ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第9章 英傑の朝 後編

第98話 永訣の朝

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「ッグ…!ッハァ…!ッガハ…!何故…!」

ナガルス様は息を荒くしながら、それでも疑問を口にする。

「何でだよ!何故古龍が戻ってる!影羽文はどうしたぁ!?」

「分かりません!れ、連絡は…来てないのです!!」

「糞!どうなってる!!」

ガークは、近くの連絡兵を怒鳴りつけてるが、兵も戸惑ってる。

影羽文は来てない。

動揺する俺たちを前に、戦いは次の段階へ進んでいく。否が応でも時間は平等だ。

俺たちに対しても、古龍と巨人に対しても。

『ー”ー”!!ー”!ー”ー”!ー”!!』

「ッ…!ッ…!!ッ……!!」

両腕を切り落とされた巨人は、光の裂け目から出た上半身をのたうち回らせながら、声とも言えない声を絞りだす。

まるでハウリングにハウリングを重ねたかのような声。

その叫びはとても人の言語とは思えず、ただの空気の振動だった。

しかしその振動は、俺達の体を震わせ、大地を震わせ心を挫く。

ハルダニヤ兵ですら、その震えに恐怖している者が居るくらいだった。

何故ならその巨人の顔には、先程までのニヤニヤした余裕のあるものではなく、憎しみと怒りがありありと浮かんでいるものだったからだ。

その表情には、この場にいる殆どの人々の膝を折る力があった。

そんな中、向こうの陣営で威風堂々としているのは、ラドチェリー王女とダックス、オセロスのみ。

彼等を再び挫こうとするかのように、巨人が攻撃を開始する。

無くなった腕では攻撃しようも無いと判断したのか、腕が無いまま再び体を弓のようにしならせた。

まるで巨人が、自分の頭を叩きつけようとしているかのようだ。

そして巨人の頭が変形していく。元々顔にくっついていた金属が、どんどん増えていく。

いやこれやっぱ頭を古龍に叩きつけようとしてるわ。あんなハンマーみたいになった巨大な頭をぶつけられたらさすがの古龍だって…。

「…ォォォ…オオオオ…。」

巨人が自らの頭を強く強化しているのを見てすぐ、古龍はその体を少し小さくし王城の上にその身を陣取った。

まるで巨人の頭を迎え撃たんとするかのごとく。

さらに大口を開けて、遠くから聞こえてくるような微かな叫びを放ち始めた。

「…オオオオ…オ"オ"オ"オ"!!」

その叫びはどんどんと大きくなり、巨人の叫びを打ち消すほどになっていく。

そして古龍の大口の前には、巨人が出てきた裂け目と同じ様な光で出来た魔法陣が作られていく。

最初は見えるか見えないほどの小さな魔法陣だったが、徐々に徐々に、円の周りに付け足すように大きくなっていく。

遂に魔法陣が古龍の半身程に達した時、一筋のか細い閃光が巨人に向けて放たれた。

放たれた一瞬は、まるで全ての時が止まったかの様な静寂だった。

いや、静寂を感じたが、それは俺の気の所為だったのかも知れない。

その閃光は、巨人のヘッドバッド開始直後に放たれているにも関わらず、巨人の頭は少しも動いて無かったんだから。

そんな静寂を感じるほどの時間の猶予は絶対になかった。

でも確かに、そう感じたのは間違いないんだ。

あるか無いかの時間のはざまに打ち込まれた閃光の直後に、それは起こった。

古龍の魔法陣から巨大な光線が放たれる。

「ぐぁっ…!」

思わず前に手を掲げながら漏れた言葉は、俺の言葉かガークの言葉か。それとも…。

光線…なのかあれは?

俺の知ってる光線と違う。

映画とかアニメとかで見てきた光線とは違う。

ただただ巨人の半身程を貫くほどの巨大な光の束。

それがものすごいスピード、ものすごい量で古龍の口…いや魔法陣から放たれている。

これは…竜のブレスって奴か?

でも竜のブレスって火とかそういうのを吐くんじゃないの?何であんなSFっぽい感じなんだ?

このファンタジーの世界にまるで場違いな気がする。

だが異色に見えるのは、間違いなく他と一線を画しているからで、つまりはとんでもない威力だと容易に想像できる。

さすがの巨人もまずいと感じたのか、放たれる寸前、弓のようにしならせた体を無理矢理ひねり、古龍のブレスを避けた。

いや、避けようとした。

とっさに自らの頭部だけは避けられたが、その体の大部分にブレスが当たってしまっている。

古龍のブレスはその太い光線が徐々に細くなっていき、遂にはその魔法陣と共に消えていった。

残ったのは、王城に聳え立つ古龍と、体の半分が丸く削られた巨人のみ。

その体でどうやって体を起こしてるんだと思うほどに削り取られている。

『矮小なる者共よいつの日か根絶やしにしてくれる…。』

そう呟いた巨人は、憎々しげな表情を隠しもせず、光の裂け目の中に消えていった。

いつか必ず殺してやると言わんばかりに周りを睨みつけ。

その双眸は、ハルダニヤ兵と、ナガルス兵達を睨みつけていた。

明らかに、こちら側も殺してやると言っている。

何となく感じていたが、あの巨人は俺達の味方って訳じゃ無かった。

光の裂け目から体を出そうとしている時、ハルダニヤ兵を殺そうとしていたが、偶にチラチラとこちらを見ていた。

ニヤニヤした顔だったから、ナガルス様の指示に従おうとしてるのかとも思ったが、違ったんだ。

お前らも殺してやるって顔だったんだ。

…とんでもないもんを召喚してくれますね、ナガルス様。

「…ッハァ!…ッハァ!!…ッガハァ!!」

もうこのまま死んでしまうんじゃ無いか?ってぐらい荒い息を吐いているナガルス様。

もう一度召喚を、ってのは間違いなく…無理だ。

最強の手札が二枚揃った向こうと、ジョーカーを失ったこちら。

戦場の形勢は、急速に向こう側に傾いている。

先程まで完全に絶望していた奴らの目は、今は生き生きと英雄を讃えている。

こちらは、巨人で向こうを更地にした後、一気に攻め込むつもりだった作戦もおじゃんだ。

ナガルス兵達も不安と焦燥に駆られているのがわかる。

何よりこちらにはもう手札がない。

そもそも古龍が来る前に全てに片を付ける予定だったんだ。

古龍と、ダックスが向こうに戦力として戻った今、俺達に勝ち目は…無いのでは?

「ガーク様!影羽文が向こうへ送れません!お、恐らく…向こうの装置は壊されています!連絡員も恐らくは…。」

「…殺されたか。畜生!古龍が封印を破ってこちらに飛んでくる時間が早すぎる!何故だ!?」

「分かりません!ただ…封印は破られておりました!連絡隊は全員斬り捨てられており…!」

「ダックスか?しかしならなおのことどうやってここに来たんだよ!?」

「魔法かなんかでこっちに飛んできたんじゃろ。少しは落ち着け、ガークよ。」

「ご母堂。転移魔法ということですか?しかしあれは我らの極秘の…。巨人の一族もいないのに…。」

「盗まれたのかもしれんし、ヴォブリー一族が漏らしたのかもしれん。向こうも似たような研究をしておったのかも知れんが、今考えても詮無いこと。…撤退しか無いか。」

最後にボソリと呟いた言葉は、負けを認めた物だった。

当初の予定から大幅にずれている。しょうがないことだ。

次はもっと別のやり方で…古龍を別の所で倒してから攻め込むか?ダックスを暗殺してから攻め込むか?

そして何度も、何度も…戦争するのか?

その間に、サイードは暗い玉の中心で息絶えるのだろう。

そしてまた新たな生贄を捧げる。

サイードの父親と母親に、なんて言えばいい?

息子さんを助けるのに失敗しました。これからもまた生贄の方よろしくおねがいします、って?

