ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第9章 英傑の朝 後編

第93話 残された手がかり

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「ここから逃げた形跡が無い…?そりゃ…どういう、いやまさかあの家に仲立さんが居るって事か?!」

じゃあとっととあそこを調べ…。

「待て!」

「っ…と。何だよ。早く調べるんだろ?」

「ああ…だがその家の中、香色を一切感じない。…お前の砂塵・土蜘蛛ではどうだ?」

「いや、そう言えば確かめてない…。…反応が無い、というより…中に俺の魔力が届かない?」

「…俺も湯気を出してみるか?翔。」

「頼む。佑樹。」

「…だめだ。あの小屋の中には湯気が一切入っていかねぇ。中の様子は…わかんねぇな。」

マジかよ。どういう事だ?

今まで探査できなかった場所なんてなかった。

こんな場所あるのか?

…いや、そう言えば、サイードを奴隷にしてた貴族の屋敷は探査出来なかった様な…。

しかしそこともちょっと違う。

貴族の屋敷は何というか…弾かれてるって感じだった。魔力が反発するというか…。

このレンガで出来た様な家では…消えて無くなるって感じだろうか。

全然違う。

…どちらにしろ中は分からないんだが…どうするか。

「ま、中が探査できないならしょうがねぇ。気をつけて調査する以外にやりようはねぇだろ。」

少し諦めた様にガルーザが言う。

「そうだな…。俺が行こう。ポンチョがあれば、大抵の不意打ちに耐える事が出来る。」

「頼んだ。ボス。」

そうやってみんなには下がって貰い、俺は家の前まで進む。

見れば見るほど普通の家だ。

ログハウス位の大きさだ。サイズはそれなりにあるか…。

一軒家位はある…一階建ての石、いやレンガか?

そのレンガらしき物で積み上げられた土台と壁。屋根は…木か?瓦?何だありゃ。良くわからん…。

木造の扉の脇に立ち、扉だけを開ける。

「おい!誰か居るのか!いたら返事をしてくれ!少し聞きたいことがある!」

開け放したドアの脇から大声で中に居るかもしれない人に語りかける。

「…。」

返事はない。

だがだからといって中に人がいないとは限らない。

依然として、砂塵・土蜘蛛も、香色も、湯気でも中の様子は分からない。

扉を大きく開けていても、一切魔力が入っていかないからだ。

「おい!誰かいないのか!」

もう一度だけ声を掛ける。

「…。」

当然、返事はない。

「今から中に入る!返事がない以上!攻撃してきたら敵と見なす!」

中にいるかも知れない知的生命体にそう許可を取る。

出来れば話の通じる生き物がいてほしいもんだ。

だが、魔力が家の中に入っていかずとも、空気や熱、音、僅かな匂いまではそうではないらしい。

小屋で消えてしまうのは、あくまで魔力。

開け放たれた入り口から微かに漂ってくる空気の揺れから何となく分かっていた。

恐らく中には誰もいない。人間も、どんな生き物も。

俺は念の為、警戒しながら中に入る。

ポンチョで全身を何重に覆い、更に鉄の硬度にしながら。

硬くなったポンチョからは、乾いたような軋んだような、お互いが擦れる音が聞こえる。

防御に全振りすると、隠密行動は無理だなこりゃ…。

中は…少しだけ開きっぱなしになっていた窓からの光のおかげで、多少は明るい。

そして、誰も居なかった。

中には大きなテーブルがあり、椅子がその周りに沢山ある。

テーブルも椅子もどうやら人が作ったように見える。中々の意匠だ。…多分。大分綺麗に見えるし多分腕のいい人が作ったんだと思う。多分。

大人数がここで食事をしていたんだろうという事がわかる。ベッドが一つしか無いのが良くわからないが。

家の端には、幾つも鍋が吊るされた竈があり、その上には煙が抜けるための煙突に繋がっている。

ちょっと壁は煤で汚れており、その傍には、まな板も、包丁らしき物もある。

確かにここで誰かが生活していたのだろう、という事がわかる。

奥の扉は…こりゃ…トイレか。

ボットン便所って奴か。こんな所まで石造りなのか。無駄に贅沢だな。

しかしやはり、中に人はいないみたいだな…。

…はぁ…これも、無駄足だったのか。

一体何処行っちまったんだよ仲立さん。

取り敢えず、外のみんなを呼ぶか。っていうか暗いんだよここ。窓少ししか空いてないじゃん。

うわ…結構窓に埃溜まってるな。木で出来てるから動きも詰まるし…。

「おーい!もう入って大丈夫だ!安全は確保した!」

「了解だ!」

そう言ってみんながゾロゾロと近づいてくる。

駆けつけて来ないのは、俺の話しぶりから何となく察したのだろうか。

まぁ誰もいないから安全なのは間違いないよ。安全なのはね。

はぁ…。

…明るくしたら結構中汚いな。

机にも意外と埃が…。

…。

…なんだ?これ?紙?いやちょっと厚いか?

