ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第8章 英傑の朝 前編

第84話 それが冒険者

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まだガルーザは笑い続けてやがる。

っち…。

「ッヒー!!ッヒー!!…っはぁ…っはぁ…ッククク。意味わかんねぇ。お前が…俺にッ?!頼むぅ?!ブハッハッハ!!昔からテメェは訳わかんねぇやつだったよ!グクッ!…はぁーー!ふぅーー!ふぅ…。…嫌だね。」

「…何故だ。」

「何故だぁ?!だから手前ぇはボンクラなんだよ!糞ルーキー!」

「…テメェ…立場ってもんを分かってんだろうな?あ?」

「それだよ!それ!勝者はお前だ。俺は敗北者。負け犬だ。勝った人間が負けた奴にする態度じゃねぇだろうが。偉そうに力づくで命令すりゃ良いだろうが?あぁ?そうだろ?…それとも俺に同情してるってのか…?糞馬鹿にしやがって…ふざけるんじゃねぇぞ…!」

「…馬鹿にしてるわけじゃねぇ。お前の能力を買いたいって話だ。」

「だからそれが可怪しいんだろうが。奪うんだよ!負け犬からはな!尻の毛まで毟るんだよ!勝者が敗者に出来る事はただそれだけだ。そうだろうが?」

「だがそうしたら手前ぇは絶対に裏切る。そうだろう?人誑しのガルーザ。」

「当たり前だ。誰が手前なんかに従い続けるか。必ずお前から全てを奪ってやる。間違いなくな。今はお前が勝ってるのかも知れねぇが、そんなもんいつまでも変わらないもんじゃねぇ。必ず!お前は地べたに這いつくばる!必ずな…!」

「…。」

「…っは。だったらあれだ。奴隷だ!奴隷にすりゃ良い!奴隷の首輪でも入れ墨でも俺にかましゃいい!そうすりゃ俺は手前に何も出来ねぇ!信頼できるガルーザ様の出来上がりだ!そうすりゃいい!…奴隷に落ちて苦しんだお前が成り上がって、奴隷を持つ。これ以上無い成功譚じゃねぇか?なぁ…?」

「…奴隷は、持たねぇ。俺は、それはしねぇ…。」

「なぁにを…甘ったれた事を…!…。…なぁ?昨日から俺を世話していたあの黒髪の男、あの男は…。…いや、あの男の後ろにいた女はザリー家の長子じゃねぇか?確か名は…アルトだったか?アルト・ザリー。そうだな?」

「…そうか。お前は貴族の出だったか。面識があったってことか?」

「…まぁなぁ。だいぶ昔だったがな。バルドック家はそれほど目立ってた訳よ。あの女が関わってるってことはそれなりにでかい話なんだろ?貴族のお遊びにしちゃ絡んでる面子共が豪華すぎる。」

「…。」

「おいおい、おいおい。手元を隠すなって。っへっへ。俺が言いたいのは、だ。そんな気合の入った仕事が万が一にも失敗しても良いのか?ってことだ。王国の貴族共は意地汚いぜ?どんな些細な傷からも塩と毒を塗りたくってくる。そこからお家取り潰し…ってのも有り得ない話じゃねぇ。お前が何をやろうとしてるのか知らないが、お前の下らない感傷一つでアルト嬢を危機に晒して良いのか?…仲間を…危険な目に合わせても?…負けたら死ぬことだってあるんだぜ?」

「…いざとなりゃ逃げればいい。確実な拠点を持ってるんでな。敵はそこまで攻め込めねぇよ。」

「…。…そりゃ逃げる先がある奴は良いかもなぁ?だがアルト嬢はどうなんだ…?もし敵対組織に組みしたって情報が漏れるだけでも大問題だ。そうだろ?王国を安心して歩ける日は無くなるし、ザリー家は責を負わされるだろうなぁ。」

