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第9章 英傑の朝 後編
第90話 仲間の証
しおりを挟む三眼の里近くの浮島からナガルス総本家浮島を経由し、俺達は今、迷宮都市上空の浮島で待機している。
今はちょうど昼辺り。
作戦はこうだ。
誰にも見つからな夜に都市に忍び込み、そのままこっそりと狐狸の迷宮に侵入。
仲立さんの探索を開始する。
作戦はこれだけ。
王都での情報収集の時は、情報の聞き込みや、人に会わざるを得ない時は変身の魔道具を使って変装していた。
しかし今回は迷宮の攻略。
情報よりも戦力だ。
変身の魔道具を使っても魔力の量や扱いの技量が変わるわけではないが、体重や体の大きさ、人によっては性別まで変わるから、どうしても動きに違和感が出る。
真剣に戦おうとしたら変身の魔道具は必ず外す。
迷宮に入ってから外しても良いのだが、変身を解いても少しの間違和感が残っていたりする。
だったら最初から変身しない方向で行こう、という事になった。
というかもう変身は嫌だ。もう嫌だ…。
深夜に迷宮に侵入すれば、あの都市なら気にする奴等もいないだろうという見込みもあった。
だから深夜になるまでこの浮島で待機している。
それに迷宮に入るための準備は迷宮都市内では出来ないため、ナガルス総本家を経由した際、ワックに買い出しを頼んだ。
早ければ今日の深夜に迷宮に入れるが、もう少し掛かるかも知れない。
最近は少しハードスケジュールだったからちょうどいい休憩と思おう。
急いでいるのは確かだが、今までの様に何処に行けばいいか、何をしたら良いか分からない状態でもない。
行く先が決まってて、何をすれば良いか明確ならば、一日二日を惜しむ必要も無いだろう、という事だ。
迷宮の何処にいるかはわからないけど、国中を探すよりはましだろう。
ワック自身も、他のナガルス族に買い出しを指示した後、直ぐにこちらに向かうそうだから、多少は休めると思う。
いや言い訳かもな。
皆の集中力は確かに落ちている。ここで少しは休まないとやっていけない。
それに迷宮で直ぐに仲立さんを見つけられればいいが、そうでない可能性が高い。
ならこの機会に出来るだけ備えておいた方が良いだろう。
なんてったって、迷宮の専門家がいないんだから。
迷宮の攻略に挑戦した経験があるのは、ワック、ガルーザだ。
しかし低層までだそうで、深い階層の迷宮に潜ったわけではない。知識はあるが、実経験は少ない。
俺と佑樹も一応、地竜山の迷宮に潜っていたが、あれは罠の一切ない迷宮。
これを経験にカウントしても良いのだろうか?
美紀さんも師匠のフレーズ・ナーンと共に迷宮に入って稼いでいた時期もあるらしい。
狐狸の迷宮ほどではないが、罠もあり、敵も強い一般的な迷宮だったらしい。
少なくとも俺達二人よりもよっぽど迷宮の経験があると思っていいだろうな。
いやもしかしたら一番迷宮に潜った経験があるかも知れない。
そして迷宮に入った経験の全く無い、アルトとハミン。
普通は怖がってもおかしくないのだが、冒険者病のアルトのテンションが徐々に上がっていってるのがわかる。
「迷宮か…。遂に挑戦することになってしまったな。私の力が何処まで通用するか…。」
「まぁ落ち着いて下さいよアルト様。不安もあるでしょうが、この三眼の巫女…の姉である私が付いていれば何の問題もありません。今私には運命が味方している…。」
しかも三眼の里から無事に帰ってこれたからか、ハミンの気分も上がり調子だ。
「ははっ。言うじゃないか、ハミン。だが三眼の民は戦いが苦手なんだろう?迷宮では足手まといになってしまうんじゃないか?ふっふっ。」
「言ってくれるじゃありませんか。もうアルト様のご飯は作りません。」
「なぁ?!ちょ、ちょっとした冗談じゃないか!?仲間同士の軽いやり取りだろ?!冒険者達はそういう事するって言ってたぞ!?」
なんかアルトって冒険者とか庶民の暮らしとかに憧れてる節があるよな。
それこそがお嬢様っぽい考え方だと思うけど。
父親に着いてまわって政治は学んだらしいが、領の外には殆ど出ていなかったらしいからな。こういう、正に冒険っていうのは初めてなんだろう。
