ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第8章 英傑の朝 前編

第82話 誇りとは美しい歴史

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ガルーザ・バルドック。

バルドック子爵家に生まれた男。

八人兄妹の末弟だったそうだ。

幸か不幸か、ガルーザの兄妹達は非常に優秀だった。

特に皆、武勇に秀でていた。

武術は勿論、魔法の腕もあった。

彼らの次兄がぶっ飛んだ男で、しばらく開拓の大地へ武者修行に行っていたそうだ。

そこで学んだアダウロラ会派の武技を兄妹に教え込んでいった。

この国の貴族であれば必修とも言えるハルダニヤ流兵術が合わなかったのか、アダウロラ会派合術が馴染んだのかは分からないが、兄弟達はたちまちと力を付けていった。

彼らの力は、開拓の大地の魔物すら蹴散らす程になっていた。

その力を持って、各兄弟がトップに立った騎士団をそれぞれ立ち上げ、バルドック子爵領を西へ東へ朝から晩と駆けずり回った。

そして魔物や盗賊を討伐した。

街や村へ密偵なんかして、水戸黄門の真似事なんて事もしていたらしい。

ついでにメディン子爵家へちょっかいを掛けたりもしてきたらしい。

間に山が無かったら危ない所だったと言ってた。

その結果領内の治安は劇的に良くなり、商売が活性化して、経済が潤った。

今、最も景気の良い貴族家の一つだ。

かくして、バルダック家七雄騎士団はその名を他領にまで轟かせた。

最近では王都でも良く聞くようになったという。

…そう。


「七」雄騎士団である。

八兄妹なのに、「七」英雄。

あぶれた男は、ガルーザだった。

ガルーザは、武術を身につけることが出来なかった。

八兄妹の中の末弟で、一番幼く身体が出来上がってないガルーザは次兄の訓練についていけなかったせいもある。

だがそれを鑑みても、武術の才能がなかった。

剣を振るっても、槍を掲げても、斧を叩きつけてもまるで強くならなかった。

魔法の腕もからきしだった。

腕を振えば雷鳴が轟き、祈れば暴風が吹きすさび、駆ければ千里を一晩で。

兄妹達の魔法は皆、貴族としてあるべき姿を体現したかのようだった。

冒険者も魔法を使うし、強力な魔法使いもいる。

しかしそれは所詮、平民が独学で辿り着ける程度のレベルである事が多かった。

確かに大陸級のようなとんでもない威力の魔法を使う者もいる。

しかしそれはあくまで一握りの、極少数の才能ある者達の世界の話だ。

いや、大陸級の冒険者ですら自らの能力を隠している者が多い。

それは多分に、自分が弱かった時代の癖であることも否めないが、根本に自分の能力がバレてしまうと死ぬ危険性が高まると考えているせいだ。

例え大陸級でも、それは例外でないと考えている者が多いのだ。

敵は正面だけではない。背中にもいるかも知れないからだ。

冒険者はそれを骨身に染みて分かっている。

一人で生きていかなければならない者達は、どんな時でも油断はできない。

手の内がバレてしまったならば、殺されてしまう。

大陸級の者ですら、自らの魔法の腕をその程度だと捉えている。

しかしそれとは逆に、貴族は自らの魔法の力を隠さないことが多い。

理由は沢山ある。

まず、貴族とはそもそも個人で戦う者達ではない。

金とコネで組織を立ち上げ、集団で戦う。そんな中、仲間に自らの力を開示することはメリットとなることが多い。

取れる戦術の幅は広がるし、組織として出来る事出来ない事が明確になる。足りない部分も明確になるため、新たに戦力を増強するときの指標にもなる。

また、貴族とは血筋の文化である。

強い血、優秀な血を自らの一族に取り込む事は貴族の重要な仕事だ。

当然、強い魔法が使える者は高待遇で嫁や婿として迎えられる。また、立身出世もしやすい。

強い魔法を使える者が親戚にいるだけで伴侶選びが上手くいったりもする。

優秀な魔法使いの血筋が自分の一族に混ざれば、その後の子供、孫にも同様の才能が継承されると考えているからだ。

つまり、強い魔法を使って武勇を宣伝することは自らの、いや一族の価値と立場を高める事に繋がる。

それは即ち、人脈が広がり、権力が強まり、生き残る可能性が高くなる。権力とは、腕力よりも強いのだから。

だから貴族は自分の魔法の腕を隠さないことが多い。むしろ全力で宣伝する。

しかしこれらの理由はあくまでおまけのような物だ。

貴族が自らの魔法を隠さない一番の理由。

それは強いからだ。

圧倒的に、貴族の魔法が強いからだ。

もちろん貴族にも魔法が使えなかったり弱い者もいる。

だがそれを差し引いても、平均して貴族の魔法は強い。

