡さない。どうだ?これで?」
「その保証は?手に入れた後すぐに売るかも知れないでしょう?眼の前に大金があるのを見過ごすのが商人だと思いませんが。」
「確かにな。だが商人の儲け方にもいろいろ考え方ってもんがある。もしこのままどんどんあんたらが有名になれば、この看板はずっと俺の店を儲けさせてくれる。あんたらが歴史に名を残すほどになれば十世代は栄えるだろう。そのときの儲けを考えれば、今売ることなんざ毛ほどの価値も見いだせないね。もちろん、今あるドワーフ製の武器を譲ってもお釣りが来ると読んでる。」
「…しかし師匠だって簡単に作れるわけでは…。」
「サイード。良いさ。それで手を打とう。名前も刻印しておけば、売りに出されてもすぐに分かるだろ。なぁ?」
「良いんじゃないか。俺がすることがないからそれで良いのかって気はするが。」
「…まぁお二人が良いならそれで良いですが。」
「…それじゃあ、この看板に透明な部分を用意して、その中にあんたの氷を入れてくれないか?…この中にあるのは勇者が創り出した氷だぜ?って言えるだろ?今は溶けてても冬には凍るってな。冬場は客足が遠のくからいい宣伝になるかもしれん。」
「…ま、あんたがそれでいいなら良いさ。っていうか出来るのかそんな事。翔?」
「ん?ああ、確か前水晶みたいな奴を作った事がある。あれで良いだろ。」
「なるほど…ってもう作ってんのかよ。早いな…。」
「シンプルなデザインだからな。大して難しくもない。…ほら、ここに氷を入れてくれ。…外からみて分かるように少し隙間があったほうが良いか?」
「そうだな。ま、なるべく溶けないでくれよっと…。どうだ?こんな感じで?」
「良いんじゃないか?これを水晶で閉じて…、その周りをアダマンタイトで囲んで…そのまま広げて下地にする…剣の刃の部分はミスリルにして…柄の部分はヒヒイロ…、こんな感じか?名前は裏に刻印するか…俺の名前と喰也の名前を彫って…。」
「良いじゃん良いじゃん。…彫った名前の所にミスリルを詰め込むってのはどうだ?センスあるっぽくないか?」
「良いな!それ!良い!それで行こう!」
「じゃあさ、じゃあ…名前は漢字で…、縁に…。」
「見る見るうちに作られて行きますね…店主…言っときますけどかなり高価ですからね。この十倍の量の金貨じゃまるで足りませんから…。」
「ああ…とんでもない二人だ…。サイード坊っちゃん。あんたも好きなの一つ持っていっていいぜ。こうなりゃもう大して変わらん。」
「そうですか…そうでしょうねぇ…。じゃあ、その姿消しのナイフを一つ。記念にね。」
「ああ持ってけ。…段々怖くなって来たな…。」
「普通にお金貰った方が良かったかも知れませんね。」
サイードと店主がボソボソ話してるが、どうやら問題なさそうだ。
スレイマン家の聴衆扇動術はたいへん使える。
「ああサイード、良くやったぞ…あれでヴァルの友達も増える…グフフ…。」
「…ギュシシ…。」
「…でもナイフと薬だけで十分だったのでは…?」
「…いやいや…それじゃただの打算だろ…?サイードが釣ってくれたお蔭で、この件に関してだけは正義心で動いてくれる…と思う。打算とかそういうのは敏感に感じる子だからな。」
「…ギュワシシ…。」
「…なるほどさすが師匠です…。」
「…いやいや魔法でこっそり生徒の話を聞きながら話す内容を決めればいいなんて…サイード、君の意見があったればこそよ…。俺に聞かれてるとも知らず…ッグッフッフ…。」
「…いえいえ…スレイマン家に伝わる聴衆扇動術ですから…。グッシッシ…。」
「…良し、褒美にこいつをやろう…。男用の免許皆伝ナイフはもう持ってるから…、さっきの女用のだ…。」