ヴァルが言うには、実はこっそり身分を隠して冒険者登録もしていたらしい。名前と顔を隠してまで登録したんだから相当冒険に憧れがあったんだろう。
…街の人にはバレバレだったらしく、結局冒険者カードには本名で登録されていたらしい。登録後冒険者カードを見た時に恥ずかしくて何も依頼を受けず帰ってきてしまったらしいが。
その時のアルトが言うには、二度と街の奴等は信用しない、だそうだ。
ヴァルは、あれだけ街の人に好かれてる貴族もいないんだけどねぇ、まぁそこがアルト様の可愛い所だよね、と言ってた。
俺が居ない内にヴァルがどんどん大人になっていた。今の所俺とアルトは周回遅れの模様。
ちなみに長期間依頼を受けないと冒険者としての資格は剥奪されるのだが、冒険者ギルド側も権力者側とのコネクションは維持したいらしく、特別措置として長兄級にも関わらず未だに冒険者ギルドに籍があるらしい。
冒険者は権力とか権力者とかを嫌う文化があると思ってたけどそうでも無いんだろうか。
あの潔癖のアルトが、特別措置などいらない!と突っぱねない辺り、冒険者に相当の憧れがあるのがわかる。
なまじザリー公爵領は治安が良く、騎士の質も高いから、例えば騎士としてのアルトの戦力が役立つ場面も少ない。
強すぎるアルトが出てくる前に老狼騎士団が片付けるそうだ。何か騎士団員の作為を感じる…。
…そういう意味では迷宮に挑戦して、全力を出して敵をぶっ倒せるという部分も楽しみで仕方ないのかも知れない。
実際、三眼の里の先手隊と戦った時は、前衛としてかなり頼りになった。というより、本人的には絶対まだ戦い足りないと思ってたと思う。顔がそう言っていた。
「冗談ですよ、アルト様。これも冒険者同士の冗談ですよ。私も昔に吟遊詩人兼冒険者として活動してましたからね。」
「そ、そうか?なら良いんだ…。」
アルトはポンコツ可愛いな。
「その当時も確かに私自身が戦っていた訳ではありませんでしたが…支援魔法で仲間を助けていました。」
「支援魔法?リヴェータ教徒みたいなか?」
「そうです。味方の能力を底上げする魔法ですね。三眼の民はやはり、攻撃魔法や身体強化魔法が不得意なんですよ。だからこそ我々が生き残るために編み出した技術が支援魔法です。」
「支援魔法か…。リヴェータ教のような支援魔法は好きじゃない。支援される者のその後の人生など知ったことじゃ無いと言わんばかりの…。」
「ああ…。私も見たことがありますよ。効果も高く使いやすいのですが副作用が大きいですね…。魔力も多く使うようですし。何となくリヴェータ教の支援魔法は元々違う魔法だったんじゃないか、とそう思うのですよ。」
「違う魔法か…リヴェータ教はとにかく秘密の多い宗教団体だからな。非道な魔法の一つや二つ開発してた所で驚かん。そういった魔法から派生したのかも知れん。隷属の魔法もリヴェータ教からの発信だしな。気に食わん宗教だ。…とにかくそういうことだからあまり支援魔法は好きじゃない。悪いが私には…。」
「おっとおっとぉ!そんな味方を味方とも思わないようなクズ魔法と一緒にしないで下さいよ!なんていったって私の支援魔法には副作用なんて無いんですからね!」
「何ぃ?!凄いじゃないか!?それだったら冒険者時代には組む相手には困らなかったんじゃないのか?っていうか何でそんな凄い魔法が知られてないんだ…。」
「勿論組む相手には困りませんでしたよ。ただ…この支援魔法を使えるのは三眼の民だけで、この人達はあまり国の外に出ないんですよね。だから知られていないと言うか、勝手に奥義みたいな感じになってると言うか。」
「いやいや。素晴らしい能力なのは変わりないじゃないか。幾つもの支援魔法を重ね掛けすることだって出来るんだろう?」
「いや…そういう方法もあるにはありますが一人では無理というか…。基本的に一つか二つ程度が限界です。それに重ね掛けする能力も限られた組み合わせですし…。」
「?どういうことだ?1つ目の支援魔法を掛けた後、2つ目の支援魔法を掛ければ良いじゃないか。」
