百万回目の大好き

柴野日向

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2章 流星の旋律

14-2

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 週末の土曜日、夏実と茜、そして五樹は街中の大きな商店街にいた。秋も終わりに近づいた休日、冬を控えて暖かな格好をした人びとがあちこち行き交っている。
「あー、なるほど。それで俺が呼ばれたんすね」
「ごめんよ、いっくん。せっかくのお休みなのに」
「いえいえ。どうせ家でだらだらしてるだけだったんで。外出る理由ができてよかったっすよ」
「ほんとに君はいい子だねえ。あとでおやつ奢るからね」
 夏実は腕を伸ばして、自分より少し背の高い彼の頭を撫でる仕草をする。
「でもさ、まだクリスマスまで一ヶ月もあるよね。随分焦ってない?」
「こういうのはね、早いのに越したことはないの」
「なるほどね。安心したいんだ」
 結局、麻斗の欲しいものなどわからないまま、夏実は相談役として更に五樹を呼びつけた。彼の仲良しならば自分が想像するよりも、大いなるヒントを得られるはずだと考えたのだった。
「何がいいんすかねえ。あいつも、貰えるなら何でも喜んで貰いそうだけど」
「そうだけどそうじゃないんだよー。あーこれこれ! っていうのが欲しくって」
 とりあえず三人で適当に足を進めていると、茜がひとつの店を指さした。入口を広く開いた靴屋が、商品の入った小さな紙箱を所狭しと積み上げている。
「靴とかどうなの?」
「わわ、いいね!」
 跳ねるように店先に近づき、箱の上に置かれたスニーカーの一つを夏実は手にとった。側面に描かれた有名なロゴを指先で撫で、裏返す。
「ところでいっくん、麻斗の靴のサイズって何センチ?」
 裏面に書かれた数字は二十三。これは夏実本人の足のサイズだが、果たして彼に合うのがこれ以上か以下か、想像もつかない。
「ええーっと。流石に知らないっすね。あんまり大きくはなさそうだけど」
「そんなに背も高くないしね」
「身長って関係あるの」
「足が大きいほど背も高くなるんだって、どっかで聞いたけど」
 それを聞きながら五樹は腕を組んで首をひねった。
「それでも、憶測で買うのは危険っすよね」
「うーん。残念だけど、そだね。靴ずれなんかになったらしょんぼりだし」
 
 大人しく靴を戻した夏実に、今度は五樹が指をさす。
「じゃあ、こっちとかどうっすか」
 向かい側で店を開いている小さな服屋だった。これまた店先には、移動式のラックがいくつか置かれ、長袖のTシャツがハンガーにかけられている。
「なるほど。シャツだったらサイズ三つしかないもんね。真ん中でいいよね」
 そう言いながら、白色のシャツを手にとった。陽光のような真っ白なそれは、胸ポケットがひとつ付いているだけのひどくシンプルなものだ。サイズもMで合うだろう
「うん、手頃でちょうどいい。じゃ、これ第一候補で……」
「待って待って。こっちの方がいいんじゃない」
 あっさりと納得しかけた夏実を制し、茜は違う一着のかかるハンガーを取る。全く同じデザインのそれだが、きちんと着色されている。
「青色?」
「そう」
「白の方が綺麗だよ。清潔感あるし」
「青だって清潔感はあるじゃん。制服と同じ色なんて、変わり映えしないって」
「いやいや、これの方が合ってるんじゃないすか」
 五樹が取り出した一着を見て、夏実と茜とも「黒?」と口を揃えて不満を明らかにする。
「だって、あいつ地味じゃないっすか」
「否定はできないけど、拍車がかかっちゃうよう」
「この前の休みも、俺と遊んだとき黒Tだったし」
「もう持ってるなら同じのいらないじゃん」
「先週用事があるって断られたの、いっくんと遊んでたんだー! いいないいなあ。いっつも一緒」
「白は制服と同じでしょ、黒はもう持ってるでしょ、ならこれでいいじゃん」
 茜は夏実を無視しながら、これぞ正論とばかりに手にした服を広げる。それを見る夏実は「わかってないなあ」と片手を振る。
「麻斗に一番似合うのはね、制服なの。綺麗に洗った真っ白なやつ。だから私服も白!」
 次は五樹が、ふざけたように軽く人差し指を動かした。
「実際持ってるのは黒なんすから、気に入ってるってことでしょ。それなら似てるの二着もってたって洗い替えになるじゃないっすか」
 三人とも一歩も譲らない。ぐぬぬ、と見つめ合った後、これでは埓があかないことを悟った夏実は「そうだ」と手をぽんと打つ。鞄からおもむろにスマートフォンを取り出した。
「何色が好きか本人に聞けばいいんだ!」
「待て待て待て夏実!」
「それ聞いたら負けっすよ!」
「うぐぐ」
 茜に口元を、五樹に手を押さえられれば、もはやTシャツは諦めるしかなかった。
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