2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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医療団の団長マリス

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「マリス殿!!今日も魔族に有効な薬草について教えてくれ!!」
医療団にあてがわれた研究用の部屋にノックもなしに飛び込んできた男、シリウスに団長であるマリスは赤い鱗に覆われた額に皺を作った。
リラの兄、ガルディアの友人であり、オーリの妹エナを救う薬を作り上げた天才でもある彼の扱いは正直難しい。
「シリウスさん。一応あなたは客人の扱いになっているので大目に見ておりましたが、部屋に入る時ノックをするという初歩的な礼儀も知らないのですか?少なくともカーリラさんはノックをした上でお伺いをたててくれますよ」
刺々しい物言いにシリウスはニッコリと答えた。
「すまない!!」
「顔と言葉を一致させてもらっていいですかね。それとも新手の挑発ですか?」
苛立ちを覚えながらマリスは深いため息をつく。
「貴方の知識は我々にとっても有益ですからしょうがないと割り切りましょう。今日は魔族の中でも猫人族に良く効くバイン草です。鎮痛の効果があります。他種族にはあまり効果がありません」
マリスが籠の中からつまんで見せた薬草は茶色く細い小枝のようだった。
「人間には使われていない薬草だな!!種族によって効果が変わるのも面白い!!人間も男女や年齢によって効果が変わるものもあるからな。人間に効果がある鎮痛の薬草ならばモルーネ草、マリファ草などがあるが、それらはどうだ?」
「2種とも効果はあります。犬人族や鳥人族には使うことも多いです」
「ほうほう!!魔力で肉体を維持している魔族が薬草などを用いることも驚いたが、知らないことばかりで面白い!!」
「勝手に面白がらないでください。我々は肉体を維持するのにも傷を治すのにも魔力を使います。生命の維持と肉体の治療が両立出来ず、溶けてしまった仲間達を大勢見ました。だから、生命の維持のみに集中出来るよう僕達が傷の治療をするのです」
強い意志の込められたマリスの瞳にシリウスはうむ!と大きく頷いた。
「素晴らしい!!マリス殿のその志のためにも吾輩の保有する知識は全て披露しよう!」
「僕としてはありがたいことですが、分かってるんですか?貴方は人間の敵である魔族の手助けをすることになるんですよ」
「それを言ってしまえば貴殿は敵である人間から教わることになる。不快ではないのか?」
シリウスの言葉にマリスは少し考えるそぶりを見せた後口を開く。
「何も思わないことが無いわけではありません。でも、僕も救える命は全て救いたい。そのためにプライドを捻じ曲げることが必要なら喜んで地に捨てます。僕の汚れたプライドで命を繋げるなら僕はその方が嬉しいから」
シリウスは少し目を見開いた後、笑った。
「素晴らしい!!!短い間だが、貴殿ら魔族は芯の通っている者が多い!人間よりも吾輩は好感が持てる!人間は私欲のために吾輩を利用しようとする者ばかりだったが、ここでは協力は求めても利用しようとしてくる者は誰もいない。実に居心地がいい!」
「それはどうも。というかもう少し声量どうにかなりませんか。そろそろ僕の耳がイカれそうです」
「聴覚を良くする薬を作ろうではないか!!!」
「僕は薬を求めてるんじゃなくて貴方のその声量をどうにかしろって言ってるんですよ。聞いてます?」
「魔族のために働くというのも悪くないな!」
「聞いてませんよね。全く...」
呆れたようにため息をつくマリスにシリウスは先ほどとは打って変わって静かな声で問いかける。
「お前達にとって妹君...カーリラは薬なく、仲間の傷を癒せる。目障りではなかったのか?」
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