君は花のよう

明人

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笑みが溢れる

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「ルルーア!」
リックがルルーアを迎えに行くと、既にルピィがルルーアの足に抱きついていた。
「ヴァールリック様。お邪魔しております」
「あぁ。今日は君のために...」
リックが歩み寄ると、ルルーアは近づいた距離に合わせるように後退する。
「ルルーア...?」
「すみません!!慣れるまでこの距離を保ってください!すみません!!」
2度も謝られてはそれ以上に追求する気にもなれず、一定の距離を保ちルピィと楽しそうに庭仕事をしているルルーアを眺めた。
楽しそうで何よりなはずなのに、胸がざわめいた。
だがふと、先日ルピィに未熟者と言われたことを思い出し、深呼吸する。
どうしてこんなにも彼女に乱されるのだろうか。
その答えは...
「旦那様。頼まれていた準備が整いました」
セドの声でハッと思考の海から引きずり出される。
「何かお悩みでも?」
「...いや。何でもない。僕が彼女達に声をかけてこよう」
リックはルルーアの方に近付き声をかける。
「ルルーア。良ければ休憩にしよう。お茶と菓子を用意してある」
「え、えと...」
ルルーアが視線を逸し、迷っているのが伺えた。
そんなルルーアの服の裾をルピィが軽く引く。
「一緒に食べましょ。ルルーア。お兄様が貴女のために用意した品だもの。あんな男に貰ったものよりきっと美味しいわ」
あんな男とは恐らくガイルドだろう。
あの男が贈ったマドレーヌなど霞むほどに良い品を揃えた自信はある。
「では、少しだけ...」
おずおずと同じテーブルについたルルーアは落ち着かない様子だった。
そんなルルーアの前にセドが紅茶を置く。
「ありがとうございます。いただきます」
緊張している様子のルルーアは紅茶を口に運び、何かに気付いた。
「これ、薔薇の香りがします」
「あぁ。君が喜ぶかと思って薔薇の紅茶を取り寄せたんだ。どうだろうか?」
「とても美味しいです!香りがとても良くて、味もほんのり甘みがあります」 
ニコニコと緊張が解けた様子で紅茶を飲むルルーアにホッと胸をなでおろす。
ルピィも満足そうに紅茶を楽しんでいた。
「菓子も用意したんだ。是非試してみてくれ」
「こんな高そうなものいただけません」
「僕とルピィでは食べきれないんだ。手伝って貰えないだろうか?」
彼女は優しい。助けてと請えば、余程でない限り無理とは言えないタイプだ。
案の定少しだけ...と了承してくれた。
用意されたケーキを一口食べ、ルルーアは目を輝かせる。
「美味しいです!クリームが溶けるように消えていって、スポンジはフワフワ。甘酸っぱい苺で口の中がスッキリして、いくらでも食べられちゃいます」
ニコニコと笑いながらケーキを頬張る彼女を見て、つい笑みが溢れる。
「ころころと表情が変わるものだから。見ていて飽きないな」
ルルーアはケーキと紅茶を一気に消費し、咳込みながらお邪魔しました!!と逃げるように帰って行った。
あまりの早業に誰かが止める暇もなかった。
「...あんた、暫くルルーアに近付かないで」
「わざとではないんだ...っ」
額に青筋を浮かべるルピィに返せる言葉がなかった。
彼女を見ていると今まで仕事をしていなかった表情筋達が勝手に動いてしまうのだ。
あんなに幸せそうにしながら、小動物のようにケーキを頬張っている様を見て何も思わない訳がないだろう。
気絶までは至らなかったが、また彼女がここに来なくなるのは困る。
しょうがなく今後挨拶後は、執務室に居ることをルピィに強制された。
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