56 / 94
第3話 宅配司書と女学生
16
しおりを挟む
これはアジアのとある入院患者の物語。難病を患うこの絵本の著者は、当時わずか九歳です。
少女の病のために仕事を休まなければならない両親も、一人での生活を強いられる兄も。
周りの人々もまた言葉を飲み込んでいるということを、この年齢にして少女は理解しています。
ふっつりと、スウィーティの目尻に露が浮かぶ。
スウィーティに病気はない。
アジアの小国からは遠く隔たった都市ロンドンにいる。
なのに。
言葉を何度も飲み込み続けると、どんなに胃が、肺がもたれるか。
スウィーティは知っている。
少女の内を引き裂く慟哭がそのままこの胸にこだまするようだ。
ラヴェンナの語り口がふいに、途切れる。
「しばし、休憩をいただきます」
ラヴェンナは一度部屋に戻りまた屋根の上に舞い戻ってきた。
携えてきた絵本を開いたあるページ。
そこには、病室のオーバーテーブルの裏側に刻まれた文字を見つけた少女が描かれていた。
健康を祈る言葉。
病気と闘う同志への励ましの言葉。
この部屋に入院してきた患者たちの表現であり、コミュニケーションの跡だった。
『来年、わたしは長期入院をひかえている。二平方メートルの世界でまた、わたしらしく生きていく。オーバーテーブルにではなく、心に言葉をきざみこむ』
『それがだれかに届くかもしれないから』
少女の独白で、物語は終わる。
静かな干潮のような読後感。
そこへ満ちる月の光。
☆彡ブックトーク部分参考文献
『夜間飛行』 サン=テグジュペリ/著 二木麻里/訳 光文社古典新訳文庫
『地獄の悪魔アスモデウス』 ウルフ・スタルク/著 アンナ・ベグルンド/イラスト 菱木晃子/訳 あすなろ書房
『二平方メートルの世界で』 前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館
少女の病のために仕事を休まなければならない両親も、一人での生活を強いられる兄も。
周りの人々もまた言葉を飲み込んでいるということを、この年齢にして少女は理解しています。
ふっつりと、スウィーティの目尻に露が浮かぶ。
スウィーティに病気はない。
アジアの小国からは遠く隔たった都市ロンドンにいる。
なのに。
言葉を何度も飲み込み続けると、どんなに胃が、肺がもたれるか。
スウィーティは知っている。
少女の内を引き裂く慟哭がそのままこの胸にこだまするようだ。
ラヴェンナの語り口がふいに、途切れる。
「しばし、休憩をいただきます」
ラヴェンナは一度部屋に戻りまた屋根の上に舞い戻ってきた。
携えてきた絵本を開いたあるページ。
そこには、病室のオーバーテーブルの裏側に刻まれた文字を見つけた少女が描かれていた。
健康を祈る言葉。
病気と闘う同志への励ましの言葉。
この部屋に入院してきた患者たちの表現であり、コミュニケーションの跡だった。
『来年、わたしは長期入院をひかえている。二平方メートルの世界でまた、わたしらしく生きていく。オーバーテーブルにではなく、心に言葉をきざみこむ』
『それがだれかに届くかもしれないから』
少女の独白で、物語は終わる。
静かな干潮のような読後感。
そこへ満ちる月の光。
☆彡ブックトーク部分参考文献
『夜間飛行』 サン=テグジュペリ/著 二木麻里/訳 光文社古典新訳文庫
『地獄の悪魔アスモデウス』 ウルフ・スタルク/著 アンナ・ベグルンド/イラスト 菱木晃子/訳 あすなろ書房
『二平方メートルの世界で』 前田海音/文 はたこうしろう/絵 小学館
0
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~
秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。
五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。
都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。
見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――!
久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――?
謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。
※カクヨムにも先行で投稿しています
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる