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第9章 新執事と主様、恋を応援する
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深緑と言われる時季も盛りの、五月半ばのある日。
あたしは都心の駅からの高級住宅街を歩いていた。
向かう先は高級レストラン。
今日の任務は先日の続きだ。名付けて『梅ちゃんの恋を応援しよう作戦パート2』。
「でも、今日はあくまで見守り。かげからそっと、ボイスと梅ちゃんのデートの様子をうかがうのね。出ていくのは、雲行きがあやしくなった場合だけでオーケー。前回いい感じだったとはいえ、ボイスの恋愛スキルはまだ未知数だから。くれぐれも、ボイスに見つかってそのままくだらない言い争いなんてことにはならないでね? ハーヴェイ」
思わず呼んだ名前に応えたのは、初夏の風だけだった。
「あ……」
「ほの様。さしつかえなければ……ハーヴェイさんとなにかあったのですか?」
今、わたしの隣で気がかりそうに見つめてくるのは、メイナードだ。
オレンジに赤メッシュの髪、ヘテクロミアの瞳。
ハーヴェイの後輩執事である。
「我々の世界で、ボイスさんの恋応援プロジェクトの引継ぎをハーヴェイさんから受けた時、少し様子が変だったもので。気になっておりました」
「……」
ハーヴェイはあれからスマホから出てきていない。
痛ましそうに、メイナードが微笑む。
「ハーヴェイさんは滅多なことでは、一度引き受けた任務を他に預けたりはしませんので」
「うん……まぁ、ちょっとね。ごめんね。メイナードはハーヴェイとのこと応援してくれてるのに」
「いえいえ。計算通りにいかないのもまた、恋のだいご味というもの」
メイナードはオレンジの髪をなびかせて、芝居がかった仕草で礼をする。
「気を落とすことはありませんよ。石の上にも三年。このメイナード、変わらず応援いたしますからね」
相変わらずちょっと変わっているキャラだが、やはり優しい。
「そう言うメイナードは好きな人とかいないの? いたら応援するけど」
「ふぅむ、そうですね。残念ながら今のところ、運命的な出会いとは無縁ではございますが」
手の甲を顎にあて、首を傾げながら片目をつぶる。
「いつかその時が来たら、その方のことを全精力かけてお守りいたしたいものです」
「メイナードならきっと、そうするね」
「今は主様であるほの様が、私の一番、ですかね」
「ありがとう」
「さて。それでは目下の任務に集中いたしましょう」
「いえっさー」
意気揚々と踏みだした先は、東京都心部にある、おしゃれなレストランだ。
個室制のリッチな空間で、梅ちゃんをエスコートせよと、ボイスにはお触れを出してある。
メイナードとともにお店に入ると、個室の前に案の定二人がいる。
今日はダークパープルのジャケット姿のボイスと。
ミモザ柄のワンピースの梅ちゃんが――。
「……」
あれ? なんか梅ちゃん俯いてる?
「どうした? 梅ちゃん。顔が青いぞ」
ボイスも気が付いたようで、声をかけている。
「ごめんなさい。その、わたし。ちょっと閉所恐怖症気味で」
え。
そうだったの?
「そうなのか」
ごめん梅ちゃん知らなかった!
知ってたらもうちょい違うお店にしたんだけど……!
「わーさっそくまずい。どうしようメイナード」
「落ち着きましょう主様。まずは様子見です」
はらはらと伺うと、ボイスがなにやら店員さんを呼び止めている。
「ちょっといいか」
「はい、どうかなさいましたか?」
「梅ちゃんが、狭い場所が苦手らしくてな。すまねーが、あっちの明るい席と変えてもらえねーか」
ボイス、ナイスじゃないか……!