皮?

何か書いて…日本語?

何だ何て書いてる?糞久しぶりの日本語だから忘れて…。

これ手紙か!

『端溜翔太殿へ。
     仲立正孝より。』

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

『端溜翔太殿へ。

久しぶりです。

仲立です。覚えているでしょうか。

先生と呼んだほうが良いでしょうか。いや、殲滅隊長かな?

ガーク会派の参謀としては殲滅隊長のほうが良いのかも知れませんが、同じ日本人同士、故郷の名前で呼びます。

そうしないと自分の名前すら忘れてしまいそうですから。

今、僕はエイサップさん達と共に、美紀を追っています。

彼等が僕を助けてくれ、美紀を助けるのに協力してくれました。

ナターシャさん、アベルさん、ゴムリさん、エレンザレムさん。

皆いい人です。本気で美紀のことを心配してくれます。

フレーズさんは気が入り過ぎて少々怖いですが…。

さて、詳細は省きますが、美紀を取り戻すために我々はある作戦を遂行しています。

正直、成功率はかなり高いと見ています。

しかし、その途中で、エイサップさんがどうやら我々を追ってきている者達が居ると言い始めました。

そしてどうやら、魔力の感じから我々が追っていた奴隷の男ではないか?と言っていました。

ピンと来ました。

端溜君かもしれないと。

僕は端溜君を待とうと言ったのですが、仲間の同意は得られませんでした。

特に、フレーズさんとエレンザレムさん、ナターシャさんが強く反対しました。

あいつは底知れないから逃げたほうが良い、と。

それにあの女も信頼できない、と。

端溜君は一体何をしたんですか?かなり彼女達は頑なになっていましたよ。

アベルさんとゴムリさんはそうでもなかったのですが…。

ただ、何れにしろ、端溜君を待つという選択は出来ませんでした。

君達を待っていたらとても作戦遂行に間に合いませんし、そもそも本当に僕らを追っているのが端溜君かどうかも定かではなかったからです。

僕達にとって、追手を待った上で作戦遂行にも間に合わない、というのが最悪のシナリオでした。

ならば確実に遂行できる作戦を一番に考えよう、という方向で意見が一致しました。

確かにエイサップさんの勘だけでは不安もありましたし。

我々はここで魔力を消す訓練をした後、王都に向かい、潜みます。

魔力を消すことが、様々な追手から逃げるための基本的な技術だと、エイサップさんは言っていました。

しかも王都です。王都から逃げ、ブルーポートで目撃情報がある我々がまさか王都に潜むとは誰も思わないだろう、と言っていました。

加えて、魔力を消す技術があれば、超長距離型の追跡魔法からも逃れる事が出来るとも。

しかし万が一、我々を追っているのが端溜君ならば。

この日本語の手紙を残しておけば、情報を伝えられると思い、手紙を書きました。

本当はそれすら反対されたのですが、そこは押し切りました。

端溜翔太という男は信頼できる男だと、そう押し切りました。

しかし作戦の詳細まで記すことまでは出来ませんでした。

それは不味いと。

万が一、同じ故郷出身の、端溜君と全然違う人間だった場合、作戦が漏れる可能性だってあると。

そこが許せるギリギリのラインだと。

本当は日本語だから気にせず書いても良かったんですが、フレーズさんが私は日本語も読めると脅すもので…。

しかし確かに、僕らを追っている人が、端溜君と全く関係のない日本人、という事もありえない訳じゃありません。

ナターシャさんの話を聞けば、君も、僕も、美紀も、そして勇者も日本人だと聞きました。

ならもう一人くらい日本人がいても不思議では無いのかも知れません。

ですので最悪の場合も考えて、次に我々が向かう所を記すまでとしておきます。

作戦の決行は王都で。ケリが付くまでは王都から我々は動きません。

そして一つ、お願いがあります。

どうやら君は、ナガルス族と深い繋がりがあるかもしれないと聞いています。

迷宮都市で、ナガルス族は君を守るように連れて行ったとも聞いています。美紀と一緒に。

どうか美紀をナガルスで、手厚く保護してもらえないだろうか。

そしていつか必ず、僕達はナガルス族の浮島に辿り着く。

それまでどうか、美紀のことを守ってやってくれ。

