怖くていい人

明人

文字の大きさ
上 下
42 / 64

広がる波紋

しおりを挟む
私は今まで欲しいものは全部手に入れてきた。
他者が羨むような美貌、知性、お金その全ても持っていた。
花巻はなまきさんおはよー」
女子連中が媚を売るため私の容姿を誉めてくる。聞き飽きたいくつもの台詞に微笑んで返事を返す。
私の人生はどうしてこんなにもつまらないんだろう。欲しいと思って手に入れた物も手に入れてみれば大したことはなかった。
「未明あの後藍お持ち帰りしたんか!?」
「変な言い方しないで未来ちゃん!お母さんが強引に誘って家で唐揚げ食べただけ!!」
廊下に響く耳障りな声に自然と目が動く。
田中未明と桜音未来。
みすぼらしいオタク女とヤンキー紛いの汚い女。
見てるのも苛立たしく感じる特に田中。聖人ぶってる言動に吐き気がする。
「実際のとこはどうなんや!?藍!一歩か二歩は大人になったんか!?」
「てめぇの言いてぇことは分からんが唐揚げは美味かった」
「良かったねぇ藍くん」
昔手に入れた男は最近私の嫌いな奴らとつるむようになった。
ここらでは負けなしの男で付き合えば私に箔がつくと思った。私の告白を断る男なんていない。案の定あいつは私の告白を受けた。
だが、どこに行ってもつまらなさそうに表情を変えず、連絡もまともに返さない。挙句
『あんた私のことどう思ってんのよ!!』
あまりにも人らしい対応もなかったあいつに嫌気が刺し、そう怒鳴った。あいつはこう返した。
『別にどうとも』
好きも嫌いもない無関心。あいつは恋人である私を一度も好きとも思わなかったのだ。
嫌いとも。
別れを切り出した時もあいつはあぁと一言相槌を打っただけだった。
「田中の家の唐揚げタワーでびびった」
「タワー??」
「うち唐揚げだけ異常な量作るの...何故か...」
「何で謎なんやそこ」
「お前がリスみてぇに飯頬張るから母ちゃん気合い入れてんじゃねぇのか?」
「リスは忘れて!!」
くだらない話。それなのに、笑ってた。
あの黎明れいめいが。
私の前では表情一つ変えなかった癖に。
なんで?
気に入らないーー
「花巻さん?どうかした?」
「...隣のクラスの田中と桜音って私嫌いなんだよね」
私の一言で波紋は大きく広がっていく。
その波紋があんたのせいって知ったらどんな顔を見せてくれるかな?
黎明
しおりを挟む

処理中です...