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10章 クリスマス
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待ち合わせているのは、更に電車で二駅行った場所にある新幹線の乗り場だ。そこに行けば、当分楓とは会えなくなる。
出来るだけ楽しい話を亜希と航は続けていたが、楓の足は見る間に重くなった。当然だ。これからは家も学校も何もかもが変わってしまうのだ。愛していた両親もいない。いくら優しい祖父母が居ても、不安を抱えているに違いない。
「ちょっと、ファイル貸してくれ」
改札前で、航が立ち止まった。不思議に思いながら、亜希はトートバッグから映画のチラシを入れたクリアファイルを取り出して手渡す。
彼は自分のボディバッグから封筒を取り出した。少し厚みがある。それをチラシに挟み、ファイルに入れ直した。
膝を折り、その様子をじっと見つめていた楓に言い聞かせる。
「今入れた封筒、家に着くまで開けたら駄目だぞ」
「なにがはいってるの」
「内緒。これはな、おまえにあげるよ。誰かが俺に返そうって言っても、俺は受け取らないからな」
楓は不思議そうに首をひねる。その頭に手を当て、航はまっすぐに伝える。
「これはもう、誰が何と言おうと楓のものだ。失くすなよ」
航が小指を差し出す。楓も右手を出して、小指を絡めた。二人は最後の指切りを交わす。
待ち合わせの六時半、新幹線の改札前で楓の祖父母は待っていた。彼らはそれぞれキャリーケースを一つ下げ、戻ってきた楓には子ども用の小さなリュックサックを背負わせる。亜希はその中に先ほどのファイルを入れさせ、預かっていたプレゼントを手渡した。
「楓にプレゼントまでいただいて。本当に、気を遣わせて……」
「いえ。こちらこそ、楽しかったです」
恐縮する二人に、亜希は笑いかける。屈んで、プレゼントを抱いている楓に話しかけた。
「元気でね。またいつでも、遊びに来てね」
「うん」
「楓、無理すんなよ」
「うん」
航が頭を撫でる。楓はぎゅっと抱きしめたプレゼントに顔をうずめている。
亜希と航も入場券を買って、改札を抜けた。冬休みを迎えるこの時期、構内は人で溢れている。三人分の弁当を買い、エスカレーターで乗り場へ上がる。風は弱く、雪がちらちらと降り続けている。
「明日には、積もってるでしょうか」
「どうかな。そこまで降らないとは思うけど」
気の乗らない会話を続けるが、楓は話に入ってこない。肩からずり落ちそうなリュックサックを、祖母が背負い直させてやる。
地面を轟かせて、彼らの乗る新幹線は時間通りにやって来た。待ってましたとばかりに人々が乗り込んでいく。
楓の祖父母が礼をして、楓も小さく手を振る。亜希と航も手を振り返す。こちらを向く、小さな小さな楓の背中。車内に一歩踏み入れる。
彼はくるりと振り返った。祖父にプレゼントを手渡し、飛ぶように駆けてきた。
屈んで、亜希は抱きとめる。もう我慢できない楓は、声を上げて泣いている。亜希も涙が溢れてくる。柔らかな彼の頬に頬を当て、熱い涙を感じる。
「あきちゃん、げんきでね。またいっしょに、あそぼうね!」
「うん! いつでも、遊びに来てね。私も、会いに行くから」
強く抱きしめ、楓の温もりを身体に刻み付け。顔を見合わせて、亜希は笑った。楓も笑う。
そして、膝を地についた航に、楓は抱き着いた。航も彼の背と頭に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。細い髪を指に絡ませ、言い聞かせる。
「楓、おまえは絶対に大丈夫だ」
「こーちゃん、ぼくのこと、わすれないでね」
「忘れるわけないだろ。俺はおまえが大好きだ」
航が笑い、楓も涙を零しながら笑う。
「ぼくも、こーちゃんとあきちゃん、だいすき!」
出来るだけ楽しい話を亜希と航は続けていたが、楓の足は見る間に重くなった。当然だ。これからは家も学校も何もかもが変わってしまうのだ。愛していた両親もいない。いくら優しい祖父母が居ても、不安を抱えているに違いない。
「ちょっと、ファイル貸してくれ」
改札前で、航が立ち止まった。不思議に思いながら、亜希はトートバッグから映画のチラシを入れたクリアファイルを取り出して手渡す。
彼は自分のボディバッグから封筒を取り出した。少し厚みがある。それをチラシに挟み、ファイルに入れ直した。
膝を折り、その様子をじっと見つめていた楓に言い聞かせる。
「今入れた封筒、家に着くまで開けたら駄目だぞ」
「なにがはいってるの」
「内緒。これはな、おまえにあげるよ。誰かが俺に返そうって言っても、俺は受け取らないからな」
楓は不思議そうに首をひねる。その頭に手を当て、航はまっすぐに伝える。
「これはもう、誰が何と言おうと楓のものだ。失くすなよ」
航が小指を差し出す。楓も右手を出して、小指を絡めた。二人は最後の指切りを交わす。
待ち合わせの六時半、新幹線の改札前で楓の祖父母は待っていた。彼らはそれぞれキャリーケースを一つ下げ、戻ってきた楓には子ども用の小さなリュックサックを背負わせる。亜希はその中に先ほどのファイルを入れさせ、預かっていたプレゼントを手渡した。
「楓にプレゼントまでいただいて。本当に、気を遣わせて……」
「いえ。こちらこそ、楽しかったです」
恐縮する二人に、亜希は笑いかける。屈んで、プレゼントを抱いている楓に話しかけた。
「元気でね。またいつでも、遊びに来てね」
「うん」
「楓、無理すんなよ」
「うん」
航が頭を撫でる。楓はぎゅっと抱きしめたプレゼントに顔をうずめている。
亜希と航も入場券を買って、改札を抜けた。冬休みを迎えるこの時期、構内は人で溢れている。三人分の弁当を買い、エスカレーターで乗り場へ上がる。風は弱く、雪がちらちらと降り続けている。
「明日には、積もってるでしょうか」
「どうかな。そこまで降らないとは思うけど」
気の乗らない会話を続けるが、楓は話に入ってこない。肩からずり落ちそうなリュックサックを、祖母が背負い直させてやる。
地面を轟かせて、彼らの乗る新幹線は時間通りにやって来た。待ってましたとばかりに人々が乗り込んでいく。
楓の祖父母が礼をして、楓も小さく手を振る。亜希と航も手を振り返す。こちらを向く、小さな小さな楓の背中。車内に一歩踏み入れる。
彼はくるりと振り返った。祖父にプレゼントを手渡し、飛ぶように駆けてきた。
屈んで、亜希は抱きとめる。もう我慢できない楓は、声を上げて泣いている。亜希も涙が溢れてくる。柔らかな彼の頬に頬を当て、熱い涙を感じる。
「あきちゃん、げんきでね。またいっしょに、あそぼうね!」
「うん! いつでも、遊びに来てね。私も、会いに行くから」
強く抱きしめ、楓の温もりを身体に刻み付け。顔を見合わせて、亜希は笑った。楓も笑う。
そして、膝を地についた航に、楓は抱き着いた。航も彼の背と頭に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。細い髪を指に絡ませ、言い聞かせる。
「楓、おまえは絶対に大丈夫だ」
「こーちゃん、ぼくのこと、わすれないでね」
「忘れるわけないだろ。俺はおまえが大好きだ」
航が笑い、楓も涙を零しながら笑う。
「ぼくも、こーちゃんとあきちゃん、だいすき!」
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