ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~

ほか

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第3話 宅配司書と女学生

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「……ラヴェンナちゃんなら」



 スウィーティは、目の前の司書に問うていた。



「司書さんならどう読むの? この絵本」



 かすかに頬をひくつかせ、ラヴェンナは微笑んだ。



「それは、読者様の御心に委ねるものですから――」



「お願い!」







 気が付いたら。



 学生生活を通じたルームメイトであり司書である彼女に、スウィーティは迫っていた。







「お願い、お願い! 聴かせて! 聴きたいの。あなたがこの絵本で伝えようとしてくれたことっ」



 ベージュのニットを掴み、揺さぶるほど。



「ラヴェンナちゃんの、言葉で」



「……」



 閉ざされた、司書の唇は。



 かすかに蠢く。



「九歳という年齢にして驚くべき感性と思慮深さ。それは荘厳な感動を、呼びます」



「けれど」



「けれどわたしは」







 かすかに漏れた、呻きのような所感。



「この絵本を読了後、少し不安になりました。大人びた、しかし幼い彼女を、案じてしまうような」



 ――そんなふうに。



 ――そんなふうに絶えず、凛としていなくても。



 ――言葉を心にきざみこむ。それだけではなく。







「時には運命を嘆いたって。みっともなく頭を振り乱して、八つ当たりしてみたって」



 それでいいではないか。



 それほどの運命に幼い彼女は直面している。



「吐き出せる大人が、いてほしいと、思ってしまうのです」



 涙をりすのような目いっぱいに溜めて。



 スウィーティが頷くと初めて、月光に照らされた雫が流れ落ちた。



 そして、少女のようなこの女性は。







「スウィーティ。あなたも」



 濡れた目を瞬く。







「わからない、ふざけるなと反旗をぶんなげること。あなたに必要なのはそのことではないでしょうか」







 ブックトークという、不思議で魔力的なものを終えた宅配司書志望は、そう言った。



「今までのように、『わかる』――そう言って胸の内の言葉を飲み込んで、ご家族の一員を目指されるのもあなたに与えられた選択肢。わたしに言及する権利はありません」



 魔法使いのようだと思った。







「ですがもしも、あなたが、別の道を選ばれるのなら」







 こんなの。こんなのずるい。



「明日卒業式を済ませ夜、七時の汽車でわたしは、ウィスタリアへ帰還します」



 こんな吸引力のある姿と、芸と、言葉。







「スウィーティ。あなたが生きていく場所を自ら選び取りたいのなら、その時は」



 差し出された手と、笑顔。







「この手はその一瞬、傍らにあります」







 一センチ、また一センチと、スウィーティはルームメイトから距離をとる。



 屋根の上一人きり足を踏みしめ立った孤独な少女の喉の奥から。



 若い女のものとは思えない太く、巨大な絶叫が、響き渡った。







 ラピスラズリに近い、紫の夜空。



 絵画的な景色の中。



 数個の星が、揺れたように見えた。
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