「!!…いいんですかぁ…!?貰っちゃいますよ…?!自慢しちゃいますよ…?!」
「…おうおうしてしまえしてしまえ。二つ持ってるのはサイードだけだぞ…、正当な駄賃だ…。」
「…おぉ…初めて労働をしました…。その対価がこのナイフ…!」
「…高すぎだろ…、っていうかなんでお前ら二人共小声何だよ…。」
「…そりゃ悪巧みは小声でするもんだろ…?」
「…当たり前じゃないですか…知らなかったんですかユーキ…はぁ…。」
「…ギュハァ…ップ。」
「…おいコラ団子コラ。最後笑ってはいなかっただろうが。…糞ッ…触れねぇ…。」
「…それよりどうしたんだユーキ…。」
「…ああ俺はこれから城下町に出てくる。2,3日はぶらついて来るからな。お前らも来るか?暇だろ?」
「…暇だが。次の授業始まるまではだが…。」
「…城下町は行った事が無かったんですが…良いんですかね…?」
「…良いに決まってんだろぉ…?サイードお前幾つだっけ…?」
「…?今年で13になりましたが…?」
「…良し、なら大丈夫だな。へへ…俺がお前ら二人をいいところに連れてってやろうと思ってな…?」
「…良いところですか…?」
「…何でそんな所知ってんだ?」
「…俺はわりかし早く体は良くなってたしな。ガークの世話人に街を案内してもらってたりしたんだ。…まぁ今から行く所はガークに直接教えて貰ったんだが…。」
「…ふぅ~ん…まぁ良いよ。確かに暇だしな…。」
「何故かわからんが街が凄い賑わってるし。行くだけでも楽しいとは思う。」
「城下町なんだしそりゃ賑わってるんじゃないか?」
「いやいや師匠。それは多分祭りが近づいてるんですよ。」
「祭り?」
「ああ~、なんかそんなのがあるって話も聞いたことがあるな。」
「このナガルス族が生まれた日を記念しての祭りだと言われてます。2000年以上も続いてる歴史ある祭りなんですよ。…望郷祭と呼ばれています。…ちなみに今回は僕が、祭りの主役なんですよ。…ま、それが嫌で逃げ出したんですけど…。」
「なんで望郷祭?独立記念日とかそういうのじゃないんだ?…嫌なら断れば良いじゃないか…?」
「…昔からそう言われてることなので。…それに僕が逃げたら別の子がやらなきゃいけませんからね。誰かがやらなきゃいけないんです…。」
「ま、伝統なんて意味わからんのもあるからな。日本でも珍宝祭りなんてあるしな。ブフッ。」
「あ~…なんか聞いたことある。佑樹そんなのよく覚えてるな。グクッ」
「一度聞いたら忘れんだろ、こんなの。ブハッ」
「チンポウ…なんですか?それ?」
「ああ、それはな…、チン…ってのは…俺らの…で…確か…だったと…。ップーックックッ」
「な、なんていう祭りですか…。し、師匠の国は…変態の国ですか…。ッフヒッ…。」
「…否定は出来ない…。ブヒュッ。」
「ッグフックック…。まぁいいや。とっとと行こうぜ。ほら、こっそり行くぞ、こっそり。身をかがめて行けよ…。」
「なんでこっそり行く必要があるんだよ…。」
「バカ、こういうのはこっそり行くから楽しいんだろうが…。」
「師匠。僕もそう思います。こっそり行くのが楽しい…。」
「えぇ…。…いや、こっそり浮島を抜け出したサイードならそうだよな。…ポンチョを上手く使うんだ良いな…?」
「ノリノリじゃねぇか…。」
「楽しんだもん勝ちでしょ…。でも少し暗いな…。」
「…師匠そんな時こそこのナイフで…。」
「…おおっ。そうだそうだ。明かり代わりになるんだった。任せたサイード…。」
「…任せて下さい…フンッ…。…おお…青い…。」
「…こりゃ水属性か…?」
「…スレイマン家は水と風属性が得意なんです…。僕は水属性が一番得意ですね…。」
「…青い炎みたいだな…。自分で作っといてなんだけど、結構綺麗だな…。」
