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7章 夏の海に咲く
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「私なんかが、いいのかな。こんなに幸せで。ばちが当たりそうで怖いな」
「何言ってんだよ。こんぐらいでばちなんか当たるわけないだろ」翔太は笑ったが、凛はつられて笑わなかった。
「私はね、山吹なの」
唐突な台詞にきょとんとする翔太を見て、凛は静かに笑う。
「徒花って、知ってる?」
「あだばな?」咄嗟にその意味を考えるが、学校で習った覚えはなかった。「聞いたことはあるけど……それだけ」
「山吹とか、他には桜とか。花を咲かせても、実をつけることのない植物のこと」
「つまり、凛がその徒花だって?」考えて、つい翔太は可笑しくなる。「何言ってんだよ。花だとしたら、凛は立派なものだよ。友だちも多いし、みんなに好かれてるじゃんか」
「見せかけだよ。そんなの」
彼女は冗談を言ってはいなかった。
「そんな風に見せてるだけなの。私は本当は、誰かに近づくべきじゃない、つまらない人間なんだ。例え花が咲いたとしても、そこには何も残らない」
「……どうしたんだよ、凛」
「翔太にだって、近づくつもりじゃなかった。私なんかが誰かを好きになるなんて、駄目なことだって分かってた。でも我慢できなかったの。……ごめんね」
「なんで謝るんだよ。そんな必要ないってば」
凛は、自分を「つまらない」と罵るほどに自信を無くす経験をしている。そのことを翔太は理解した。
「たとえ花が咲いてるように見えても、私は空っぽ。幸せになんて、なっちゃいけない」
「なに言ってんだよ。意味わかんねえって」
「翔太……」
凛の悲しそうな瞳は、じっと翔太を見つめる。
「翔太は、私のこと、好きでいてくれる?」
だから翔太も、凛の瞳をただ見つめる。
「私ね……」彼女の声が、凍えるように震えている。「私、わたし……」
そんな彼女に手を伸ばし、翔太は抱き寄せた。
「言わなくていいよ」
右腕で彼女の頭をそっと包み、自分の頭に軽く当てる。彼女はその身体まで微かに震わせている。
「過去のことなんて、無理に喋る必要はない。何があったとしても、好きでいるよ」
ひっくとしゃくり上げる声が聞こえた。「ごめんね」と彼女が涙声で囁く。「駄目だって分かってるのに、私も幸せになりたい。空っぽのままでいいの、ただ翔太のそばにいて、これからもずっとこんな毎日を送りたい」
彼女は大きな傷を負っている。その理由を話すだけで、その心は抉られる。ならば無理に話さなくてもいいと翔太は思う。泣きながら辛いことを語る凛の姿なんて見たくない。
「凛は、幸せでいるべきだ。少なくとも俺は、そうあってほしい。わざわざ不幸になんてなる必要ないよ」
懸命に涙を拭い、凛は一生懸命に頷く。ありがとうと何度も口にする。
やっと泣き止んだ彼女は、翔太を見上げて嬉しそうに笑った。
「翔太、変わったね」
「なにが」
「最初は、私のこと避けてたのに。覚えてるよ、私」
「避けてなんかないよ」
「うそ。目も合わせてくれなかった」
翔太がこめかみをかいて目を逸らすと、彼女はいっそう楽しそうな笑い声を零す。
「俺、どんなだった」
「最初は、暗い男の子って感じだった。無愛想で、目に力がなくって」
凛は翔太に身を寄せる。
「明るくなったよ、翔太。去年まですごく無気力で、将来なんてどうでもいいって顔してたのに、今は違うね。立派な高校生だよ」
「……それは、凛のおかげだって。いつも誘ってくれたから」
「だけど、最後に決断して努力したのは、翔太自身。それに今は、こんなに優しいことを言ってくれる。好きでいるなんて、言ってくれる」
急激に恥ずかしくなって黙り込んだ翔太に、今度は凛が腕を伸ばした。されるがままの彼をぎゅっと抱きしめる。
