君は花のよう

明人

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「なるほど。最近ルピィ様が比較的落ち着いて来られたので、自分も仲良くなれるのではないかと奮闘していた訳ですね」
セドの言葉にアインは、ぬいぐるみを握りしめて頷いた。
「はい!!今までは屋敷の人間では駄目なのだと諦めておりましたが、最近のルピィ様はメイド長に自ら話しかけ、旦那様とも穏やかにお話されるようになりました!ならば次に俺が仲良くなりたいと!あの手この手を使っていたんです」
「それでぬいぐるみなどを持ってルピィを追いかけていたんですね...」
当人のルピィはルルーアに抱き上げられ、ひしとルルーアにしがみついている。
誰が見ても拒絶している様子が見て取れるだろう。
「この男気持ち悪いからあっちに行ってって言っても!嫌いだから近寄らないでって言っても!魔法でふっ飛ばすって言っても!ニコニコ追いかけて来るの!!」
アインを指さして叫ぶルピィ。
それは確かに恐ろしかったことだろう。
殺すことは簡単だが、これほどの狂気を向けられれば流石のルピィも殺すより逃げることを選んだようだ。
「アイン。それはルピィ様でなくとも恐ろしい行為です。やめなさい」
「でもここで諦めてしまってはいつまでもルピィ様と仲良くなれません!!」
「どうしてそこまでルピィと仲を深めようとする?確かに僕がお前達にルピィの監視と世話を任せてはいるが、ルピィと関係を深めろとまでは言っていない」
あくまで執事見習い達にはルピィが癇癪を起こした際、被害を最小限におさめるように尽力すること。自分達でどうにもできない場合は報告に来ること。ルピィが望むことは基本叶えること。
この3点しか命じていない。
精霊であるルピィに彼が固執するのは何か意図があるのだろう。
「可愛いからです!!」
曇りない瞳で叫んだアインの声で、辺りの音が暫く消えた。
「アイン...。人の趣味嗜好に関してまでとやかく言いたくはないのですが...」
セドがリックとルルーアの言いたかったが言えなかったことを、口にした時アインは首を傾げる。
「え?あ!執事長何か勘違いしてませんか!?俺妹が居るのはご存知でしょう?ルピィ様が妹と同じぐらいの見た目なので俺の兄心がくすぐられて。妹も昔は結構やんちゃで傷だらけにされたもんなんですよ~」
人間の子供と精霊であるルピィの攻撃を同列に語っているこの男は、案外大物かも知れない。
「更に!ルピィ様が凄く懐いているルルーアさんも現れ!これはやるしかないと!そう思ったんです」
「だが、君の行為は逆効果だ。見ての通りルピィは君に怯えている」
「以前は視界にも入れてくれなかったんで進歩ですね!!」
この男メンタル面では最強かも知れない。
「ルピィ。ちなみになんだけどどうして男性が苦手なの?」
「ふしだらな考えを持つやつが多いし、人を騙すし、暴力的だし、何より見た目がいや!ゴツゴツしてるし、臭いし、存在がいやなの!!!」
「なるほど...。分かりました!!!」
アインは、部屋から出ていき嵐が過ぎ去ったような安堵感と静寂が訪れた。
「やっといなくなったわ。何なのあの男」
ルピィはため息を付きながらルルーアの腕から降りる。
「元々活発な者ではありましたが、あれほどとは私も存じておりませんでした」
「すごい方でしたね...」
アハハとルルーアが乾いた笑みを浮かべていると、廊下を猛スピードで走ってくる足音が聞こえた。
まさかという気持ちで全員の視線が入り口に集まる。
「ルピィ様!これならどうでしょう!?」
「何が!?あんた馬鹿じゃないの!?」
間髪入れずに怒鳴るルピィの言葉は至極当然だろう。
何を思ったのかアインはメイド服を着て戻ってきた。
屋敷にいるメイドはヤーハだけである以上、メイド服もヤーハのものだろう。
小柄なヤーハのメイド服は今にも弾けそうだ。
「ゴツさはなくなったでしょう!」
「あんたの存在そのものの不快感は増したわよ!!」
「なんと!こうなったら最後の手段だ!!」
アインは勢いよくルルーアの足元で土下座した。
「ルルーアさん!弟子にしてください!!」
「...へ?」
嵐のような男の言動に頭を抱えるはめになった。
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