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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(6)

品種特性(1)

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龍騎士団茶舗、商館二階。“拝見の間”にツヅキ、メイ、ウィー、カップの姿はあった。
明るく照らされた黒いテーブルと黒い壁に相対して、これまた黒い盆に入った三種の茶葉を見比べている。

“拝見の間”は、収穫・調整した茶葉の品質をチェックする部屋だ。
自然光を模した明るい室内で、黒を基調としたテーブル・壁・盆を前に茶葉を見ることで、均一にそれらを評価することができる。

「いや、正直さっぱりだな」

ツヅキが口を開く。

「コレが私、コレがウィー、コレがカップよ」

「差あるか?」

「まあ、どれも玉露っていう意味では、無いわね」

ツヅキには、どれも濃緑色の茶葉が並んでいるようにしか見えない。

「いや~、やっぱりカップさんは黒いですねえ」

「す、すみません……。お、晩生で……」

「いやいや、良いんですよお~。お嬢さまは流石のエメラルド感ですねえ」

「ウィー、嗅いでいいかしら?」

「もちろんどうぞ」

メイがウィーの茶葉を少しかき混ぜ、一掴みして嗅ぐ。
目を閉じ、静かに香りを聞いていた。

「あなたの“品種香”はやはり独特ね。それにしても何故、あなたは適期が長いのかしら」

「いえいえ~、ツヅキさんの摘採時期がバッチリだっただけです、ね?」

「そうなのか?」

「いえ、ウィーの適期が長いからよ」

即座に否定するメイ。

“適期”とは“摘採適期”の略だ。その時期に摘採(収穫)すると、最も茶葉の品質や収量が良い時期のことで、ウィーの茶園はそれを見定めるのが難しかったらしい。
正直、ツヅキも適当に時期を決めて収穫した自覚があったので、メイの言う通りビギナーズラックに過ぎないと自己評価していた。

「俺も嗅いでいいか?」

「レディーファースト」

まずメイが一通り嗅ぐ。続いてウィー、カップ。そしてツヅキの番だ。
茶葉を見よう見まねでかき混ぜ、一掴みを鼻に近づける。匂いはあまりしない。

これでよく皆、判断できるなと不思議がっていると

「あ、あの。か、嗅ぎ方、教えてあっ、あげてもいいですか?」

カップが他の二人に聞く。メイははて、という顔をしていた。
無理もない。メイはこういう“他人に事前に教えてあげなければならないこと”に鈍感なのだ。
一拍置いて、能力で察したのか表情が変わった。対して、ウィーは

「あぁ~そうですねぇ! ほら、ツヅキさん」

ウィーがツヅキの背後に回り、それぞれの手を添えて導こうとする。

「まず左手で盆を持ってぇ~、右手はこうして……」

「ウィー、悪気はないんだろうけど悪い。カップに教えてもらってもいいか?」

「えぇ~! 何でですかぁ、いいですよ」

いいのか。

「カップ、どうしたらいいんだ」

「あっ、あの、まず持ち方とか嗅ぎにいくまではオッケーです」

オッケーなのか。さっきのウィーのは何だったんだ。

「か、嗅ぐ時に、鼻息を茶葉に当てて温めてから、かっ、嗅いでください」

「なるほど」

言われた通りにしてみる。先ほどとは違い、嗅ぐことのできる香りの量と種類が“増した”。

「なるほどね。ありがとう、カップ」

カップはフードを少し深くかぶり直した。
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