「…めちゃくちゃ綺麗ですよ。これを貰えると思った人達の目の変わりっぷりと来たら…。」
「…正直引いたよな…。やっぱこれってかなり貴重なんじゃないのか?そこら辺シャモーニ様はなんて言ってたんだ…。」
「…う~ん…特に…。貴重な金属を真似て作ったんだけど、よく考えたら金属の目利きは私出来ないって…。」
「…まぁ、そんなもんか。…俺もそれほしいな~…。」
「…お前はもう持ってるだろ、男用のやつ。結構これ作るの大変なんだぞ…。」
「…わかったわかった。俺もタダで貰おうとは思ってないって。なんか良い物が入ったらそれと交換な。」
「…まぁ、時間があったら作るよ。」
「…ユーキも師匠の為になることをしなきゃいけませんよ。労働の対価です…。」
「…嬉しそうだな、おい…。…さ、行くぞ…。」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「そこの人ら!寄ってきな!!良いもん揃えてるよ!」
「兄ちゃんら!こっちで飯はどうだい?!珍しい地上の特産品が入ったんだよ!」
「いいもん腰に指してるじゃないか!こっちの武器も見てきなよ!珍品、名品、ガラクタ!よりどりみどりだよ!」
「お?武器があんの?」
「辞めとけって翔。どうせろくなもんじゃ無いって。」
「おうおう、言ってくれるねぇ。確かにろくなもんじゃない物もある!だが良いもんもあるよ!そこで騙くらかすなんてこたぁしないさ。ナガルス様のお膝元でよぉ!」
「…それは信じて良いと思いますよ。他の国ではどうか知りませんが、少なくともこの城下町ではそういった詐欺の類は無いはずです。ナガルス様はそういった事を厳しく取り締まりますからね。」
「その通り!商売に関しては厳しいお方さ!おりゃ地上でも商売したことあるがな、あっちは騙されたほうが悪いって意識が強ぇが、ここは騙した方が悪いのさ。ナガルス様はケイザ…とか何とか言ってたな!難しいことは判らねぇが!」
「確かに…。ハルダニヤ国王都でも普通に騙そうとしてくるからな。」
「そうなのか?俺は王都では…。…騙されて奴隷にされたんだった…。」
「…まぁ、そういう事が普通にあるからな。治安が良いとは言えないな。日本と比べればだが。他の領と比べれば王都の治安は基本的に良いんだが…。」
「…ここでは奴隷制度が無いからな。誘拐されたり、叩き売られるって事は少なくともないな。」
「はぁ~~!よくそれで無事だったね。…ん?奴隷だった?で、人間…だよな?…。…あんたシャモーニ様の旦那様の…?」
「ん?あぁ…ショーだ。モニの夫だ。」
夫って言っちゃった。
おお…なんというかものすごい達成感が…。
「本当かよ!いや、凄いじゃないか!次期本家当主の旦那様かい!?じゃあ、そっちのあんたは…氷晶の勇者…?」
「あ~…そうだ。…?氷晶?なんだそれ?」
「氷魔法を操る勇者様だって…。操る氷は宝石みたいに綺麗で、鋭いって聞いたぜ?」
「…まぁ氷魔法は操るけどよ…。」
「かっこいいっすね。氷晶の勇者様。ップグッ。」
「さすがユーキは違いますね。…あ、いや氷晶の勇者様でした。ウフッ」
「てめこのやろ。サイード!おいコラ!こっち来い!怒んないからこっち来なさい!」
「ひえっ…。勇者様が僕を…。」
「棒読みじゃねぇかオイ。こっち来い。頭グリグリするだけだから。」
「何やってんですかい、あんたら…。ま、有名人二人に詐欺を働く度胸はねぇすよ。少し見ていきますかい?」
「ああ…だが手持ちはあまりねぇぞ?」
「良いんですよ。シャモーニ様の婿殿と勇者殿が来店したってだけで箔がつく。そうだ。店に来てくだせぇよ。こんな露店じゃあ、高いもんは殆ど置いてねぇすから。…後で二人が来てくれた記念なんか貰えたら嬉しいですがね。」
