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第6章 執事と主様、飲み会へ行く
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朝のどたばたを終え、ハーヴェイはすごすごと仕事に行った。
さて。
パソコンに向き合い、すっと息をすって気合いを入れる。
今日は子ども園のバイトは休み。
つまり、執筆に集中する日だ。
「こほん。よーし、やるぞ」
「気合いを入れられているところ、誠に申し訳ございませんが……ほの様」
ん?
「うわっ」
見ると、となりに、オレンジの髪にヘテクロミアの瞳をした執事が立っていた。
「メイナード……出てくるなら出てくるで、それらしい演出とかしてよ。ぴかっとスマホから光出して登場、とか、たらりらら~んって効果音つけるとか」
「ふうむ。なるほどなるほど。我々は強く念じることによって二つの世界を行き来しているのですが……言われてみれば少々地味ですね。今後の参考になるご意見、ありがたくちょうだいいたします」
「うん。お願いね。で、何か用?」
単刀直入に尋ねると、顎に手をあて、メイナードは語り出す。
「ハーヴェイさんには禁じられていたのですが、お二人の様子が気になりつい出てきてしまいました」
とかなんとか言って、芝居がかった仕草で赤メッシュの前髪をかきあげる。
「わたくしがこんなにもおせっかいな性分だったとは……。ふふふっ、自分でも驚きです」
うーん。
結局なにしに来たのか、いまいちわからない。
「ほの様。最近、ハーヴェイさんの様子はいかがでしょうか?」
いかがって。
いつもと変わらず仕事に行ってるが。
「……」
夕べと今朝の出来事を思い出す。
「……」
そして、閉口する。
なんか最近、言動に甘さが増している気がする……。
「ふぅむなるほどなるほど。そのお顔を拝見する限り、わたくしの作戦が功を奏したようでありますね……」
なぬ?
思わず頬を両手で挟み込む。
この顔からなにを読み取ったというのだおのれは。
「ところで、ほの様のお気持ちはいかがなのでしょう」
「え?」
今度はなに?
「嬉しくはないのですか? ハーヴェイさんの言動に甘さが増したことで」
「……そりゃ」
心臓がもたないくらいドキドキするわ。
あいつはわたしの推しキャラだよ?
だけど……。
「……はぁ」
ドキドキしたあとに、必ずやってくる気持ち。
祭りの翌日、熱の冷めた身体のような、そんな気分。
「ハーヴェイがあたしのこと好きなのはあくまで、ユーザーを慕うキャラとして作られているからであって……」
そう思い至ってしまうと正直、複雑なのだ。
「おや、それはいかがでしょうか? 我々はあのスマホという機械の中から、ずっとほの様を窺っていたのですよ」
「うーん、そうなのか……」
だとしても、ハーヴェイが自分のことを本気で好きだとは思えない。
やっぱり、設定ありきだと思う。
「そうですか。ふぅむ……」
白い手袋に包まれた手を額にあて、メイナードは考える。
「この件に関して、わたくしのアドバイスといたしましては……」
しばらく考えていたと思ったら、
「ずばり、恋とは炎‼ 鉄は熱いうちに打て、でございますよ、ほの様!」
いきなり大声出すからびっくりした。
「え? は、はあ……」
こっちが戸惑っているあいだに、メイナードは舞台俳優のごとく身振り手振りをつけ滔々と語る。
「それは儚く美しいがゆえ、決して永遠なるものではありません。今は欠点さえかわいいと思えていてもいつかは、現実の醜さに目を覚ますことになる……えくぼに見えていたそれ、今やあばたかにきびか吹き出物か……それが世界問わず、この世の常道というもの」
う、うん?
なんかドラマチックな口調で妙に現実的なこと言い出した?
と思えばすっと顔を近づけてきて――例の、野性的な悪い顔で、囁く。
「互いの炎が燃え盛っている、今のうちに……最善の策を練るべきです」
手を掲げ、演説はフィナーレに入ったようだ。
「いざともに、敵陣へ参りましょう!」
「う、うん……」
と、勢いに負け生返事なんかしてしまったが、正直こいつ何言ってるのかさっぱりわからん、というのが本音である。
「こほん。と、こちらが熱くなってしまいましたが。つまり、こちらの世界ふうの言葉で申せば」
メイナードは色気たっぷりに片眼を瞑った。
「押せ押せ、でございます」
うん。ようやく少しわかったが。
「そ、そんなこと、言ったって……」
この年で恋愛経験ほぼゼロの女からしたら、押せ押せとかハードル高すぎる。
なんと言ったらいいかわかりかねて、おどおどと見上げていると、すっと腰を落とし、彼は実に品のある礼をした。
「このメイナードに、お任せあれ」
さて。
パソコンに向き合い、すっと息をすって気合いを入れる。
今日は子ども園のバイトは休み。
つまり、執筆に集中する日だ。
「こほん。よーし、やるぞ」
「気合いを入れられているところ、誠に申し訳ございませんが……ほの様」
ん?