「…。」

「お前はこれだけの面子を率いるまでに成り上がった。それなりに頭を張る立場になったってことだ。そんなお前がお前の勝手な感情一つで仲間を危機に晒すのか?それでいいのかよ?責任ある立場の者がよ?上に立つ者は立派な事も…汚い事も…!…やらなきゃいけないんじゃないのか?そう、例えば…人道に悖ってでも人を奴隷に落としたりとかよ…?」

「…いや…。」

「人道に悖るっつったってお前に分が無いわけじゃねぇ。いやむしろ正義はお前にある。だろ?奴隷に落とすのは、昔、多くの罪もない人間を奴隷に落とした詐欺師だ。そいつを奴隷に落とすことは人道に悖る事じゃねぇ。むしろ正義の行いだ。違うか?」

「…。」

「だったら奴隷に落としちまえ。何を迷うことがある。な?お前は、正義を為すんだ。そう…俺を、奴隷に、落とすんだ…!」

「…それは、しない。俺は誰かを奴隷に落とすことはしないし、奴隷を持つこともしない。絶対にだ。」

「はぁ?何故だ?俺を奴隷にする得はあっても損は無いだろ?全く理屈にあってねぇ。だろ?」

「…そうか。お前は奴隷に落ちた事が無かったっけか。そう言えばそうだな。っふ。そういや貴族のボンボンだったか。ガルーザ様はよ。」

「…何だと?」

「…奴隷ってのは絶対じゃねぇ。奴隷に落ちたからと言って主人に反抗しないとは限らない。確かに傷つけないし、命令には逆らわない。だが常に頭では奴隷の主を恨んでる。失敗したらどんなに些細なことでも殺されるから、絶対に失敗しない範囲でしか動かない。生き死にに直結するから出来るだけ仕事の手は抜く。言われた事以外は絶対にやらない。いや、言われたことすら曲解して受け取る。それが自分を守るためだからな。」

「…。」

「奴隷になったらそいつの能力の恐らく…半分…いやもっと少ないかも知れない。それ位の力しか出ない。いや出さない。それじゃ駄目だ。ガルーザ。お前の言った通りだよ。この仕事は絶対に失敗できない。必ず成功させなきゃならねぇ。だから全員に全力を出してもらわなきゃならねぇんだ。だから奴隷じゃ駄目だ。もっと…ちゃんと信頼して…。」

「はぁ…?信頼だと?まだ言ってんのか?!俺とお前にそんなもんねぇだろうが!?お前は俺を殺したいほど憎んでるだろうが!俺はお前を騙して奴隷に落としただろうが!そんな甘っちょろいことを言ってるから奴隷に落とされる!だから今も騙される!!やれ!メディン!!」

!!

な!?

しまった!?

やっぱり敵?!

だが警戒してたはずだ?!

どうやって?

メディンはワックと向こうに…向こうに…あ?

向こうにいるぞ?ワックと話してる?

どういう…。

ブワッ!!

ウェッ!?何だ?!

「何…何だ!?これ?水?臭…酒?」

ガルーザ…が酒瓶をこっちに…あ、持ってた酒を俺にかけたのか?

…。

…嘘…か?

「ほらな。簡単に騙される。信頼だ何だとぬるいこと言ってるからこうなる。お前を騙すなんざ糞簡単なんだよ。手前ぇはそんな事言ってる余裕があるのかよ?憎い俺を奴隷に落とすんだ…!俺と同じクズ野郎に成り下がるんだよ!」