「記念って…何だよ…。」
「何でも良いんでさぁ、何でも。ほらこっちですぜ。」
「はいよ。お~い!二人共行こうぜ!」
「はい!」
「ああ…!…糞ッ、すばしっこいな…。」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「さて…勇者殿は長剣…で、婿殿は…?」
「俺も一応長剣かな。あと小手が隠し武器。ただ主力の武器はこのポンチョになると思う。後は基本魔法で遠距離って戦法かな。長剣と小手はあくまでいざって時だ。」
「俺は長剣一本だな。魔法があくまで控えって感じだ。…そういやサイードの武器はどうなるんだ?」
「う~ん…あまり意識したことは無いですけど…。そうですね。このナイフ二つを僕の武器にしようかな。…使うかどうか分かりませんが。」
「…ふん…超接近戦と接近、中距離遠距離ってとこですかい。う~ん…あんたら程になるんだったらそこらの武器を勧める訳にはいかねぇですからね。ドワーフ製のを紹介していきやしょう。」
「ドワーフ製の物なんて手に入るんだな。浮島ってもっと地上と係わりが無いと思ってたよ。」
「婿殿。そいつぁ勘違いってもんですぜ。関わりがないのはハルダニヤの野郎共だけでさぁ。他の大陸や種族とは結構取引してるんですぜ。意外に俺達の物も人気なんです。…ま、一部のハルダニヤの領主は俺達とこっそり交易してたりするらしいですがね。」
「へぇ~…。ドワーフ製って何が凄いんだ?この小手も確かドワーフ製だけどやっぱ凄いの?」
「ん?それは何処で買った物ですかい?カザド神国ですかい?南部大陸の?」
「ん?いや、ザリー公爵領だ。そこに店を構えていたドワーフが作ったと言っていた。」
「なるほど。じゃあ、修行で出稼ぎに来てる奴ですね…どれ見せてくだせぇ。ふむ…。…良いものであることは間違いありませんが…魔力が籠もってる訳じゃないですね。普通のすごくいい武器って所ですかね。ですが大事に使えば一生使える物でもあります。世代を超える程じゃありませんが。」
「そっか…。結構良いやつなんだな。…そのカザド神国ってのは…?」
「確か…ドワーフの国って聞いた気がする。南部大陸の北に位置する。エルフともハルダニヤ国とも貿易してると聞いた。…それで合ってる?」
「ホホウ。さすが勇者殿ですな。基本的な地政学は修めていらっしゃる。まぁ、ドワーフってのは鍛冶が得意な奴が多いわけですが、まず本格的な修業に入る前に色々な所に旅をしなきゃならないんですわ。鍛冶修行って訳です。そして修行を終えたら自国に帰ってドワーフ流の鍛冶を仕込まれる。そいつが終わって晴れて一人前になります。この武器はドワーフ本流の仕込みじゃねぇ訳ですわ。」
「聞いたことがあります。本物のドワーフ製品は魔力が宿ってこそだと。」
「その通り。ドワーフが凄いのは鉄を知ってることじゃない。鉄と魔力についてとんでもない知識と洞察があるって事でさぁ。本物の武器には魔力が備わっており、須らく特殊な能力を備えています。火を出したり水を出したり…物によっちゃあ身体の一部を代替する様な武器もあるらしいですぜ。手足の代わりみたいなもんですね。回復魔法の代わりみたいなもんですわ。まぁ本来ならドワーフ製の武器ってのは、とんでもねぇ価格になりますが…。…坊っちゃん、そのナイフを譲ってくれるって言うなら、ここにある武器なんでも持っていっていいですぜ。誓って騙すような事はしやせん。」
「…はぁ?」
「い、いやいや、わかりました。あんたらに全員にそれぞれ合う武器を持っていっていい。それでどうだ?これ以上は無理ですぜ?」
