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オレの顔に何か付いてる?
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オレの暮らすしょぼい小国に帝国からの使者がやって来たのは、近隣諸国が帝国の属国になってからだった。
帝国はオレの国からだいぶ離れた東にある大国だったが、王が代替わりすると各国に攻め入り属国を増やしていった。帝国は類稀なる武力と戦略をもって勝ち進み、とうとうオレの国に来た。国境に陣を取り使者を寄越してきたのだ。
オレはこの国の王子だ。だが、六番目の。しかも、唯一妾腹で顔も平凡、性格も何をやらせても平凡ということで、王家には嫌われてる、というか忘れられている。それでも王宮の一室を与えられ、専属メイドもいるし、三食出るしで衣食住には困っていない。ただ、王家の集まりには一切顔を出すなという無言の圧力から毎日の食事はもちろん今日の使者との話し合いには参加していない。
だから、詳しい話は顔見知りになっていた近衛騎士にたまたま聞いた。使者は属国か戦争かと脅してきてるそうだ。オレとしては属国となり帝国からそれなりの保障があるなら、その方が助かるなと考えていたが、父王は戦争に決めたらしい。とんだ愚鈍だ。先ず負ける。国が焼け、人々は死傷し、王家なぞ晒し首にされるに違いない。今のうちに逃げておいたほうがよさそうだ。
オレは急に慌ただしくなった王宮で一人コソコソ荷造りをし始めた。途端、城下が騒がしくなり、窓から見ると、逞しい馬に跨った数名の帝国騎士達が、我が国の兵士達をあっさり破り、王宮内に侵入してくるところだった。そのうちの一人の騎士がこちらを見た瞬間、目が合った気がした。まさか、かなりの距離があるからそんなはずはないと首を振った。急いで逃げなければ、晒し首だ。
王が下座に座り、頭を垂れている相手は帝国皇帝のシリウス・シュナイダーだった。綺羅びやかな王座に足を組んで座り、王とその一同を見下ろしている。黒い髪は耳に軽く掛かるくらいに無造作に整えられ、鳶色の瞳が印象的な目は切れ長で鼻も口も長い手足、恵まれた体躯も神が創造したような美丈夫な男だった。
「無礼はお前の子を一人、私に寄越すなら赦そう」
抑揚のない声に王は震えるが、王子王女達は皇帝の美貌にときめくばかりだ。王はちらりと子供達を見ると、一晩考えさせてほしいと願った。皇帝は片眉を上げると、承諾した。
使いの小僧のフリをして城から出ようとしたところで近衛騎士に捕まった。見逃してほしいと頼んだが、王命だと言われて、謁見の間に連れて行かれた。オレは昨夜のうちに逃げなかったことを後悔した。専属メイドに一緒に逃げないかと説得をしていたが、なかなか了承を得られずにとうとう朝になってしまった。結局、専属メイドは家族が居るので残らなければならないと決断したので、一人で逃げるところだったのに。
謁見の間では美麗な男が王座に座り、王家一同は下座に正座させられていた。この男が皇帝か。オレは頭を下げつつというか顔を隠しつつ、騎士に促されて第四王女の隣に跪いた。なんとなく皇帝がオレの顔、いや行動を見てる気がした。
「これが子供達全員です。話し合いの結果、第六王子を帝国へ捧げます」
ん?第六王子って、オレじゃないか!話し合いなんてしてないぞ。忘れられていたのに急に呼び出した理由はこれか。
他の兄弟達がオレの方を一斉に見る。オレと違って、皆王妃似で美男美女。オレと同い年の第七王子が睨むようにオレを見た。第七王子はふわふわの金髪にくりくりな二重にさくらんぼのように可愛い唇がついていて、兄弟の中でも一番可愛らしい顔をしている。だから、いつもオレなど眼中にない。むしろ、時化た茶髪に父親譲りで王族の証の銀の瞳は一重で主張のない鼻と口がついた平凡顔のオレを小馬鹿にしている。
「僕が行きます!第七王子《あに》では心許ありません。僕なら皇帝陛下の心身をお支えできると誓います」
「バカを言うな!!」
父王が第七王子を強く叱責するのを見て薄々感じた。帝国は人質を差し出すように要求してきて、兄弟の中で一番いらないオレを人質にすると父王は決めたらしい。王太子が慌てて第七王子の口を塞ぎ、耳元で囁く。
「人質なんて最低限の生活しかできん。お前には無理だ」
聞こえてます。オレだって無理だ。忘れ去られてはいたが、それなりに貴族的な暮らしをしてきたんだ。明日から牢屋でと言われても生きていける自信がない。こんなことなら早く逃げればよかった。
「決まりだな」
抑揚のない無慈悲な声が響く。皇帝の声がまた良いので兄弟達はまたうっとりしていた。父王と王妃は心底ほっとしていて、オレはやるせなかった。
皇帝は王座から降りると、ツカツカ軍靴を鳴らしてオレの目の前に立った。
殺される!咄嗟に頭を効き手で庇ったが、皇帝の腰の剣は鞘の中で、代わりに皇帝の逞しい両腕がオレを持ち上げた。お姫様抱っこで。恐る恐る見上げると、美しい鳶色の瞳と目が合った。昨日の騎士だ。なんとなくそう思ったけど、今はそれどこれではない。
「あ、歩けます」
