41 / 80
6章 各々の想い
8
しおりを挟む
彼女が泣き止んだ頃、翔太にも少しだけ恥ずかしさが戻ってきた。
だが、顔を見合わせると笑えてきてしまう。翔太がふふっと笑うと、凛もくすくすと笑う。
「よかった」改めて彼女は言った。「私だけだったらどうしようって、ずっと思ってた」
「ごめんって。そういう風に考えたことなかったからさ、まさかだったんだよ。こっちだってびっくりした。泣かなくてもいいのに」
「嬉し泣きだから。許して」凛は、泣き腫らした目を恥ずかしそうに擦る。「私も自分で驚いたの。悲しくないのに泣いちゃうのって、初めてだったから」
素直な彼女らしい。涙を零すほど喜んでくれていることが、翔太には嬉しい。
「あのね……」
少しの沈黙の後、彼女はおもむろに切り出した。
「なに?」
「実はね、私、告白されてたの」
瞬時に意味を理解できず、翔太はただ瞬きを繰り返す。「誰に?」ようやく言えたのはその一言。
「えっとね……」言ってもいいのかと迷う素振りを見せながら、彼女は呟いた。「五十川くん」
まるで気付かなかったと、翔太は驚きをあらわにする。
「いつ?」
「先週、告白してくれた」
五十川とは一緒に弁当を食べているが、翔太はそれに少しも気が付かなかった。だが言われてみれば、彼が何度も自分と凛の関係を尋ねていたことを思い出す。その度に、ただの中学が同じ友人だとしか答えなかった。あれは質問ではなく確認だったのだ。
「凛は、なんて返事したの」
「……断ったよ、もちろん」言いにくそうに彼女は口にした。
「五十川くんね、すごくいい人なの。私だけじゃなく、誰にでも気さくに話してくれて。翔太も知ってるでしょ」
「うん」恐らく彼と初めに友人になったのは自分だから、翔太はそのことに関しては合点がいった。最初に話しかけてくれたクラスメイト。いま教室で一番仲が良いのは彼だ。
「好きな人がいるから、ごめんって言ったの。そうしたら、気遣わせてごめんって言ってくれた。それからも、普段通りにしてくれてる。いい子だよね」
「うん。俺も、あいつはいいやつだと思う」
だが、知らず知らずの間に友人の恋敵になっていたと知れば、複雑な心持ちだ。五十川はきっと、凛が誰のことを指したか理解していたに違いない。これは知らんふりは出来ないぞ、と翔太は思う。
「私、彼のおかげで勇気をもらえたんだ。私も五十川くんの気持ちに気付かなかったから、私も言わないと永遠に気付いてもらえないって。だって翔太だもん」
「だから、ごめんってば」
くすりと凛は笑った。
「これからも、みんなで仲良くできたらいいね」
それが彼女の望む幸福だった。誰も嫌な思いをせず、それでいて素直なまま、笑って毎日を過ごせたらいい。そんなささやかな願いが、榎本凛が心から欲しがる世界の様相だった。
みんな幸せになれたらいい。翔太もそう思った。他人に無頓着な姿勢を貫くつもりだったのに、いつの間にかそんな願いが心に芽生えていた。彼女のおかげだ。心の底から、そう思った。
だが、顔を見合わせると笑えてきてしまう。翔太がふふっと笑うと、凛もくすくすと笑う。
「よかった」改めて彼女は言った。「私だけだったらどうしようって、ずっと思ってた」
「ごめんって。そういう風に考えたことなかったからさ、まさかだったんだよ。こっちだってびっくりした。泣かなくてもいいのに」
「嬉し泣きだから。許して」凛は、泣き腫らした目を恥ずかしそうに擦る。「私も自分で驚いたの。悲しくないのに泣いちゃうのって、初めてだったから」
素直な彼女らしい。涙を零すほど喜んでくれていることが、翔太には嬉しい。
「あのね……」
少しの沈黙の後、彼女はおもむろに切り出した。
「なに?」
「実はね、私、告白されてたの」
瞬時に意味を理解できず、翔太はただ瞬きを繰り返す。「誰に?」ようやく言えたのはその一言。
「えっとね……」言ってもいいのかと迷う素振りを見せながら、彼女は呟いた。「五十川くん」
まるで気付かなかったと、翔太は驚きをあらわにする。
「いつ?」
「先週、告白してくれた」
五十川とは一緒に弁当を食べているが、翔太はそれに少しも気が付かなかった。だが言われてみれば、彼が何度も自分と凛の関係を尋ねていたことを思い出す。その度に、ただの中学が同じ友人だとしか答えなかった。あれは質問ではなく確認だったのだ。
「凛は、なんて返事したの」
「……断ったよ、もちろん」言いにくそうに彼女は口にした。
「五十川くんね、すごくいい人なの。私だけじゃなく、誰にでも気さくに話してくれて。翔太も知ってるでしょ」
「うん」恐らく彼と初めに友人になったのは自分だから、翔太はそのことに関しては合点がいった。最初に話しかけてくれたクラスメイト。いま教室で一番仲が良いのは彼だ。
「好きな人がいるから、ごめんって言ったの。そうしたら、気遣わせてごめんって言ってくれた。それからも、普段通りにしてくれてる。いい子だよね」
「うん。俺も、あいつはいいやつだと思う」
だが、知らず知らずの間に友人の恋敵になっていたと知れば、複雑な心持ちだ。五十川はきっと、凛が誰のことを指したか理解していたに違いない。これは知らんふりは出来ないぞ、と翔太は思う。
「私、彼のおかげで勇気をもらえたんだ。私も五十川くんの気持ちに気付かなかったから、私も言わないと永遠に気付いてもらえないって。だって翔太だもん」
「だから、ごめんってば」
くすりと凛は笑った。
「これからも、みんなで仲良くできたらいいね」
それが彼女の望む幸福だった。誰も嫌な思いをせず、それでいて素直なまま、笑って毎日を過ごせたらいい。そんなささやかな願いが、榎本凛が心から欲しがる世界の様相だった。
みんな幸せになれたらいい。翔太もそう思った。他人に無頓着な姿勢を貫くつもりだったのに、いつの間にかそんな願いが心に芽生えていた。彼女のおかげだ。心の底から、そう思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる