主様のお気に召すまま

ほか

文字の大きさ
26 / 69
第6章 執事と主様、飲み会へ行く

2

しおりを挟む
 朝のどたばたを終え、ハーヴェイはすごすごと仕事に行った。

 さて。

 パソコンに向き合い、すっと息をすって気合いを入れる。

 今日は子ども園のバイトは休み。

 つまり、執筆に集中する日だ。





「こほん。よーし、やるぞ」

「気合いを入れられているところ、誠に申し訳ございませんが……ほの様」

 ん?

「うわっ」

 見ると、となりに、オレンジの髪にヘテクロミアの瞳をした執事が立っていた。

「メイナード……出てくるなら出てくるで、それらしい演出とかしてよ。ぴかっとスマホから光出して登場、とか、たらりらら~んって効果音つけるとか」

「ふうむ。なるほどなるほど。我々は強く念じることによって二つの世界を行き来しているのですが……言われてみれば少々地味ですね。今後の参考になるご意見、ありがたくちょうだいいたします」

「うん。お願いね。で、何か用?」





 単刀直入に尋ねると、顎に手をあて、メイナードは語り出す。

「ハーヴェイさんには禁じられていたのですが、お二人の様子が気になりつい出てきてしまいました」

 とかなんとか言って、芝居がかった仕草で赤メッシュの前髪をかきあげる。

「わたくしがこんなにもおせっかいな性分だったとは……。ふふふっ、自分でも驚きです」

 うーん。

 結局なにしに来たのか、いまいちわからない。

「ほの様。最近、ハーヴェイさんの様子はいかがでしょうか?」

 いかがって。

 いつもと変わらず仕事に行ってるが。

「……」

 夕べと今朝の出来事を思い出す。

「……」

 そして、閉口する。

 なんか最近、言動に甘さが増している気がする……。

「ふぅむなるほどなるほど。そのお顔を拝見する限り、わたくしの作戦が功を奏したようでありますね……」

 なぬ?

 思わず頬を両手で挟み込む。

 この顔からなにを読み取ったというのだおのれは。





「ところで、ほの様のお気持ちはいかがなのでしょう」

「え?」

 今度はなに?

「嬉しくはないのですか? ハーヴェイさんの言動に甘さが増したことで」

「……そりゃ」

 心臓がもたないくらいドキドキするわ。

 あいつはわたしの推しキャラだよ?

 だけど……。

 「……はぁ」

 ドキドキしたあとに、必ずやってくる気持ち。

 祭りの翌日、熱の冷めた身体のような、そんな気分。

「ハーヴェイがあたしのこと好きなのはあくまで、ユーザーを慕うキャラとして作られているからであって……」

 そう思い至ってしまうと正直、複雑なのだ。





「おや、それはいかがでしょうか? 我々はあのスマホという機械の中から、ずっとほの様を窺っていたのですよ」

「うーん、そうなのか……」

 だとしても、ハーヴェイが自分のことを本気で好きだとは思えない。

 やっぱり、設定ありきだと思う。

「そうですか。ふぅむ……」

 白い手袋に包まれた手を額にあて、メイナードは考える。

「この件に関して、わたくしのアドバイスといたしましては……」

 しばらく考えていたと思ったら、

「ずばり、恋とは炎‼ 鉄は熱いうちに打て、でございますよ、ほの様!」

 いきなり大声出すからびっくりした。

「え? は、はあ……」

 こっちが戸惑っているあいだに、メイナードは舞台俳優のごとく身振り手振りをつけ滔々と語る。

「それは儚く美しいがゆえ、決して永遠なるものではありません。今は欠点さえかわいいと思えていてもいつかは、現実の醜さに目を覚ますことになる……えくぼに見えていたそれ、今やあばたかにきびか吹き出物か……それが世界問わず、この世の常道というもの」

 う、うん?

 なんかドラマチックな口調で妙に現実的なこと言い出した?

 と思えばすっと顔を近づけてきて――例の、野性的な悪い顔で、囁く。

「互いの炎が燃え盛っている、今のうちに……最善の策を練るべきです」

 手を掲げ、演説はフィナーレに入ったようだ。

「いざともに、敵陣へ参りましょう!」

「う、うん……」

 と、勢いに負け生返事なんかしてしまったが、正直こいつ何言ってるのかさっぱりわからん、というのが本音である。

「こほん。と、こちらが熱くなってしまいましたが。つまり、こちらの世界ふうの言葉で申せば」

 メイナードは色気たっぷりに片眼を瞑った。

「押せ押せ、でございます」

 うん。ようやく少しわかったが。

「そ、そんなこと、言ったって……」

 この年で恋愛経験ほぼゼロの女からしたら、押せ押せとかハードル高すぎる。

 なんと言ったらいいかわかりかねて、おどおどと見上げていると、すっと腰を落とし、彼は実に品のある礼をした。

「このメイナードに、お任せあれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...