「…いえ、これは師匠に貰った物ですから売る気はありません。免許皆伝の証ですから。」
「わ、わかった。それほどの武器だからな。それもそうだろう。うん。価値を知っていたらとてもとても…。…なぁ、せめてその師匠って人を教えくれやせんか?作った人は分かりますかい?」
「…?師匠は師匠ですよ。ショー様のことです。」
「…は?…ショー様ってつまり、婿…ど…あんた…?」
「え、ああ、そうだけど…これっていいもんなの?嬉しいなぁ。」
「…。」
「ほら、一応全部に俺の銘を打ってあるんだ。いや~、これって価値があるの?結構嬉しいんだけど。ほら、これなんて織り重ねるのにスゲェ苦労してさ。モニと美紀さんがピンク色を出せってうるさくてうるさくて…。結構鑑賞にも耐えると思わない?」
「…。」
「ただ俺としての好みはこの男用のナイフなんだよね。でかくて無骨だけどさ、そこがいいっていうか…。もちろんデザイン性もこだわったんだよ。この黒地に渦巻く銀の模様がいいだろ?故郷の武器にこんな模様の金属があって…。」
「…。」
「ダマスカス鋼だろ?初めて見たとき一発でわかったよ。翔も好きだよな。…まぁぶっちゃけ俺もかなり好きだよ、うん。日本でこんなん腰に下げてたらただのヤバイ奴だからな。家に飾るのとはまた違う満足感っていうの?」
「…。」
「わかる?やっぱ持ち歩くってのがいいっていうか、見てもらうのを想定してかっこいいのにしたんだけどさ。結構綺麗だと思うんだよね。モニもこのデザインは褒めてくれた。」
「…。」
「僕もこの模様好きですよ!魔力を流しても特殊効果はないって言ってましたけど、そんなの必要ないですよ!すごく硬い!ってだけでかっこいいですから!」
「…。」
「わかる!絶対に壊れない!ってだけでロマンなんだよ!」
「…。」
「そうでしょ!これがかっこいいんですよ!…まぁこのピンク?のナイフもかっこいいんですが。」
「!!…。」
「いいなぁ~、それ。魔力流したときの光がやっぱり綺麗だしなぁ…。」
「ちょ、ちょっと、ちょっとまって、待ってくれ!…婿殿が作ったっていうのか…?ちょ、ちょっと見せてくれ」
「まぁ…いいですけど。…丁寧に扱ってくださいよ?」
「ああ、わかってるわかってる。…わかってる…これは…ミスリルなのは間違いないよな…。え…?いや…でも…。…アダマンタイト…?いやでもこんなに大量に…。ミスリルだけでも元は取れるか…いや売らないのか…。この赤いのなんだ…?」
「…結構専門家でもわからないもんなんだな。どうなんだ?翔。」
「…とは言ってもなぁ。俺も自分で作った金属がどういうものか全く分からんから。一応参考にした金属はあるし、それを真似したんだけど、じゃあ全く同じものが出来ましたか?って言われると自信がないと言うか。」
「まぁ俺達ゃ専門家じゃ無いしこの世界に詳しいわけでも無いしな。分からねえぇよなぁ。」
「…参考にした金属ってのは…?」
「ミスリルとアダマンタイト、ヒヒイロカネって呼ばれてるやつ。ミスリルとアダマンタイトはなんとか市場で手に入ったけど、ヒヒイロカネは難しかったな。持ってる分家があってなんとか貸してもらったんだよ。もう返したけど。」
「…それを真似てあんたが作った…と?」
「まぁそういうこと。」
「…ミスリルとアダマンタイトは何とか…扱ったことがある。…そもそもこの3つの金属はとんでもなく貴重だからそもそも扱える機会が少ない。…目利きもその分出来る奴が限られてくるんだよ。ミスリルは割りかし多く出回ってるからそうでもないが…。」
「確かにヒヒイロカネは初めて見ましたね。そんなに武器に扱う金属じゃないんですかね?」