「リヴェータ教の支援魔法は印と呪文で掛けてると思いますが、我々の支援魔法は歌と詩で掛けるのですよ。つまり歌っている間しか支援魔法の効果はなく、詩の内容で効果も決まってしまうということです。三眼の民はこの魔法を子供の頃から習うから、もし彼等が外に出たとしても吟遊詩人として食っていけると思うんですけどねぇ~。」
「…もしその詩と歌を敵が聞いていたらどうなるんだ?」
「支援されちゃいますね。敵も。」
「駄目じゃないか?!全っ然使えない魔法じゃないか!?」
「ちょっと!人聞き悪いですね!そんな駄目な魔法な訳ないですよ!ちゃんと解決する方法はあるんです。自分で作った豊受の印を、予め味方に印しておくんですよ。そうすれば波長を味方にだけ合わせることが出来て、味方だけ支援することが出来ます。ね?問題ないでしょう?」
「成程…。しかし随分と手間がかかるんだな?」
「まぁなんにも無いと本当に誰にでも支援が掛かってしまいますからね。敵が魔物とかだったら殆ど問題ないのですが、言葉を解する種族だとこういう準備が必要なんですよ。それにこの魔法の凄いところは副作用が無いだけじゃなくて、印をつけておけば一気に全員に支援を掛けられるんですよ!これは凄いことですよぉ?」
「む…確かに…。味方全体に支援魔法が掛けられるならそれはとんでもない効果だ。その魅力は計り知れない。しかし大丈夫なのか?ものすごく目立ちそうだが?」
「まぁ…目立ちますね。敵の後衛とかに遠距離攻撃とかで狙われるのはしょっちゅうですよ。物陰に隠れたり盾を持ったりしますが…やっぱり味方に守ってもらうのが確実ですかね。そういうのに気が回らなくなっちゃうので。」
「ふむ…では早速その豊受の印をつけてくれ。全員つけるだろ?」
「そうですね。それが良いでしょう。それでは皆さん失礼して…。」
そう言って半ば強制的に印をつけられていく。
戦闘中、なるべく素肌が見える所が良いらしい。
服の下でも構わないが、そうでないほうが調子がいい場合が多いとのこと。本人も理由はよく分からないようだ。
豊受の印…不思議な魔法だな。インクで塗りたくる訳でもなく、タトゥーみたいなものでもなく…う~ん…肌の色が変わっている様な…?
「これって戻せるのか?」
「戻せませんよ?」
「え?!おい!な…!そういうのはまず初めに言うべきことじゃ無いの?!」
「別に良いじゃありませんかショー様。支援が受けられるだけの効果ですよ?得はあっても損は無いでしょう?」
「う…ん。まぁそう、か。そうか?」
いやだってこんな首の横に書いちゃって。
なんか凄いイキってるみたいな感じになってるじゃん。
…模様自体は三本の線が捻り合ってるだけだから大丈夫か?
ハミンのことだから、ハミン天才、とか、ハミンLOVEとか書かれると思った。
そんなんなったら恋人の名前を自分の体に彫る痛い奴になっちゃうじゃん。…いやモニの名前だったら良いかな?
「さて…これで取り敢えず全員に印をつけられました。ワックさんは後でしますね。そういうことですので、私は戦闘中は後ろに下がって歌ってます。ちゃんと守ってくださいよ。」
「任せろ。ハミン。私が決して攻撃をお前の所まで届けさせんさ。そう言えば支援魔法はどんな種類があるんだ?それによって立てられる戦略も変わってくるだろう?」
確かに。それはそうだろう。
「そうですねぇ。戦闘に使えそうなのは…精神の高揚と身体能力を向上させる勇者の歌。精神的な状態異常を回復する精霊達の鎮魂歌。肉体の自然治癒力を増加させる聖女達の賛美歌。魔力を増加させ消費を激減させる魔道士の酔歌、体が異常に頑強になる聖グゥオンの朗読、とかでしょうか。反射神経がすごく良くなる名もなき虫達の国歌とかも使えるかな?あとは…まぁそんな所です。他にもありますが、使えそうなのはこんなもんですかね。」
「へぇ~、凄いな。ハミン。先手隊の時に何で使わなかったとは思ってたけど、敵も支援されてしまうわけね。でも前もって準備しとけばあの時にも使えたわけか…。」
「まぁそれを言われると、申し訳ないですねぇ、ショー様。ただまさかあそこまで本格的な戦闘になるとは思って無かったんですよ。でも、今回は大丈夫。これで間違いなく支援は出来ますよ。これで戦闘にも役に立つでしょう?」