あいつは猪突猛進で、周りが見えなくなることがあるから。

それでもなお、王都へ来てくれるなら、同封している魔石を首に下げて持っていて下さい。

エイサップさんが魔力を込めてくれた物です。

これがあればエイサップさんが君に接触できます。

恐らく、王都で僕らを探し出すのは不可能だと思います。こちらから接触するのを待ってくれないでしょうか。

奴隷の時に世話になったのに、更に世話になってしまい、すまない。

だけど心の底から信頼できる友人は君しかいない。

本当にすまない。そして、ありがとう。


仲立正孝より。』

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「…。」

手紙を読んだ後、美紀さんに手渡した。

美紀さんは、急いで書き殴った様な仲立さんの文字を何度も読んでいる。

何度も、何度も。

同封されていた魔石は、細い小さな枝で出来た輪っかにはめ込まれていた。

針金程の細い木の枝が、手首に巻き付く程度の大きさになっていた。

しかし強度は結構あり、力強く握っても壊れる事も、形が崩れることすらなかった。

こんな細い枝でこんなに強度があるのが不思議だ。

大きな木から削り出したようにも見えない。

そしてそれは今、美紀さんの首に下げられている。何も知らなかったら腕輪だと思ったろうな…。

「で、どうするよ、ボス。」

美紀さんに聞こえるほどの声で、ガルーザが聞いてくる。

声を掛ける空気ではなく、かと言って美紀さんを無視して進めていい話でもない。

苦肉の策と言った所か。

「どうするって…王都に行くだろ?行けば必ず会えるわけだし。」

「だが危険は大きい。俺らにとってもエイサップ共にとってもだ。しかし奴らにはかなり信頼性の高い作戦がある、と言っている。なら浮島で待つってのも一つの手段だとは思わねぇか?」

「う~ん…確かに仲立さんが成功率が高いと言ってるんだったら…恐らくほぼ間違いなく成功する…と思う。確かに…美紀さんには浮島で待ってて貰うってのも一つの…。」

「それはしない。」

美紀さんが、優しく、響くように、しかし確かな覚悟を決めて言った。

「しかし…っすね?美紀さんには浮島で安全に待ってて貰って、俺らが王都に探しに言って仲立さんと接触するっていうのが一番危険のない…。」

「確かに、今、現在はそうかもしれないね。でも、それは今の話し。」

「う~ん…結構確実のような気がしますが…。」

「それも間違ってる。この世界に来て学んだ事は幾つもあるけど、その一つが、私達がこの先どうなるかっていうのは、私達には分からないという事。私達はこの世界について何も知らない。2,3歳児と同じような物。もし日本で2,3歳の子が絶対成功するとか、絶対安全だ、なんて言ってたらどう思う?」

絶対信じない。

少なくとも鼻で笑って終いだ。

「この世界には魔力がある。私達の世界には絶対になかった力。この魔力は…全然予想が出来ない力学。これは私の勘だけど…恐らくこの魔力って力は何でも出来る。本当になんでもね…。つまり言い方を変えれば、何でも起こり得るという事。」

確かに…。

そういった万能感?みたいな物は…確かにある。

魔力を使って不可能だと思えることが正直ない。

そりゃ魔力が足りないとか、技術が足りないとかって感じる事はある。

だが、魔力と技術さえあれば何とでも出来るんじゃないか?とも思ってる。

そういった感覚は、恐らく美紀さんにもあるんだろう。

そしてこの世界にいる人々も似たようなものなんじゃないだろうか。

予言をする巫女や、歌で人を支援する三つ目の種族なんて想像だにしなかった。

そして想像もしないことが簡単に起こるのがこの世界だ。

「確かに…それは、そう感じることはあります…。」

「だからね。何が起こっても、どんな予想外の事が起こっても乗り越えるためには、自分が行かなきゃ。自分が行って、その全てを自分で乗り越えなきゃいけない。何でも出来る、この魔力の力を使ってさ。」

「そう…かもしれません。」

「それにこういう事はやっぱり自分でやらなきゃね。仲間に命を賭けさせて、自分は安全に、なんてさ?そんなこと今はもう出来ない。本当に簡単に人が死ぬこの世界で、冗談でも後は頼むなんて言えない。」