勿論、古来から強力な魔法使いを育てるノウハウが各貴族家に伝わってるからでもある。

その家独自の教育が、一族の魔法を強くしていくのだ。

それは貴族という長い歴史と伝統がある家だからこそ出来ることでもある。

ならばその教育法を一般平民に適用したら強い魔法使いに育つのか。

いや、そんな簡単な話ではない。

何故ならば脈々と受け継がれてきた魔法の遺伝子は、その基本性能自体が段違いだからだ。

生まれついての魔力量、属性への適正、魔力への感受性。

魔力に関わることでは、最初に生まれついた段階で、大きく平民を突き放している。もちろん例外はあるが。

そんな貴族達が成長すれば、一人で十人、百人、千人を相手取れるようになる者だっている。

全員が全員そうではないが、貴族は魔法使いとして、もしくは魔力を使った戦いで大成しやすい。その血脈のおかげで。

ガルーザの兄妹達は間違いなく、貴族足り得た魔法使い達だった。

それぞれが騎士団の長を勤め上げ、他領にまで名を轟かせる程の使い手。

一族の名に恥じず、大軍を相手に一歩も引かず、強大な魔物を仕留める魔法の使い手。

見栄えもよく、称賛と羨望が降り注がれる使い手。

まさに、貴族であった。

一方、ガルーザは貴族の生まれゆえ魔力だけはあったが、兄妹達のような魔法は使えなかった。

火も水も土も風も、全て灯す程度の威力しか出せなかった。

初めて使ったにも関わらず、川の流れを変えたり、天まで届くような火柱を上げたり、地割れを起こしたりするような威力ではなかった。

兄妹達の才には遠く及ばなかった。

唯一他より使えた魔法は、人より鼻が効く程度の魔法。

それ以外は壊滅的だったそうだ。

勿論最初は努力したらしい。

魔法の腕も、武術の腕も磨こうとした。

しかし全く力がつかない。

精々、家長級程度の腕にしかならなかった。

鼻が利くという魔法は、兄妹達の栄光に溢れた魔法と比べれば、多少成長した所で何の慰めにもならなかった。

兄妹達の栄光の影に、ガルーザは埋もれていった。

とはいえ、兄妹達は強大な魔法使いだ。

その血筋は確かと言える。

ガルーザは貴族として戦えないが、後世に尊き一族の才を繋ぐことは出来る。

他家と血縁を繋ぐという他の兄弟には出来ない価値があった。

兄妹はすでにバルドック子爵家では欠かせない戦力となっており、おいそれと他家に嫁ぐ、婿へ行く事は難しくなっていた。

自らの領内に家を持たせ分家として長兄を助けさせるか、公爵家や侯爵家と言ったレベルの家へ嫁がせるか婿にいかせるかといった手段しか取れなかったらしい。

何も考えず近隣の子爵家へ嫁がせたらたちまち自分の領地の驚異となってしまう。

しかし交易、治安の維持を考えれば、隣接した領との関係は無視できない。メディン子爵家にはちょっかいをかけていたようだが。

そこでガルーザに白羽の矢がたった。

ガルーザは魔法の腕は大したことはない。だからこそ、隣の領に婿に行ったとしても直ちに脅威にならない。

しかも、ガルーザの兄妹は強大な魔法を使える。ガルーザには彼らとの確かな血の系譜がある。

十分に政略結婚としての価値はあり、すぐに驚異になることはない。

しかも隣の領からの返礼も期待できる。少なくとも一世代は優位に立てるだろう。

上手く行けば、次代、次次代になっても優秀な魔法使いの血が発現しない可能性すらある。いや、確率で言えばその方が高い。そうなればバルドック子爵家の一人勝ちだ。

一方、バルドック子爵領と隣接した子爵領からすれば、その血筋を得ることが出来る。

上手く行けば、子供、はたまた孫の代になれば強力な魔法使いが生まれる可能性がある。

バルドック子爵家の成功を隣で見続けた貴族達は、強力な魔法使い、貴族の魔法使いの力の魅力に抗えなかった。

今までは、半分以上夢物語の様な、言ってしまえば宝くじに当たるような話として聞いていたが、実際に宝くじにあたった家が隣にあれば、話は違ってくる。

その宝くじが子供を産めば、我らもその恩恵に預かれるのだ。いや、噂によればバルドック家は王族への嫁入りの話も出てるとか。それはもうとんでも無い栄誉だ。

なんとか奴等の血を我が一族に取り込みたい。例えばあの無能と噂される男でも良い。

例え必ず強大な魔法使いが生まれる訳ではないと分かっていても、微かな可能性があるだけで十分にガルーザを婿に迎える価値はある。

他領の貴族達はそう考えた。

ガルーザ自身も多少の不満がありつつも、貴族としての務めを果たしている兄妹達と比較して何も出来ていないという思いが強く、初めて貴族としての義務を果たせることの喜びの方が大きかったそうだ。

そうして、バルドック子爵家と婿入り先の子爵家、そしてガルーザ自身の三者三様がメリットを見出した頃、ガルーザが使える魔法が鼻が利くようになる、という情報が伝わった。

