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第8章 英傑の朝 前編
第83話 暗黙のルール
しおりを挟む「ひっ、ひぃ!か、勘弁してくれ!」
「あ?何言ってんだガルーザ。」
「ゆっ…許…っはぁ!っはぁ!ひぃぃぃい!」
ガルーザは小屋の奥に逃げていく。
これ以上無いくらい惨めに。
もうまともに立つことさえ出来ない奴は、這うように酒瓶を倒しながら逃げていく。
…これがガルーザだと?
…人違いか?
いや、確かにガルーザだ。
間違いない。俺がこいつの面を忘れるはずはない。
無精ひげまみれで髪がボサボサになってたとしても、あの面は間違いなくガルーザだ。
だが…。
「おい、てめぇ!何ふざけてんだ!とにかくこっちに来い!」
「ひっ、ひぃっ…っはぁ…。…へ、へへへ。勘、勘弁して、してくだせぇよ、旦那。へへ。」
「…はあ?」
「お、俺は、へへ。ガルーザなんてもんじゃありやせんぜ。っひへ。し、知りやせん、ぜ。へへ。」
「…お前はガルーザだろうが。ガルーザ・バルドック!俺がてめぇの面を間違える訳ねぇだろ!!」
「ひぃぃぃ!!ち、違う!お、俺、俺はそんな男じゃねぇ!ねぇんでさぁ!こ、殺さないでくれぇ!」
「な…何を…。何を言ってる!ふざけるな!ふざけるんじゃねぇよ!今すぐ落とし前をつけろ!俺を奴隷に落としたツケを払えよ!」
「や、やめて…やめて…下さい!お願いします!死にたくない!殺さないで、殺さないで下さ”い”!」
「殺さないでくれだと?!手前ぇが奴隷に落とした奴がその後どうなったと思う!?無事に生きてる奴は半分だっていねぇだろうよ!それを殺さないでくれだぁ?!どの口が言ってんだよ!」
「ゆ、許して…許して下さい!し、死にたくなかった!金が欲しかったんだ!金が!か、金さえありゃあ…!なんだって、なんだって出来る!だ、誰も信頼出来ねぇ!そうだろ?金がありゃあなんだって…!」
「…手前ぇ…!ぶっ殺してやる!その糞汚ねぇ命で償え!!」
このポンチョで頭を握り潰して…!
潰…潰し…う、ごかねぇ。これは…冷えて…霜?氷?
「翔。落ち着け。殺して良いのか?こいつの力が必要なんじゃねぇのか?」
「…。」
「カッとなると周りが見えなくなるのはお前の悪い癖だ。ここで全部チャラにして良いのか?リーダーなんだろ?」
「…すまねぇ。…悪かった。」
「ふぅ…。それに怒りを感じるのは早えかも知れねぇぞ。多分こいつは…。」
「そ、そうだ!旦那!兎狩りの旦那!でけぇ「当たり」を引いたんだ。とん、とんでもねぇ、でけぇ「当たり」だ。そりゃもう一生遊んで暮らせる、程だ。へへっ。旦那にやるよ!な?お、俺を殺さないでくれ?な?」
「こいつは…。」
「馬鹿になっちまってるな。アル中って奴か?こりゃどちらにしろ…。」
「くそ…。っち。来い!ほら!こっちだ!」
「ひっ!こ、殺さないで…行く、行くからよ…。」
「メディン!マディン・メディン!」
「どうした?ルーキー。ガルーザと話したのか?随分ご乱心じゃないか。」
「どうしたもこうしたもあるかよ。まともじゃねぇじゃねぇか!糞ッ!」
「っぐぉ…いて、いてて…。へへっ。旦那、へ、へへ…。」
「…ちくしょうが…。話が出来なきゃ交渉も糞も…。」
「だがガルーザはいただろう?それに酒を飲んでる時はもう少しまともだ。少なくとも顔の判別はつく。」
「だめじゃねぇか…。はぁ~。しょうがない。こいつはほうっておいて別の方法を…。」
「これ…お酒の毒だよ、おぃちゃん。」
「わかるのか?ヴァル。」
「うん。これでも薬師だからね。…多分症状は軽いよ。頭の中が繋がったり切れたりしてる状態。これなら…まだ治せるかも。」
「…治せないかも知れないんだな?…じゃあ無駄な時間が掛かる可能性も…。」
「一晩くれれば、回復の度合いから治療できるかどうかもわかるよ。」
「…だが。…こんな奴。」
「おぃちゃんがこの男にすごい苦しめられたっていうのは聞いてるよ。ひどい目にあったのも知ってる。…でも、ばあちゃんは…私は…おぃちゃんを助けたから…。この人だって助けてもいいと…思う…。」