俺たちが自分の子供達を捧げて世界の崩壊を防いでるのに、ハルダニヤの奴らはのうのうと生きているのか?誰も生贄に捧げもせず。

これからずっと、涙を笑顔でごまかすような生活を続けなきゃならねぇのか。

俺とモニは、ナガルスのトップだ。…俺達の子供は生贄の候補から除外されるのかも知れない。

それを尻目に、次はお前の子供を捧げろ、とそう言うのか?俺は。

その時俺は、どんな顔をしてればいいんだ。

また。

また…吐き気がするような朝を、毎日迎えなきゃならないのか。

それを俺はずっと後悔していたんじゃ無かったのか。

それが嫌で俺は戦う事を選んだんじゃないのか。

古龍を前にして、敵が強大だからとまた生き方を変えるのか。

「俺が古龍を抑えます。」

「…婿殿。お主の覚悟は立派じゃが、敵は余りに強大じゃ。…ここは一旦引いて、別の策を…。」

「そしてその策を練っている間、また生贄を捧げるのですか。」

「お、おい、先生。落ち着けって。古龍は勝てる勝てないの相手じゃねぇ。どう生き残るかって相手なんだ。悪いが先生と他の兵士を無駄に死なせる訳にはいかねぇよ。」

「…だから、俺一人でやる。ガーク達は魔法でダックス達を牽制してくれ。」

「…そりゃいくらなんでも舐めてる。舐めてるよ先生。古龍相手に、俺達がどれだけ…。」

「古龍と戦って、無理そうだと思ったら俺を捨てて逃げればいい。撤退戦にも殿は必要だろ?」

「…話にならねぇな。あんたが部下だったらボコボコにしてやりたいが、どんなぼんくらでも立場は俺より上だ。…後はご母堂にお任せしますよ。っは。」

ガークは、やれやれといった表情で、ひょうひょうと言い放つ。だが眼は笑っていない。いや、明らかに怒ってる。

「ふぅ…。戦争前に煽ったのが良くなかったのかの。殿なぞ必要ない。見てみろ、向こうを。こちらに攻め込んでこんじゃろ。最強の手札が揃ったとは言え、結界もなしに攻めるのは危険と判断しておる。まだ儂が召喚できると思っておるのかもしれん。どちらにせよ、逃げるならどうぞ、と言っておる。」

「…。」

「だが一度、攻撃へ転じれば、容赦はしないであろう。今が逃げるための最後の機会じゃ。全ての兵が犠牲になるやも知れぬ。お主はそれでも戦うと申すか。全ての兵達に死ねと?」

「…皆、その覚悟はあるのでは無いのですか。」

「…もちろん、そうであろう。だが将たる者として、その覚悟に甘えるわけには…。」

「ではいつ倒すというのですか。また同じ方法を使って封印するのですか?同じ手が二度使えるとは思えません。新しい作戦、技術を得るのにまた長い時間が掛かるでしょう。そしてその間、生贄を捧げ続けろと言うのですか。これが最後の戦争だと、民に言ったその口で。」

「おいショー手前ぇ…。」

「…毎日毎日。朝起きてあんたは死にたくなるんだ。あの時逃げずに戦っていればと、何万人もの戦士を犠牲にすれば良かったとあんたは思うんだ。生贄に捧げられた、子供達の最後の顔を思い出しながらあんたは苦しむ。」

「…。」

「あんたはわかっちゃいない。戦士達が何故戦っているのかを。いつか生贄に捧げられるかも知れない、自分の子供や孫や子孫達の為だけじゃない。一族の母たるあんたが、苦しむのが見てられないんだ…!あんたのために命を賭けてるんだ!!」

「…そうでは…儂は、そうでは…!」

「…ショー様…。どうかお願いします。我らは皆、命を捨てる覚悟は出来ておりますれば。」

「お、お主、何を勝手な…。」

名も知らぬ、俺達の側に居た魔法兵の一人がたどたどしく、言ってきた。彼は涙を流していた。

これは彼だけの思いなんだろうか。いや、違う。

誰も彼も、古龍を睨んでいる。逃げようなんざ思っちゃいない。古龍相手に逃げないって事は…死ぬ覚悟なんだ。

戦士達の覚悟はもう、出来ている。彼等は自分以外の者達のために剣を振るっているのだから。

「…古龍は俺が抑える。ダックスと他はあんた達戦士が牽制してくれ。そして残りの兵で、機会を頃合いを見て宝珠まで突っ込め。ナガルス様を護衛してな。後は宝珠をぶっ壊せばいい。…そして義母様を必ず浮島に連れて帰ってくれ。みんなきっと、会いたいだろうからな。」

