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7章 夏の海に咲く
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辿り着いた海岸では、一面に広がる青い海が臨めた。眩しい陽を受けてきらきらと輝く穏やかな波。水平線から上には、海より少し薄い青色が広がる。雲一つない夏の青空。
砂浜には他に人の姿はない。静かな海辺には波の打ち寄せる音が優しく響いている。
「すっごく綺麗!」
はしゃぐ凛の髪が、穏やかな風に吹かれて揺れる。それを耳にかけて振り向くと、彼女は微笑んだ。
「誘ってくれてありがとう、翔太」
はにかむ彼女は本当に嬉しそうで、それを見ているだけで翔太も嬉しくなる。海辺に誘うだけでこんなにも喜んでくれる彼女の存在が、愛おしくて仕方ない。
次第に心臓が高鳴る。砂浜に置いた鞄からそれを取り出し、再び海を見つめる彼女の背に翔太は呼びかけた。なに、と彼女が振り返る。
「あのさ、これ……」
不思議そうな凛に、翔太は封筒を差し出した。
「どうしたの」
「大したもんじゃないんだけど、今日渡そうと思って。その、誕生日だろ」
彼の台詞に、彼女は大きな瞳を見開いた。
「どうして知ってるの」
「中学の、凛の友だちに聞いたんだ」
榎本凛と仲良くしていた元クラスメイトに電話をかけ、翔太は彼女の誕生日を調べていた。転校生である凛の誕生日を知っている相手に中々出会えず、その間に幾度もからかわれて大変だった。
そんな事情は話さないでいると、彼女はおずおずと封筒を受け取る。「これ、なに? もらってもいいの」
「プレゼントだなんて言えるほどのものじゃないけど……受け取ってくれたら嬉しい」
緊張に表情を強張らせる翔太の前で、凛は封筒から中身を取り出した。
出てきたのは、一枚の栞。
「この花……」
凛が目を丸くしたのは、その栞が挟んでいる押し花に対してだった。「山吹だ」やはりひと目で彼女は気が付いた。
「去年、公園の丘に初めて上った時、凛がくれた花」
「まだ持っててくれたの?」
翔太は頷いた。あの時、凛がふざけて「プレゼント」などと言いながら手渡した山吹の花を、彼は捨てずにいた。そのまま枯らせるのが惜しいと思い、図書室で方法を調べて押し花にしたのだ。その花は今、凛の手の中にある。
「その花、好きって言ってたから……」女の子にプレゼントを渡すというガラにもないことに、翔太は気まずく思ってしまう。
「よく本読んでるから、栞だったら使えるんじゃないかと思って……。きっと、買ったものの方が使い勝手は良いと思うんだけど、俺も何か自分で用意したくってさ」
白い紙に、黄色い花。上部には小さな穴が開けられ、青く細いリボンが結んである。高校生のプレゼントにしてはあまりに陳腐だったが、それでも翔太なりに悩んだ末に作ったものだった。
要らなければ捨ててもいい。そう言いかけた翔太に、凛が飛びついた。数歩足を引きながら何とか受け止めた翔太に、凛は満面の笑顔で笑いかける。
「ありがとう! ありがとう、翔太! すっごく嬉しい!」
「ごめん、本当はもっと良い物あげるべきだと思うんだけど」
「ううん! そんなことないよ」彼女は本当に大切そうに、栞を両手で包む。「だって、翔太が私のことを考えてくれてるって証拠だもん。こんなに嬉しいことはないよ」
どうして、と思わず翔太は言いかけた。どうしてそこまで好きでいてくれるんだ。
だが、彼女の笑顔を見ていると、どんな理由も大した問題ではない気がしてくる。問いかけてわざわざ困らせるのも嫌だ。だったら凛の好意をありがたく受け入れよう。
「よかった。喜んでくれて」
海岸と車道を隔てる石段に座ると、隣に並ぶ凛は大切そうに封筒へ栞をしまい、それを鞄に収めた。
砂浜には他に人の姿はない。静かな海辺には波の打ち寄せる音が優しく響いている。
「すっごく綺麗!」
はしゃぐ凛の髪が、穏やかな風に吹かれて揺れる。それを耳にかけて振り向くと、彼女は微笑んだ。
「誘ってくれてありがとう、翔太」
はにかむ彼女は本当に嬉しそうで、それを見ているだけで翔太も嬉しくなる。海辺に誘うだけでこんなにも喜んでくれる彼女の存在が、愛おしくて仕方ない。
次第に心臓が高鳴る。砂浜に置いた鞄からそれを取り出し、再び海を見つめる彼女の背に翔太は呼びかけた。なに、と彼女が振り返る。
「あのさ、これ……」
不思議そうな凛に、翔太は封筒を差し出した。
「どうしたの」
「大したもんじゃないんだけど、今日渡そうと思って。その、誕生日だろ」
彼の台詞に、彼女は大きな瞳を見開いた。
「どうして知ってるの」
「中学の、凛の友だちに聞いたんだ」
榎本凛と仲良くしていた元クラスメイトに電話をかけ、翔太は彼女の誕生日を調べていた。転校生である凛の誕生日を知っている相手に中々出会えず、その間に幾度もからかわれて大変だった。
そんな事情は話さないでいると、彼女はおずおずと封筒を受け取る。「これ、なに? もらってもいいの」
「プレゼントだなんて言えるほどのものじゃないけど……受け取ってくれたら嬉しい」
緊張に表情を強張らせる翔太の前で、凛は封筒から中身を取り出した。
出てきたのは、一枚の栞。
「この花……」
凛が目を丸くしたのは、その栞が挟んでいる押し花に対してだった。「山吹だ」やはりひと目で彼女は気が付いた。
「去年、公園の丘に初めて上った時、凛がくれた花」
「まだ持っててくれたの?」
翔太は頷いた。あの時、凛がふざけて「プレゼント」などと言いながら手渡した山吹の花を、彼は捨てずにいた。そのまま枯らせるのが惜しいと思い、図書室で方法を調べて押し花にしたのだ。その花は今、凛の手の中にある。
「その花、好きって言ってたから……」女の子にプレゼントを渡すというガラにもないことに、翔太は気まずく思ってしまう。
「よく本読んでるから、栞だったら使えるんじゃないかと思って……。きっと、買ったものの方が使い勝手は良いと思うんだけど、俺も何か自分で用意したくってさ」
白い紙に、黄色い花。上部には小さな穴が開けられ、青く細いリボンが結んである。高校生のプレゼントにしてはあまりに陳腐だったが、それでも翔太なりに悩んだ末に作ったものだった。
要らなければ捨ててもいい。そう言いかけた翔太に、凛が飛びついた。数歩足を引きながら何とか受け止めた翔太に、凛は満面の笑顔で笑いかける。
「ありがとう! ありがとう、翔太! すっごく嬉しい!」
「ごめん、本当はもっと良い物あげるべきだと思うんだけど」
「ううん! そんなことないよ」彼女は本当に大切そうに、栞を両手で包む。「だって、翔太が私のことを考えてくれてるって証拠だもん。こんなに嬉しいことはないよ」
どうして、と思わず翔太は言いかけた。どうしてそこまで好きでいてくれるんだ。
だが、彼女の笑顔を見ていると、どんな理由も大した問題ではない気がしてくる。問いかけてわざわざ困らせるのも嫌だ。だったら凛の好意をありがたく受け入れよう。
「よかった。喜んでくれて」
海岸と車道を隔てる石段に座ると、隣に並ぶ凛は大切そうに封筒へ栞をしまい、それを鞄に収めた。
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