「確かに…どう思う?ガルーザ。」
俺は美紀さんと話してるガルーザに聞いた。
「…取り敢えず、ナカダチって奴の匂いは覚えた。あんたがそのナイフを持ってて良かったぜ。ミキ嬢。こいつは返すぜ。」
「ええ。これで捜索が捗るなら幾らでも協力する。」
今、ガルーザには仲立さんの匂い…香色を覚えてもらっている。
人の香色を覚えるためには、本人に会うか、本人が長く肌身離さず持っていた様な物があると良いらしい。
美紀さんは、ハルダニヤ国から佑樹の捜索を依頼される前、仲立さん本人からナイフを貰っていた。
俺が奴隷時代、ガークと仲立さんと俺のために作ったナイフだ。
ガーク会派の印が入ったそのナイフは、大分長く仲立さんに使い込まれていたらしい。
ガルーザは、美紀さんが懐から大事そうに出したナイフを受け取り、丹念に見て、慎重に嗅いで、入念に触っていた。
時間にして…どれくらいだろうか。優に5時間は過ぎてたと思うが。
物凄い集中力だな、と思うと同時に、随分丁寧にナイフを扱うな、という印象も受けた。
もっと乱暴に扱う印象があったからだ。
丁寧な扱いだからか、最初は落ち着かない様子だった美紀さんも、途中から気にしなくなっていた。
ナイフを返し、煙草を燻らせながらガルーザは言う。
「…フゥー…。…なぜそれを俺に聞く?ショー。」
「必要だからだ。戦闘中の指揮をお前に任せたい。」
「…お前は馬鹿なのか?失敗の出来ない依頼で俺に任せてどうするよ。お前がやらなきゃならねぇだろ。」
「その通り。絶対に失敗できない仕事だ。だからこそ、戦闘中の指揮はお前に任せたい。俺は個人で戦う分には…それなりだとは思うが、人を指揮して戦わせるってのは苦手だ。少なくとも経験も能力も足りない。」
「違ぇよ…!良いか、能力云々の話をしてるんじゃねぇ。戦闘中の…仲間の命を担う仕事を元詐欺師にさせるもんじゃねぇだろうが。俺がわざと間違えて、お前らを危険に晒すとは考えねぇのか…!」
「そうすればお前は迷宮で死ぬ可能性が増える。狐狸の迷宮…俺達の内、誰か一人でも欠けた状態で無事に生き残れると思うのか?」
「…っち。…お前が良くても他はどう思う。指揮を執るなら俺の指示に従うのが最低条件だ。そうでないならお前が指揮をした方がまだ…。」
「私は構わんぞ。三眼の里では見事な指揮だったからな。ガルーザ。…子供の頃は様々な勉強に精を出していたそうじゃないか。」
「私も構いませんねぇ。何となく勘ですけど。」
「私も大丈夫。迷宮を攻略した経験があれば、少なくとも仲間内でそんな事をする余裕が無い事は知ってるでしょうし。」
「俺は…翔の判断に任せる。」
「…信じられねぇな。正気の沙汰じゃねぇ。俺は国じゃお尋ね者だぜ?」
「それは俺も一緒だ。っていうかお尋ね者っぷりで言ったら俺のほうが上だからな。そう考えればガルーザに指揮を移すのは順当とも言える。」
「糞下らねぇ屁理屈はそこまでにしておけよ。…はぁ。なら当然お前らの能力も教えてもらうぞ。そうでなきゃ、作戦も立てられねぇ。…ハミンさんよ。妨害魔法は何が使える。」
「えぇ…っと。」
「妨害魔法?」
「敵の動きを…阻害する魔法だ。歌って味方を支援するなら、歌って敵を妨害する魔法だってあっておかしくねぇだろ。というより必ずあるはずだ。」
「まぁ…あるはあるのですが…。…あまり好きじゃないと言うかなんというか。それに迷宮だから敵は魔物しかいないでしょう?支援魔法が効いてしまう可能性はかなり低いですが、妨害魔法もほぼ効かないんですよ。なんて言ったって言葉を理解できないんですから。」
「魔物には効かないかもな。だが俺達が追ってる奴等には効くだろう。」
「それは…仲立さん達の事か?それなら大丈夫だ。こっちには美紀さんも居るし、俺も居る。敵として来たんじゃないんだ。いやむしろ、保護しようと思ってるくらいなんだから、戦闘になるわけがない。」
「ならないかも知れないし、なるかも知れない。こちらが殺すつもりは無いにしろ、もしかしたら押さえつけなきゃならん場合もあるかも知れん。」
「向こうと戦闘になるなら…私は向こうに付く。マサとは戦わない。」
「それをすんなり信じてくれるのか?向こうが混乱している場合は?俺達を変装した誰かとみなされる事は無いと言えるのか?ナカダチ達以外に敵がいる可能性は?」
「…。」
「…。」
「可能性は無限にある。そのための準備は出来るだけしておく。使える手札が一つ増えればその分、選択肢の数はぐんと多くなる。取れる手段の数が強さだ。そういうことだから隠してる手札を教えろ。話せる分だけでもいい。」
「…えぇ、と。まずはですね…敵の耳鳴りが止まなくなる飛蚊の万讃歌、敵の筋力と体力を少し下げる蛭と鬼の弔歌、敵の恐怖心を増大させる魔王の凱旋歌…とかでしょうか。正直、妨害魔法は不得意で殆どこれ位しか知らないんですよ。」
「上出来だ。お前らも何が出来るのかとっとと教えろ。」
「しょうがないな…。」
そうやって俺達はガルーザに自身の能力を伝えていった。
他の奴らはどうだからわからないが、少なくとも俺は、かなりの部分を正直に話した。
確かに迷宮内ではガルーザは裏切らないかも知れない。迷宮から出ても当分大丈夫だろう。
なんて言ったって、ハルダニヤ王国のガハルフォーネ侯爵領の中にある迷宮都市…にある狐狸の迷宮だ。
そこから一人で出たとして待っているのは結局隠れて逃げる生活だ。
仕事を終え、俺達の契約の通りに別の大陸に移動するといった手段が取れなきゃ現状は良くならない。
しかし仕事を果たし、また敵になる可能性だってある。
俺はなぜこんなにスラスラ伝えたのか。
…分からない。そんなことで良いのかとも思う。
だがついさっき、ガルーザは自分の事を元詐欺師と言った。
「元」詐欺師と。
俺が自分の能力を伝えたのは、まぁ、そういうことなんだろう。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「成程…。私が準備を整えている間にそうなっていたのですね。」
「済まないワック。だが、もし君が難しいという事であるなら…。」
「いえ、ショー様の判断に従います。それに三眼の里でのガルーザ殿の指揮は素晴らしかった。ガルーザ殿が指揮をしてくださるのであれば、我等の力もさらなる高みへ向かいましょう。」
「助かる。ワック。」
「それで?ガルーザ殿は迷宮を攻略する際の戦略はあるのですか?」
「そうだな…。まず進むときは俺が先頭になって進む。仲立の匂いは覚えた。匂いを辿るためにもこれが合理的だろう。それに罠の発見にもな。更にすぐ後ろにショーが並べ。お前は敵の索敵をしろ。砂塵・土蜘蛛はかなり使える探査魔法だ。魔力の有る無し、生物無生物、空中地中を同時に探査できる魔法なんざ聞いたことがねぇ。」
「ま、逃げる期間が長かったから自然とな。これもお前のおかげさ。」
「…ふん。ショーと並ぶようにアルト嬢とミキ嬢は布陣しろ。両側からの急襲に備えるためだ。ま、盾役だな。」
「うん、分かった。」
「構わんぞ。私が先頭じゃないのが気に食わないが。」
「…戦闘時は別に考えてある。今は移動時の布陣だ。その三人の後ろにワック。その後ろにハミンは居ろ。ハミンは何もしなくていい。余計な事はするなよ。」
「はぁ~。言ってくれますね。しかも本心からそう言ってるのが腹立ちますわぁ…。ま、分かりましたよ。探索ではあまり役に立てないと思いますしね。」
「ワックはハミンを守れ。ハミンのことだけ守ってればいい。このチームの要はハミンだ。」
「お任せ下さい。」
「そして最後は、ユーキだ。ユーキは殿を努めろ。その湯気纏の長剣で後方の探索をするんだ。後ろからの不意打ちに対応しろ。」
「…わかった。」
「アルト嬢とミキ嬢は、ハミンを特に守れ。俺とショー、ユーキは探査魔法があるから急襲に対応出来る。守りは薄くていい。」
「うむ。」
「了解。」
「そして魔物や…それ以外と戦闘になったときは、この陣形を変える。と言っても、アルト嬢とミキ嬢が両脇から前衛に出るだけだ。つまり盾役だ。その後ろでショーが中衛をしろ。魔法、ポンチョで援護だ。遊撃だな。お前の…特にそのポンチョはめちゃくちゃ応用の効く武器だ。後衛の補助、前衛の補助、奇襲、防御。お前は全て出来る。戦闘時は指示が無い限り自由にしていい。」
