百万回目の大好き

柴野日向

文字の大きさ
22 / 35
2章 流星の旋律

14-1

しおりを挟む
「しかし、モテるだろうね」
 昼休み、夏実の前の席で単語帳をめくりながら、茜がふと口にした。受験勉強を行う者が半分、あちこちの席でお喋りに花を咲かせる者が半分といった、騒々しい時間。
「なにがあ?」
 ノートに英文を書き連ねていた夏実は、間延びした声と共に顔を上げる。茜は横顔を単語帳に落としたまま、ひらひらと手を振った。
「男の子でピアノ弾けるってさ、それだけで注目されるよ。ほっとかない子もいるんじゃない」
「ななな」
 大袈裟に右手からぽとりとシャープペンシルを落としながら、夏実は声を引きつらせる。
「でも、でも私以外に告られたことないって言ってたよ!」
「あんたみたいなのがうろうろしてちゃ気が引けるよ。でも、今後は分かんないよ。それに家庭科の時間とか、けっこう人気なんだって」
「なんで」
「ほら、料理できるから。調理実習の時とか、一緒の班になりたい子が多いって五樹が言ってた。押し付けだろうけどさ」
「許さん!」
 勢い込んで夏実は立ち上がった。握ったこぶしがぷるぷると震える。
「あいつは私以外に渡さないから!」
「渡さないって、別に夏実のもんでもないでしょ」
「茜ちんのばかー! ちょっと確認してくる!」
「こら、迷惑だからやめなってば!」
 ここぞとばかりに教室に突入しに行こうとする夏実の袖を茜が引きずる光景は、まるでいつも通りのものだった。

「プレゼント?」
 聞き返す茜に、夏実は神妙な面持ちで頷いてみせる。
「クリスマスね、ここで一発ぎゃふんと言わせたいの」
「そんなの言わせないの」
 夏実の頬を人差し指で軽くつつきながら、茜はふむと考える。
「麻斗のことならさ、あたしより夏実の方がわかってるでしょ」
「そうでもなくてさー。考えても浮かばなくって。茜なら弟くんいるでしょ。男の子ってなにもらったら喜ぶ?」
「あのね、あの子まだ六歳だから。幼稚園児と同じ絵本もらったって、嬉しいわけないでしょ」
「ええー、だめかあ」
 あからさまにしょんぼりする夏実は、ノートにぐるぐると小さな円を描く。小さな丸がぐんぐんと黒くなっていく。
「そう言われてもね。うーん。やっぱり音楽系じゃない? それしか思いつかないけど」
「だよねえ。でもなんだろ、メトロノームとか?」
「もう持ってるでしょ。そんなに何台もいるもんじゃないし。……楽譜とかどうなの」
「何の楽譜持ってて何が欲しいか全然しらないんだよね。被っちゃったらやだし。あー、全然わかんないー」
「ピアノって消耗品ないしね」
 ぽいとペンを机に放り投げた夏実は天井を見上げ、ぱんと手を打つ。
「やっぱりわかんないや! 本人に聞くのが早い!」
「だから行くなって言ってるの!」
 さっさと教室に突撃しようとする夏実の腕を、ため息をつきながら茜は掴むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...