怖くていい人

明人

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味方

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「緑坂先生話は聞きました。私も探しますのでもう一度確認してもらえますか?」
「鬼塚先生!貴方まで私を疑うんですか!?」
未来ちゃんの良いこととは鬼塚先生に間に入ってもらい、もう一度確認してもらうということだった。
だが、気が立っている緑坂先生は鬼塚先生にも噛み付いている。対して鬼塚先生は冷静に言葉を返す。
「確認です。彼女達の目の前でもう一度ないことを証明すれば、私も証人になれます」
鬼塚先生の言葉に緑坂先生はあからさまなため息をつき、鬼塚先生に提出物のプリントの束を渡す。
鬼塚先生は黙って確認し、一つうなずく。
「確かに田中の物はありませんね」
「そんな!」
「だから言ったでしょう!鬼塚先生も生徒の嘘に惑わされて!」
苛立ちを露わにする緑坂先生に対して鬼塚先生はあくまで落ち着いて緑坂先生の机に目を向ける。
「先生、そちらにあるのは他クラスの同じ提出物ですね?」
「ええ。それが何か?」
「そちらも確認させていただいても?」
鬼塚先生の言葉に緑坂先生は机を叩いて立ち上がる。
「良い加減にしてください!何の嫌がらせですか!?生徒が課題を提出し忘れて出したと嘘をついている!ただそれだけのことだと言うのに私より彼女を信じるんですか!?」
「未明はそんなくだらん嘘はつかん!ちゃんと忘れたなら忘れたって言うわ!あんたが無くしたん未明のせいにしとるんちゃうんか!」
「じゃあこれを見たらもう変な言いがかりをつけるのはやめて全員私に謝罪してちょうだい!!いいわね!!」
緑坂先生は鬼塚先生の胸にプリントの束を叩きつけるように渡す。鬼塚先生に分けてもらい、私と未来ちゃんも手分けして探す。
「あ!!!」
未来ちゃんが大きな声をあげ、一枚のプリントを緑坂先生の眼前に突きつける。
「ほら!よう見てみぃ!!って書いてあるやろ!!やっぱあんたが無くしてたんやないか!!」
私のプリントは他のクラスのプリントに混じっていたらしく、緑坂先生は目を見開く。
「先生。貴方は生徒の言葉を信じず、一方的に罵倒した。ならば言うことがあるはずです」
「う、疑って悪かったわ。でも、私は貴方のことを思って言っているのよ!」
鬼塚先生が何かを言う前に緑坂先生は続ける。
「腐ったみかんのそばにあるみかんは同じように腐ってしまう。人間も同じなのよ。ダメな人間のそばに居たら貴方もダメな人間になってしまう。貴方の将来を心配してるのよ!」
未来ちゃんがこのババアと身を乗り出したのを私は手で静止する。
「先生が誰のことを言っているのか分かりません。でも、私が仲良くなりたいと思っている人は誰一人として腐ってなどいません。先生は皆の何を知っているんですか?表面だけを見て分かったふりをしているだけでしょう?そんな見せかけのお説教に意味なんてありません。私は未来ちゃんの、山中くんの、そして藍くんの良いところを沢山知っています。その輝きが見えないのは可哀想です」
隣に居た未来ちゃんが口笛を吹けないので口でヒュウ~と言ってくれた。
「と・こ・ろ・で緑坂せんせ、うちらになんか言うことあるんちゃう?」
「謝罪はしたでしょ!」
「はぁ?未明を疑ったことに対してだけやろうが。うちや鬼塚先生に謝ったとこなんか誰一人見とらんで。大人ならその程度のケジメは見せぇや」
ワナワナと口を震わせながら、緑坂先生は小さな声で口を開いた。
「桜音さん、鬼塚先生すみませんでした」
「はあ~??聞こえんのやけど~??」
「よせ桜音」
視線を下げたまま唇を噛んでいる緑坂先生に鬼塚先生が言う。
「我々教師は生徒を導くのが仕事です。ですが、その道を強制してはいけない。あくまで可能性を示し、生徒達自身に選んで貰わなければ意味がありません。彼らの人生は私たちの物ではありません。そして彼ら自身も中身のない物ではありません。そのことを間違えないでください」
鬼塚先生の言葉に先生震えた声ではいと答えた。
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