2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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君の望み

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「どういうことだ...?」
シリーとリラの様子からただごとではないことを悟った様子のゲネルが伺うように問いかける。
リラは素直に頷き過去を語った。
「そん...な...」
口元を覆い、震えるゲネルにリラは柔らかな口調で話を続ける。
「確かに悲しいこともあったけど、でも、お蔭で私はこの城の大切な皆に出会えた。世界の歪みも知れて、魔族のために、人間のために何か出来る自分で居られる。それは私が一番嬉しいことだから。だから、ありがとう」
ふわりと微笑むリラを王が強く抱き締めた。
「へ、陛下!?」
「カーリラが、生きてここに居てくれて良かった」
「そうね。私も凄く同意だわ」
うんうんと頷くシリーに王の腕の中で赤くなりながら困惑するリラ。
その様子を見てゲネルが口を開く。 
「なら俺はカーリラの幸せのために動こう。過去の痛みを消すことは出来ないがせめて少しでも貴女のためになるように」
「ありがとうございます。でしたら、私の大切な人達を守ってほしいです。私の護衛はもう既に一人居ますし」
「俺より強いのか?」
「元魔王と比べられるとちょっと...」
まだまだ修行中であり、今も猫人団にしごかれているであろうホルン。成長途上の彼と殺戮王を同列に並べるのは話が違うだろう。
「俺の最優先はカーリラだ。だが、貴方が最も傷つくのは大切な者を失った時だろう。ならば、貴女の大切な者を守ることは必然的に貴女を守ることに繫がる。俺の力の及ぶ限り、叶えよう」
「ありがとうございます!」
ゲネルについての騒動も落ち着いた。
また少し賑やかになった日々。幸せなこの日々が続いて欲しいと思う気持ちと、危険を犯すことになるとしても成さねば生らないことが心の中でせめぎ合う。
今だけは前者の気持ちで居させて欲しい。
皆が笑っていられる時間を大事にしたい。
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