戦闘兵器を人間にする

日明

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No.169

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1人でも街に行けるようになったゼーリッヒ。街の人が買い物の時にオマケにしてくれることも多くなった。その分ゼーリッヒも誰かが困っていたら助けることを心がけてもいた。
この日はミーシャねえさんの店で買い物をしていると、お釣りを渡されながら知ってるかい?と声をかけられた。
「何を?」
「ダリル今日誕生日なんだよ」
誕生日。それはその人が生まれた日。
生まれた人が周りの人に感謝を伝えたり、生まれたその人を祝ったりする日だ。
「ゼーリッヒになんかして貰ったらダリル大喜びだと思うよ」
ニッとイタズラっぽく笑ったミーシャから、オマケだとオレンジを貰った。
野菜と果物が入った袋を抱えて歩きながら考え込む。
ダリルの誕生日...。ダリルが喜ぶこと...。ダリルは鹿の肉が好きだ。食事も毎日美味しそうに食べている。
ダリルのために鹿肉をとろう。山菜もとって、川魚もいいかも知れない。
綺麗な石や花なんかはどうだろう。
ダリルの嬉しそうな顔を思い浮かべると、なんだか自分まで嬉しくなっている気がした。
買った食材は家に置きに帰り、ある程度の道具を持って山に向かった。
鹿を捕獲し捌いて、山菜や花をとっていたら随分山奥まで行ってしまった。辺りはもうだいぶ暗い。
ダリルが心配するかもしれないと慌てて山を駆け下りれば街の方がやけに明るい。
赤い光。それと、黒煙。
あれは...炎だ。 

街が炎に呑まれている。

全てのものを投げ捨てて走り出した。
街の皆の顔が次々と浮かんでは消える。
近づくにつれ、見覚えのある鎧と国旗に気づいた。
あれはゼネラルーー元ゼーリッヒが居た国のものだ。
家は炎に包まれ、道端に横たわる顔なじみの者たちの姿に目を見開く。絶命しているのが一目で分かる様子に全身が震えた。
真っ先にダリルの顔が頭に浮かぶ。
ダリルは強い。簡単に死ぬことは無い。
分かっているのに不安で不安で仕方なかった。
ゼネラルの兵士に見つからないように移動しながら、ダリルを探す。
街の中央の広場にダリルの姿を見つけた。距離があるが、囲まれて尚、上手く立ち回っている。傷も大きいものは見受けられない。
ほっとしながらダリルの元へ駆け寄る。だが、近づくごとに状況が見えてきた。
ゼネラルの兵士に街の子供達が捕まっている。その中にはラルクとフィーシャの姿もあった。
そして、聞こえた声に全身の毛が逆立つ。
「武器を捨てろ英雄!ガキ共の首が飛ぶ姿は見たくないだろう?」
戦闘兵器に命令を下していたあの男の声だ。
ダリルが少しの間の後、唯一の武器である剣を手放すのが見えた。
「ダリル!!」
まだ、手が届く距離にない。
ダリルの目がゼーリッヒを捕らえるのと同時に、振りあげられた剣が容赦なくダリルの体を切り裂いた。
「ダリル!!!」
倒れていく体を見ながら必死に走る、やっと傍に行けた時その傷が致命傷であることはすぐに分かった。
止血の方法を習ったはずだ。
知識はある。
なのに、体が動かない。
ダリルの掠れた声が聞こえた。
「街の皆を...頼む...」
ダリルの手がそっとゼーリッヒの頬を撫でる。
「愛してる...俺の息子...」
いつもの優しい笑みとともに、その手が力なく地面に落ちた。
「ダリル...?」
目は開いているのに、その目は虚空を見つめたままだった。
「169...?貴様169だろう!生きていたのか!丁度いい!お前ほどのものを育てるのには時間も金も膨大にかかるところだった!さぁこの街の人間を殺」
続くはずの言葉は飛んでいく首と共に消えていった。
子供達を捕らえている兵士が呆然としている最中、1人2人とその命の時が止まっていく。やっとゼーリッヒを敵と認識した頃にはその場に居た全員の兵士が死んでいた。
「ごめんね。ダリル。僕は...ダリルのよう優しい人にはなれないや」
「お前...ゼーリッヒだよな...?」
ラルクの言葉にゼーリッヒは首を横に振る。
「暫く身を隠して。皆のことは...僕が必ず守るから」
走り出したゼーリッヒを呼ぶ声に、振り返ることはしなかった。
元自国の兵士を目につく限り全て殺した。
殺して、殺して、殺し尽くし、遂には撤退の指示が出た。更に追撃しようとした刹那、腕を掴まれる。
「もういい!十分だ!!」
「ルード...」
ルードの姿を認め、意識が少しずつ正常に戻る。はっとしたゼーリッヒはルードにすがりついた。
「ルード!ダリルが!!ダリルが!!」
「...分かっている。あの人は最後までこの国の民を守り抜き、誇り高く散って行かれた。あの人のことを俺は生涯忘れない」
ダリルが死んだ。
改めてその事実が流れ込んできて、涙が溢れて叫び声も喉から溢れた。
大好きだった人を失った。辛くて、痛くて、どうしようもなく悲しい。
でも、涙も声も永遠に続くものではなくやがては枯れてしまった。
膝を抱え、うずくまっていたゼーリッヒだったがゆっくりと顔を上げ口を開いた。
「ダリルと...約束したから」
「約束?」
ルードが聞き返すと、ゼーリッヒはゆっくりと立ち上がり俯いたまま呟く。
「僕は...やっぱりいい子にはなれなかった」
「敵を殺したことを言っているのか?だとしたらそれは...」
「ルード。ダリルのお墓を作ってあげて」
「待て。何をするつもりだ」
ゼーリッヒは傷つき横たわる人々に目を向ける。
「守らなきゃいけないから。皆を。大丈夫。僕は...

戦闘兵器No.169だから」


歩き出すゼーリッヒにルードが叫んだ。
「この街に居たのは!英雄ダリルの息子のゼーリッヒだ!!戦闘兵器じゃない!!」
ルードの声に驚いて目を丸くし立ち止まっていたが、やがてゼーリッヒは振り返る。
「ありがとう。ルード」
そこに居たのは笑顔が似合う、ただの少年だった。


恩師であるダリルの葬式が終わって暫く後、ゼネラルが開発していた戦闘兵器によって滅ぼされたとルードは風の噂で聞いた。
ゼネラルを滅ぼしたのはたった一人の戦闘兵器だったと。
ノースエイシェンでは英雄ダリルとその子、英雄ゼーリッヒのことを忘れぬようおとぎ話として語り継いでいる。




ー戦闘兵器を人間にする ENDー
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