「すみません。あいにくあちらは予約席でして」
わーーっ、そんなーーっ。
「ほの様、声を抑えましょう。我々の存在を悟られるわけにはいきませぬゆえ」
「そうでした……」
視線を戻すと、ボイスが首筋をかきながらなにやら思案している。
「ふむ、そうか……」
見かねた梅ちゃんが、後ろから駆け寄った。
「ボイスさん。だいじょうぶです。さいしょに言わなかったわたしがいけないんです」
「……」
ボイスは無言だ。
梅ちゃんも、店員さんすらびびっちゃってる。
いや、あんた、そりゃ怖いって。
眼帯つけた顔で無言ですごむなって。
ところがだ――。
ボイスは店員さんに、ちょこんと頭を下げる。
「……悪いが、そういう事情なんで、出直させてくれ。世話かけたな」
そう言ってすたすたとエントランスに向けて歩き出してしまった。
「あ。ボイスさん……!」
振り向かないまま、片手を上げる。
「梅ちゃん、ついてきな」
わたしはメイナードと視線を合わせる。
「あたしらも行こう」
「無論でございます」
あたしは都心の駅からの高級住宅街を歩いていた。
向かう先は高級レストラン。
今日の任務は先日の続きだ。名付けて『梅ちゃんの恋を応援しよう作戦パート2』。
「でも、今日はあくまで見守り。かげからそっと、ボイスと梅ちゃんのデートの様子をうかがうのね。出ていくのは、雲行きがあやしくなった場合だけでオーケー。前回いい感じだったとはいえ、ボイスの恋愛スキルはまだ未知数だから。くれぐれも、ボイスに見つかってそのままくだらない言い争いなんてことにはならないでね? ハーヴェイ」
思わず呼んだ名前に応えたのは、初夏の風だけだった。
「あ……」
「ほの様。さしつかえなければ……ハーヴェイさんとなにかあったのですか?」
今、わたしの隣で気がかりそうに見つめてくるのは、メイナードだ。
オレンジに赤メッシュの髪、ヘテクロミアの瞳。
ハーヴェイの後輩執事である。
「我々の世界で、ボイスさんの恋応援プロジェクトの引継ぎをハーヴェイさんから受けた時、少し様子が変だったもので。気になっておりました」
「……」
ハーヴェイはあれからスマホから出てきていない。
痛ましそうに、メイナードが微笑む。
「ハーヴェイさんは滅多なことでは、一度引き受けた任務を他に預けたりはしませんので」
「うん……まぁ、ちょっとね。ごめんね。メイナードはハーヴェイとのこと応援してくれてるのに」
「いえいえ。計算通りにいかないのもまた、恋のだいご味というもの」
メイナードはオレンジの髪をなびかせて、芝居がかった仕草で礼をする。
「気を落とすことはありませんよ。石の上にも三年。このメイナード、変わらず応援いたしますからね」
相変わらずちょっと変わっているキャラだが、やはり優しい。
「そう言うメイナードは好きな人とかいないの? いたら応援するけど」
「ふぅむ、そうですね。残念ながら今のところ、運命的な出会いとは無縁ではございますが」
手の甲を顎にあて、首を傾げながら片目をつぶる。
「いつかその時が来たら、その方のことを全精力かけてお守りいたしたいものです」
「メイナードならきっと、そうするね」
「今は主様であるほの様が、私の一番、ですかね」
「ありがとう」
「さて。それでは目下の任務に集中いたしましょう」
「いえっさー」
意気揚々と踏みだした先は、東京都心部にある、おしゃれなレストランだ。
個室制のリッチな空間で、梅ちゃんをエスコートせよと、ボイスにはお触れを出してある。
メイナードとともにお店に入ると、個室の前に案の定二人がいる。
今日はダークパープルのジャケット姿のボイスと。
ミモザ柄のワンピースの梅ちゃんが――。
「……」
あれ? なんか梅ちゃん俯いてる?
「どうした? 梅ちゃん。顔が青いぞ」
ボイスも気が付いたようで、声をかけている。
「ごめんなさい。その、わたし。ちょっと閉所恐怖症気味で」
え。
そうだったの?
「そうなのか」
ごめん梅ちゃん知らなかった!
知ってたらもうちょい違うお店にしたんだけど……!
「わーさっそくまずい。どうしようメイナード」
「落ち着きましょう主様。まずは様子見です」
はらはらと伺うと、ボイスがなにやら店員さんを呼び止めている。
「ちょっといいか」
「はい、どうかなさいましたか?」
「梅ちゃんが、狭い場所が苦手らしくてな。すまねーが、あっちの明るい席と変えてもらえねーか」
ボイス、ナイスじゃないか……!
「すみません。あいにくあちらは予約席でして」
わーーっ、そんなーーっ。
「ほの様、声を抑えましょう。我々の存在を悟られるわけにはいきませぬゆえ」
「そうでした……」
視線を戻すと、ボイスが首筋をかきながらなにやら思案している。
「ふむ、そうか……」
見かねた梅ちゃんが、後ろから駆け寄った。
「ボイスさん。だいじょうぶです。さいしょに言わなかったわたしがいけないんです」
「……」
ボイスは無言だ。
梅ちゃんも、店員さんすらびびっちゃってる。
いや、あんた、そりゃ怖いって。
眼帯つけた顔で無言ですごむなって。
ところがだ――。
ボイスは店員さんに、ちょこんと頭を下げる。
「……悪いが、そういう事情なんで、出直させてくれ。世話かけたな」
そう言ってすたすたとエントランスに向けて歩き出してしまった。
「あ。ボイスさん……!」
振り向かないまま、片手を上げる。
「梅ちゃん、ついてきな」
わたしはメイナードと視線を合わせる。
「あたしらも行こう」
「無論でございます」
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