「お任せください。ナガルスの英傑殿。…ですがダックスの牽制は出来ないかも知れませぬ。」

「難しいか?」

「いえ、我らが倒してしまうかも知れませんので。」

「フッ。…ッフッフ。」

「ハッハッハ。」

「…なら、後は任せた。」

「ハッ!」

「なっ!ちょっと待…!」

ナガルス様の引き止める言葉を最後まで聞かず、彼女の顔も見ず、俺は城壁の前に降り立った。

これから戦うぞと、奴らに知らしめるように、大きく前に飛び立つ様に。

ざわりと、確かに空気が変わったのがわかった。

古龍の背に乗っているオセロスの顔が驚きに染まる。

他の奴らの顔は分からない。見る必要もない。後ろの戦士達を信じると決めたから。

俺が戦うのは古龍騎士だけだ。他は考えない。考える余裕はない。

俺は集中してる。それはわかる。

大丈夫。勝算が無いわけじゃない。

古龍はでかくて強いが、遅い。飛んでいる時も、ブレスを吐いていた時も、速さは感じなかった。

ニギ・サンダーボルト程の速さはない。俺が斥引力魔法と風魔法で飛ぶほうが速い。

大丈夫、落ち着け、落ち着け。息は常に大きく吸って吐け。

一歩一歩、確実に前へ進め。

作り出した鉄球は、俺の周りに漂わせろ。結界を割ったほどの鉄球だ。必ず奴を打ち砕ける。

大きく、強くなるように、魔力を濃く、沢山込めろ。

材料は無限にある。俺ならどんなものでも、どんなものにも変えられる。

ポンチョは羽のように軽く、鉄のように硬くしろ。

肉身体強化魔法を全身に行き渡らせろ。俺の最大の力が出せるように。

砂塵・土蜘蛛を高密度にまとわせろ。後ろからの攻撃にも反発して避けられるように。

右手に引っ掛けの長剣、左手に黒いナイフを持て。武器に魔力を限界まで込めてやれ。古龍の首を掻っ切るために。

進む一歩を強く、大きくしろ。

そのまま空へ駆けろ。古龍の首に届くように。

「俺の名前は端溜翔太!古龍の首!貰い受ける!!」

決して引かぬよう、俺の名前を刻みつけろ!

「か、構え!」

ラドチェリー王女が何かを言った気がする。

だがその声は既に俺の後ろから聞こえてくる。

今までに無いくらい素早く、強く飛べている。

これこそが、俺の戦い方だと確信を持てる程に。

オセロスも古龍もこちらに気づいてない。既に奴らの真上を取っている俺に。

そのまま頭を動かすな…俺の鉄球を食らってみろ!

「っな?!」

「グルロロアア”ア”!!」

叩きつけろ叩きつけろ叩きつけろぉぉぉ!!

「ぉぉおおおお”お”!!」

最初の一発は、古龍の頭の右に当たった。ギリギリ眼に当たらないくらいだ。

そしてそれは確かに効果があった。ヤツの頭から血が出てるんだ。

ある。あるぞ。

俺の魔法に効果がある。

だが流石古龍か。当たったのは最初の一発で、それ以降は体を小さくして避けた。

でかいぶん的が大きくてやりやすいと思ってたが、まさか体を小さくするとは。

しかもその分速さも増してやがる。

…糞。全然当たらねぇ。

いや、大丈夫。大丈夫だ。

俺はポンチョと斥引力魔法で空を飛び、頭上を取ってる。奴らは低空飛行して避けることしか出来ない。

鉄球は奴に合わせて小さくしよう。その分数と速さを上げる。マシンガンだ。

「舐めんじゃねぇぞ!!」

古龍の背に乗るオセロスが、水の弾を放ってくる。

小さく、数が多く、速い。古龍の背に乗ってるだけだから奴の手は開いてるのか!

だが俺の周りの斥引力のお陰で避けられる。反発力を利用して、まるで磁石の様に避ける事が出来る。

その反発力を利用してこっちは更に鉄球を打ち込んでやるよ!

「糞がァァ!!」

オセロスは古龍の背にしがみつきながら更に水弾を放つ。その弾は徐々に徐々に大きくなる。

だがそれは悪手だよ。

俺にとっては避けやすくなるだけだ。

俺の体を超える大きさであっても避けるのは容易い…。

?!

何だ?

いつの間にか周りが白い霞が張り詰めてる?

成程。糞。さっきのでかい水弾は俺の視線を遮るためか。

この霧を出す魔法で隠れるための。

古龍とオセロスは見事に霧に隠れてる。いやもうこれは雲だ。雲が王都に降り立ったかのようだ。

まるで高い空の上で戦ってるようだ。くそったれ。

だが…だがお前は知らねぇだろ。

俺は探査魔法のエキスパートだぜ。エイサップに辿り着いたほどのよ。

斥引力魔法の防御はできなくなるが、風魔法を王都全体に広げればお前らが何処に居るかなんて…。

「放て!!」

俺が高密度の斥引力魔法を解除したタイミングでラドチェリー王女が何か命令してる。

多分、兵に魔法を打たせてるのか?

