怖くていい人

明人

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貝になりたい

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「いや~助かったわオシやん!」
未来ちゃんが職員室から出て鬼塚先生の背中をバンバンと叩く。
「なんだその『オシやん』とは」
「鬼塚真矢しんややろ?だからオシやんやねん」
「分からん...。とにかく、また何かあれば相談には乗る。だが、桜音。スカートの丈が短い!明日までに直しておけ!」
「お洒落が分からん男やなぁ!オシやんは!」
「学校はお洒落をする場ではない!」
未来ちゃんがブーブー言う中鬼塚先生は職員室に戻って行った。
「ありがとうね。未来ちゃん。鬼塚先生に助けを求めるとは」
「この間ので1番まともなのがオシやんって分かったからなぁ。未明が嘘つく訳ないって分かっとるし」
ニカッと笑う未来ちゃんを思わず抱きしめた時、曲がり角に人影が見え去っていく足音に反射的に声をかける。
「藍くん!」
足音が止まった。やっぱり藍くんだ。
「私のこと心配して様子見に来てくれたんだよね。ありがとう。あの、私藍くんに何かしちゃって、嫌われてるかも知れないけど、私は藍くんの素敵なとこ沢山知ってるよ。凄く優しかったり、実は結構笑うとこだったり。皆はあまり気付けてはないけど、私は藍くんのそういう素敵なところ大好きだよ」
「おお!?」
意味深な未来ちゃんの声に気づかず、私は続ける。
「だから、誰に何と言われようと私は藍くんと関わっていたいし、仲良くなりたいんだけどダメかな...?」
「...てめぇの好きにしろ」
藍くんの去っていく足音を聞き、私はホッと胸を撫で下ろす。
「良かった~。藍くんが関わってもいいって!」
「いや、そこより凄いことは言ってた気がするんやけど...」
「凄いこと...?」
私は口に出した言葉を思い返し、真っ赤になってその場にうずくまった。
「私は貝になりたい...っ」
「ここではやめてもらってええかな!?すっごい目立つねん!」
私は未来ちゃんに無理矢理起こされその場を後にした。

ーーー...

教室に戻ると山中が真っ先に近寄ってきた。
「田中さん大丈夫だった!?」
「あぁ」
そう答えれば、山中は不思議そうに首を傾げる。
「藍くん大丈夫?顔赤いけど」
藍は無言で山中の頭を掴み、力を入れた。
「いたたた!!!藍くん!痛い!ゴリラかと疑うレベルだよこれ!!!」
藍が更に力を込めていると戻ってきた未来に止められ、山中は助けられたのだった。
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