どうして俺はこいつの言ってることに違和感を持つんだろう。

何故こいつにここまでされて怒りがわかないのか。いや、そもそも最初に会った時から、言うほど怒りは感じてなかった。

驚くほど俺は…こいつを恨んでいなかった。

少し前まではこいつを絶対ぶっ殺してやると決めてたのに。

いやその当時ですら無理矢理そう思いこもうとしていたような気がする。

必死にそう言い聞かせて、何とか恨みを思い出すように…。

いつから俺はそう思わなくなったんだろう。

正直よく覚えてない。

でも多分、自分がやらなきゃいけないことがはっきりしてから、そこからそれだけで頭が一杯になって余計な事は考えなくなった気もする。

最近結構忙しかったから、それがいつ頃か忘れてしまったけど。

でも今は、偶にすごく気分が良い時がある。

朝目が覚めたときとか、空を見上げたときとか、花を見た時とか。

何故俺がこんなことを思ってるのかわからないけど、そういう時が偶にある。昔はなかった事だ。

そこの机の上に乗ってる萎びた花を見ても、綺麗だと思えるようになった。

良くわからないけど、俺はそうなったんだ。

「…俺は、お前を恨んでない。今、気付いた。」

「…っは。また綺麗事か?虫唾が走るぜ。リヴェータ教徒みたいな事言いやがる。宗教家程、胡散臭いもんはねぇ。この勝負の世界で愛だの何だのふざけたことを抜かしてる。」

「…お前の言う通りだよ。勝負の世界だ。勝つか、負けるか。ただそれだけの世界。昔、お前は俺に勝った。俺はお前に負けた。…それだけだ。冒険者ってのはつまり、そういう事もある世界だ。負ければ死ぬこともあるし、奴隷に落とされる事だってある。昔俺はお前に負けた。で?それ以降の事は何か関係があるのか?」

「…。」

「お前は色々あったんだろうが、それは俺に関係ないことだ。逆もそうだ。俺は色々あの後あったが、それはお前に関係ないこと。下手こいた自分のケツを拭いていただけ…。今、俺達はお互い生きて面を突き合わせてる。だったら…今ここは対等だろ?昔のことは関係ねぇ。昔のことは昔に決着が付いた。それだけの事だろうが。」

「…っは、意味が分からねぇ。…意味が分からねぇ…。お前が俺に仕事を依頼するってことは、お前が俺を信頼するってことか?まだ甘さが抜けてねぇのか?」

「そうだな。お前は信頼できない。だが、お前の現状を俺は知っている。」

「…。」

「お前はもう、王国で名を上げる事は不可能だろう。隅っこで生きてる分には大丈夫らしいが、名を上げたいなら話は別だ。まぁここでずっと隠居したいってなら話は別だがな?」

「…っち…。」

「先立つものはあるのか?拠点を移す伝手はあるのか?別の大陸にどうやって行く?というかそもそも、ここで安全にこの先ずっと暮らしていけるのかすら怪しいぞ。」

「…。」

「俺はお前に冒険者として依頼する。勿論報酬は十分渡す。多少の時間は待ってもらうが…仕事が終わった後、別の大陸で活動したいなら安全に移動させてやる。安全に暮らしたいのであれば、王国の奴等に絶対殺されない場所を提供してやれる。そして何より…もし、お前が望むなら…お前に名をあげるチャンスをやる。」

「…何を言ってやがる。王国じゃ無理だと言ったばかりじゃねぇか。頭イカれてんのかよ。」

「そりゃ多少の成果じゃ無理だ。コツコツ成果を溜めてくならどこかで握りつぶされちまうだろう。だからいきなりでかい成果をぶち上げるんだよ。」

「…っは。メディンから聞いてなかったのかよ。俺は魔法も剣も使えねぇ。そんな人間は竜も魔王も倒すことは出来ねぇんだよ。」

「そうじゃねぇ。お前が強い魔物を倒して名を上げるんじゃねぇ。…万里見敵のエイサップを知ってるか。」

「…ああ、知ってるが…お前が探してるってのはエイサップの事か?」

「まぁそうだ。正確にはエイサップと一緒にいる奴だが、エイサップを見つけることと同義だ。他にも探してほしい人がいるが…。つまり…お前がエイサップを見つけるんだ。あの、万里見敵をな。」

「…無理に決まってんだろうが。あいつは特力級の冒険者だぞ。とんでもねぇえ数の人間を追いまわしてきた男だ。追跡の専門家だが、裏を返せば逃げる専門家と言ってもいい。今この大陸で追跡専門の冒険者は奴だけだ。付け焼き刃の俺じゃ無理に決まってんだろ。」