だが俺は見ない。避ける事も防御もしない。

「防御陣展開!!」

必要ないからだ。

俺への攻撃は、全て彼等が叩き落としてくれる。

「な…!?ダックス!」

「無理です!奴らダックス様を執拗に古代魔法で…!彼は遠距離には…!!糞!近づいて来い!臆病者めら!」

「ラドチェリー王女!お下がりください!奴らの的になってしまいます!」

「っぐ…!」

ほらな。彼等はやってくれるさ。

だから俺もやるんだ。

だが、探知魔法を展開する時、一瞬のタイムラグがあったのは確かだ。

ハルダニヤ最強の古龍騎士は、その一瞬を見逃さず、地上の雲を抜けた。

いつの間にか上を取られた…!

しかもでかくなってやがる。

いつの間にか地上の雲も消えて無くなっている。

そして古龍の口から無数の炎弾が放たれる。

糞!

でかい!速い!多い!

でも避けられないってほどじゃない。


ほど、じゃない…が、低空飛行だ、と…ここまで避けにくいのか…!

そうか…上下に逃げられないんだ。平面で逃げるしか無い。逃げ道の選択肢が少なくなってるのか…!

だが…だが、忘れてねぇかよ。

地面には俺の武器になる土が無限にあるぜ。

でかく、硬く、強い鉄球を無限に撃ち続けてやるよ。そのでかい図体で避けきれ…。

「私の天空魔法を味わってみろよ…?!顕現しろ!天陽降臨!!」

「くぁっ…!!」

奴らの背後に小さな光の玉が生まれる。

朝日の前に、照らされた光は、まるで地上に降りた太陽。

ま、眩しい!見えねぇ!

こ、こんな単純な手に…!

「グギャアオオオオ!!!」

来る!

来る!!

ブレスか?!見えない!

やばい!やばい!

心臓の音がうるさい!背中がびちゃびちゃしやがる!

…いや違う!炎だ!炎のブレス!

だが範囲が広い!?これ王都中焼き尽くすのか?!

だが風の探知魔法を広げてて良かった!

これならブレスのコースもわかる!

ポンチョを柔らかく!風を沢山掴むように!

静かに早く、ブレスの下を隠れるように飛んで進め!

「…ぅっ…ぐぅ…!」

熱!あっつ…!

こ、怖え!火が近い!

当たったら死ぬ!死ぬ!

…!…!!…だが抜けた!

このでかい体のせいで、ハルダニヤ側からも隠れられてる!チャンスだ!

古龍の喉から耳の皮を、薄皮一枚挟むほどの近距離で這うように飛び…首の後ろを取った!

つまりオセロス!てめぇの背後だよ!

喰らえ!

「!!」

ヤツの背中に引っ掛けの長剣を切りつけたと思った瞬間。ヤツの姿が目の前から消えた!

は?どこ?奴?これ、影?

上!

飛んだ!古龍の背中から!古竜騎士が!

剣が来る!

避けろ!

避けろ避けろ避けろ長剣に魔力を!

「っち!何だその剣!」

避けた!避けた!

長剣を、空間に引っ掛けて避けた!

予想外の動きだったんだ!だから俺でも避けられた!

奴が持ってる槍じゃなくて剣だったのも良かった!そのまま突かれたら終わりだった!

何でわざわざ剣を抜いて攻撃した?

いやどうでもいい!兎に角助かった!

そして騎士に直接攻撃はまずい!

所詮俺は剣の素人だって忘れてた!

一対一だったら普通の剣士にも敵わない!

どうする?どうする?

古龍よりも人間の方が倒しやすいと思ったがそうじゃなかった!

なら…なら古龍しか無い!

魔法と剣で古龍を攻撃するしか無い!

でも距離は取るな!取ったらまたブレスが来る!

そうなったら避けられないかも知れない!

近くで!古龍の体のすぐ近くを、這うように飛べ!

それが一番安全だ!多分!

「ッグ…!ちょろちょろと…うざってぇ!!」

もう二度とオセロスには近づかない!近づく必要も無いほどこの古龍はでかいからな!

奴らは俺のチマチマした動きに付いてこれないな!

良し!良し!

ほら古龍!腹が、がら空きだ…ぜ!!

「ッゲェ?!」

「っげぇ?!」

引っ掛けの長剣が…お、折れた!

ぜ、全力で魔力を込めたんだぞ?!体にも剣にも!

