君は花のよう

明人

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頭が高い

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せめて致命傷を避けようと体を反らしたその刹那、男の剣を持っていた手が燃え、悲鳴と共に剣が地面に突き刺さる。
「ルルーア!!」
聞こえた声に顔を上げると、ルピィを片手に抱き上げたリックが上から飛び降りてきた。
ルルーアの前に立つと、ペタペタとルルーアの頬に触れる。
「怪我は!?」
「な、ないです...」
はぁーとリックとルピィが同時に安堵のため息をつく。
そんな二人の後ろであれ...?と声が上がった。
「も、もしかしてリックの使用人ってマジなの...?」
男の声でリックは眉を吊り上げて振り返る。
「ヘンリー。貴方でなかったら僕は殺していた。こんなところで何をしている」
ヘンリーと呼ばれた男は両手を合わせ頭を下げた。
「マジでごめん!!!お前のところ行く途中に若い女見つけたもんでまたストーカーかなんかだと思って!!ほんとごめん!!そこのお嬢さんも!!」
「頭が高いわよ。地に頭擦りつけて謝罪しなさいよ」
ルピィの威圧感に、ヘンリーはビクリと肩を跳ねさせる。
「この魔力...精れ」
ヘンリーが言い終わる前に、ルピィがヘンリーの頭を踏みつけ地面に押し付けた。
「ルピィ!?」
「ごめんで済む話じゃないのよ。あんたルルーアを殺そうとしたでしょ。ルルーアが許しても私が許せないわ」
ルピィの周りで水球が舞い、ひりつく雰囲気をルルーアが破った。
ヘンリーを踏みつけていたルピィをルルーアが抱き上げたのだ。
「人の頭を踏むなんて駄目!!それにこの人はヴァールリック様を守ろうとしただけなの。私が...あの赤い髪の人みたいな人間だったらいけないって。だから、悪い人じゃないと思う」
ルピィは明らかに不満な表情を浮かべていたが、ルルーアの腕で大人しくする。
「ルルーア。この男が無礼をすまない。彼はヘンリー・アーネスト。僕の叔父に当たる人だ」
「ほんっとごめんな!!お嬢さん!!今度何か詫びの品贈るから!」
「い、いえ。結局何もなかった訳ですし。大丈夫です。ヴァールリック様を思ってのことだったのも理解してます」
実は下心があるルルーアは内心負い目がある。深掘りされる前に話題を変えようと口を開いた。
「私はルルーアと言います。ヘンリー様はヴァールリック様にご用事だったのですか?」
「あぁ。用事つっても顔を見に行こう程度の用事だったんだけどな。街の守備兵の隊長に任命されたもんだから、領主様に挨拶をと」
「そんなもの僕らの間には不要だろう。貴方なら仕事に手を抜かないことも理解している。寧ろ貴方が来て大丈夫なのか?」
「最近は魔物も滅多に出ねぇし、攻め込まれるような情報もない。平和なんだよ」
「暇を持て余していた訳か」
リックは小さく息を吐き、腕を組んだ。
「では、僕の顔を見るという目的は果たした訳だ。とっとと帰ってくれ」
「それが久々に会った叔父に言う台詞かよ!!お茶ぐらい出してくれたっていいだろ!!」
「忘れているかも知れないが、貴方は僕の使用人に手を出そうとしたんだ。この場で吹き飛ばされないだけ感謝してくれ」
「思いっきり手ぇ焼いといてよく言うぜ!!結構痛いぞこれ!!」
血がダラダラと流れている手をリックに突きつけるヘンリー。
リックはふんと顔を背けた。
「あ、あの!」
ルルーアの声に二人の視線が同時に向けられる。
「元々私がちゃんと説明出来なかったのが主な原因ですし、お屋敷で治療ぐらいはさせていただけませんか?それから、最近食用のバラを育ててまして、紅茶に浮かべて香りと味がどうか試したかったので毒見役になってくださいませんか?私への謝罪はそれでいかがでしょう」 
ルルーアがリックを伺うように視線を向ける。
リックは長考後、ルルーアに負け頷いたのだった。
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