「うわっ」
見ると、となりに、オレンジの髪にヘテクロミアの瞳をした執事が立っていた。
「メイナード……出てくるなら出てくるで、それらしい演出とかしてよ。ぴかっとスマホから光出して登場、とか、たらりらら~んって効果音つけるとか」
「ふうむ。なるほどなるほど。我々は強く念じることによって二つの世界を行き来しているのですが……言われてみれば少々地味ですね。今後の参考になるご意見、ありがたくちょうだいいたします」
「うん。お願いね。で、何か用?」
単刀直入に尋ねると、顎に手をあて、メイナードは語り出す。
「ハーヴェイさんには禁じられていたのですが、お二人の様子が気になりつい出てきてしまいました」
とかなんとか言って、芝居がかった仕草で赤メッシュの前髪をかきあげる。
「わたくしがこんなにもおせっかいな性分だったとは……。ふふふっ、自分でも驚きです」
うーん。
結局なにしに来たのか、いまいちわからない。
「ほの様。最近、ハーヴェイさんの様子はいかがでしょうか?」
いかがって。
いつもと変わらず仕事に行ってるが。
「……」
夕べと今朝の出来事を思い出す。
「……」
そして、閉口する。
なんか最近、言動に甘さが増している気がする……。
「ふぅむなるほどなるほど。そのお顔を拝見する限り、わたくしの作戦が功を奏したようでありますね……」
なぬ?
思わず頬を両手で挟み込む。
この顔からなにを読み取ったというのだおのれは。
「ところで、ほの様のお気持ちはいかがなのでしょう」
「え?」
今度はなに?
「嬉しくはないのですか? ハーヴェイさんの言動に甘さが増したことで」
「……そりゃ」
心臓がもたないくらいドキドキするわ。
あいつはわたしの推しキャラだよ?
だけど……。
「……はぁ」
ドキドキしたあとに、必ずやってくる気持ち。
祭りの翌日、熱の冷めた身体のような、そんな気分。
「ハーヴェイがあたしのこと好きなのはあくまで、ユーザーを慕うキャラとして作られているからであって……」
そう思い至ってしまうと正直、複雑なのだ。
「おや、それはいかがでしょうか? 我々はあのスマホという機械の中から、ずっとほの様を窺っていたのですよ」
「うーん、そうなのか……」
だとしても、ハーヴェイが自分のことを本気で好きだとは思えない。
やっぱり、設定ありきだと思う。
「そうですか。ふぅむ……」
白い手袋に包まれた手を額にあて、メイナードは考える。
「この件に関して、わたくしのアドバイスといたしましては……」
しばらく考えていたと思ったら、
「ずばり、恋とは炎‼ 鉄は熱いうちに打て、でございますよ、ほの様!」
いきなり大声出すからびっくりした。
「え? は、はあ……」
こっちが戸惑っているあいだに、メイナードは舞台俳優のごとく身振り手振りをつけ滔々と語る。
「それは儚く美しいがゆえ、決して永遠なるものではありません。今は欠点さえかわいいと思えていてもいつかは、現実の醜さに目を覚ますことになる……えくぼに見えていたそれ、今やあばたかにきびか吹き出物か……それが世界問わず、この世の常道というもの」
う、うん?
なんかドラマチックな口調で妙に現実的なこと言い出した?
と思えばすっと顔を近づけてきて――例の、野性的な悪い顔で、囁く。
「互いの炎が燃え盛っている、今のうちに……最善の策を練るべきです」
手を掲げ、演説はフィナーレに入ったようだ。
「いざともに、敵陣へ参りましょう!」
「う、うん……」
と、勢いに負け生返事なんかしてしまったが、正直こいつ何言ってるのかさっぱりわからん、というのが本音である。
「こほん。と、こちらが熱くなってしまいましたが。つまり、こちらの世界ふうの言葉で申せば」
メイナードは色気たっぷりに片眼を瞑った。
「押せ押せ、でございます」
うん。ようやく少しわかったが。
「そ、そんなこと、言ったって……」
この年で恋愛経験ほぼゼロの女からしたら、押せ押せとかハードル高すぎる。
なんと言ったらいいかわかりかねて、おどおどと見上げていると、すっと腰を落とし、彼は実に品のある礼をした。
「このメイナードに、お任せあれ」
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