怖くていい人

明人

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裁かれない罪

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「全部未明の予定通りに事が運んでうちもだいぶビビっとるわ」
「私もまさかこんなスムーズに事が運ぶと思ってなかったよね」
「ほんまに思うてる?」
怪訝そうな顔をする未来ちゃんに私はうんうんと何度も頷くが、納得はしてくれていなさそうだ。
私は改めて花巻さんに視線を向ける。
「いじめって言葉が悪いよね。大人になれば全てに罪の名前がつくのに。子供だからって免れる。それっておかしいと思うんだけどどうかな?」
「何が言いたい訳?第一私は何一つやれなんて命令だしてないけど」
「今回動画に撮った件は止めてなかった以上共犯には間違い無いよね?」
花巻さんは不快そうにただ私に視線を向ける。そんな花巻さんに私は言葉を続けた。
「別にあなたが私のことを嫌いでも構わないの。人間合う合わないは確実にあるから。でも他人を巻き込むのは許せないし、私も関わらないで済むならそれが1番いいの。今回の件を黙認する代わりに今後一切伊藤さんや長谷川さん未来ちゃん、私の周りの人間に関わらないって約束してくれないかな?」
「...1つ条件がある」
「何?」
花巻さんは私が来てから初めて笑みを見せた。綺麗な人だからこそ目を奪われる華やかさ。それと同じぐらい抱く言いようのない不快感が私の気持ちを引き締めた。
「明日の夜、2人で話そうよ。場所も後で知らせる。ちゃんと話し合いがしたいんだよね」
「ハァ!?何言うとんねんワレ。サシとか言いつつヤバいのぎょーさん連れてくるつもりなんやろが。そんなんノる訳ないやろ!!」
未来ちゃんがそう怒鳴ると、花巻さんは伊藤さんにスマホの動画をを見せていた子のスマホを手にし、私達に向ける。
「これ、伊藤さんの友達の子の動画なんだけど、田中さんと2人で話せたら目の前でこれ消すよ。どう?」
「そんなもん!「分かった」
未来ちゃんを遮って答えれば、予想していた通り未来ちゃんから何言うてんねん!危ないに決まっとるやろ!とバシバシ背中を叩かれた。痛い。
「ここで押し問答したって正直無駄なんだから、花巻さんが満足するなら話に乗るよ。ただし、私が行くって約束する代わりにこちらも確実にその動画を消すっていう宣言を証拠として動画に撮らせて欲しい」
「いいよ」
花巻さんは約束を声に出し、それを私は動画に収めた。そして同時に連絡先を交換し、夜に連絡するね。バイバイと花巻さんはにこやかに去っていった。
「どうするつもりやねん!未明!」
「行くよ。ちゃんと。じゃないとこの話は終わらないと思うから」
「絶対に危ないの分かっとるやろ!?ただの自己犠牲やないか!絶対アカン!ウチが許さんで!」
「でも、これはちゃんと戦わなきゃいけないことだと思うんだ。私のために、未来ちゃんや、伊藤さん達や他の人達のために」
多分きっとこの裁かれづらい悪意に苦しんでる人は沢山いる。この悪意は今から私がすることによって余計に激化するかも知れない。けど、何もしなければ確実になくならないものでもある。
「未来ちゃんに大事なお願いがあるんだけどいい?」
「当たり前やろ!何でもこんかい!」
私が未来ちゃんにお願いをすると未来ちゃんは泣きそうな顔で頷いた。
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