「いやドワーフ製の武器には結構使われてたりするらしい。外に出回るもんじゃねぇが。…少なくともミスリルとアダマンタイトについては…本物だと思う。…本物と同じ色合い、魔力反応だと思う。性能も…多分…。」
「凄いじゃないですか!師匠!本物と同じ性能だったらもうそりゃ本物ですよ!…これはとんでもなく高価なんじゃないですか…?」
「そうだろうよ。っつーかマジかよ…。婿殿が作ったって…マジかよ…。」
「へぇ~じゃあ俺達結構お金持ちじゃない?」
「まさか俺が作ったもんがそんなに高価だとは…。これはいざという時生徒たちの生活費になるな。うん。」
「生活費どころか城が買えますぜ…。」
「売る人は流石にいないと思いますよ…。」
「…確か結構婿殿のところには生徒がいるんでしたか?頼むからこんなのが市場に出回って欲しくねぇもんですわ。商売上がったりでさぁ。相場も変わっちまう。まぁ武器としての性能が凄い訳じゃないから欲しがる奴も少ない…いや材料自体が貴重ですか…。…アダマンタイトとヒヒイロカネの相場が変わるってとんでもねぇが、ねぇですが…。」
「まぁそう言うことで…武器を紹介してくれよ。あんたの店の。」
「…このナイフを前にしてか…?…いやまぁ実践的な武器が欲しいと解釈しますぜ。…はぁなんか馬鹿みたいだこれ。いや馬鹿みたいですわ。」
「そう言わないでくれよ店主。ナガルス族の扱う武器には俺も興味がある。王都とは違うのか?あと無理に言葉使いを丁寧にしないでくれよ。恥ずかしくなっちまう。」
「そうかい?ならお言葉に甘えるよ。…そうだな、王都の物と大きく違うってこたぁねぇと思うが…やはり軽くて扱い易い物が多いかな、俺の店にあるのは。例えば…、引っ掛けの長剣、戻りの鏃と矢筒、爆突の槍、湯烟纏いの長剣、も一つ長剣で三つ子の一番星、…あと変わり種では眩ましの友情ナイフとかかな。ここらがドワーフ本流仕込みの武器だ。」
「面白そうなのばかりじゃん。俺の長剣も大分経ってるからな。これを機会に買い換えるか。」
「そうだな。俺もいいのがあれば買いたいな。ニギとの戦いでもう結構キテるしな。それぞれの効果を教えてくれよ。」
「そうだな…。まず、この引っ掛けの長剣。こいつは正当な剣士ってよりも奇抜な動きをするような奴に合ってる。まぁ、ナガルス族は飛びながら戦うわけだから奇抜の範疇だよなってことで仕入れたのさ。こいつは魔力を流すと空に剣を引っ掛ける事が出来る。剣が空中で固定されちまうのさ。その剣を支点にして体を移動させたり攻撃したりって事が出来る。上手く使いこなせば初見で動きを見破られることは無いんじゃねぇか?まぁ、俺達ナガルスは空を飛ぶからちょいと空で休憩するのにも使えるんじゃねぇかとも思った。」
「へぇ…。」
「次は戻りの鏃と矢筒か。こいつは簡単だな。矢が射ったそばから矢筒に戻ってくる。本体は鏃の部分だからそれ以外は自前で用意するしか無いな。鏃は3つしか無い。だが、3つあれば間断なく射続ける事ができる。矢筒に矢柄ごと戻ってくる。しかし戻ってくる所を見ることは出来ない。矢筒には蓋がついてるが蓋を閉じた状態じゃないと中に戻ってこないからだ。開いてる時は何も無いが、閉じるとすぐに矢筒に入ってる。ま、仕組みは良く分からんが戻ってくるってことだな。」
「凄いな…。弓を扱う奴らだったらめちゃくちゃ欲しいんじゃないか?」
「う~ん…俺もそう思ったんだがな。確かに消耗品代が浮くのは有り難いが、所詮は消耗品だ。安く手に入るし、ちゃんと考えて使えば矢が無くなって困るという事も早々ない。たかだか消耗品に高い金出すやつはいなかったってことだ。これは俺が弓を扱って戦ったことがないから失敗しちまった仕入れだ。武器屋にも得手不得手があるからなぁ。手痛い経験だよ。」
「確かに言われてみれそういうもんか。凄い気もしたんだがな。」
