2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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遊びの延長線

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「こっちこっち~」
「遅いぜ!リラ!」
「ちょ、ちょっと待って・・・」
猫人族である青虎毛のノーウィルと赤虎毛のブルーノ。
この二人と遊ぶ約束をしていたリラは追いかけっこをしていた。だが、相手は俊敏な猫人族。ただの人間のリラに追いつけるはずもなく、中庭にある木の上から二人に見下ろされる結果になっていた。
リラは木の根元まで辿り着いたところで自身の膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。汗により張り付いた銀髪を手で払い、上を見上げる。
「ほら早く来なよ!」
「登れないなら手伝ってやろうか?」
無邪気に笑うノーウィルとニヤリと意地悪な笑みを浮かべるブルーノ。リラはフウと一つ息を吐き、袖をまくる。
「木登りなんて弟と妹と散々やってきたんだから舐めないでよね」
孤児院育ちのリラには多くの妹、弟がいる。彼等の相手をし続けてきたリラにとって遊びは慣れたものだ。するすると登ってき始めたリラを見て、ノーウィルとブルーノは楽しげな悲鳴をあげながら更に上へと向かう。リラもそんな二人を追いかけ上へと上がっていった。上に上がるにつれ枝は細くなっていく。その時ミシミシと嫌な音が聞こえてきた。
「おい。降りた方がいいんじゃないか?」
「そうだよ。危ないよ?」
リラよりもまだ小さく体重も軽い二人はまだ平気そうだが、リラが乗っている枝は少ししなっている。心配そうな表情を浮かべる二人にリラは答えた。
「二人が降りてきてくれるなら私も降りるんだけど?」
「負けるのはやだなー」
「心配してるんだから素直にきけよ」
「負けたくないだけでしょブルーノ!」
リラは少し意地にもなり、更に上に行くべく手を伸ばした。掴んだ枝に体重をかけた瞬間、その枝は折れ、バランスの崩れた体は流れるように宙に投げ出される。
「「リラ!!」」
二人同時に木を飛び降り、リラを受け止めようと手を伸ばす。しかし、その手が届く前にリラは受け止められた。
衝撃によって反射的に閉じたまぶたを開けば、目の前には黄金のたてがみが映った。
「レオンおじちゃん!」
「レオン団長!?」
リラを受け止めたのは猫人団団長、獅子の風貌を持つレオンだった。
「何をしている」
鋭い眼光がリラを見下ろし、リラは怒られるのかと身を縮めながら答える。
「ノーウィルとブルーノと追いかけっこを...」
「ほう...いいではないか」
予想外に褒められながらおろされ、リラは地に足を着いた。
「助けていただいてありがとうございます。レオン団長」
「まだ動けるか?」
「ええ。お陰様で怪我はありません」
「では、遊びを続けるといい」
続きが出来ると顔を輝かせるノーウィルとブルーノ。
だが、次にレオンが口にした言葉で辺りの空気が一変した。
「最も次は俺も参加するがな」
明らかに狩るものの気配を放つレオン。
溢れる気迫に鳥肌の立つリラと、毛を逆立てる二人。
「5秒やろう。逃げろ」
レオンのその一言でリラとしていた時とは比べ物にならない速さで逃げ出す二人。
リラは慌てて走り出すが、数秒後肩を強く掴まれた。
「死にたいのか?」
「い、いえ...」
「奴らを捕まえるまでここを走り続けろ」
「は、はい!」
拒否を許さぬ雰囲気にリラは反射的に頷くとレオンは一瞬にして遠くなった。
遊んでいただけだったはずなのに途端に厳しい訓練が始まった。リラは言われた通りに中庭を走り続けたのだった。
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