君は花のよう

明人

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破壊音

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扉を開けて入ってきた女は、目が合うか定かではない秒数で床に倒れ伏した。
「また駄目だな...。適当に馬車に詰めて送り返せ。不採用通知を一緒にな」
「承知しました」
この屋敷に来る前からメイドとして働いているヤーハは、慣れた様子で執事見習い達を呼び女を運ばせた。
主であるヴァールリックは乱暴に椅子に座り、白銀の髪を掻き上げる。
「面倒だ。僕を通さずにお前が採用を決めればいいだろう」
今日で5人目だが、内3人はリックと目が合うと3秒も経たず失神した。
「そうはいきません。坊っちゃんのお顔に耐えれる方でなければ仕事になりません。毎回倒れたのを介抱なんてする暇私には御座いませんからね」
ヤーハの言うリックの美貌は月の光を反射させているような白銀の髪に、ルビーよりも深い赤の瞳。
高めの鼻に、男性らしく薄いが淡いピンクの唇。
凛々しくありつつも、神々しささえ覚える整った顔立ちに多くの女性を卒倒させてきた。
リックは赤の瞳を鋭く細め、ため息をつく。
「仕事と言っても精霊の相手だろう」
「水精霊様は召喚主である坊っちゃんからそう遠くに離れられないのでしょう?そうなると必然的に坊っちゃんと遭遇する可能性も高まります。その度に倒れられては坊っちゃんも困りますでしょう?かといって坊っちゃんに邪な感情を持って来る方では水精霊様のお気に召さない。屋敷が更に荒れてしまいますわ」
そんな話をした直後、何かの破壊音が聞こえリックは片手で顔を覆う。
「ヤーハでは駄目なのか...」
「何度も申し上げておりますが、長年坊っちゃんのお世話をさせていただいたことで火精霊様の気配をまとってしまい、水精霊様に敬遠されております。この老体に水球をぶつけられる様がみたいとお望みならば従いますが」
「分かった。ひとまず僕が行ってくる。だが、奴は男嫌いでもあるんだぞ」
「女はこの屋敷に私しかおりません。男の中でもまともに会話が出来るのが坊っちゃんだけですからお早めに行ってあげてください」
ヤーハに促され、リックは重い足取りで執務室を出た。
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