蚊の鳴くような声で訴えたが、聞こえなかったのかオレを抱いたまま、謁見の間を後にした。最後に王家をちらりと見たが、父王筆頭に兄弟達は喜んでおり、第七王子だけがオレを睨みつけたままだった。
続く
帝国はオレの国からだいぶ離れた東にある大国だったが、王が代替わりすると各国に攻め入り属国を増やしていった。帝国は類稀なる武力と戦略をもって勝ち進み、とうとうオレの国に来た。国境に陣を取り使者を寄越してきたのだ。
オレはこの国の王子だ。だが、六番目の。しかも、唯一妾腹で顔も平凡、性格も何をやらせても平凡ということで、王家には嫌われてる、というか忘れられている。それでも王宮の一室を与えられ、専属メイドもいるし、三食出るしで衣食住には困っていない。ただ、王家の集まりには一切顔を出すなという無言の圧力から毎日の食事はもちろん今日の使者との話し合いには参加していない。
だから、詳しい話は顔見知りになっていた近衛騎士にたまたま聞いた。使者は属国か戦争かと脅してきてるそうだ。オレとしては属国となり帝国からそれなりの保障があるなら、その方が助かるなと考えていたが、父王は戦争に決めたらしい。とんだ愚鈍だ。先ず負ける。国が焼け、人々は死傷し、王家なぞ晒し首にされるに違いない。今のうちに逃げておいたほうがよさそうだ。
オレは急に慌ただしくなった王宮で一人コソコソ荷造りをし始めた。途端、城下が騒がしくなり、窓から見ると、逞しい馬に跨った数名の帝国騎士達が、我が国の兵士達をあっさり破り、王宮内に侵入してくるところだった。そのうちの一人の騎士がこちらを見た瞬間、目が合った気がした。まさか、かなりの距離があるからそんなはずはないと首を振った。急いで逃げなければ、晒し首だ。
王が下座に座り、頭を垂れている相手は帝国皇帝のシリウス・シュナイダーだった。綺羅びやかな王座に足を組んで座り、王とその一同を見下ろしている。黒い髪は耳に軽く掛かるくらいに無造作に整えられ、鳶色の瞳が印象的な目は切れ長で鼻も口も長い手足、恵まれた体躯も神が創造したような美丈夫な男だった。
「無礼はお前の子を一人、私に寄越すなら赦そう」
抑揚のない声に王は震えるが、王子王女達は皇帝の美貌にときめくばかりだ。王はちらりと子供達を見ると、一晩考えさせてほしいと願った。皇帝は片眉を上げると、承諾した。
使いの小僧のフリをして城から出ようとしたところで近衛騎士に捕まった。見逃してほしいと頼んだが、王命だと言われて、謁見の間に連れて行かれた。オレは昨夜のうちに逃げなかったことを後悔した。専属メイドに一緒に逃げないかと説得をしていたが、なかなか了承を得られずにとうとう朝になってしまった。結局、専属メイドは家族が居るので残らなければならないと決断したので、一人で逃げるところだったのに。
謁見の間では美麗な男が王座に座り、王家一同は下座に正座させられていた。この男が皇帝か。オレは頭を下げつつというか顔を隠しつつ、騎士に促されて第四王女の隣に跪いた。なんとなく皇帝がオレの顔、いや行動を見てる気がした。
「これが子供達全員です。話し合いの結果、第六王子を帝国へ捧げます」
ん?第六王子って、オレじゃないか!話し合いなんてしてないぞ。忘れられていたのに急に呼び出した理由はこれか。
他の兄弟達がオレの方を一斉に見る。オレと違って、皆王妃似で美男美女。オレと同い年の第七王子が睨むようにオレを見た。第七王子はふわふわの金髪にくりくりな二重にさくらんぼのように可愛い唇がついていて、兄弟の中でも一番可愛らしい顔をしている。だから、いつもオレなど眼中にない。むしろ、時化た茶髪に父親譲りで王族の証の銀の瞳は一重で主張のない鼻と口がついた平凡顔のオレを小馬鹿にしている。
「僕が行きます!第七王子《あに》では心許ありません。僕なら皇帝陛下の心身をお支えできると誓います」
「バカを言うな!!」
父王が第七王子を強く叱責するのを見て薄々感じた。帝国は人質を差し出すように要求してきて、兄弟の中で一番いらないオレを人質にすると父王は決めたらしい。王太子が慌てて第七王子の口を塞ぎ、耳元で囁く。
「人質なんて最低限の生活しかできん。お前には無理だ」
聞こえてます。オレだって無理だ。忘れ去られてはいたが、それなりに貴族的な暮らしをしてきたんだ。明日から牢屋でと言われても生きていける自信がない。こんなことなら早く逃げればよかった。
「決まりだな」
抑揚のない無慈悲な声が響く。皇帝の声がまた良いので兄弟達はまたうっとりしていた。父王と王妃は心底ほっとしていて、オレはやるせなかった。
皇帝は王座から降りると、ツカツカ軍靴を鳴らしてオレの目の前に立った。
殺される!咄嗟に頭を効き手で庇ったが、皇帝の腰の剣は鞘の中で、代わりに皇帝の逞しい両腕がオレを持ち上げた。お姫様抱っこで。恐る恐る見上げると、美しい鳶色の瞳と目が合った。昨日の騎士だ。なんとなくそう思ったけど、今はそれどこれではない。
「あ、歩けます」
蚊の鳴くような声で訴えたが、聞こえなかったのかオレを抱いたまま、謁見の間を後にした。最後に王家をちらりと見たが、父王筆頭に兄弟達は喜んでおり、第七王子だけがオレを睨みつけたままだった。
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