怖くていい人

明人

文字の大きさ
上 下
48 / 64

大量の悪意

しおりを挟む
「伊藤ー次のとこ読めー」
「あ、はい!」
やばい授業全く聞いてなかった。どこだっけと慌てて教科書を開いて硬直した。
『ブス』
『死ね』
『ウザイ』
『学校来んなよ』
覚えのある。大量の悪意が教科書に大きく綴られていた。
手が震える。何で、何でまた?
そう思った時周りも私の異変に気づいた。
「やばくないあれ?」
「伊藤いじめられてんじゃんウケるー」
「え、伊藤さんの方がなんか隣のクラスの人に嫌がらせしてたって聞いたけど」
「マジ?じゃあ自業自得じゃん」
「でも、花巻さんの指示って噂も聞いた」
「スクールカーストトップの命令か~。聞かないと確かにやばいもんねぇ」
そんな声が飛び交う。グルグルと思考は困惑したまま巡る。
先生の一喝でひとまずクラスは静まり、呆然としたまま俯いて座る私。
いつの間にか休憩時間になっていたらしく、私の席の隣に誰かが立った。
「ねぇ。伊藤さん。放課後時間ある?」
柔らかい声音に含まれた威圧感に途端に全身が震えた。ゆっくりと顔を上げればそこには薄く笑みを浮かべた花巻さんが居た。
まずい!まずい!!まずい!!
「あ、あの、ごめ「放課後三階の空き教室ね。待ってるから」
そう言って微笑んだかと思えば、去り際の鋭い睨みに冷や汗が溢れる。
行っても怖い。行かなくても怖い。どうすれば...っ
私に選択肢などなかった。
放課後、3階の空き教室。入ると既に花巻さんはいた。他のカーストトップの女の子たちと一緒に。
「待ってたよ~伊藤ちゃん」
もう下の名前でも呼んでくれない。どうにかしなければと口を開く。
「あ、あのね!私花巻さんに喜んでほしくて頑張ったんだよ!画鋲とかゴミとか体操服とか!あと教科書とかも!桜音なんか毎回叫んでて面白かったな~。ね!そうだったでしょ!」
同意を求めた途端に私の方に蹴飛ばされた椅子が飛んでくる。大きな音を立てて壁に当たった椅子。
「あたし、あんたになんかやれって言った?」
不機嫌そうに私を見下す花巻さん。
そんな花巻さんの言葉を合図にしたように周りの女子達が私に歩み寄ってくる。
愛梨あいりちゃんは桜音と田中が嫌いって言っただけだよね~」
「それで勝手に突っ走ったのあんたじゃん。馬鹿じゃないの?」
突き飛ばされ、床に倒れたところで両腕と両足が押さえられる。
「これ、なーんだ」
スマホの画面が目の前に見せつけられる。そこに写っているのは夏美だ。両手両足を縛られている。かと思えば複数の男達が現れ、夏美の服に手をかけそしてーー
絶望的な光景に恐怖心から涙が溢れた。
「まだ何もしてないのに泣き始めてんじゃんウケる。愛梨ちゃんどうする~?前の奴と同じようにしとく?お小遣いも入るし」
「いや!やめて...っ!」
「そうだね。いいかも」
「やだ!!ごめんなさい!!!」
「はーい伊藤ちゃんのストリップショー開幕~」
私のワイシャツに手が伸びた時勢いよく教室のドアが開いた。
「そこまでじゃボケぇ!」
「桜音!?」
「一部始終は撮影済みだから」
そう言って田中がスマホを見せる。
「なんで...」
全員に動揺が走る中、田中が私に近付いてきて笑う。
「いい友達は大事にしなよ」
「え...?」
田中と桜音に続いてもう1人飛び込んで来た。私の周りの女子達を突き飛ばし、勢いよく抱きしめられた。
「舞衣ちゃん...っ」
「加奈...?」
今の状況が全く理解出来ず、私は困惑するばかりだった。
しおりを挟む

処理中です...