2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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特殊な人間

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オーリがエナの頭を撫でている中ズビズビと鼻をすする音がやけに耳障りだった。勿論エナではない。
オーリはため息をつき、廊下の方に声をかける。
「いつまでそこに居るつもりだ貴様ら」
オーリの呼び掛けに顔を涙でグズグズにしたリラと、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべるシリウスが部屋に入ってきた。
「感動の再会を邪魔したくなくてぇ...」
「何故お前が泣くんだ...」
「リラお姉ちゃん泣かないで」
呆れるオーリと心配してリラの手を握るエナ。そんなエナをリラは膝をついて抱きしめる。
「元気になって良かったねえー!」
リラの方は落ち着くまで放っておこうと、オーリはシリウスに目を向ける。
「エナの治療感謝する」
頭を下げれば、シリウスはニッコリと笑った。
「吾輩は完治した者の笑顔が好きなのだ。その家族の憑きものが落ちたような晴れやかな顔もな。吾輩はお前達のその表情が見れて幸せだ」
人間は野蛮で自己中心的で争いを繰り返す愚か者だとずっと思っていた。
だが、少なくとも今のオーリはそんな人間が全てではないと断言できる。
「後はお主だが、魔王の血をもう暫く飲めば魔法を使う前ほどは難しいだろうが、ある程度の魔力は戻るはずだ。魔力が戻れば自然と肉体の方も正常な機能を取り戻していくだろうと魔族の医療団長に聞いた」
魔族の医療団。治癒魔法は使えないため薬草や戦闘時の負傷兵の撤退などの指揮をとる団だ。
主に団員は蜥蜴人族。彼らは戦闘にはあまりに向かない種族だが、それぞれに個性的な特殊能力を有していることがある。そんな特殊能力見たさに医療団に入り浸ったシリウスに根負けした医療団団長の事情を眠っていたオーリは知る由もない。
「そうか。エナが無事であるなら俺はそれだけで充分だ」
「いい兄だな。ガルディアがいい魔族だと豪語する訳だ」
「は...?」
ガルディアとは敵である人間の部隊の隊長であり、リラの兄だ。あの男と大して話した覚えのないオーリは首傾げる。
「あれは引くほど妹を溺愛している。そのせいで妹を大事にする兄は無条件でいい奴認定されるのだ」
「あぁ...」
以前エナの肺病、トゥベルの症状を抑えるためのマイルビーの蜜のことで相談を持ちかけいい兄だなと泣かれたことを思い出した。
「お前達は本当に不思議だ」
「ガルディアと妹君を普通の人間達と同列に語っては驚くぞ」
特殊な人間の一人に自身は含まれていないのかと少し呆れた。
リラを泣き止ませたエナが歩み寄って来るのが見える。
「お兄ちゃん!今度はエナがお兄ちゃんの看病するからね!まずはベットに戻って。いつまで床に座ってるの」
お兄ちゃんお兄ちゃんとついて回ってよく泣いていた妹がいつの間にこんなに成長したのかと目頭が熱くなる。
「あぁ。頼む」
ベットに戻り、エナの看病を受けるオーリをリラとシリウスは見守りながらそっとその場を後にしたのだった。


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