主様のお気に召すまま

ほか

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第1章 執事と主様の生活

5

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 夕食後、ベッドの脇に敷いた布団を前によしと独り言ちる。

「じゃ、ハーヴェイはここに寝てね。あたしは今から仕事するから。パソコンの明かりだけは消せなくて悪いけど」

 友人が泊りに来たとき用の予備の布団があって助かった。

「なっ……! そんな、主様……!」

 シャワーを浴びて、ホームセンターで買ってきたパジャマに着替えたハーヴェイはまた赤くなっている。





 ちなみにホームセンターに寄る頃には疲れていたので、彼自身に選んでもらったら、水色のストライプにゆる系くまちゃんが描かれているものを持ってきたが、つっこむ体力が残っていなかったのと半額だったので採用してしまった。 

「そういうわけにはいきません。執事が主様のとなりで寝るなんて」

 きりりとした表情を作り、くまみみフードを被ったハーヴェイはわたしに向きなおった。

「俺は夜も起きて、見張りをします。危険な輩から主様をお守りしなくては」

 右手を胸にあてて、ひざまづいてみせる。

 ただしくまちゃんパジャマ姿である。





「いや、その、ねぇ……」

「昨日のような連中がいつなんどき襲ってくるかわからない。寝ているひまなんてありません」

「うーん……」

 そうなんだよな。

 ハーヴェイの仕事への献身ぶりはかなりのもの。

 がんばりすぎていつか倒れるよ、と仲間執事に注意されるほどなんだよなー。

 それはそれで困る。

 医療費とか薬代とか諸々……。

 てかこの人健康保険証とかぜったい持ってないよな。

 考えただけで恐ろしい。







「主様?」

「はっ」

 いかん。

 キャラ設定とはいえ、こんな誠実な想いに対して、ものすごく打算的な考えを起こしていたような気がする。

「アパートの中にいれば、まぁまず大丈夫だから。とにかく今日は休んで」

 ばさっと布団をからげ、入るように促す。

「自分を大事にするようにトライ中なんだよね? さっそく躓いてるじゃない」

 さっきの自分のアドバイスを引き合いに出してみる。

 ふふふどうだ。

 忠実な執事のおのれは、主様の助言を無下にできんだろう……。







「うっ。それは……。しかし、最優先すべきは主様の安全……」

 ……気持ちはありがたいけど、若干めんどくさいな。

「所々で休んどかないと、ほんとに倒れちゃったらどーすんのっ? あたしを守ってくれる人それこそゼロになっちゃうよ。ハーヴェイはそれでいいわけっ?」

「うっ……。わかりました。今夜はお言葉に甘えさせていただきます」

 ようやく彼は、くまちゃんパジャマで礼をした。

「ではお先に、失礼いたします。主様」

「うん。おやすみ~」

 よかった。





「……さて」

  パソコン画面を見つめながら考える。

 これからどうしたものか。

 というのはもちろん、経済的な問題だ。

 不安定な作家の収入だけじゃ正直、2人分の生活費は難しい……。

「ふぅ」

 まあとりあえず、今は締め切りが迫っている。

 目の前の仕事に集中して明日考えるか。

 と思考を切り替えて、パソコンをかたかたやりはじめたとき――。





「主様」





 布団から声がした。

「ん? どした? あ、布団の中寒い?」

「……その、デリケートなことをお聴きしてしまいますが」

 ん?

 見ると彼はまだ布団に入らず、むしろその上で正座している。

「……もう、夜が不安だということはなくなりましたか」

 うっ。

 思わず顔を覆う。

 は、恥ずかしい……!

 アプリで夜によく、

「どうかされましたか?」

 という執事に対して、「メンタル不調だ」の回答を選択していたんだった……!





 悶えていると、ハーヴェイがすぐ横までやってきていた。

「よろしければ、これ」

 ——顔の横に、なにかがほのかにきらめいた。

「俺たちの世界で、悪夢を吸い取る宝石なんです」

 差し出されたのは、雫型の宝石だった。

 底にワインのように広がる赤紫から、桃色、オレンジへとグラデーションを描いている様が、夕焼けのトワイライトのようで……。

「きれいだね……」

「向こうの世界にいたとき、夜よく、ほのさまのうなされる声を聞いて。とても……心配で」

「ありがとう。もらっておくね」

 普段はベッドの脇に吊り下げて。

 紐を付け替えれば、ペンダントにもできそうだ。

「『キャンドルナイト』」

「ん……?」

「その石の名前です」

 吊り下げた石に軽く触れると、その名の通り、暗い室内に灯るほのかな炎のように、宝石のオレンジの部分がかすかに蠢いた。
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