ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~

ほか

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第4話 宅配司書ができるまで

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 その数時間後。



 白みはじめた窓の外。



 ダイアンは電話を手に取っていた。



「ペンタクル商会。ゴルディ氏をお願いいたします」



 すやすやと眠っているウィスタリアの目がうっすらと、開いた。









 金の紋章にネクタイ。



 刈り上げた金の髪。



 指定した通りリリィ通りの一角のカフェに、ゴルディ氏は現れた。



 立ち上がりダイアンはゆっくりと目礼する。



「初めまして。いえ、正確にはご無沙汰しております。あなたから商品を奪った賊の一人――ダイアン・オルブライトです」







 ふんと、ゴルディ氏は奥歯の光る口元を歪める。



「なんの真似だ」



 葉巻を取り出して腰かけつつ、問いかける。



「情報をいただきたく、こうしてお呼びだてしました」



 ちらり、と、手元の煙に向けられた視線が上がる。



「見返りはあるんだろうな。貴様は用意できるはずだぞ」



 そのねめつけるような視線をダイアンはポーカーフェイスで返した。



「BLS09は残念ですがお断りいたします。その代わり」



 胸元から取り出したのは、一枚のメモ。



「ビスクドール団のアジトの情報を」







 栄誉を何より重んじる成金の目が、光る。



「警察はあなたに感謝し、人脈と栄誉が得られるでしょう」



「自身の身内を売るというのか」



 驚嘆する強欲な男に、頷く。



「彼女の情報と交換です。――あの子をどこから得ました」



 ふぅと、煙が輪を描いて宙に浮かんだ。



「父親と社交界で知り合った」



 いきなりビンゴだ。



「モーリス・ティアベル」



 差し出された人名に、ダイアンは脳内で、予想通りの認め印を押す。



 ウィスタリア歌劇場の天才指揮者か。



「妻は歌姫ルビー・ティアベル。娘の名はグレース」



 グレースは――ラヴェンナは天才音楽家夫婦の娘だった。



「よくある話で、母親は才能ある子を産むために嫁がされたらしい。他に好きな相手もいたが無理やり引きはがされて、無理やり子どもを産まされた」







 顔を顰めるダイアンをおもしおがるように、醜い唇がさらに傾く。



「だが、皮肉なものだな。生まれたのはまるきり声を発せない子どもだった」



 きりりと奥歯を噛めば、全身が痛む気がする。



「特に母親のあたりはすさまじかったらしい。まぁ、当然とも言えるがね。人生を犠牲にして賭けた子どもに裏切られたんだ」



 嫌でも頭にちらつく。



 音楽が鳴ると恐怖に身を縮めたラヴェンナ。



 その身体じゅうにあった傷跡。



「ところが子どもは一度読んだものを一言一句違えず書くことができた。そこでBLSとして売りに出された」







 優秀な子どもしかいらない。



 意にそぐわない子どもは放棄し、八つ当たりし、捨て置く。



 そんなばかげた話があるだろうか。



 しかし目の前の男を始め人々は、それを当然というのだ。



 一面にはびこる煙に、むせ返りそうになる。



「ありがとう。感謝します」



 これ以上世界の一部にいたくなくて、ダイアンは取引相手に謝礼のメモを手渡し、席を立った。
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