この情報を受けた婿入り先の子爵家は、情報を精査した後、婿取りを拒否した。

そして公然と、バルドック子爵家を批判した。

我が一族に歪んだ血を混ぜるつもりか、と。

先程説明した通り、兄妹に強力な魔法使いがいるだけで諸手を上げて喜ばれる。

その強力な魔法使いの血が一族に取り込まれるわけだから。

例え本人に魔法の才が無くとも、それは血の偏りのせいだとみなされる。

例えば、百人子供を産めば、どんなに偉大な魔法使いからでも魔法の才が無い者が出てくる。

これは血の偏りとして、ある程度しょうがない事とされている。そういうものだ、とされているのだ。

しかしその魔法の才の無い者が百人子供を産んだとすれば、その内の一人か二人は、血が覚醒し、強大な魔法使いとなる事がある。

勿論、一人の人間が百人も子供を生むことなど出来るわけが無いが、子供の子供、さらにその子供の数を込みで考えれば、いつかは百人に辿り着く。

所謂、隔世遺伝の事だろう。

その僅かな隔世遺伝を期待して、他の子爵家はガルーザを婿として迎えようとしていた。

ところが、先程の話で出た、血の歪みと言われる現象がある。

貴族の間で嘲笑と悪意と、恐れを持って語られる話だ。

例えば、百人子供を産めば、どんなに偉大な魔法使いからでも魔法の才がない者が出てくる。これは血の偏りだ。

しかし稀に、この百人の子供の中に、特殊な魔法を使う子供が生まれることがある。

父や母、祖父や祖母、ひいては先祖に遡ってもそのような魔法を使う者がいなかったのに、である。

その特殊な魔法能力は、強く後世に受け継がれると言われている。

百人子供を産めば、40人位は受け継ぐだろう、といった具合だ。

この特殊な魔法は、過去様々な形で発現した。

その顕著な例は王族だろう。

太古なる昔、王族は異界に関わる魔法能力が発現したとされている。この力を持って、異世界から勇者を召喚したのではないか、と噂されているほどだ。

他にも未来を予知する魔法であったり、光を操作する魔法。草木の成長を早める魔法であったり、物に魔法を写せる魔法等だ。

これは伝説として語られている様な話だが、大いなる昔、迷宮を作り出す魔法も発現した者がいたのではないか、という話すらあったと言われる。

このような血の歪の結果、発現した魔法に非常に価値があった場合、それは祝福と呼ばれていた。

神の子とか奇跡の子とかとも言われてたりしたらしい。まぁ強力な魔法使いよりも更に喜ばれる才能だ。

これ一つで新たな爵位を貰えると言われるほどだ。

しかし、血の歪みの結果、喜ばれない才能が生まれる場合がある。

身体の一部が変色するだけの魔法だったり、自分の周りだけに雪を降らせたり、爪の成長を早めたりといった魔法だ。

こういった何の役にも立たない魔法は、呪いと言われる。もしくはそのまま歪と呼ばれたりもする。

勿論、魔力が無い訳ではなく、人格に欠陥があるわけではない。

しかし、こういった特殊な魔法が発現した者は概して、他の魔法が不得手になる。

そして何よりも重要なのが、この魔法能力は強く遺伝してしまう。

まさに、呪いだ。

本人だけでその呪いが完結するのであればまだ使いようもあったものの、後世にその使えない魔法が遺伝するとなれば話は別だ。

貴族からすればそんな魔法能力を持った貴族とは絶対に結婚したくないわけだ。

一族に呪いが降りかかるとなれば、それはとても看過できない。一族が衰退の一途を辿ることは間違いないだろう。

そしてガルーザの魔法は他家から呪いと、歪と判断された。

価値のある魔法能力なら祝福、そうでないなら呪いといった単純な、ある意味言ったもん勝ちの判断基準ではあるが、一度そう判断されてしまったら中々その印象は覆らない。

過去に、自分や他人の影を操る魔法が発現した貴族がいたのだが、その貴族は長い間迫害を受けていたらしい。

攻撃にも防御にも隠密にも使える非常に有用な魔法であったにも関わらず、影を操るという印象に引っ張られ、最初に呪いと判断されてしまった。

その後その貴族が多大な功績を治めるまで、呪いの子と呼ばれ続けていたらしい。

これほどまでに一度受けた印象というものは変わりにくい。特に貴族社会では。

そしてガルーザは自分の魔法を隠していた。少なくともバルドック家には黙っていた。

しかし婿入りの段になって、受け入れ先の貴族が魔道具で確認したところ、発覚してしまった。

貴族同士での結婚ではそういった確認が良くなされるらしい。

その結果、ガルーザの歪が詳らかになってしまった。

ガルーザ自身がバルドック家に知らせていなかったという部分も良くなかった。

兄妹達と比較してあまりにも拙い魔法を家に伝える気にならなかったのだろう。

また血の歪については、貴族同士でも口にするのが憚られる内容だ。

ハルダニヤ王国の裏側の歴史では、この歪によって引き起こされた災害や、その災害を後世で防ぐために行った弾圧や虐殺がそこかしこに現れる。

こういった歴史は精々家長に伝えられる程度で、貴族内でも広く一般に教育するものではなかった。

誇りとは美しい歴史に宿るものだからだ。

歪な歴史を教える事は即ち、自尊心を傷つけ、付け入る隙を生み出し、国家の安寧を脅かす。

だからこそ、ガルーザのような正式な嫡子ではない貴族には、このような話は伝えられれていなかった。

通常であればなんの問題にもならない、歴史の影にひっそりと沈んでいくような話だ。

ところが今回は、その貴族の悪い習慣が悪く作用した。

ガルーザは自身の歪を隠そうとしてしまったのだから。

バルドック子爵家は、今回の誤解を解くために莫大な慰謝料と、優秀な兄妹を一人、もともとガルーザが婿に行く予定だった子爵家へ差し出すことによって解決した。

ガルーザのひとつ上の兄が、婿へ行った。

バルドック家にとっては大きな痛手であった。

「使えんだけならまだしも我が一族に仇なすとはな。」

バルドック家当主の最後の言葉がそれだった。

この言葉を聞いてすぐ、ガルーザは家を出た。

引き留める者は、いなかった。

その後ガルーザは冒険者として活動した。とは言え、強力な魔法が使えるわけでなく、武芸に秀でているわけでもない。

たった一つ、鼻が利くという魔法だけを頼りに、それだけに縋るように、生きていた。

ただ、ガルーザにはもう一つ才能があった。

人の機微、心の様子を観察するのが上手かった。

それが兄妹達を常に羨んでいたからか、当主の顔色を常に伺っていたからか、生まれついての物なのかは分からない。

ただこの才能は、鼻が利くという魔法と上手く繋がった。

上手くすれば、その場にいない人間の魔力の残り香を嗅いで、その軌跡を追うことが出来た。

考えていることも、足取りも。

更に、貴族であった時代、魔法や武技が拙いという事を補おうと思い、様々な知識を手にしていた。

これも功を奏した。その背景や状況を正しく認識し、次を予測する精度を上げることが出来た。

自分にはそういう能力がある、と分かったときからガルーザは人を騙すようになった。

それを使ってなんとか成り上がろうと思った。

名声を得て、金を稼いでやろうと思った。

才能がある人間を食い物にして、成り上がってやろうと。

ガルーザは上手くやった。強者に媚び、弱者を打ち据え、それを色々な建前で隠した。

ガルーザのように上手くやれる奴には多くの人間が集まった。

金がほしい貴族、楽して儲けたい冒険者。

そうして人脈が繋がり、多くの稼ぎも出せるようになった頃、大きな当たりが出た。

俺を奴隷に落とした、あの日のことだ。

マクドナルドの店が発見された。

この「当たり」はとんでもなかった。

靴一個、ペットボトル一個、ナイフ一個で莫大なお金が動くにも関わらず、店丸々一つだ。

近年、「当たり」の規模が大きくなっているのは確かだが、それでもこれほどの物は歴史上初だったろう。

発見者は後世に名を残すのは間違いない。偉大な発見だった。

…そう、偉大すぎた。

この「当たり」の話は、ガルーザが冒険者時代に、裏で手を組んでいた男爵家を超えての話となった。

子爵、伯爵を超えて王族が出てくる程のものだった。

そうなるとどうやって、どんな時に発見したのかということになる。

発見者はどんな奴だ、ということになる。

これが本当に普通の冒険者であれば、全てとはいかなくとも大部分が発見者の物となるだろう。国の買い上げという形でだが。

ところがどうやら、発見者は素性の良くない者かも知れない。

歴史に名を残す様な発見者として記されるは、素行と出自の卑しい犯罪者の名前。

これは全く看過できなかった。

なぜなら、誇りとは美しい歴史に宿るものだからだ。

歴史の本にはたった1ページ記される程度の話。

だが栄光あるハルダニヤ史実記の1ページであることは間違いない。

晩酌にワインを飲むかエールを飲むか。王族、貴族達はそれを決める程度の迷いを見せた後、歴史の書き換えを行った。

そしてハルダニヤ王国の貴族当主達の間でのみ、語られる影の歴史が、1ページ増えた。

「これが俺が奴から聞いた話と、俺が集めた情報を合わせた話だ。」

メディンは、俺達を馬車で近くの町まで案内した後、森に入っていった。

その道すがら聞いた話がこれだ。

そして道と言えるような言えないような。そんな獣道を数時間進んだ後、山小屋が出てきた。

ガルーザはここにいるという。

「そうか。…あんたはなんで、ガルーザを匿ってるんだ?必要なものを届けてるのはあんただろ?今の話だとガルーザが生きてるのは不味いんじゃ無いのか?というより何故他の大陸に逃げない?」

「必要な物って程じゃない。奴が狩る獣や植物と金を交換してるだけだ。さっきも言ったが奴は魔力の匂いを嗅げる。だから狩りはそこそこ得意なんだよ。奴が狩れる魔物に限定されるがな。」

「…話をそらすなよ。何故殺さない?奴は何故逃げない?」

「…さてな。奴が逃げないのは…わからねぇな。まだ復活の目があると思ってるんじゃ無いのか?まぁ、本人に聞いてみると言い。」

…言うつもりはないか。

メディンがガルーザを助ける理由が分からない。つまり、最悪奴の味方だという線は消えない。

となると…、最悪後ろから殴られる事も想定しなけりゃならないか。

…信じると決めた後にすぐ疑う。俺って奴は全く成長しない。やめろやめろ。こういう事は考えない。考えない。

俺達を後から追ってきてるのが、ワック、モニ男。

村で待っているのが、ハミン、リザ。

そしてメディンと一緒に来たのが、俺、佑樹、ヴァル、アルト様。

まぁ皆メディンを疑ってるだろうし、俺一人が信じて立って問題ないだろ。うん。

「おい。ショー。とっとと行って来い。私とヴァルはここで待つ。むさ苦しい所に入るのはゴメンだ。」

「おいおいアルト様ひでぇじゃん…。まぁ貴族のお嬢様なら当然か。確かに男クセェ家だからな。」

「…じゃあ翔。俺とお前で行くか。」

「…ああ。」

助かった。さすがアルト様は、メディンから目を離す事が得策ではないとわかってるようだ。

…はぁ~。

しかし本当に小屋だな。

プレハブ小屋をそのまま木造にしたみたいな。…本当にいるのか?