「試して無理ならしょうが無い。そうなったら別の手を考えるまでだ。時間的な期限もあるしな。それでも報酬の前金と別の大陸への移動くらいまでは約束しよう。それに仕事中の身の安全は出来るだけ保証する。お前が探す事に力を注げるだけの環境を全力で用意する。だから全力で探し人を探してほしい。」

「…追っている人間を全力で探せ。失敗しても構わない…という契約か。穴がボコボコの、随分甘い契約だな?」

「…どうだ?お前には得しか無いだろう?失敗してもいいんだ。まぁ…俺達に関する情報を漏らすこと位は禁止させてもらうが。だが、成功したら一気に名を挙げられるし、成果に応じて成功報酬も渡そう。損は無くて得しか無い。命の危険もない。一か八かで挑戦すれば、莫大な名声を得ることが出来るかも知れない。…こんな仕事があって冒険者は依頼を受けないのか?」

「…っへ。冒険者ね…。そう言えば俺は冒険者だったな…。」

「そう、俺も、な。知ってるか?エイサップ程貴重な男だったら、子爵家程度だったらペコペコするんだぜ?俺は追われている時にエイサップを見てたからわかる。ラミシュバッツの野郎はヘラヘラしながら頭を下げてたぜ?」

「…。」

「アルト様が言ってたが…王族だって動かしちまうことがあるらしいぜ。それだけ長い距離を追跡する能力ってのは貴重なんだ。…エイサップを追い詰められる程の、特力級であれば、の話だが。」

「…ッフッフッフ。信頼はしねぇ。が、冒険者として依頼はする、か。しかも指名した冒険者の背景をきっちり抑えた上でなぁ。…それしか出来ないなら裏切る心配もねぇってか。…良いだろう。俺も俺の命を守るため、その依頼を受けようじゃねぇか。成り上がれる目も用意されたんじゃしょうがねぇ。」

「…そうか。」

「だがまず事情を話せ。誰を追ってて、そいつとはどういう知り合いか話せ。手がかりが必要だ。あと金もきっちりいただくぞ。」

「わかった。良いだろう。」

なんとか話が付いた。

…いや、付いてしまった。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「という事だ。今俺達は仲立って人と美紀って人を追っている。ただ美紀さんの手がかりとか足取りが全くわからない。だがこの二人はお互いを探している。一方を探し出せれば自ずともう一方にも辿り着けると踏んでいる。だからまだ少しでも情報のある仲立さん達を追ってる。」