「…だがその男は屑だぞ?世の中に悪と正義があるならそいつは間違いなく悪だ。そんな奴助ける価値があるのか?そいつのせいで死んでいった奴等はどうなる?…自業、自得って奴じゃ無いのか?」
「…うん…そう思う。そう、思うよ…。でも、ばあちゃんは…助けられる人は助けてやれって…。」
「…。」
「まぁそういう事だ。ショー。どうせこの時間ならここで一晩明かす必要があるだろう?私がヴァルを手伝うから一晩位良いじゃないか。ヴァルの薬師としての腕はザリー領で一番だぞ?」
「アルト様…まぁ、確かにそう、ですが…。」
「ならそれで決まりだな。翔。俺もヴァルちゃんとアルト様を手伝うよ。翔はその男に近づかないほうが良いだろ。野営の準備をしといてくれや。」
「う…。あぁ…分かったよ。佑樹。」
「ッハッハッハ。随分いい仲間じゃねぇか。兎狩りのルーキー。全く羨ましい冒険者生活だぜ。祖メリヴォラの如くだ。っと、んじゃここで野営するか。小屋は酒臭くてたまらんからな。」
「ああ…。」
「後ろについて来てる奴等も呼んでやれよ。もう良いだろ?」
「…バレてたのか。」
「まぁなぁ。確証は無かったが、今ので確信したな。」
「…性格悪いじゃねぇかよ。」
「くくっ。そうでなきゃ謀術は修められねぇよ。」
「ワック!モニ!来てくれ!今夜はここで野営をする!」
そう叫んですぐ、二人は出てきた。
モニは変身してない。いや羽は消してるか。
でもそれだけだ。まぁこの場所では必要ないだろ。
「あれれ…。バレてましたか。」
「結構上手くやれてたと思ったんだけどね。」
「…ま、まぁ、城下級の冒険者は伊達じゃ無かったってことだな。」
「っくっく。」
うるさい。余計なこと言わないで下さい。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
一通り野営の準備が終わった。
俺とメディンとモニは焚き火の前でひと心地ついてる。
ワックは念の為、魔法で周りを警戒してくれてる。俺も砂塵・土蜘蛛を展開してるから、見張りはこれで十分だろう。
ヴァルとアルト様と佑樹は早々に食事を済ませてガルーザの治療にあたっている。
ヴァルが言うには、酒の毒を抜く事ができる薬があるそうだ。
ただその薬自体は持ってない。
必要な薬草を採取して、この場で調合する必要がある。
今回はこの近辺でそれに近い薬草が見つかったが、対象の薬草その物じゃない。
普通の薬師であれば、必要な材料が揃わなかった時点で薬は作れない。
通常であればそれでお終いなのだが、ザリー公爵で一番の薬師は違う。
実はヴァルは、種が近い薬草から、本来必要な薬草から抽出できる薬素を取り出すことが出来るんだそうだ。
本来使うはずだった薬草から出来る薬の量よりも少なくはなってしまうが、効果は変わらないらしい。
そんな事が出来るのか…と思ってたら、そんな事が出来るのはヴァルだけだとアルト様に言われた。
少なくともハルダニヤ国内では聞いたことがないと。
もっと言えば、この技術を持っているのはヴァルとヴァルドヴォニカル氏位だとも言っていた。
ヴァルと一緒に過ごす内、どうやらそうらしいと分かったと言っていた。
恐らくだが、ルド婆さんはこの技術は隠していたんだろう。
他の薬師は、ヴァルは全然違う、別の世界が見えているかのようだとも言っていたらしい。
ヴァルは気にしていないようだが、通常であれば秘伝と言われる技術だと。そりゃルド婆さんも隠すわな。
俺には良くわからないが、さすがである。ガーク会派薬学長は伊達じゃない。
取り敢えず、種が近い薬草が近くにあったようなので必要な薬を作れたようだ。
右も左も分からなくなってるガルーザを、アルト様が押さえつけて、佑樹が薬を飲ませている。
どうやら佑樹は、薬を上手く飲ませたりとか、相手を宥めたりっていうのが上手いらしい。
相手の気分を逆なでしないというか、刺激しないというか。
そういう加減が絶妙に上手い。というより慣れてる。
母親の介護をしてた時に、そういった経験をしたんだろうか。
…意外といいコンビなのかも知れないな。
