主様のお気に召すまま

ほか

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第3章 執事と主様と小学生

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「ぬおおおおっ! 小学生に囲碁で負けたぁぁぁぁっ‼」

 教室くらいのスペースに、低い机が六つ。

 そこでボードゲームをしたり、走り回ったりして遊ぶ子どもたち。

 都内某所、小学校の敷地内にある認定子ども園。







「ほの先生、やっぱ弱すぎだよなー」

「相手になんねーよ」

 小学2年男子に見下げられるのが、週三日で入っているバイト先での日課である。

「ぐぐぐ。屈辱」

 この子ども園では主に小学4年生以下の、学校帰り親御さんが留守にしているお子さんたちを預かっている。のだが。





「あの、よければ俺、相手しましょっか? 今宿題終わったとこなんで」

「秋良あきら……いつもありがとう」

「はーい」

 勉強道具を片付けて、ぬくっと立ち上がったのは、当園ただ一人の高学年、小野寺秋良おのでらあきらだった。

 夕方どうしても家にいられないという親御さんのご希望でここに通ってきている小五男子。いつも大人しく一人宿題をし、終われば低学年の相手をよくしてくれている。

 だが正直5年生の彼には物足りないだろうし、寂しくもあるのではと思い、ちょくちょく話しかけてはいるが。





「最近学校はどうだね?」

「んー、ぼちぼちっすねー」

 このように飄々としているためつかみづらい。

 相変わらずだなと苦笑していると、低学年の別の男子二人組がちょこちょこ走ってきた。





「あっ。このあいだ駅の近くでデートしてた人だ!」

「ほの先生、結婚するの?」

「のわっ」

 なんだと……!

 異性とデート?

 なんでそんな噂が?

 目をぱちぱちさせながら考えていると、秋良が口を開いた。







「なんかぁ、ほの先生に変わったカレシさんができたって、みんな言ってますよ」

 だからなんで?

 どういう経緯で?

「すっごいイケメンで、でも服のシュミは~独特っていう……」

「……ああ……」





 ふんわりした感じで言うな。

 覚えがあると言えば、一つだけ。

 駅近くの商業施設。

 オタ活に行ったときだ。

 ハーヴェイと一緒にいたの、見られてただと……!





「『主様』って呼ばせて尻に敷いてるとか、3年のはるくんが言ってたような」

「ひぇぇぇぇ」

 誤解だ、こう見えても尽くすタイプなんだ!

 こちらの内心の悲鳴をよそに、秋良は淡々とチェスの準備をしながら小2やんちゃ系男子と向かい合っている。

「いやまぁでも、誰にでもプライベートっていうのはありますからね~。あいつらの言うことは気にしなくていいと思いまっすよ。まぁたかだか小2や小3、子どもの言うことなんで」

 と、やんわり小5に諭される三十路。だがこちとら秋良のように達観はできない。

 気になるっつーの。





「ほの先生、聞きましたよ」

 のほほんと優し気な顔をして、ふっくらした四十代の女性がやってくる。

 主任!

 聞いたってまさか、カレシ疑惑……?





「出版、うまく進みそうなんですって?」

「あ、そっち」

 まったく耳が早い。

 いったいどこから仕入れたんだろう。

「楽しみね。みんなもほの先生の本、読みたいよね。もうすぐ本屋さんに並ぶかもしれないんですってよ」

「すげー」

「先生お話書くんだってー」





 主任の声でみんなが群がってくる。 

 ……なんだかんだ言って子どもはかわいい。

「見て、これほの先生の本なんだよー」

 小二の女の子が、教室前の本棚からある絵本を持ってきた。

 数年前に原作を担当した絵本だ。

「えーそうなの?」

「ほんとだ、名前かいてある。こぐまほの、だって」

「見たい見たい」





 そうこうしているうちに絵本ギャラリーができあがってしまい、

「秋良兄ちゃん、読んでー」

 こういうときのお決まりで、最年長にお呼びがかかる。

「ふーん。……別に、いいっすけど」

 極めて冷静に淡々と、秋良はチェス盤の前から腰を上げた。

「兄ちゃん、ほの先生の絵本、かわいいでしょ~」

「ふーん……」

 あれ? 食いつき悪いな。冷たいじゃないか秋良。

 だがなんだかんだできる彼らしく、朗読も淡々とそつなくこなし、おかげで主任とわたしはおやつの準備に入ることができたのだった。

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