「…分かりました。ならこのままの面子で王都に向かいましょう。今すぐ突貫で向かえば…3日と係らず…。」

「ボス。そりゃ駄目だ。」

「…何でだよガルーザ。急いでるっつーのは分かってんだろ?」

「だからこそ、だ。きっちり締めるとこ締めて行かねぇと足元掬われるってもんだ。お前ぇらの戦力がでか過ぎて忘れてるかも知れねぇが、ここは狐狸の迷宮だ。伝説級の迷宮だぞ?無理な行程で戻ればそれこそ死んじまう事だってある。」

「…。」

「一晩、ここで休み、無理のない速度で進むんだ。それが結局一番早いんだ。」

「…。…確かに、その通りだ。…美紀さん、申し訳ありません。…帰りの行程については出来るだけ急ぎますが…。」

「…うん。大丈夫。私もガルーザさんの言うことが正しいと思う。…それでも、その、出来るだけ…。」

「任せな。ミキ嬢。それにこりゃ契約の範囲内だしな。」

しょうがない。みんなの命を安く賭ける事は出来ない。

美紀さんの言ってる通りだ。賭けるなら自分ひとりだけが良い。

「早速休息を取ろう。この場所が最も安全だろうからな。ここで一旦じっくり休息をとり、中層入り口までは速攻で戻る。そこから先は、来た時と同じ隊列だ。糸は辿れるから多少は早いと思うが、進む速度はそう変わらないと思ってくれ。油断だけは出来ない迷宮だ。」

そしてガルーザは、みんなに野営の準備の指揮を出した後、再び家に戻っていった。

「?まだなにかその家に用があるのか?」

「ん?ああ。もし野営で使えるなら使っても良いと思ってな。それと他に何か手がかりが無いか、罠が無いかも確認する。迷宮にいきなり一軒家があるなんぞ、今まで聞いたこともねぇしな。一応調査がてら記録にも取っておこうと思ってな。」

「ふむ。それは私も興味があるな。こういった話は聞いたことがない。私も調べよう。追ってる奴らの手がかりが見つかるかも知れないしな。ミキも調べたらどうだ?ミキにしか分からない手がかりがあるかもしれんだろ?」

「…そうね。確かに。一度ちゃんと調べておくべきね。」

ガルーザは意外と学者肌な所があるからわかるが、アルトもこういった事に興味があるとは思わなかった。

確かに手がかりがまだある可能性だってある。美紀さんが探すことも理にかなってる。

でもアルトが調査とか…何か合わないな…。

「何だ、ショー。腐ったパンを食ったような顔をして。」

「どういう例えだよ。…いやアルトが物を調べるってのが何か珍しくて…。」

「お前は私を馬鹿にしてるのか?喧嘩をしたいなら買ってやるぞ。」

「いやいや!アルトの新しい面が見れて新鮮だよって事だよ、うん。誤解しないでくれ給え。」

「…まぁいい。食事の用意を頼むぞ。」

そういい捨てて家を調べ始めた。アルトは外側から調べるようだ。

俺も正直ちょっと調べて見たいけど飯の用意する奴も必要だからな。しょうがないか。

「まぁまぁショー様。こちらで食事の準備をしましょう。ハミン様もユーキ様もご一緒に。」

「そんな事言って、食事の準備は大体私がやる事になるじゃないですか。」

「まぁ、ハミンさんの料理は美味ぇからな。ついつい頼っちゃうんすよ。」

「そうですよ。いやぁ流石シャモーニ様の世話係です。美しいし、料理の腕も抜群なんて、世の男共はほうっておかないでしょう。」

佑樹とワックが分かり易いおべんちゃらをかましてくる。

「まぁ~そぉ~言う事でしたら?やぶさかじゃぁありませんけど?全く…戦闘でも野営でも私の支援が無いと全くもう。」

そして爆速で気分を上げるハミン。

「でも実際、ハミンの支援魔法はすげぇよ。三眼の民はハミンくらい支援魔法が使えるんだろ?もったいないよなぁ…。」

「う~ん、そうとも言えませんよショー様。結構私は歌える方ですからねぇ。それに同じ歌を歌っても効果に差が出ることだってあるわけですし。一概には言えませんよ。」

「そういうものか…。そう言えば、風魔法で笛を吹いてたよな?あれは自分で編み出したのか?」

「まさかまさか。我々はそれぞれ好みの楽器がありまして、弦楽器とかだったら問題ないんですが、吹奏楽器とかだとどうしても歌いながら奏でられないんですよねぇ。だからそういう方法も学ぶんです。」