「良いのか?ルーキー。お嬢ちゃんはガルーザの世話を焼いてるじゃねぇか。」
「…俺は病人の世話は得意じゃないんだ。」
「ふぅ~ん。その割には私を世話してくれた時は上手だったけど?」
「それは、その…モニとあいつは違う。ぜんぜん違うからさ。」
「…そう?でも、まぁ、ヴァルちゃんがいて良かった。ヴァルちゃんがいなかったら多分村まで連れては行かなかったと思うから。」
「まぁそうだろうなぁ。っていうか、多分ガルーザは付いていかなかったと思うぜ?酒を飲んでまともな時は足腰立たねぇし、飲んでねぇ時は話にならねぇ。とても村や王都にゃ連れてけねぇよ。」
「いやそりゃまぁ王都は無理だろ、マディン。あいつ狙われてんだろ?」
「まぁそうだが、もう「当たり」の発見者は決まっちまってるからな。そして大部分はもう王族に持ってかれちまってる。処理は終わったんだ。もうガルーザ一人で何が出来るもんでもねぇだろうってのがお上の判断さ。はしゃがねぇならって条件は付くが、王都の隅っこにいる位なら大丈夫じゃねぇか?知らねぇが。」
「知らねぇのかよ。…ま、奴が治る保証もねぇし、次の手を考えなきゃいけないな。」
「お嬢ちゃんは優秀な薬師なんだろ?だったらかなり期待できるんじゃねぇか?治るとも言ってたしよ。」
「…まぁ、そうかもな…。」
「ショーはやっぱり許せないの?その…あの男のことが。」
「…そりゃ、あいつのせいで奴隷に落ちたんだ。しかも間違いとか事故とかじゃない。明らかに悪意をもって俺を騙したんだぜ?それを許せるってほうがおかしいだろ。」
「でも…今のショーとガルーザを比べたら、どっちが惨めかなんてひと目でわかるよ。あの姿を見て溜飲が下がったりしない?」
「しないね。今見てもムカつく。出来ることならぶっ殺してやりたい。それは出来ないけどさ。」
「…ショーがどうしてもって言うなら殺しても良いと思うよ。恨みを晴らすって大事な事だもん。私はショーが一番大事だし、それでナカダチとミキが探せなくても構わないと思ってる。どうしても我慢できない時は、我慢しちゃいけない時なんだよ。」
「…。」
「それに全部が終わってから始末したって良いしね。」
「…え?」
「適当な事を言って協力させて、問題が解決したらショーの好きなようにすればいい。でしょ?」
「あ、ああ。そうだな。…その通りだ。うん。」
「でしょう?そうされてもしょうが無いことをしたんだもん。正義はショーにあるよ。」
「そうだ。うん…。それくらいしたって文句は言わせないさ。そうだ。俺だって死ぬ所だったし、他の奴隷に落とされた奴は死んでる奴だっているはずだ。そうだろ?マディン。」
「…そうだな。奴隷に落ちていった奴等の…10人中7人は死んじまってるだろう。そういう所に売っていたと言ってたからな。」
「そう、さ。だったら俺は悪くない。あいつは他人を散々利用した上で沢山の人間を殺したんだ。骨の髄まで利用されて殺されたって、文句は…言えない…。そうに決まってるさ。」
「まぁそれくらいされたとしても文句は言えないくらいの事はしてたな。」
「うんうん。ショーは悪くないからね。ショーの好きにすればいいよ。私は何があっても着いていってあげるからね。はいはい。」
「…。」
「へぇ。随分いい嫁さんもらったんじゃねぇのか?兎狩り。中々いねぇぞ?こんな事言ってくれる嫁さんはよ。」
「メディンさんったら分かってるじゃ無いですか。もっと言ってあげて下さい。…メディンさんは結婚しないんですか?城下級っていったら、奥様も引く手数多では?」
「こいつは手厳しい。だが奥方。こんな不安定な仕事やってる奴に、好き好んで嫁に来るような女はいないもんですぜ。」
「でも…城下級を長くやってらしたら安定した仕事の当ても沢山あるのでは?」
「確かに実家にいきゃあそれなりかも知れませんな。仕事がらみでも無いわけじゃありません。だがこの仕事を長くやってるって事は、色々な柵から抜け出せねぇって事ですわ。良いも悪いもな。」
「…悪い柵ってのは…ガルーザの事か?まさかあんたも…奴隷詐欺に関わってた…ってことかよ。」
最悪。最悪のパターンか?
