怖くていい人

明人

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通用しない目

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「未明!おはよーさん!」
校門を潜ったところで未来ちゃんが後ろからポンと背中を叩き顔を覗き込んでくる。満面の笑顔が途端にギョッとした顔になった。
「あんたどないしたん。パンダみたいに可愛くてなっとるやん」
「くまが酷くて凄い顔って言いたいんだね...。ちょっと...寝れなくて...」
「なんや悩み事かいな。うちにどーんと話してくれてええんやで!」
「いや、悩み事って訳ではなくて...」
などともごもごしながら靴を上履きに履き替えていると、未来ちゃんがお!と声をあげた。
「藍!おはよーさん!」
その名前を聞いてドキッ!と思わず反応してしまう。
「おう」
「お、おはよう!藍くん!じゃ、また教室でね!」
と私は思わず足早に教室の方に駆け出した。そんな私を見てニマーっと笑った未来ちゃんが
「なぁ、未明となんかあったん?」
「別に」
と藍くんを問い詰めていたことを私は知らない。
私は教室の自分の席に座りフーッと一息ついた。暫くして未来ちゃんと藍くんもはいってくる。藍くんと目が合うと思わず反射で目を逸らした。
その直後、相田くんが声をあげた。
「なぁ、藍と田中。お前ら付き合ってんの?」
教室が一気にざわついた。目を見開く私と表情一つ変えない藍くんは対照的だった。
「昨日ゲーセン居たよな?2で。どこまでヤッたんだよ?ラブホは止められなかったか?それとも外にいいとこあったか?今度俺にも教えてくれよ」
下世話な質問に周りの男子が笑い始める。未来ちゃんが怒鳴ろうとした直後、相田くんの顔すれすれの壁に藍くんの鞄がぶち当たる。
「それ以上くだらねぇ話するなら、喋れねぇようにしてやってもいい」
「てめぇ!」
喧嘩腰に飛び出そうとする相田くんの頬に未来ちゃんの拳が決まって吹き飛ぶ。
「あんたの脳みそは小学生で止まっとるんか!?しょーもない話しよって!そんなんやからモテんのや!あーなるほど。モテる藍が羨ましいんやろなぁ。可哀想に」
「このくそ女!!」
相田くんが立ち上がり、今度は未来ちゃんに殴りかかろうと拳を振り上げた。その刹那藍くんが相田くんの顎を蹴り飛ばし、相田くんと未来ちゃんの間には山中くんが立っていた。
「これで多少は静かになる」
そう言って教室を出て行った藍くん。
山中くんは割って入った時目をつぶっていたらしく。目の前の状況とキョトンとする未来ちゃんを見比べ、慌てて藍くんを追いかけて行った。
とりあえず落ち着いたとホッとしたのも束の間私のそばに来た未来ちゃんが耳元で囁く。
「ゲーセンって何の話なん?」
「ええとそれは...その...」
誤魔化しは明らかに通用しなさそうな目だった。
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