あの後一通りガルーザに現在の状況を話した。

なるべく何も隠さず。ただ佑樹が勇者だってことだけは隠した。アルト様は俺達ナガルス族の密貿易相手だということにした。すでにアルト様の面が割れてしまってたから。

薄々佑樹の事は感づかれている様な気がしてるが、そこはさすがの男だ。うまい具合にスルーしてる。

ヤバい所には首を突っ込まないってのが肌身にしみて分かってるんだろう。

それにある程度ハルダニヤとの事が終わるまでガルーザの身柄を拘束すれば問題ない。

戦争が終わった後に情報が漏れた所で大した問題は無いだろう。

…二人を見つけた後にガルーザを殺すという手段もあるか…。

…。

…最悪を想定すれば殺した方が安全だ。それは間違いない。

…。

…だがそれを決めるのはもう少し後でも良いだろ。今慌てて決める必要も無い。

…。

メディンは、俺とガルーザの契約がまとまってすぐ、王都へ帰っていった。

ここから先の話は俺は噛まねぇ、と言い残して。

メディンには一言、今すぐに半年ほど王都から離れた方が良い、とだけ伝えた。

メディンは片手を上げて、そうか、と一言残し、帰っていった。

メディンとはできれば敵対したくない。非常事態が宣言されれば冒険者も兵士になるからな…。

俺達は全員、小屋の前の焚き火を囲んで話している。

とは言っても話してるのは俺とガルーザだけだが。

佑樹とアルト様とヴァルは疲れて寝てるし、ワックは俺達の話を聞きつつも周りを警戒してる。

俺も探知魔法を常に展開してるから問題はないと思うが、それでも人の目や耳を使って周りを警戒するのは、魔法だけを使うよりも精度が高くなる。

人間の情報の8割は目から入手するとは良く言ったもんだ。

ひとしきり話を聞いた後、ガルーザが話しだした。

「…いや、追うんなら女の方だな。」

「…美紀さんを追うのか?だが手がかりは全く…。」

「そりゃお前らだったらって話だろ。俺がやったら別だ。例えばその女が長く過ごしてた場所とか長く使ってた物はあるか?匂いを覚えたい。使ったことのある魔道具なんてあれば最高だがな。まぁ…便利なもんは手放さねぇから難しいと思うが…。後はその女を最後に目撃した場所だな。あるいは最後に確実にいたと考えられる場所だ。」

…ある、な。

少なくとも美紀さんが過ごしてた部屋があるはずだ。

何か他に証拠があるかも知れないと出来るだけそのままにしてもらってる。

おそらく確実に居たと言えるのもその部屋だろう。

「…確か美紀さん最後に過ごしてた部屋がある。それなりに長い間過ごしてたと思うが…。」

「…その女が着ていた服はあるか?洗ってない下着とかがあると尚良いが。」

「いやお前それは…。」

「馬鹿。勘違いするんじゃねぇ。より体に近い物のほうが魔力の付きが良いんだよ。それに女は月のもんがあるだろう。血が付いたことがあるならよりわかりやすい。そういう能力なんだからしょうがねぇだろ。」

「…だがそれを経験則として知ってるってことはつまり…。」

「…っへっへっへ。そりゃご想像におまかせするぜ?ただ女ってのは運命を演出してやれば格段に落ちやすくなるなぁ。値段も高いしな。っくっくっく。」

「…っち。下衆野郎が…!」

「その下衆野郎のご機嫌はよぉくとっておけよ?先程信頼がどうのこうの言ってたっけなぁ?」

「…。」

「…ショー様。確かガーク会派免許皆伝の赤のナイフが…。」

…!

…そうだ!

確か美紀さんは赤のナイフを置いていっていた。

ガーク会派の講座を修了した人にあげる卒業証書みたいな物。

俺が作った。ヴァルの薬学を学んで貰ったんだっけ。

半分は仲間の証として渡したものだったけど。あれを美紀さんは部屋に置いていっていた。

…俺らとの決別を意味してたんだと思う。

だけどあれは確かに、魔道具のようなものと言っていた。

俺らの派閥に入った…研究部?調査部?だっけか?の人が言ってたな。

魔道具のような物だと。

「…魔道具ってほどかは分からねぇが、魔力を通して使うナイフ…短剣?のようなものがあるはずだ。俺らの拠点に置いてきたが、彼女はそのナイフを置いて出ていったんだ。上手くすればまだ誰も触って無いかも知れない。」

「でかしたな。もしそのミキって女が最後にそのナイフに魔力を通してたのなら。そしてその後誰も魔力を通して無いのなら。それでほぼ確実に追えるだろうな。」

「…まじかよ。だが本当にほぼ情報は無いぜ?逃げた先は何も無い海とか空とかだしよ。やっぱり情報がある仲立さんを追ったほうが早いんじゃないか?仲立ちさんから美紀さんの行きそうなところを教えて貰ったりして探せば…。」

「いや、そりゃ無理だろうな。あのエイサップがナカダチって奴の側に付いてるならほぼその足取りを掴むことは不可能だ。っつーかお前らもそれで一回やられてるんだろ?開拓の大地の…ピンチポートだっけか?そこまで行ってスカを食らわせられてるじゃねぇか。」

「…まぁ、そうだが…。」

「だが女の方は、話を聞く限りじゃど素人だ。腕っぷしはそれなりみたいだがな。だが獲物を追う、追手から逃げるってのは長い経験が必要だからな。数年じゃ身につくはずがねぇ。逃げたときの感じからもど素人丸出しだからよ。」

