君は花のよう

明人

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我儘

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だいぶ頭冷えてきた...
リックの屋敷に戻るため、森を歩いていると草を踏む音が聞こえ視線を向ける。
そこには2mはあるかという男が居た。軽装だが、腰に剣を差している。
「こんなところで何をしている」
剣の柄に触れていることから警戒、あるいは敵意を向けられていると判断し頭を巡らせる。
「帰ってるところで...」
相手の真意が分からない以上、現状隠す必要がないであろうと問に答えた。
「この先にはヴァールリック・アーネストの屋敷しかないはずだ」
リックを知っているようだ。彼の知り合いだろうか。
「私、その屋敷の使用人でして」
「見え透いた嘘をつくな。あの屋敷の主人は女嫌いだ。特にお前のような若い女はな」
ルルーアの顔のすれすれに剣が突きつけられた。
「言え。何が目的だ?リックに下心を持つストーカーか?」
下心がないと言えば嘘になる。ルルーアの瞳が僅かに揺れ、男の目が鋭く細められた。
「やはりか。アイツはお前のような輩のせいで散々な目に遭い続けた。奴を愛するなら関わるな。それがあいつにとって最善だ。まぁ...聞く貴様らではないよな」
剣が振り上げられ、ルルーアは目を見開いた後強く唇を噛んだ。
「私は!ヴァールリック様が望むならすぐにでも出ていきます!!あの方とルピィが幸せで居てくれたらそれでいいんです!!そのために、許していただける間だけでも傍に置いていただきたいんです!!」
「だから、リックの幸せを望むなら消えろつってんだよ」
剣が振り下ろされ、ルルーアは自分に到達するであろう数秒で考えた。
リックは負い目から自分を傍に置いてくれたのかも知れない。下心がバレていればきっと、置いては貰えなかっただろう。
だから、彼にこの気持ちがバレるまでのその間だけ我儘で傍に居させてほしいとそう決めたのだ。
こんなところで終わる訳にはいかない。
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