「凄いは凄いさ。2,3世代使えば元は取れるってところかね。え~と、何処まで話したか…、あぁ、これか。爆突の槍。この類の武器は実は結構ある。これは柄の端の部分が爆発する。その爆発の勢いをそのまま刺突の勢いに変える。ただただ威力を高めるためだけの物だ。ここには無いが他にも爆撃の斧とか竜巻のハルバードとか、まぁ所謂大物の魔獣用の武器だな。こいつは威力が高いだけでなく、空中で推進力を得たり、方向を変えたり出来ると思って仕入れたんだ。」
「いいな…でも槍か。俺達一人も槍を使わないよな。」
「持ち運びがな…。今から武器を変えるのも中々…。」
「そりゃそうだろ。使いやすい武器が一番だ。という事で残り2つは長剣だ。湯烟纏いの長剣と三つ子の一番星か。湯烟纏いの長剣はそのまんまだ。剣から湯気が出て相手と自分を隠す。ただこいつのいい所はこの剣からでた湯気ってのには、簡単な探査魔法が備わってる。つまり自分だけが相手を知ることが出来る。ま、相手が探査魔法を持ってりゃ無駄だが、かなり使い勝手のいい武器だ。単純に探査用の魔道具としても使えるしな。おすすめだ。」
「う~ん…湯気ねぇ。俺は探査魔法があるしそんなに欲しいもんでもないかな。」
「…俺は…探査魔法が苦手だからな。結構あると有り難いかもな。それに湯気って所が良い。氷魔法を上手く使えば色々便利になりそうな気もする。」
「購入する気になってくれてるのは有り難ぇな。さて、これが最後の…三つ子の一番星か。これはかなり魔力操作が難しいと聞く。少なくとも俺は扱えなかった。ただ、使いこなせれば、雷、風、炎の効果を剣に纏わせることが出来る。操作に熟練すればその纏わせ方も操れるそうだ。これはある冒険者が昔使っていたもので…成り上がって貴族になって、没落して金に困って売ったそうだ。ま、売るまでに数世代は掛かってるからな。その冒険者も本当に居たかどうかすら分からん。」
「上級者向けですね…。」
「う~ん…、俺にはちょっと厳しそうだな。翔ならいけるんじゃないか?」
「いや…、俺って結構魔法を並行して使ってんだよね。だからこれ以上魔力の扱いが複雑になるとな…。」
砂塵・土蜘蛛はかなり便利だけどかなり気ぃ使うんだよなぁ…。
最近は慣れてきたとは言えこれ以上複雑なのはな…。ポンチョだって操らなきゃいけんし…。
っていうかポンチョ使うと探査が疎かになったりするしな…すでに扱いきれてないのにこれ以上複雑な魔力操作はもう勘弁してほしいな…。
「じゃあこいつは辞めたほうがいいかもな。使いこなせたら強い。それ間違いないぜ。ま、どんな武器だって真に使いこなせれば強いんだろうがな。」
「身も蓋も無いこと言うなよ。あれ?後一つ無かったっけ?」
「ああこれか…。これはな…。結構前に流行ってナガルス族でも持ってるやつがそこそこいるんだ。もちろん安いもんじゃねぇねぇから誰でもってわけじゃねぇんだがな?簡単に言えば二人一組で使って姿を消す魔法だ。ただナイフとして使うよりも本当に姿を消すためだけに使うからな…、なんというか武器として扱って良いのかって気がしてな。」
「いや…武器云々は別としても…姿を消せるなんて凄いじゃんか!これはめちゃくちゃ便利なんじゃないか?」
「まぁまぁ婿殿。そんなとんでもねぇ武器って訳でもねぇんだよ。これはなぁ、使えば二人共姿が消えるが、消えてる間は片方が全く動けなくなっちまうんだ。当然姿を消して動きたい時は片方が片方を運ぶ必要がある。だから眩ましの友情ナイフって事かな。これはS級の冒険者、武器商人ゴムリが考え出したものでな、彼が製法を広げたんだ。だからこれはドワーフじゃなくても作れる魔法製の武器って事になるかな。作り手は限られるとは言えそこそこ数はあるが…厳密にはドワーフ製って訳じゃないのかな。」
