流星の徒花

柴野日向

文字の大きさ
36 / 80
6章 各々の想い

しおりを挟む
 善は急げと、その日のうちに情報誌に載っていた電話番号へ電話をかけた。スムーズに話は進み、二日後の木曜日の放課後には面接を行うことが決まった。
 問題はここからだ。緊張しながら、翔太は自転車で二十分の道のりを漕いだ。数えるほどしか訪れたことのない隣町に、雑貨屋「オリオン」はあった。近隣にネットカフェやファストフード店、ドラッグストアなど様々な店が並ぶ賑やかな場所だ。三階建てのビルだが、覗う限りフロアはあまり広くはない。一階にはジュースや菓子、弁当などが並び、二階には化粧品や文房具が並んでいる。それらを脇に見ながら、翔太は従業員の案内に続いて三階の事務室に向かった。
 面接の相手は、三十前後の男だった。楠(くすのき)という名で、この店の店長らしい。穏やかな印象で、翔太はとりあえずほっとした。
 楠は翔太の履歴書に目を通し、一通り質問をすると、不思議そうに言った。
「授業料のためだったよね。四月の時点でバイトはしてなかったのかな」
 当然の質問だ。それに対し、勝也に関して喋る必要はないと翔太は打算的に考えていた。身内になる予定の人間が犯罪者になって……だなんていちいち説明していれば永遠にバイト先なんて見つからない。
 ただ嘘を吐くのは嫌だったし、この場を嘘で乗り切ってもいつしかボロが出る。
「伯母が出してくれていたんですが、少し厳しくなったので。相談した結果、自分で払うことになりました」
「伯母さん?」ファイルが雑多に積み上がるデスクの前で、楠は訝しげな顔をした。「ご両親は」
「いません」
 翔太が即答したことで、楠はいくらかを察したらしい。なるほどと頷いている。一方の翔太は、この回答が吉と出るか凶と出るか、戦々恐々としながらただ相手の回答を待つ。
「そのせいかな。随分しっかりしてると思ったんだ」
 心象は悪くなかったようだ。むしろ好意的にとってくれたらしい。
「ただ言っておかないといけないけど、あまりがっつりは入れられないよ。辞めた人の穴埋めって言うより、お客さんが増えてきてね、今の人数じゃ回すのが難しいんだ。その分だけってことになるけど、構わないかな」
「時間にしたらどれぐらいですか」
「そうだね。せいぜい一日三、四時間で週に三回ぐらい。この条件だと大人は稼げないって来てくれないんだよね」
 週に三回なら十分だ。金を稼ぎたいというよりも、授業料を払えれば文句はない。
「大丈夫です」どぎまぎしながら翔太は返事をした。「僕には、十分です」そうも付け足した。
 三十分ほどで面接を終えると、楠は来週以内に電話で合否を教えるからと言った。
 頭を下げて店を後にする翔太に、僅かな罪悪感がないわけではない。けれど聞かれてもいない勝也の話をべらべらと喋ることが正解だとも思えない。これがきっと、上手な生き方なのだ。
 新たに一週間が始まると、これもまた気が気ではなかった。学校から帰って留守番電話が入っていないことにほっとしながらも落胆し、耳を澄ませて宿題をする一日は神経を疲れさせた。
 忘れられていないだろうか。そんな不安を抱えながら過ごしていた金曜日、夕飯を作っている最中に電話が鳴った。
 咄嗟にガスを消して手にした受話器の向こうで、楠は六月から来て欲しいと言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

処理中です...