ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~

ほか

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第1話 宅配司書と作家志望

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 口の中で噛み砕いたナッツが歯にひっかかり、プルメリアはかすかに顔を顰めた。



 奥歯の違和感を取り除こうと苦心しながら、ラヴェンナという宅配司書の娘を見つめる。



 ハワイアンブルーの混じったようなウィスタリアの瞳は心底不思議そうにこちらに注がれている。



 世の中の夫婦がすべて愛によって結ばれるものだと考えている箱入り娘なのか。









「式当日まで、相手のことは顔も知らない。親同士が決めた政略結婚て、案外古い話じゃないのよ」



 人生を模したすごろくなんてものがあるが、プルメリアに言わせれば、人生そのものが退屈なゲームのようなものだ。



 ハワイでも有数の大手観光企業の娘。たまたま自分にそういうカードが回って来た。



 それだけの話。



 ちらと正面を窺うと、ラヴェンナはプルメリアがボンボンでも投げるように軽く放った言葉を入念に咀嚼するように俯いた。









「それは、知っています。プルメリア様は、それが、嫌なのですね」



「歓迎するってほうがどうかしてるでしょ」



 奥歯からどうにか取り除いた欠片をこくりと飲み下す。



「ま、悪いことばっかでもないけどね。三月後には永久に自由を失う代わりに、今はわがまま放題だもの」



 陽光の朱を反射して漆黒の瞳がきらめく。



 意味深な笑みを浮かべると、プルメリアは顎でしゃくって、



「こんな贅沢品の注文だって許された」



 目の前のラヴェンナを示した。



「ぜいたく品、ですか?」



 自らの顎を指さしラヴェンナは真顔で訊く。



「そうよ」



 見せつけるようににやりと微笑んだ後ふいにプルメリアは顔を赤らめ、視線を落とした。







「あたしにとっては本なんて。文化や思想なんて贅沢品よ」







 吐き捨てると同時に、ポシェットから何かを取り出し、投げる。



 きれいな放物線を描いてそれは、木の枝で編まれたダストボックスに納まった。



 とある島国のアマチュア作家が英国の出版社に送った作品が選外になっている。



 そんなどうでもいい文芸欄だ。



「……」



 ボックスからはみ出た雑誌をのぞき込むように身を傾けるラヴェンナを一瞥するとプルメリアは蘭の花が敷き詰められた天井を仰ぐ。



 いちいち素直に気がかりそうに反応したって、その位置から雑誌の中身が見えるわけでもあるまいに。



 思うともなく思いながら、席を立つ。そのまま戸口まで歩いた。







 ――まぁ、いい。なんにしたって。







 宅配司書という風変わりな生き物も、あの雑誌も、去り際に一顧だにしない。







 ――どうでもいい、ただの暇つぶしなのだから。

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