君は花のよう

明人

文字の大きさ
上 下
21 / 69

執事見習い

しおりを挟む
仕事をしているのに彼女の顔が頭から離れず、虚しいような悲しいような、言い表せない胸中が不快だった。
「あぁっ。くそっ」
未熟者の名を欲しいままにしている。
このままではルピィにまた負担をかけてしまう。
深呼吸して気持ちを落ち着け、書類を処理していくとドアがノックされた。
「旦那様。失礼致します」
「セドか。入れ」
書類から視線を上げずに答えれば歩み寄ってくる足音が聞こえる。
「旦那様。少しお休みになってはいかがでしょうか」
「必要ない。最近は庭園に行ってばかりだったから仕事が溜まって来ているだろう。この間兄上から紹介を受けた新たな交易の話も保留にしたままだ。進めるにせよ断るにせよ情報がいる」
「お調べしておきます。ですが、休息はとられたほうがいいかと」
「必要ないと言ったのが聞こえなかったのか?君はいつから主に指図出来る立場になったんだ」
苛立ちから棘を込めて顔を上げる。
そして目があった相手が予想外で硬直した。
「あ、あの...。私がお仕事の休憩に甘いものでもと...スミレの砂糖漬けなんてお持ちしたから...。す、すみません...」
「あ、いや!違う!違うんだルルーア!!」
瓶を両手で握りしめしおしおと体を縮めるルルーアを見て、慌てて立ち上がって否定する。
「最近僕が仕事を放置気味にしてしまっていたから、溜まった仕事を片付けないといけないと思っただけなんだ」
「私が庭園に来るたびにルピィとも一緒に遊んでたから見てなくちゃならなかったんですよね...。すみません...」
「違う!僕が行きたかったから行っていただけだ!」
落ち込んでいたルルーアの表情が少しだけ驚きに変わる。
「君のことはこの短期間でも十分信頼に値する人だと感じている。ルピィのことも感謝しているんだ」
「ルピィはとても愛らしく、賢くて、いい子です。あの子が私を好いてくれた理由は分かりませんが、私はあの子のことがとても好きだから、一緒に遊べて嬉しいんです」
そう言って柔らかく、美しく笑うルルーアに無意識に手が伸びた時、勢いよくドアが開いた。
「ルルーア!助けて!」
「え?ルピィ?」
ノックもなく部屋に入ってきたルピィはルルーアに飛びつくように抱きつく。
ルルーアがルピィを受け止めていると、ルピィに続いて部屋に入ってきた者がいた。
「ルピィ様!本日こそは仲良くなりましょう!ぬいぐるみに絵本!おままごとセットもお持ちしましたよ!」
顔や手は傷だらけの様子で包帯を巻いている執事見習い。
セドはつかつかと執事見習いに近付き、その顔面を片手で掴んだ。
「アイン。あなたには執事以前に常識から教育を施して差し上げましょう」
「執事長!?いや!あの!違うんです!俺はルピィ様と仲良くなりたいだけで!」
「この男何を言ってもニコニコしたまま追いかけてくるの!恐怖だわ!」
「それは確かに怖いかも...」
ひとまず何事か詳しく話を聞くことになった。
しおりを挟む

処理中です...