「そうなのか?」

「俺だったら書き置きなんざ絶対残さねぇ。ナイフも残さねぇ。っつーかもっと女を武器にして情報を引き出した上で味方に引き入れる。感情で動いてる典型だな。お前みたいな女だ。」

「っぐ…。だが彼氏…恋人を探してるのに自分の女の部分を売るっていうのはそりゃ本末転倒じゃ…。」

「っは。だからテメェはルーキーなんだよ。それに俺は武器にすると言ったんだ。自分の女の部分を売れと言ったわけじゃねぇ。だが…例えそういう意味として捉えてもらったとしても問題はねぇ。股を開いて目的を達成できる可能性が上がるならそうすべきだ。それをしないって事は…こっちが付け入る隙がかなりある。」

「…超えちゃいけない線引ってのがあるだろうが…。」

「なんだそりゃ?誇りとか貞操とかか?そんなもん守って目的が達成できないなら意味ねぇだろうが?貞淑に旅をして、敵は全て打ち倒し、最後は王子様と幸せにってか?そりゃ子供が読むお伽話での話しだろうが。はっ。お前はまだそんなもん信じてんのか?」

「…それで目的を達成した後二人が幸せになると思うか?美紀さんは自責の念にかられるだろうし、仲立さんだって自分を責めるだろう。」

「全力を出したのに何故自責の念に駆られる?お前女のことを分かって言ってんのか?っつーか二人で生きて暮らしてけるんなら幾らでもごまかせるだろうが。相手が望むような事を適当に言っとけば良いんだよ。」

「それでボロが出たらどうする。一生嘘がバレないなんてありえないだろうが。」

「一生嘘を付き続けるんだよ。嘘ってのは一度付いたら死ぬまで付き続けるんだ。大体の嘘つきはそれが分かってねぇからボロが出んだよ。」

「…だが騙してる事実は変わらないじゃねぇか。そんなんで本当にお互いが信頼してると…。」

「一生騙すことが出来れば、騙される方にとっちゃそれが真実だ。それが信頼だ。一生自分だけが罪悪感に苛まれればそれですむ。自分が楽になるために相手を苦しめるか?それとも相手のために自分が苦しみ続けるか?その度胸も覚悟もねぇんなら一生正直者でいろ。お前が気持ちよくなるためだけのな。」

「…。」

「っはぁ…。この程度の屁理屈で納得してるから騙されんだよ。」

「っち…。わかった。美紀さんを探すってのは納得した。最寄りの村で仲間を拾って一旦拠点に戻ろう。今日中には浮島まで行きたい。そこまで行けば取り敢えずは安全だからな。…お前以外は。」

「っははぁ!従いますぜぇ?雇用主様よぉ。」

糞ったれ。

やっぱりムカつく野郎だ。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「これが浮島か…。いつも見てただけだが、来てみると本当に飛んでんだな。ここがお前等の拠点ってわけじゃねぇんだろ?ルーキー。」

「…そうだ。ここは本拠地に行く前の仮の拠点みたいなもんだ。分かってるとは思うが、ガルーザ。お前が俺達といて見聞きしたものは…。」

「他言無用だっつーんだろ?分かってるよ。それが契約だからな。信じられねぇかも知れねぇが、俺は冒険者として受けた仕事は必ずこなして来たんだぜ?」

「ギルドを通して正式に受けた仕事は、だろ?ギルドを通さない契約は仕事じゃねぇ。これは誰が言ったことだったっけか?」

「ははっ!分かってきたじゃねぇか。俺は嬉しいぜ。」

「言っておくが、お前は常に俺達の誰かが監視する。お前が嘘つきの詐欺野郎だってことはみんなよく知ってるからな。」

「随分とご丁寧に。こんな高待遇は生まれて始めてだぜ。じゃあ自己紹介は必要ねぇな。いやー、しかし高いところの景色ってのはこんな感じなのか!北方山脈より高いよなぁ!これ!」