「なるほど…。何ていうか魔法が使える世界ならではの方法だなって思ったよ。俺達の世界じゃ絶対できないからな。」

「確かに。日本だったら当然、歌ってる人間と吹いている人間を用意しなきゃならんし。っていうか楽器を弾きながら歌うってめちゃくちゃ難しそうだよな?」

俺と佑樹はやっぱり日本出身だからだろうな。ハミンの支援魔法のやり方にかなり驚いてる。

だが間違いなく日本にいたらめちゃくちゃ凄い歌手になると思う。

いや今だったらYoutuberだろうか。

「私達も複数人で支援魔法を掛ける事はありますよ。二重型、三重型、四重型とか…合唱型とかもありますね。息も魔力もあってないとなかなか効果に反映されませんけど、息があったときなんて凄いですよ。古代の大戦で合唱型支援重奏が成功したとされているそうですが…凄かったそうですね。今では人が神に至る魔法の一つに数えられている程です。」

「人が神に至る魔法…。」

聞き慣れない言葉をついつい聞き直してしまう。

「ああ…半神半人の伝説ですか。まぁ…夢を追っている人は何時でも何処かにいますからね。数は少ないにしても。」

「知ってるのか?ワック。」

「知っているって程でもありませんが…。昔から英雄が神になる、という話が各地で残っていたりするんですよ。そして当然、彼らは強く、また魔力や魔法の扱いにも長けていました。だから神に至るには魔力や魔法が強く関わると言われているんですよ。ま…学士の夢みたいな物です。皆本気で研究してるわけではありませんよ。…例外もいますが。」

「神に至る魔法ってのは…叶ったら凄いように思えるけどな?」

「雲をも掴むような話ですからね。そんな物は不可能だと言っている学士も多く居ます。彼らも霞を食っているわけでは無いので、お金がつかない研究は人気が無いみたいで…。あ、いえ、その合唱型の支援重奏という魔法を馬鹿にするつもりはなくてですね。ハミんさんの支援魔法を考えれば、むしろその魔法の凄さは想像に難くないと言いますか…。」

「物理学がいつか真理に辿り着くとか、数学がこの世の全てを解き明かすとかそういう感じじゃ無いのか?地球で言うところの。」

「ふぅん…。確かにそういうもんかもな…。まぁそういう雲をも掴むような話しに説得力をもたせちゃうほどその支援…合唱型のが凄いって事なんだろ?」

「そうですそうです。つまりはそこなんですよ。古代の大戦なんてオールドタウンの書庫街にすらない話が、合唱型支援重奏についてだけは口伝で私達の間で残っている。いつか私もそんな凄い支援魔法を作りたいのです。」

「支援魔法を作る?そんな事出来る…のか。そりゃ出来なきゃ支援魔法が存在する筈が無いもんな。」

「もちろんですよ。ちょっと歌詞を変えたとか、音程を変えて効果を良くした、とかそういうのじゃなく、全く新しい詩と歌を作って後世に語り継がれる。それこそが私の夢です。ショー様に付いてきたのもそのためですよ。」

「え?そうなの?」

「そうですよ。私の勘がビンビン言ってます。ショー様に付いていけば凄いことが経験できるって。大地に刻まれる星の記憶を詩として残し、歌にして人々の記憶へ還元する。これこそが吟遊詩人の夢であり、私の人生の目標です。あとお酒をたらふく飲むことですね。」

「なるほど…。ならそこにいる勇者が良い題材だと思いますよ?ねぇ佑樹君?」

「いえいえ。凄いことが起きる奴隷の星様のほうが適役でしょう。というよりハミンさんの勘で凄いことが起きるってもうそれだけでやばいじゃないっすか。翔太君に譲りますよ。」

「はっはっは。」

「はっはっは。」

「いやぁ~それ程でもぉ~。えっへっへ。」

「…はは。」

いや笑い事じゃないし。

悪い予感しかしないよ。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

帰りの行程は結局かなり早かった。

中層から低層に出てきた後、スピードがかなり落ちるかと思ったが、それ程でもなかった。

もちろん、俺が伸ばしていたサイードのポンチョの糸を巻き取りながら向かったから迷うことがなかった、という理由もある。

そもそも、足跡を探しながら進む必要もなかったというのもある。

しかし一番は、美紀さんの鬼気迫る戦いぶりだろうか。

中層の家に辿り着くまでは、美紀さんも他のみんなも基本的にはガルーザの指示を聞いてから行動してた。

しかし帰りの低層では、どんな敵が出てきてもまず美紀さんが突っ込む。

それに合わせる様にガルーザは指示を出し、俺達が援護する。

そういうシステムになっていった。

一番最初に美紀さんが突っ込っこんで敵を倒した後、勝手な行動はしないで欲しいと、俺とガルーザは伝えようとしたが、すぐに辞めた。

鬼気迫る様子だったからだ。

ガルーザ曰く、こういう状態になった人間には下手に何かを指示しないほうがいい、とのことだった。

彼女の意気を少しでも挫くのがもっとも悪手であると。そうなると、戦力が落ちるだけでなく、悪い効果が出ることだってあると。

やる気が無くなるだけだったらいいが、イライラして他の人間に当たりだしたり、一人で進んでしまったりと、そういう事が起こり得るらしい。

そうなれば、仲間同士で不和が生まれ相互の助け合いが無くなる。一人で進んだ先でピンチになり、それを助けるために大きな被害が出たりと、悪いことが重なることが多くなるらしい。

であれば、美紀さんの好きなようにさせて、それを周りがフォローするという方法が最も最良だと考えた。

…決して俺達が美紀さんにビビった訳ではない。

低層に来てから野営を一度挟んだが、その了解を取るのすらめちゃくちゃ緊張したのは俺が極度に疲れてたからに決まってる。

…ガルーザの野郎、野営を決めるのはボスの役目だとか言って逃げやがって…。あいつも絶対ビビってるに決まってんだよ。

その鬼気迫る様子は、美紀さんの戦闘方法にも表れていた。

迷宮に入った当初は、美紀さんはポンチョで巨人になって戦っていた。

昔、この迷宮都市で佑樹と戦った時のように、単純にポンチョで体を覆って、体を大きくして戦っていた。それでも十分強かったが。

しかし帰りの行程では、美紀さんは三眼の里で見せたような、あの姿になっていた。

下半身が獣の形をして、上半身が騎士の鎧の形。足は八本、手は六本。

更には、ポンチョで出来たバカでかい鉄球を担いだスタイルだ。

また鉄球がグギャグギャ煩いしムカつく。なんだ?この世界の意味不明な生物は人をムカつかせなきゃ気がすまないのか?

兎に角美紀さんはその鉄球を敵に投げる、投げる。

投げられた鉄球は、付いてる口で敵を噛み砕く、食べる。

食べたら大きくなって、更に食べる。

敵が鉄球だけに注目してると、その鉄球に付いた紐を巻取りながら美紀さんが敵に突っ込む。

八本の足で縦横無尽に駆け巡り、六本の腕で力任せにぶん殴っていく。

逆パターンもある。

今のは、敵が複数出てきた場合の話。

もし敵が単体で、かつものすごく強そうだった場合、まず美紀さんの右腕が飛ぶ。

正確には、ポンチョで出来た右手の小手が飛ぶのだが。

そして飛んだ右腕で敵の首や股間を掴み、繋がっている細いポンチョを巻取る勢いを利用し、さらに八本の足で加速しながら突っ込む。

とんでもなく加速された美紀さんは、その勢いのまま鉄球を敵に叩きつける。

物がぶつかる音が聞こえる前に、空気が震える感覚を経験したのは初めてだ。

ぶっちゃけそれで大体の敵は倒せる。倒せなくても致命傷を追う。

後は俺達が援護し、止めを差していく流れだ。

めちゃくちゃ凶悪だろ…。

最初の方はアルトも同じ前衛として張り合っていたが、途中から完全なサポートに回ってる。

まぁあの戦闘を見れば、張り合うのがバカバカしくなるのもわかる。

巻き込まれて死ぬのはもっと嫌だ。

美紀さんはこの状態のことをペガサスモードだと言っていた。

バカこくでねぇよ!

何ちょっとファンシーな感じにしてるんだよ!そんなんで誤魔化されるレベルじゃねーぞ!?

ケルベロスモードのほうがまだ合うっつーの!

という突っ込みを心のなかでしてたら、狐狸の迷宮の入り口に辿り着いた。

外に出ると、運が良かったことに、夜だった。

入った時と一緒だ。

監視員も居ないし、そのまま近くの浮島から、ナガルス総本山へ向かった。

中層からの脱出は、わずか2日間の時間だった。


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