「なるほどねぇ。何でもかんでもうまくいくわけじゃ無いのかね。」
「…俺はこの湯烟纏いの長剣が欲しい。氷魔法と上手く行きそうな気がする。」
「…俺はこの引掛けの長剣かな。ポンチョと合わせたら大分効果がありそう。ただ問題は…。」
「値段って事だろ?お二方。それならいい考えがある。…普通にお金を貰うことも考えたが…今をときめく婿殿と勇者殿。この二人がこの店に来て物を買っていったという記念が欲しい。」
「記念…?サインとか?」
「サイン…名前をどっかに書けとかか?しかしそりゃいくら何でも…。」
「名前を書くのはちょっと近いかもな。さっき見せてくれたナイフがあったろう?あれと同じ素材で…そうだな…看板を作ってくれ。ほら、剣の印がある看板があるだろ?それと似たような奴をナイフと同じ材料で。」
「ちょっと待ってください。それはいくら何でも釣り合ってないでしょう。看板ほどの量のミスリル、アダマン、ヒヒイロを手に入れれば、商人なんて馬鹿らしくなるほどの金が手に入ります。」
「その通りだ。だからこの看板は絶対に売らない。もしどうしても必要なら、他人には必ず譲ることでしか渡さない。どうだ?これで?」
「その保証は?手に入れた後すぐに売るかも知れないでしょう?眼の前に大金があるのを見過ごすのが商人だと思いませんが。」
「確かにな。だが商人の儲け方にもいろいろ考え方ってもんがある。もしこのままどんどんあんたらが有名になれば、この看板はずっと俺の店を儲けさせてくれる。あんたらが歴史に名を残すほどになれば十世代は栄えるだろう。そのときの儲けを考えれば、今売ることなんざ毛ほどの価値も見いだせないね。もちろん、今あるドワーフ製の武器を譲ってもお釣りが来ると読んでる。」
「…しかし師匠だって簡単に作れるわけでは…。」
「サイード。良いさ。それで手を打とう。名前も刻印しておけば、売りに出されてもすぐに分かるだろ。なぁ?」
「良いんじゃないか。俺がすることがないからそれで良いのかって気はするが。」
「…まぁお二人が良いならそれで良いですが。」
「…それじゃあ、この看板に透明な部分を用意して、その中にあんたの氷を入れてくれないか?…この中にあるのは勇者が創り出した氷だぜ?って言えるだろ?今は溶けてても冬には凍るってな。冬場は客足が遠のくからいい宣伝になるかもしれん。」
「…ま、あんたがそれでいいなら良いさ。っていうか出来るのかそんな事。翔?」
「ん?ああ、確か前水晶みたいな奴を作った事がある。あれで良いだろ。」
「なるほど…ってもう作ってんのかよ。早いな…。」
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「良いじゃん良いじゃん。…彫った名前の所にミスリルを詰め込むってのはどうだ?センスあるっぽくないか?」
「良いな!それ!良い!それで行こう!」
「じゃあさ、じゃあ…名前は漢字で…、縁に…。」
「見る見るうちに作られて行きますね…店主…言っときますけどかなり高価ですからね。この十倍の量の金貨じゃまるで足りませんから…。」
「ああ…とんでもない二人だ…。サイード坊っちゃん。あんたも好きなの一つ持っていっていいぜ。こうなりゃもう大して変わらん。」
「そうですか…そうでしょうねぇ…。じゃあ、その姿消しのナイフを一つ。記念にね。」
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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