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伝える勇気
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私が泣いてしまったことで、彼は気を使ってくれたのか、
「少し休もう」とジェスチャーをして、静かなベンチのある場所まで連れて行ってくれた。
木陰にあるベンチに腰を下ろすと、彼は紙とペンを取り出した。
何か書こうとしている――そのとき、私はそっと彼の手に触れた。
初めてじゃないはずなのに、私の手は少し震えていた。
その震えに気づいたのか、彼はゆっくりと私の手を撫でてくれた。
その優しさに、胸がいっぱいになる。
彼は、少し考えてから紙にこう書いた。
『さっき泣いてたのって……もしかして、寂しかったから?』
私は、うなずくことしかできなかった。
言葉はなくても、彼はちゃんと私の気持ちを見抜いてくれていた。
そして彼は、紙をめくり、新たにこう綴った。
『通訳さんが言ってた。自分を責めたり、寂しくなったときに泣くことがあるって。……大丈夫。もう、寂しくなんかないよ』
その言葉に、胸がぎゅっとなった。
こんなふうに誰かに寄り添ってもらえることが、こんなにも温かいなんて、私は知らなかった。
私はやっと気づいた。
――私、彼のことが好きなんだ。
涙がまたこぼれそうになったとき、彼が真剣な顔をして紙に書き始めた。
『実はね、ここ(動物園)来たの、俺、初めてなんだ。あみは? 初めて?』
私は、笑いながらうんとうなずいた。
その様子を見て、彼も微笑んだ。
そして、また紙に文字が浮かぶ。
『出会ったとき……って言いたいところだけど、あみが色々打ち明けてくれた時あるじゃん?
あの時からずっと思ってた。俺、あみのこと……守りたいって。笑わせたいって。ずっとそばにいたいって』
――それって、まさか……。
彼は続けるように紙を差し出した。
『あみがどう思ってるかはわからん。けど、これから何があっても離れたりしたくない。ずっとあみの隣にいたい。……彼氏になりたい』
その言葉に、私は一瞬、息を飲んだ。
「嘘だ」――そう思ってしまった自分がいた。
だけど彼は、もう一枚の紙に書いてくれた。
『嘘だと思ってるでしょ? 俺、本気だよ』
私は俯きながら、涙をこらえた。
でも、彼は静かに言葉を待っていてくれた。
やがて私が顔を上げると、彼がまた紙を差し出した。
『あみの気持ち……知りたい。教えて欲しいな?』
私は、紙とペンを手に取り、時間をかけて、ひとつひとつの言葉を丁寧に綴った。
――私も、同じ気持ち。
でも、親に捨てられたことで、自分に自信が持てないこと。
彼みたいな優しい人には、もっとふさわしい誰かが現れるんじゃないかって、ずっと不安だったこと。
全部、全部、書いた。
彼はそれを真剣に読んでくれた後、ゆっくりと紙に書き始めた。
『確かに、可愛い人とか、明るい子とか、施設にもいるし、これから先、告白されることもあるかもしれない。
でも、それは関係ない。俺は俺。親は親。
俺は、絶対にあみを捨てたりしないから。信じて』
その瞬間、私はもうこらえきれなかった。
涙がこぼれて、彼の言葉に、静かに「よろしくお願いします」とだけ伝えた。
彼は優しく私を抱きしめてくれた。
――まるで、夜に包まれるみたいな、温かさだった。
私はそっと彼に囁いた。
「……大好き」
彼の耳は、真っ赤だった。
きっと、照れていたんだろうな。
「少し休もう」とジェスチャーをして、静かなベンチのある場所まで連れて行ってくれた。
木陰にあるベンチに腰を下ろすと、彼は紙とペンを取り出した。
何か書こうとしている――そのとき、私はそっと彼の手に触れた。
初めてじゃないはずなのに、私の手は少し震えていた。
その震えに気づいたのか、彼はゆっくりと私の手を撫でてくれた。
その優しさに、胸がいっぱいになる。
彼は、少し考えてから紙にこう書いた。
『さっき泣いてたのって……もしかして、寂しかったから?』
私は、うなずくことしかできなかった。
言葉はなくても、彼はちゃんと私の気持ちを見抜いてくれていた。
そして彼は、紙をめくり、新たにこう綴った。
『通訳さんが言ってた。自分を責めたり、寂しくなったときに泣くことがあるって。……大丈夫。もう、寂しくなんかないよ』
その言葉に、胸がぎゅっとなった。
こんなふうに誰かに寄り添ってもらえることが、こんなにも温かいなんて、私は知らなかった。
私はやっと気づいた。
――私、彼のことが好きなんだ。
涙がまたこぼれそうになったとき、彼が真剣な顔をして紙に書き始めた。
『実はね、ここ(動物園)来たの、俺、初めてなんだ。あみは? 初めて?』
私は、笑いながらうんとうなずいた。
その様子を見て、彼も微笑んだ。
そして、また紙に文字が浮かぶ。
『出会ったとき……って言いたいところだけど、あみが色々打ち明けてくれた時あるじゃん?
あの時からずっと思ってた。俺、あみのこと……守りたいって。笑わせたいって。ずっとそばにいたいって』
――それって、まさか……。
彼は続けるように紙を差し出した。
『あみがどう思ってるかはわからん。けど、これから何があっても離れたりしたくない。ずっとあみの隣にいたい。……彼氏になりたい』
その言葉に、私は一瞬、息を飲んだ。
「嘘だ」――そう思ってしまった自分がいた。
だけど彼は、もう一枚の紙に書いてくれた。
『嘘だと思ってるでしょ? 俺、本気だよ』
私は俯きながら、涙をこらえた。
でも、彼は静かに言葉を待っていてくれた。
やがて私が顔を上げると、彼がまた紙を差し出した。
『あみの気持ち……知りたい。教えて欲しいな?』
私は、紙とペンを手に取り、時間をかけて、ひとつひとつの言葉を丁寧に綴った。
――私も、同じ気持ち。
でも、親に捨てられたことで、自分に自信が持てないこと。
彼みたいな優しい人には、もっとふさわしい誰かが現れるんじゃないかって、ずっと不安だったこと。
全部、全部、書いた。
彼はそれを真剣に読んでくれた後、ゆっくりと紙に書き始めた。
『確かに、可愛い人とか、明るい子とか、施設にもいるし、これから先、告白されることもあるかもしれない。
でも、それは関係ない。俺は俺。親は親。
俺は、絶対にあみを捨てたりしないから。信じて』
その瞬間、私はもうこらえきれなかった。
涙がこぼれて、彼の言葉に、静かに「よろしくお願いします」とだけ伝えた。
彼は優しく私を抱きしめてくれた。
――まるで、夜に包まれるみたいな、温かさだった。
私はそっと彼に囁いた。
「……大好き」
彼の耳は、真っ赤だった。
きっと、照れていたんだろうな。
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