「大好き」
次第に海へ沈んでいく夕陽が、二人の影を長く長く伸ばしていた。
「何言ってんだよ。こんぐらいでばちなんか当たるわけないだろ」翔太は笑ったが、凛はつられて笑わなかった。
「私はね、山吹なの」
唐突な台詞にきょとんとする翔太を見て、凛は静かに笑う。
「徒花って、知ってる?」
「あだばな?」咄嗟にその意味を考えるが、学校で習った覚えはなかった。「聞いたことはあるけど……それだけ」
「山吹とか、他には桜とか。花を咲かせても、実をつけることのない植物のこと」
「つまり、凛がその徒花だって?」考えて、つい翔太は可笑しくなる。「何言ってんだよ。花だとしたら、凛は立派なものだよ。友だちも多いし、みんなに好かれてるじゃんか」
「見せかけだよ。そんなの」
彼女は冗談を言ってはいなかった。
「そんな風に見せてるだけなの。私は本当は、誰かに近づくべきじゃない、つまらない人間なんだ。例え花が咲いたとしても、そこには何も残らない」
「……どうしたんだよ、凛」
「翔太にだって、近づくつもりじゃなかった。私なんかが誰かを好きになるなんて、駄目なことだって分かってた。でも我慢できなかったの。……ごめんね」
「なんで謝るんだよ。そんな必要ないってば」
凛は、自分を「つまらない」と罵るほどに自信を無くす経験をしている。そのことを翔太は理解した。
「たとえ花が咲いてるように見えても、私は空っぽ。幸せになんて、なっちゃいけない」
「なに言ってんだよ。意味わかんねえって」
「翔太……」
凛の悲しそうな瞳は、じっと翔太を見つめる。
「翔太は、私のこと、好きでいてくれる?」
だから翔太も、凛の瞳をただ見つめる。
「私ね……」彼女の声が、凍えるように震えている。「私、わたし……」
そんな彼女に手を伸ばし、翔太は抱き寄せた。
「言わなくていいよ」
右腕で彼女の頭をそっと包み、自分の頭に軽く当てる。彼女はその身体まで微かに震わせている。
「過去のことなんて、無理に喋る必要はない。何があったとしても、好きでいるよ」
ひっくとしゃくり上げる声が聞こえた。「ごめんね」と彼女が涙声で囁く。「駄目だって分かってるのに、私も幸せになりたい。空っぽのままでいいの、ただ翔太のそばにいて、これからもずっとこんな毎日を送りたい」
彼女は大きな傷を負っている。その理由を話すだけで、その心は抉られる。ならば無理に話さなくてもいいと翔太は思う。泣きながら辛いことを語る凛の姿なんて見たくない。
「凛は、幸せでいるべきだ。少なくとも俺は、そうあってほしい。わざわざ不幸になんてなる必要ないよ」
懸命に涙を拭い、凛は一生懸命に頷く。ありがとうと何度も口にする。
やっと泣き止んだ彼女は、翔太を見上げて嬉しそうに笑った。
「翔太、変わったね」
「なにが」
「最初は、私のこと避けてたのに。覚えてるよ、私」
「避けてなんかないよ」
「うそ。目も合わせてくれなかった」
翔太がこめかみをかいて目を逸らすと、彼女はいっそう楽しそうな笑い声を零す。
「俺、どんなだった」
「最初は、暗い男の子って感じだった。無愛想で、目に力がなくって」
凛は翔太に身を寄せる。
「明るくなったよ、翔太。去年まですごく無気力で、将来なんてどうでもいいって顔してたのに、今は違うね。立派な高校生だよ」
「……それは、凛のおかげだって。いつも誘ってくれたから」
「だけど、最後に決断して努力したのは、翔太自身。それに今は、こんなに優しいことを言ってくれる。好きでいるなんて、言ってくれる」
急激に恥ずかしくなって黙り込んだ翔太に、今度は凛が腕を伸ばした。されるがままの彼をぎゅっと抱きしめる。
「大好き」
次第に海へ沈んでいく夕陽が、二人の影を長く長く伸ばしていた。
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