…いやいるな。俺の砂塵・土蜘蛛に反応してる人間が一人いる。

…なんかテーブルに突っ伏してるけど。

大丈夫か?これ。

「おい。ガルーザ。開けろ。」

…。

…。

…全然反応しない。中のやつも動かない。

っていうか死んでないか?…いや大丈夫だ。息はしてる。寝てるのか?

「おい!ガルーザ!いるんだろ!開けろ!」

…全く動かない。

上等じゃん?

「返事がないなら勝手に開けるぞ!こら!」

うむわっ!

何だこれ?!

「うぉ…ッエホ、ゴホッ!」

「うわ…翔これ…。酒臭ぇ…。」

「あ”あ”?なんだメディンがぁ?」

そこには大分やつれた無精髭の、酒浸りのガルーザがいた。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「…随分と惨めな姿じゃねぇか?ガルーザ。」

「…メディンじゃねぇのか?誰だ。てめぇは。ヒック。」

俺が誰かも分からねぇか。糞酔っ払いが。

「佑樹。やってくれ。」

「良いのか?マジで?」

「ああ。遠慮なくぶっ掛けてくれ。」

「あ”あ”?何言って…ゴワッ!」

こいつの話を最後まで聞く必要なんて無いからな。

取り敢えず佑樹に魔法で出してもらった水球を叩きつけてもらった。

…水球出す速さも大きさも上達してるな。

「い、いきなり何をゴゴッ」

あ、ついでに少し飲もう。ここまで歩いて喉乾いた。

コップは俺の土魔法ですぐ作れるからな。

「…上手い。なんで魔法の水がこんなに上手いんだ。」

「…ミネラルとかなんかそんなん入れてるイメージで作ってみた。っつーか俺にもコップ作ってくれよ。」

「はいよ。」

「サンキュ…重ッ。なんだこれ。めちゃくちゃ重いんだけど。」

「最強に硬いコップにしといた。いつでもどこでも使える。」

「無駄じゃねぇ…?おい、メリィお前コップに直接入ってくるんじゃねぇよ。あ~あ…なんか出汁とってるみたいになってんじゃん。」

「ギュハッ!ギュハッ!ギュハァ~~…!」

「最近佑樹メリィに絡まれてるよな?なんでだ?」

「いやわかんねぇよ。っていうかこいつどんな生物?妖精?精霊?そういう動物?魔物?」

「それがモニもわかんねぇって言うんだよ。まぁ触れないし魔物とか動物じゃ無いと思うんだがなぁ。かと言ってなぁ?妖…精…?」

「まぁ…妖精じゃ無いよな…。」

「ハァ~~~…。ギュペッ!」

あ。コップの水を吐き掛けた。佑樹に。

「…。」

「…。」

いやわかる。わかるよぉ~。

この際限無く人をムカつかせる才能。言っとくけどまだまだだぞう?こいつ触れないからどんどん調子に乗るから。

あ。コップごと捨てた。

俺の最高傑作が…。実はこっそり底に銘を入れてたんだが。翔って。

「ギュハ?!イギャハ~~ン…」

ああ…。コップ捨ててもあいつすり抜けるからな。空中に留まったまんまだ。

胸と股を両手で隠してるのが本当にムカつく。

「…。…で水はこれくらいでいいか?」

シカトすることに決めたか。それ正解。

「ああ…。なんか洗濯機に放り込まれたみたいになってんな。」

「洗濯機。懐かしいわ~。その言葉がすでに懐かしい。」

「俺も言ってすげぇ懐かしくなった。」

「ッグハ!!…ハァ!…ハァ!なん…一体なん…だ…よ。」

洗濯に使った水は細い紐みたいにして外に持っていっている。

やっぱり佑樹、魔法の腕上がってんなぁ。

「っとぉ…。酔は醒めたかよガルーザ。それともまだ水が飲みたいか?」

松明程度の火を魔法で出して…部屋汚ったねぇな…。

ま、さっき水で洗濯したせいでもあるけど。ガルーザ暴れてたからなぁ。

「ほら。明るくなったんだからわかるだろ?それとも覚えてねぇか?てめぇが奴隷に落とした奴の面は覚えてねぇか?」

「…てめ…ぇは…兎狩りのルーキー?…生きて、たのか…。」

俺を思い出したガルーザの目には、驚きと恐怖が宿っていた。
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