まさかメディンも関わって…たのか?
「…王都で長いこと冒険者をやっててガルーザに関わってない奴はいないだろうな。皆、多かれ少なかれ恩恵に預かってた。あいつを蛇蝎の如く嫌っている奴ですら、あいつのおかげで仕事が上手く行ってた事は否定できない。」
「売上の一部を貰ってたってことですか?」
「いや、そうじゃない。王都ってのは冒険者にとって少々特殊なところでな。ある種、仕事が限られてるんだ。護衛とか、貴族からの依頼ってのはそれなりにランクの高い、若しくは付き合いの長い冒険者がどうしても優遇されちまう。」
「…そんな話は聞いた事があるな。」
「曲がりなりにも王都って事だ。格式や礼法、信頼がより物を言う。いや、これはどんな商売でも同じかもしれんな。…しかも治安がいいせいもあって、魔物や採取系の仕事量も少ない。だからこそ、王都の冒険者は自分の仕事の縄張りを強く意識してるわけだ。」
「暗黙のルールって奴だっけか?…そんなもんがあるなんて昔は知らなかった。」
「まぁ普通は知らねぇさ。王都だけの特殊なルールみたいなところもあるからな。他で冒険者やってたら気にもしないからよ。…ま、普通は他から来る時にある程度情報を集めて来るからなんとなくわかるもんなんだがなぁ?」
「そもそも違う世界の人間だ。そんな事知る由も無いさ。」
「…へぇ。とにかく、そこら辺のルールが分かってねぇ奴が来たりするとどうしても縄張りってもんを荒らされちまう。それなりに長い歴史を経て、いくつかのクランやパーティーが縄張りを決めてって、継いできた物をだ。」
「なるほど…。その縄張りを荒らす冒険者をガルーザが奴隷に落としていったということなんですね。」
「ガルーザが自分で勝手に悪巧みをして、自分が手を汚してこっそりって体をとってな。奴の一派で無い限り金を受け取ってはいないだろうが、大なり小なり王都の冒険者達の仕事はやりやすくなってたはずだ。自分の仕事が安定しているってのは…俺たち冒険者には抗えない魅力ってわけさ。…そういう意味で、柵はあっただろうな。」
「…。」
「…ガルーザに腕っぷしは無かったが、そこらへんの機微を読む力はあった。奴はそうやって自分の立ち位置を確立していったんだよ。気づいた頃には、階級が高い冒険者でもおいそれと口を出せなくなっていた。ギルドも噛んでいる…いや恩恵を受けている節があったからな。」
「…それで奴隷に落とされた奴等は納得しねぇだろうな。」
「…その通りさ。結局我が身可愛さで見て見ぬ振りをしてたわけだ。生態を壊しているだとか、安定した薬草の供給だとか、冒険者の信頼性を損なうだとか…言ってることは立派だが要はそういうことさ。死ぬのが今日か明日かって仕事してるやつは、安定した未来が目の前に落ちて来たら縋っちまうのさ。…それは城下級、荘園級の奴等ですらそうだった。」
「…。」
「…だが今思えば、そりゃ本当に未来だったのかって話だ。冒険者の未来ってのは自由に、自分の腕っぷし一つで切り開いて行くもんじゃねぇのかって事だ。安定だ平穏だってのは…祖メリヴォラが目指した物なのかって話だ。結局未来を見ているようで、目の前の餌に飛びついてただけじゃねぇかって事だな。」
「…で?そりゃあんたが昔、いじめを見て見ぬふりをしてましたってだけの話だろ?胸糞悪いが犯罪ってわけじゃねぇ。それに悪い柵から抜け出せないって話でも無いだろ?」
「…奴が元貴族だって話はしたろう?」
「ああ。」