俺達は今、ナガルス総本家の浮島に帰る前、この転移魔法陣が置いてある王都近くの浮島に戻ってきていた。

ガルーザは早々と浮島から見える景色に意識を移している。

念の為、ワックとモニは先触れに出し、アルト様とガルーザを総本家に連れて行って良いかの確認をとってもらっている。

特にアルト様をどうするのかが悩みの種だ。

任務が終わっても拘束できるガルーザと違い、アルト様はどうしてもザリー公爵領に返さなければならない。

そうなると、戦争前にこちらの情報が、僅かばかりでも漏れてしまう可能性がある。

それをどうするのか。正直判断がつかないからモニにナガルス様に相談してもらうよう頼んだ。

…それとなく、手を引いて欲しいなぁ、とはアルト様に話してみたんだけど断固拒否された。

なんか面白くなってきたから最後まで着いてくるんだそうだ。っていうか最初からそのつもりだったと言われた。

いやあんたが俺らとつるんでるのがバレたらそれだけであんたもやばいだろうがって話だって言うのに。一緒にいる時間が長ければそれだけでリスクが高くなるっていうのに。

…まぁガルーザにはバレたけどそれ以外のハルダニヤの人達にはバレてないだろ。多分。

変身の魔道具は使ってなかったけど、本人とわからない程度には変装してもらってたし。

すれ違っただけでわかるもんじゃ無いだろうし。そもそもアルト様の顔を知ってるのがハルダニヤに何人いるんだ?っていう話だ。

それは良いんだが…。

…ナガルス族の内情がバレるってのはどうもまずいよなぁ。

アルト様が一緒にいるってことはつまり、ナガルス族の総本家に来るってことだし。

戦争前に俺達の手の内がバレちまうのは…でも俺達は一蓮托生なんだし良いのか?

いやでもナガルス族全員の命を天秤に掛けてそんな軽々しく…。

…いやそもそもそんな事言ったら勝手にメディンに正体明かしたり、こいつを雇ったりと結構勝ってしてるような…。

…。

やーめっぴ。

やめたやめた。過ぎたことを考えてもしょうがねぇよ。とにかく今は総本家に帰れるのかどうかが大事なんだ。

それももう、ワックとモニ次第。俺が出来ることは無い。

だったら待つしか無いでしょう。もう。

そんなこんなで一旦この浮島で待機して結構経ってるんだけどね。

まぁ時間は掛かってもいいか。

ここなら少なくとも襲われる心配はない。

まぁガルーザに裏切られる心配はあるけど。

「また面倒くさいこと考えてそうだな。翔。」

「…お前はガルーザをどう見る?佑樹。」

「ん~そうだな…。よく居る小悪党って感じだけどな。まぁ節々に頭の良さが伺えるが。でも王宮にいた貴族や王族達と似たような感じはするな。」

「…あんな奴が他にもいんのかよ…ハルダニヤの王宮っつーのはどういうとこなんだよ。」

「まぁそういうとこだよ。ただ王都にいた奴等は基本的に絶対に自分で手を出さないからな。自分で手を汚してる分よっぽどマシだと思うがな。」

「おいおい、そりゃ危険な考えだぞ、佑樹。パンを盗もうが金塊を盗もうが泥棒は泥棒だろ?」

「その通りだ。いや全くね。だが…まぁ…。パンを盗んででも生き延びたいって気持ちはわからんでも無いからな。俺は。」

「…。」

「ま、油断できない人間であることは間違いないだろ。俺も警戒くらいはしておくよ。だがあいつなかなか勘が鋭いみたいだから、俺はあまり前には出ないぜ。…なんとなくバレてる臭いけど。」

「…ま、あいつもほんとにやばい所には突っ込まねぇんじゃねぇのか?勇者関連に首突っ込んだらそのまま首チョンパコースだろうからな。それに戦争が終わるまで外に出す気はねぇし。そんな気にしなくても大丈夫だろ。」

「了解、ボス。」

そして夜が白み始めた頃、アルト様とガルーザのナガルス族総本家浮島への上陸許可が降りた。


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大和型戦艦、異世界に転移する。

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