こ、こんな簡単にポッキリいっちゃって…!

糞ぉ!

古龍には…ボディーブロー程度の効果しかねぇ!畜生!

「グルォア!!アアオ”オ”!!」

めちゃくちゃキレてやがる!

糞!動きが読めない!

でけぇ癖にジタバタあがきやがって!馬鹿野郎!

まさか剣が全然聞かねぇとは!

魔法か?!鉄球を打ち込んでやったほうが良いか?!

切らした鉄球地面から補充して…暴れんじゃねぇよ!

しょうがねぇ!鱗の隙間にナイフを引っ掛けて、体を保持…。

「グギッ!!」

…は?ナイフが刺さってる?古龍の体に?

何だ?黒のナイフは古龍に効くのか?何故?こんなちゃちい…。

「ギャァアア!!アギャギャアア!!」

痛がってやがる!

ハハッ!切りつけられるのは初めてか!

なら…このまま切り刻んでやらぁ!!

「ぁぁぁああ”あ”あ”!!」

「ギャアアア!!」

「何だてめぇ!!その武器は!こっちに来い!!」

誰が行くかよオセロス!手前ぇはそこでおとなしく…。

「だったらこっちから行ってやらぁ!!」

はぁ?!

あいつ古龍の体を走ってるぞ?!

ここ古龍の腹だぞ?!何で逆さまで落ちねぇんだよ!!でたらめだ!!

あいつと一対一じゃ敵わねぇ!

逃げろ逃げろ!バーカ!

「来んじゃねぇよ!」

「逃げんな!臆病者がぁ!」

大丈夫だ!速さはこちらが上だ!このまま古龍の皮を剥いでやるよ!

「ギャア!!アギャアア!!ギィヤァアァアアア!!」

痛えだろ?!

今まで負けない戦いは楽しかったかよ?!

圧倒的な力で踏みにじるのは楽だったか?!

これが本当の戦いだ馬鹿野郎!

「オセロォス!!」

!?

ラドチェリー王女か?何だ?

指を指して?

「炎を!」

炎?火?ブレスか?

「シンディ!!」

俺を追っていたオセロスが急に自分の頭を手で抑え、数歩下がった!

「グギャ!アッ!ッ…!」

そして古龍が痛みに耐えて姿勢を正していく。

っていうかラドチェリー王女が指差した方向ってハルダニヤ兵…。

古龍が息を吸ってる…ブレスか!狙いは…!

「ゴルァアアア!!」

ハルダニヤ兵…ナガルス様か!!

炎の!ブレスが!向こうに行く…前に…!

「間に合えぇえええ!!!」

最高の速度で飛べ!

間に合え!間に合え!届けぇ!!

「っがぁあああ!!」

間に合った!熱い!

ポンチョを広げろ!鉄のように硬く!

「ハミン!!」

「はい!!」

モニ!?

『我等の真中で、響きし撃鉄よ。

振り抜く腕に、流れる融鉄よ。

腰に備えるクリスタルの美錠と共に。

大地の恵みを我等が肉に宿らせよ。

我等の奥底に、揺蕩う水減しよ。

心の芯にて信ずる、輝く炉光よ。

その手に握るエメラルドの槌と共に。

大地の恵みを我等が闘魂に宿らせよ。

聖グゥオンの名の下に。』

これはハミンの…聖グゥオンの朗読?!

いつの間に?

ハミンはガルーザと一緒にいたんでは?!

モニとはいつの間に合流したんだ?!

いや…でもこれでかなり楽になった!

さっき見た炎のブレスとは思えない威力だ。やはり支援魔法はすげぇ。

ハミンの聖グゥオンの朗読があれば、単純な丈夫さだけじゃなく魔法の耐久力も上がるからな。

石畳が一部融ける程のブレストはとても思えない…。

…こんなに…弱かったか?

いくら何でも弱すぎないか?炎のブレスだぞ?古龍の?

ポンチョが焼け焦げもしないってのは弱すぎ…。

「オセロスを撃て!何でも良い!小石でも何でも!」

ナガルス様、何でオセロス?古龍を攻撃すべきじゃ…。

あ…。

いつの間にか炎を出してる奴が変わってる。

古龍じゃない、オセロスが炎を魔法で出してるだけだ。

何時切り替わった…ポンチョで視界を覆った時…。

古、龍…口の前、には…でかい…魔法陣…。

巨人に撃った、あの光線が…。

「撃て!!」

来る!俺が避けたら!後ろの皆が!!

