完全少女と不完全少年

柴野日向

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10章 クリスマス

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 発車のベルが鳴っても、窓際の席で楓はずっと手を振っていた。「またね」とその口が何度も繰り返した。
 雪の降る夜、楓が次の未来に向かって行くのを、二人は見送った。
 スーツを着た大人や、雪を見て喜ぶ子どもたちがホームを行き交う。電光掲示板の文字が入れ替わり、様々な人の再会と別れを運んでいく。
「行っちゃいましたね」
「そうだな」
 遠くを見つめていた亜希は、彼を振り返る。
「そういえば来栖くん、あの封筒は」
「……金なんて、また貯めればいい」
 航の台詞が白く細く流れていく。
「あいつの未来に繋がるなら、それがいい」
 彼が渡した封筒の中身は、これまでに貯めた全ての金だった。楓を安心させる要素が一つでも増えるならと、航は決断したのだった。
 楓の祖父母の家は随分遠い。だからそうそうは会えないだろう。だが、いつか必ずまた出会う。自分たちは大人になっているかもしれないが、楓と顔を合わせた時に決して恥ずかしくない人間でいようと、二人は彼へのプレゼントを買う時に約束をした。
「来栖くん、良い子だったんですね」
「何言ってんの。俺は元々良い子だよ」
 亜希がくすりと笑うと、航もつられて笑う。
「安心しました」
 楓は絶対に大丈夫。だが、彼も絶対に大丈夫。誰かをこれほど愛せる人が、悪い人間になるわけがない。
「これからは、胸を張って、自分のために生きてください」
 バッグからそれを取り出し、亜希は航に差し出す。青い小さなメビウスの箱。あの日と変わらぬ本数の煙草が入ったままの、使いかけの箱。
 手を伸ばしかけ、しかし航はそれを受け取るのを止めた。
「それは、水無瀬が持っててくれ」
 どこかすっきりした表情で、彼は言った。
「これからも、俺のことを見ていてほしい」
「来栖くんがまともになったら返すって、約束しました」
「俺は良い子で全うで、どこに出ても恥ずかしくない人間だよ」にやりと彼は笑う。「だけどまともにだけは、ならないだろうな」
 やはり彼は、不真面目で食えない少年だ。
「いいですよ」
 亜希は煙草をバッグに戻す。
「あなたがまともになるまで、とことん付き合います」
 完全でも生きられないし、不完全でも生きられない。パズルのピースがはまるように、それらは手を繋ぎ合って初めて一つの形になるのだろう。
 来栖航と水無瀬亜希は、並んで歩きだす。人でごった返す構内を、決してはぐれることなく隣を行く。
 煌めく雪が、街を一様に包んでいく。
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