美しさの中の願い

日明

文字の大きさ
6 / 9

探す

しおりを挟む
夫の死を知らされた時も実感はあまり湧かなかった。
知らせてくれたのは夫と同じ隊だったという男性だ。帰ってきたのは結婚指輪だけ。
彼は、知らせにきてくれた男性を助けて亡くなったのだと聞かされた。彼らしいなと真っ先にそう思った。
1日ほど、その指輪をただ見つめていた。
その翌日嫌いな森に足を運んだ。私は虫が苦手で汚れるのも嫌で森に入るのは好まなかった。
彼に誘われても頑なに断っていた。
そんな私が気づいたら走り出した。
泥まみれになるのも気にならず、必死に、必死に。
もっと一緒に森に入っていれば良かった。
いない。いない。何処にもいない。
あの人の姿がない。
何処にも、あの人の姿を思い出せない。
涙が溢れた。溢れて、溢れて止まらなくなった。
嗚呼、愛していたんだ。私はあの男を、フォールを心の底から愛していたんだ。
私を置いて好き放題に冒険して急に帰ってきて、冒険の話を子供のように目を輝かせながら語る彼が大好きだった。
毎回私を思って買ったというお土産をくれて、それだけで何故か全てを許してしまっていた。
それも全て全て愛していたからだ。
声が静かな森に響く。今まで感じたことのない激情は涙が枯れるまで止まらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...