土壁を出せ!

斥力を全力でかけろ!

全力で!全力で!全ての魔力を使って!!

「ああああ!!あああ!!」

ポンチョは焼け切れた!もう首に巻き付いてる分しか無い!

土壁が融ける!溶けた側から生み出せ!

斥力を!斥力を!

「魔法壁を展開しろ!何でも良い!壁になるものだったら何でも兎に角ショーの前に出せ!」

ナガルス様の声が聞こえる…。

まだ後ろは生きてる…。

でも熱い…眩しい…。

何時終わる?この苦しみは?

ああ…ああ…俺の手が…腕が…焼けて…消えていく…。

もう土壁をだす余力も無い…。

斥力だけだ…。

俺の皮膚が…溶けていく…。

頼む…後…少しだけ…。

「…耐えた!終わったぞ!婿殿!よう耐えた!引くぞお前ら!ショーを拾え!」

「ショー!ショー!!ああ…!!ショー!そんな…ぞんな”…あ”あ”!!」

ナガルス様の声が遠くで聞こえる…。

モニ…。

俺は一体どうなってる…。死ぬのか…。痛い…。

痛い…。

モニ…ごめん…モニからも貰ったペンダント…壊れちまった…。

中身も全部でて…。

ああ…ボロボロだ…ごめん…。

中に入れてた…特効薬はきれいなままかよ…不気味な薬だ…。

「ナガルス様!こ、古龍が…二発目の…ブレスを…撃とうとしてます!」

「な…!…糞お主らはショーを拾ってモニと撤退せい!儂がなんとかする!」

「何とかって何を!」

「残りを使って再召喚する!奴めを!」

「残りって…残りって何のですか!?」

「黙れ!とっとと行け!!」

ああ…失敗した…。

失敗したんだ…。ああ…。

…あ、ブレスが…完成…。

「動くなぁ!!」

…誰…だ?

…美紀…さん?

「ミ、ミキ殿?お主…ナカダチはどうした?その娘は?」

「動くな!古竜騎士!今すぐブレスをやめろ!この娘が誰だか知ってるだろう!」

「っな…!サ、サイシータさん!な、何やってんだ、い、いや、シンディ!ブレスを解除だ!」

「ッグゥゥウウ…。」

魔法陣が…消えた…。助かった…。

「手前ぇ…わかってんのか?その人は…。」

「そうだよ、オセロス。ダックスの妻だってね。ハルダニヤの英雄の妻を殺せる?」

「…。」

「…そう、そういうこと。ハルダニヤが撤退したら彼女は無傷で返す。だから…。」

「馬鹿が…。」

「そうでもないでしょ。現にあんたは手を出せない…。」

「そうじゃねぇ。…王国で最強の戦士は私じゃねぇ。ダックス・ディ・アーキテクスだぜ?」

そこから先はまるでスローモーションだった。

サイシータという女性の喉に、赤いナイフを突き立てて脅している美紀さん。

その美紀さんの後ろに、いつの間にかあらわれたダックス。

美紀さんの心臓に向けて剣を突くダックス。

美紀さんを引っ張って、剣から避けさせようとした仲立さん。

突いている途中の剣の軌道を、無理矢理変えるダックス。

そしてダックスは狙い通り、美紀さんの心臓を背中から突き刺した。引き寄せた仲立さんと共に。

二人は向い合せで、ダックスに心臓を貫かれた。

その刹那、確かに聞いた。二人の言葉。

唇は動いてなかった。喉も震えていなかった。口からは血しか出ていなかった。

「綺麗だ。」

「あなたも素敵よ。」

でも俺は確かに聞いんだ。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


…ああ。


…なんで…。

…何で二人が…死ななきゃならないんだ…。


…なんで…。



誰か…。

誰か助けて…。

二人に…。

回復魔法を…。

悪くない…二人は…。

何も…。

死んでいい人達じゃ…。


あ、あ…。


頭が…ぐちゃぐちゃに…。

ただの…学生…。


普通の…。

何故…な…。

ああ…。




…。


…。



--それじゃ、ガーク会派殲滅隊長殿。さらば。--


…仲立…さん…。

…美、紀…さ…。


…。

…。



--そういう事ならしょうがない。ま、私らも先輩として後輩が困ったら助けてやろうかな。--


…。


…。


……。






………。



















殺してやる。

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