完全少女と不完全少年

柴野日向

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2章 小さな友人

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 見方を変えると、彼は随分といい加減だった。
 同じ時刻に仕事を開始する日なのに、亜希が休憩室を出てもまだ部屋でお喋りをしていたりする。そして始まる一分前になりやっと急いで下りてくるのだ。
「そんなに急ぐんなら、もう少し早く下りてください」
「へいへい」
 注意をしても聞く耳持たず。適当に返事をして欠伸なんかをしてみせる。
「なあ来栖、次の土曜さ、ライブすんだけど来ない?」
「武道館なら行くかも」
 長谷川の誘いにも、相手が先輩であるにも関わらずため口をたたく。
 しかし、そんな彼がアルバイト先で嫌われているということはなく、むしろ認められている風潮があった。休憩室では誰とでも気兼ねなくお喋りをし、欠伸をしても客にはその姿を見せない。生意気な口をきかれた長谷川も「無茶言うなよ」と笑い、気に留める様子もない。仕事の中でも、気合を入れるべきところと力を抜ける場面を見極めているせいか、そのいい加減さは受け入れられていた。
 彼の不真面目さが納得いかないのは、どうやら亜希だけのようだった。

「へえー。あいつがねえ」
 だから亜希は、子之葉だけに愚痴をこぼす。好奇心旺盛な彼女はアルバイトの様子を知りたがったし、航の喫煙についても亜希を疑いはしなかった。
「まあ要領ええからなあ。うちがチクったとしてもなんやかんやで誤魔化すやろうし」
「別に停学になってほしいとか、そういうのじゃないよ。ただ許せないだけ」
「亜希ちゃんは真面目ですからねえ」
「来栖くん、自分で言ってたけど。そんなに成績良いの?」
 廊下を歩いて音楽室から教室に戻りながら、子之葉は頷く。
「割とええで。昨日、英語の中間テスト、九十点以上はクラスで一人って先生言いよったやん。あれ、来栖のことやで」
「ほんとに?」驚いて、亜希は目を丸くする。
「ほんまやって。うち、日直が一緒やったから話したんやけど、九十五って言ってたわ。そんな嘘つく必要ないやろし。あのテスト難しかったわあ」
 確か、平均点が七十一点のテストだった。懸命に勉強し、なんとか亜希は平均点を僅かに上回っていたが、とてもじゃないが九十点台など取れそうもないというのが実感だった。
 成績に寛容な両親は、州徳高校に入れただけで充分だと言ってくれたし、アルバイトをしているならある程度は仕方ないという。それに甘えていたつもりはないが、平均に至れれば亜希にも不満はなかった。
 だが、同じ場所でアルバイトをしている、極めて同じ条件の彼が、そこまで良い成績を収めていただなんて。
「点数のことは、内緒やで」
 けらけらと明るく笑う子之葉と、腑に落ちない亜希は教室に入る。相変わらず、ほとんどの生徒が席について自習をしている。そんな中、廊下側の航が窓の外の誰かと話しているのを目にした。
「それじゃあ、またな」
 亜希がまだ一度も見かけたことのない生徒だ。がたいの良い、大人びた大柄な男子生徒。彼は爽やかに笑って手を振り、窓から顔を引っ込めた。「はいはい」と航は眠たそうな顔で手を振る。
たちばな先輩や」
 耳打ちする子之葉に、亜希は「誰?」と小声で返す。
「三年生の有名人や。剣道部で生徒会の。そんで成績がな、中等部の入学から今までずっと、トップファイブに入るんやって。州徳の鑑やって言われとる」
「そんな人が、来栖くんと仲良いの」
「よう知らんけど、たまに話しよん見るわ。接点ないっぽいのに」子之葉は肩をすくめる。「来栖はやっぱ謎なやつやな」そう付け加えて笑った。
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