「俺も元貴族って奴さ。奴と似たような境遇だ。まぁ俺は子爵家程でかい貴族じゃねぇ。子爵家の端も端。ギリギリ男爵家に落ちない程度の三男坊だ。当然継げる様な土地も金もねぇ。そもそも実家自体がギリギリでやってるようなもんだ。仕送りを兼ねて冒険者をしてた。だがさっきも言ったように野に下った元貴族ってのは助け合う暗黙のルールってやつがあるのさ。王都の冒険者みたいなな。」
「…。」
「…だが俺はそれが出来なかった。暗黙のルールを俺は破ったんだ。その結果奴があんな風になっちまった。気づいた頃には、手遅れだった。」
「…。」
「奴の縄張りはもう出来上がってたんだ。昔助けなかったくせに、今になってやめろとは言えねぇ。にも関わらず、奴のやり方で多少なり恩恵を受けてたのは確かだった。それを奴が考えていたかどうかは分からねぇが、奴は元貴族同士の暗黙のルールを、結果的に守ってた訳だ。俺は奴に借りを受け続けてたわけだ。」
「…なるほどな。だが奴は貸しを与え続けてた、と思っていたとは思えないが。もっと奴は…必死な感じだったな。まぁ今思えば、という印象だけどさ。必死に…成り上がってやりたい。…いや、生き残りたいって思ってただけじゃねぇかな。」
「…かも、知れねぇ。そうじゃ無いかも、知れない。だが事実として、俺達冒険者は、いや元貴族の俺は、仕事の縄張りを守って貰ってたわけだ。それは消えない。受けた借りを返さないのは、メディン家の名誉に反するのさ。…悪い柵ってのは、もしかしたら貴族の見栄なのかも知れんな…。」
「ふん…。まぁ男なんざ見栄と意地で出来てるようなもんだしな。それがなきゃ前にも進めねぇさ。」
「なるほど…。男は見栄と意地か…。っふっふ。なるほど、見栄と意地の生き物か。言い得て妙かも知れんな。」
「あんたが貴族の名誉と、昔の借りでガルーザを助けてることは分かった。俺はそれは借りじゃねぇと思うが、あんたがそう思ってるんなら口を出さないさ。」
「そうかい。」
「だが良いのか?最悪俺は奴を散々利用した後殺すかも知れねぇぞ?」
「…殺すねぇ。さて、どうなるのかな。未来は分からねぇ。いつだってな。俺もまさか奴隷に落とされたルーキーと火を囲んで話す未来が来るとは思わなかった。」
「…。」
「だが、仮にお前がガルーザを殺したとしても、俺は特に恨まねぇよ。俺はガルーザに受けた恩を返すだけだ。奴が寿命で死ぬまで面倒見ることじゃねぇ。ま、好きにしなって事だ。」
「…良く分からねぇが、なら好きにさせてもらうよ。」
「ああ。好きにしな。それが冒険者だ。」
そうして夜は更けていった。
すぐに休むつもりだったが、メディンとの話が面白く、寝付いたのは朝日が昇る少し前だった。
本当は見張りをワックと変わらなきゃいけなかったんだが、モニが変わってくれた。
どうやら途中でもう休んでいたみたいだ。
気を利かせてしまったか。
だけど、まぁ。
偶には良いよな。こういうのも。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
次の日目が覚めて太陽が真上に昇った頃、ヴァルが話しかけてきた。
「おぃちゃん。ガルーザの意識が戻ったよ。足元はまだふらついてるからベッドで休んでるけど、話は出来る。酒の毒は抜けたよ。ふぁ~~っ…。」
「…そう、か。」
「私達は寝るね。ワックとメディンさんが見張りをしてくれるみたいだから、お言葉に甘えさせてもらうね。少しでも休まないとね。」
「…。」
「…じゃ、お休み。」
「ああ…ありがとう。ゆっくり休んでくれ。」
そう言ってヴァルは仮眠を取り始めた。
佑樹もアルト様もモニも仮眠してる。
ワックはメディンと一緒に周囲を警戒してる。
ここはぶっちゃけ盗賊もいないし、危険な魔物もいない。
だから警戒することにあまり意味はない。が、小屋の近くでウロウロ周りを見てる。…恐らく、俺の事を監視してるんだろう。
…まぁ怒りに任せてぶっ殺す…っていうのも有り得ない話じゃないと思ってるんだろうな。
…そんな事無いとはっきり言えないのが辛いところだ。
…はぁ。
行くか。
…よくよく見れば、この小屋の扉は大分ひどいな。
ただの板を立て掛けてますって言ったほうが正しい表現じゃないか?
どうやって閉じるんだよこれ。
糞っ。
もういい。開けっ放しで。
「…よう、ガルーザ。覚えてるかよ、俺を。」
「…ああ、覚えてるよ。兎狩りのルーキーだろ。奴隷に落としたはずだがな。…俺を殺しに来たか?」
「さてな…そりゃお前の態度次第だ。」
「…。」
「…。」
「…っくっく…。じゃあなんだ?俺を笑いに来たのか?まぁ…好きにすればいい。お前が勝ったんだ。何をしても良いんだからよ。」
「…勝った負けたってのが良く分からねぇな。何かの勝負をしてたのか?」
「…してるさ。俺達クズ共は勝ち負けの中で生きてるんだろうが。勝てば全てを手にし、負ければ全てを失う。それが冒険者ってもんだろうが。」
「…生きてるんだから全てを失っちゃいないだろ。」
「失うさ。これからお前が俺を殺すんだからな。それで終いだ。俺には何も出来ねぇ。お前の勝ちだ。」
「…だから殺すわけじゃねぇと…。」
「…っは…。そう言えば奴隷時代はどうだったよ?思いつく限り最悪の所に送ってやったからよ。あ?人肉は美味かったか?」
「…糞野郎…やっぱり知ってやがったわけかよ…!」
「ああ、ああ。知ってた。知ってたさ。ラミシュバッツは奴隷の扱いにかけちゃハルダニヤで一番だからな。生かさず殺さず、人間足らしめる部分を削っていく。気づいたときにゃ二足歩行の家畜の出来上がりだ。苦労したんだぜ?わざわざ子爵家に渡りをつけるのはよ?」
「…っは。わざわざ随分な高待遇じゃねぇか。そんなに俺にビビってたのか?右も左も分からねぇぼんくらルーキーにご苦労な事だったな。その努力も全て無駄になった訳だが?」
「…ぼんくら?ぼんくらだと?馬鹿言うんじゃねぇ。俺の鼻は間違ってねぇ。お前がすぐに成り上がるのは分かってた。俺みてぇな無能を一瞥もしないで駆け上がってく野郎だってのは分かってたよ。…だから奴隷に落としたんだ。無能の養分になって頂いた訳だ。お前を売った金で飲んだ酒はそりゃあ美味かったぜぇ?」
「…へぇ。酒を飲む余裕があったんだな。俺が聞いた話だとその後すぐにお上に詰められたって話だがな?女にも逃げられてピーピー泣いてたらしいじゃねぇか。実家に帰れば良かったんだよ。仲の良いお父様の靴でも舐めりゃ良かったのによ。」
「っち…そうかメディンか。あいつが喋ったんだな。…糞が。まぁ情報戦ど素人のルーキーにしちゃ良くやったじゃねぇか。メディンがいなきゃ何も分からなかったろうがな。」
「メディンを見つけて協力を取り付けたのは俺らの情報戦の結果だがな。」
「…はぁ。あぁ、あぁ、無駄無駄。バカ見てぇに反論した所でてめぇの勝ちは揺るがねぇんだ。とっとと煮るなり焼くなりしろよ。」
「…お前の鼻が効くって魔法はどういう魔法なんだ。何が出来る。」
「おい。だから手前ぇの勝ちだっつってるだろうが。バルドック家の出来損ないの傷を抉って何が楽しいんだよ。あぁ?」
「うるせぇ。良いから答えろよ。」