「お、おう…。」
思いの外褒められてビビるのだが。
「俺はハミンの所まで下がる。ハミンは俺の指示に従い支援魔法を都度掛けていけ。そしてユーキ。お前は俺とハミンの護衛だ。お前の氷魔法は攻撃にも使えるが防御にも使える。やばいと思ったらとにかく氷の盾を作れ。防御が出来る戦士ってのは貴重だからな…。俺は指揮と、万一のために周囲を常に注意しておく。」
「…俺は攻撃に参加しなくても良いのか?」
「おそらく前衛と遊撃で十分な攻撃だろうな。前方への攻撃では、ほぼ俺達の出番は無いだろう。余裕があればしても構わないが…。どちらかと言えば、別方向からやってくる敵への牽制や時間稼ぎに従事してもらう。」
「…了解だ。」
「ワックはショーの補助兼代理だ。ショーが突飛な事をしだしたら中衛を変わってほしい。あんたの魔剣、放電発火だっけか?それだったら魔法で前衛を援護することも可能な筈だ。」
「…これは…随分と慣れてるようですね。何かそういった経験をしてきたのですか?」
随分と慣れた指示出しだったと俺も思う。
ワックもそう思ったんだろう。かなり驚きながら
「…戦闘力のねぇ冒険者は頭使わないと生き残れないのさ。取り敢えずはこんなもんだろう。色々と言葉以外の指示出しを決めたい所だが、短い時間に詰め込んだ所でしょうがない。そもそも戦闘スタイルが決まりだしてからそういったもんは決めたほうが効率がいい。」
なるほど…。そういうものか。
「だが、これだけは決めておく。撤退の時だ。俺が撤退と指示を出したら何が何でも撤退だ。後ろを向いて全力で逃げろ。ユーキは煙幕代わりに湯気を出しまくって敵の視界を阻害しろ。そしてショー。お前は皆をポンチョで繋げろ。見えない状況でも皆をはぐれさせないよう、誘導するためだ。お前は俺の行く方向に皆を誘導するんだ。出来るか?」
全員をポンチョで掴むようなもんか。
…出来るな。
「大丈夫だ。」
「もし仲間が負傷した状態だった場合、お前のポンチョで掴み挙げて逃げろ。三眼の民の隊長…ナーザだったっけか?あの女にしたような感じでだ。…撤退の指示が出るという事は、かなり分が悪い状況だろう。つまり殆どのやつが怪我してる可能性すら有る。最悪全員をポンチョで掴み上げて逃げなきゃならねぇ…。」
「問題ない。」
「…っは。問題ないと来たか。…ったくよ…。指示は以上だ。何か質問はあるか。」
そうガルーザが聞いたが特に質問もなさそうだ。
正直聞いただけだとほぼ完璧に感じる。
少なくとも俺はこんな指示出せない…。
そう言えば冒険者として一番活動時間が長いのはガルーザか。
ならここまで慣れているのも納得できる。…それにしては頭が切れすぎるような気もするが。
「では皆さん!迷宮内での布陣も決まったことですし、宴を開きましょう!決起会です!お酒と今日一日分の食料だけは持ってきてるんですよ!迷宮用の道具類は明日届くはずです!今日は羽目を外せる最後の日ですよ!」
「おお…ワックさん…。いえ、ワック様…。素晴らしい判断です。このハミン!宴の間中賛美歌を歌いましょう!これでお酒を飲み続けられます!」
「まじかよ…オェ…。」
「私は別にいつまでも飲み続けられるが。」
「お酒は…久しぶりだね。」
「まぁいいんじゃねぇのか。」
各々勝手な事を言って飲み始めようとしてる。
だが別に構わないか。せっかく休めるなら楽しいほうがいいしな。
っつーかもうハミンとアルトが酒を飲み始めてる。早いよ。スタートが。
「…ショー様…。」
ん?何だワック。小声でそんな…。
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時間は刻々と迫ってる。
決断の時間が。
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仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
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