「わぁかった、わぁかったよ。はぁ…っち…。俺の魔法ってのは魔力を鼻で感じることが出来るってだけの魔法だ。攻撃にも防御にも使えねぇ魔法だな。ほら、これで十分だろ。」
「十分じゃねぇよ。それで何が出来るかって話だ。」
「はぁ?そんなもん気にしてどうすんだ?…わかった、わかったよ。…ったく、何なんだよ。…糞。…俺は魔力を鼻で判別出来る。魔力ってのはそこら中に漂ってる。生物、植物、そこらの物や石や、ただの空気にすらだ。お偉いさん方は、人にしか魔力はねぇとか生物にしか魔力はねぇとか言ってるが違う。この世の全てに魔力は宿ってるんだよ。」
「…。」
「学士共の理論なんざ関係ねぇ。俺は感覚でわかる。魔力ってのは須らくに宿るんだよ。そして俺はそれが鼻でわかるんだ。昔から何故か、な。そのせいで他の魔法が苦手だったがな。…っち…。そして人の魔力は物に宿る。移るというか、残るっつーのか、残り香…残りの魔力、俺は香色と勝手に呼んでる。」
「物に付いた魔力の匂いがわかるって事か?」
「物に付く…宿る…残る…か?改めて言われるとピンと来ねぇな。人が歩いた道、使っていた道具、死んだ場所。そういう所に、そいつ独特の魔力が残ってるんだ。だが…匂いって改めて言われると、違うか…?鼻を使ってるから匂いかも知れねぇが…なんかもっと固い感覚だな。こことは違う…物?場所?に取り残されているというか、にじみ出ているというか、そういう感じ…か?」
「…ちょっと感覚的過ぎて分からねぇな。」
「…まぁそんなもんだ。んで、その残った魔力を嗅いで、匂い…まぁもう匂いでいいか。匂いを辿って人や物を追うことが出来る。恐らく時間を掛ければ相当遠くまで逃げたやつでも追えるだろうな。そいつの魔力を知ってれば、という条件はあるがな。」
「…なるほど。」
「あとは…魔力ってのは個人個人違うんだよ。その違いからある程度の人間の傾向もわかる。例えば…属性の得意不得意、健康状態、体重身長、男か女か、魔力武力の練達さ加減、年齢…あとは性格とかかな。」
「そんなもんまでわかるのか?性格?魔力に関係するのか?」
「…いや、どうだろうな。恐らくこれは経験則だ。魔力を追うことでそいつの動作とか動きとかがわかる。そこから性格やそいつの状態を推測してるんだと思う。まぁ、勘みてぇなもんだがな。」
「勘、ね。出来ることっつーのはそれ以外に無いのか?」
「…無いね。これで全部だ。これ以上は叩いても何もねぇぜ。」
「…ふん。…実はお前に頼みがある。探して欲しい人がいるんだ。お前の能力で助けて欲しい。」
最初ガルーザは何を言っているか分からない、という顔をしていた。
そして徐々に、俺の言葉を理解し始めると、奴はたまらず笑い出した。
「…は?頼…助け?ハハッ!助けだと?!ハハハハハッ!助けてくれだと?!お前が?!俺に!?アヒャッヒャッヒャッヒャ!!この俺に!!ハハハ!!ルーキー!!ッヒー!!ッヒー!!」
…クソ野郎。
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーヤのお気楽異世界転移
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
30年待たされた異世界転移
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
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